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【劇評165】人間が伝説となる。仁左衛門の菅丞相。☆☆★★★

 歌舞伎座、昼の部は、『菅原伝授手習鑑』の半通し。

 「加茂堤」「筆法伝授」「道明寺」と、丸本歌舞伎の真髄というべき演目。三月の『新薄雪物語』とともに、どんなことがあろうとも、間を空けすぎずに舞台にあげなければいけない演目となる。

 とくにこの半通しは、松嶋屋、片岡仁左衛門家にとっては、もっとも重要な狂言。
  特に「筆法伝授」「道明寺」は、十三世による神品というべき舞台が伝説として残っている。
 今回の上演では、仁左衛門、秀太郎、孝太郎、千之助が渾身の舞台を勤めている。藝の継承がこうして世代から世代へ伝えられていく過程を観るのは、歌舞伎の醍醐味なのだなあとしみじみ思った。

 まずは「加茂堤」。のどかな土手。
 斎世親王(米吉)と刈屋姫(千之助)の逢瀬が一転して大きな悲劇へと結びついてく。それは桜丸(勘九郎)と女房八重(孝太郎)の流転とも繋がっている。

  米吉、千之助の旬の美しさ。勘九郎、孝太郎のおっとりした気分が、一転する。人生はこんなふうに人間を弄ぶのだと実感する。

 続いて「筆法伝授」。この場は、秀太郎の園生の前が迫り来る運命にひっしで向かい合う姿を見せる。
 仁左衛門の菅丞相は、あくまで沈痛。武部源蔵(梅玉)と戸浪(時蔵)が、前場の斎世親王と刈屋姫と二重写しになり、失われた関係は、二度と取り戻せないと世の残酷を告げている。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。