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【劇評283】唯一の救いとなる夫婦の絆。俳優座『猫、獅子になる』を観た。

 出口のない現実について考えた。

 横山拓也作、眞鍋卓嗣演出『猫、獅子になる』は、八〇代の親が、五〇代の子供の面倒をみる「八○五○問題」に迫っている。所属の俳優に幅のある俳優座ならではの舞台になった。

 老齢になって買い物もままならなくなった蒲田妙子(岩崎加根子)から、次女の岬野明美(安藤みどり)のところに手伝いに来て欲しいと電話がかかる。母妙子は、夫亡き後、自室に閉じこもったまま五〇代にさしかかった長女蒲田美夜子(清水直子)の面倒を見続けている。

 早くに結婚して家を出た明美は、失業中の夫岬野彰仁(塩山誠司)と実家の未来について話しつつ、明日の見舞いを娘の岬野梓(滝佑里)に頼む。劇団に所属し、稽古のある梓は、しぶしぶ母の頼みを受け入れる。

 梓の劇団「ワンダーランド」もトラブルを抱えている。小学校での公演が迫っているのに劇作家の台本があがってこない。宮沢賢治の短編「猫の事務所」の劇化に苦労しているらしい。団員の柳井真奈(岩井なおみ)、宇治弘(野々山貴之)、岩戸雄馬(小泉将臣)、越智理沙(高宮千尋)らが進まない稽古に苛立つ。

 一九八四年志野原中学校演劇部で起きた事件が描かれ、美夜子と演劇部顧問の教員サワグチ(志村史人)との対立があきらかになる。

 私にしてはめずらしく、筋立てを詳しく書いたのは、横山拓也の劇作が実に巧みに書かれているからだ。

 梓らの劇団と過去の演劇部を同一キャストで演じていく構成も、よく出来ている。この八十年代に顕在化した問題を、私たちはいまだに解決できずにいると明らかになるからだ。

 注目すべき場面がいくつかある。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。