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つかこうへい追悼文 2010年7月10日歿

 一九七四年に『熱海殺人事件』で岸田戯曲賞を受け、時代の寵児となったつかこうへいは、笑いを武器に日本の演劇界を席巻した。

七六年、VAN99ホールでつか作・演出の『ストリッパー物語・火の鳥伝説』を、大学の友人とふたりで観たときの衝撃が忘れられない。そこには私たちの世代が、どうしても観たかった舞台があった。逆説的な言葉と派手な演出に酔った。夜の街を、思い出せる限りのせりふを繰り返しながらいつまでも歩いた。私にとって、これほどの演劇的な事件はかつてなく、また二度と訪れることはない。

 『熱海殺人事件』『飛龍伝』『広島に原爆を落とす日』『いつも心に太陽を』『蒲田行進曲』と、紀伊國屋ホール、パルコ劇場を拠点として、傑作が次々に生まれた。

 つかこうへいの笑いは、一筋縄ではいかない。そこには、安んじて笑っている観客が、舞台によって笑われる逆転の構図があった。つかの作品には、銀幕のスターと大部屋俳優のように、差別する者と差別される者が登場するが、観客は差別する者の立場に立って笑ったとたんに、その足場を失い、差別主義者として嘲笑される危険に身をさらす。
げらげら笑ったとたんに、愚者の烙印を押されかねない。舞台と観客席の緊張関係を生々しく突きつけ、観客を笑い、泣かせた舞台人であった。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。