【劇評330】ロンドンを恐怖につきおとすヤエル・ファーバー演出の『リア王』を観た。
誰も愛さないリア王が、舞台に叩きつけられる。
シェイクスピアの残酷なまでに孤独な悲劇を、ヤエル・ファーバーが演出した舞台が、アルメイダ劇場で上演されている。
上手奥には、ぼろぼろになった地球儀が置かれている。装置のマール・ヘンセルは、この小道具と床の泥濘によって、私たちの住む惑星が、暴力と汚辱にまみれてきたと語っている。
シンプルだが強い美術に立ち向かうのは、ダニー・サパーニのリアである。
夥しく身につけた指輪、威圧的に他者を突く王笏、そしてなによりも、衣服を脱ぎ、裸体をさらしたとき、その厚みのある肉体が、空間を支配する。
王権があるからだけではない。王権に支えられたこの暴力的な肉体は、娘のリーガン(フェイス・オモレ)とゴネリル(アキヤ・ヘンリー)を怯えさせてきた。唯一、末っ子のコーデリア(グロリア・オビアニョ)だけが、その魂の純粋さで、暴力とたちむかったたのだとよくわかる。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。