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【劇評200】吉右衛門の澄んだ藝境を味わう『一力茶屋』。

 私のインターネットによる劇評も今回で二百回を数えた。

 記念すべき回となったのは、寿新春大歌舞伎の第二部。
  鴈治郎、扇雀の『夕霧名残の正月』は、先頃、亡くなった四代目藤十郎が新たに復活した作品である。かつてなじんだ夕霧はこの世を去ってしまった。その面影を偲んで、扇屋の主人三郎兵衛(又五郎)と女房おふさ(吉弥)は、形見の裲襠を衣紋掛けに飾っている。

  そこへ、夕霧にいれあげたために実家を勘当となった若旦那伊左衛門(鴈治郎)が紙衣を着て登場する。夕霧(扇雀)を思ううちにその幻が舞台に現れる。
 鴈治郎・扇雀の兄弟が、かつて、扇雀・鴈治郎・藤十郎を名乗った父を偲ぶ思いと重なる。上方狂言の伝統を受け継いで、おっとりとした傾城買いとなっている。

 もちろん、上方狂言だけではなく、江戸の世話物にもいえることだが、時代は大きく転換し、廓のファンタジーをのんびり味わう観客はもう多くはない。『NINAGAWA 十二夜』など新作歌舞伎も経験した鴈治郎、十八代目中村勘三郎の参謀として活躍した扇雀が、新たな気風を夕霧狂言に呼び込む新作が期待される。 

 続いて吉右衛門による『一力茶屋』。これまで上演されてきた一時間四十分程度の尺を、今回は短縮しての上演である。吉右衛門の由良之助といえば、冒頭の仲居達とのたわむれが期待されるが、今回は残念ながらカット。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。