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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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#前川知大

【劇評303】魂は苦痛に満ちた言葉を語り続ける。イキウメ『人魂を届けに』を読む。九枚。

【劇評303】魂は苦痛に満ちた言葉を語り続ける。イキウメ『人魂を届けに』を読む。九枚。

 演劇に対する誠実さにおいて、劇団イキウメは群を抜いている。

 彼らは言葉と身体の微細な表現に、神経を行き届かせる。徹底してこだわる。この誠実さは、観客を射貫き、揺さぶり、思考の海へと誘う。演劇の神への生贄として、自らの舞台を捧げているかのようだ。畏怖すべき存在だと思う。

 二年半ぶりの新作『人魂を届けに』は、トリッキーな趣向に頼らない。純度がきわめて高く、現代演劇の頂点にある作品である。これ

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【劇評261】奇跡が、見えない壁を作ったのか? イキウメの『関数ドミノ』。

【劇評261】奇跡が、見えない壁を作ったのか? イキウメの『関数ドミノ』。

 老いや生のありかたについて、探求を続けてきた前川知大とイキウメが、代表作というべき『関数ドミノ』を上演した。再演から八年を隔てているが、この作品が持つ構造に導かれるように、一気に観て飽きなかった。

 二○○九年、一四年の上演は、前川による作・演出である。今回は、演出を一新し、台本にプロローグとエピローグが追加された。このふたつの場面は、安井順平が演じる真壁薫によるモノローグである。観客席にしみ

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【劇評226】イキウメの新作『外の道』は、あまたの視線によって歪む現実を映していた。

【劇評226】イキウメの新作『外の道』は、あまたの視線によって歪む現実を映していた。

 私たちは、人々の視線にさらされている。

 イキウメ一年半ぶりの新作『外の道』(作・演出 前川知大)は、衆人環視のもとで生きることになった私たちの現実を映している。

 まるで幽界のようなしつらえのカフェからはじまる。下手からは、西日が深くさしこんでいる。九人の男女がそれぞれこの部屋に入り込んできて、椅子に座る。

かつて同級生だった宅配便運転手寺泊満(安井順平)と司法書士補助の山鳥芽衣(池谷

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