【劇評281】花村想太の出世作となった『ジャージー・ボーイズ』チームグリーンのドラマ性。人は大人になり、汚辱にまみれていく。
中川晃教のヴァリーを擁して『ジャジー・ボーイズ』(藤田俊太郎演出 小田島恒志訳)は、再演を重ねてきた。ふたつのチームで公演する場合も、中川だけは不動で、すべての回に出演してきたのである。
私にとって中川のヴァリーは、唯一無二であり、他のキャストなど考えてみたこともなかった。
この十月に日生劇場で上演されている『ジャジー・ボーイズ』は、ふたつのチームがある。中川を中心としたチームブラックと、花村想太がヴァリーを勤めるチームグリーン。私は新しいチームがどれほどのパフォーマンスを示すのかが気になって、劇場に出かけた。
結論から言えば、チームグリーンは、ミュージカルの演劇性を強く打ち出している。マンハッタンからほど近いニュージャージーの不良たちが、音楽で成功することによって、この街から出ていく。けれども、四人の絆は、危機を見返るが、どこか深いところで繋がっている。
フォー・シーズンズの自伝的なミュージカルは、スパンが長い。四人が出会って、成功を収めるまでが第一部。
なかでもボブ・ゴーディオ(有澤樟太郎)が、加わるとき、フランキー・ヴァリー(花村想太)は、積極的に歓迎するが、リーダーのトミー・デヴィート(尾上右近)は、プライドが邪魔をして迷う。グループの中和剤ともいうべきニック・マッシ(spi)の発言が大きく意味を持つ。揺れ動く件りが丁寧に演出されている。
今回の藤田演出の特色は、つねにこの四人に対する目撃者を劇の背後に置いているところである。トミー・デヴィートが加わってリハーサルを二階のステージ初めて行うとき、一階上手では、掃除スタッフがふたり成り行きを観ている。四人の出会いによって、魅惑的な音楽が生まれたとき、このスタッフは思わず二階へ駆け上がる。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。