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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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#新型コロナウイルス

沈黙は金ではない。沈黙は死である。久し振りに演出家藤田俊太郎と対話して。

 演出家の藤田俊太郎さんと、公の場で話す機会があった。  この五月、場所は、東京藝術大学上野校地第三講義室。  印象に残った話がいくつかあるので、ここに書き記しておく。  まず、コロナ禍の公演中止について。確かに藤田さんは、全面的な公演中止や打ち切りなど大きな被害を受けた演出家だと思う。振り返って「政府に演劇は必要がない」と彼は感じたというのである。  この感想は演劇関係者や百貨店関係者に共有できる。なにか愚劣な政府、都の上層部が、演劇や百貨店をやりだまにあげて、自分の

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演劇界、未曾有の危機に、ご理解をお願いしたい。

 演劇界にとって厳しいニュースが続く。  大劇場でのミュージカル公演、歌舞伎公演などの商業演劇が、中止などの憂き目にあっている。もとより、スタッフ・キャストに気の緩みがあるわけもない。  災害規模の感染者が出ている現状では、こうした事例が出てしまうのは、やむを得ないことだと思う。  これは大劇場の公演だけではない。  私の身近にいる助手や大学院生の小劇場での公演も、初日を迎えられずに、中止、もしくは延期の憂き目にあっている。  まず、稽古場が関門となる。もとよりマスク、

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明けない夜はない。李礼仙のインタビューを再読して。

自由な行動が制限されているので、どうしても陰鬱な気分になりがちだ。私自身の本来の仕事は執筆なので、図書館を自在に使えないのはとても残念だけれど、かといって原稿が書けないわけではありません。 私は特に怠惰なので、さまざまな口実を作って、書き下ろしの仕事を先延ばししてきましたが、今回の二度目の緊急事態宣言をきっかけに、執筆に力を注ぐ決意をしました。 自宅に閉じ込められているのではなく、書き下ろしのために自主的に缶詰になっていると思えばよいではないか。ちょっとした気持ちの持ちよ

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【劇評204】死の気配が漂うテレビ局。感染症による突然の死が、劇に盛り込まれている。永井愛『ザ・空気』三部作が完結した。

 永井愛の『ザ・空気Ver.3 そして彼は去った……』は、前二作と同様、テレビのニュースショウを舞台にしている。  反原発報道で圧力を受け、自ら首をくくった桜木正彦の影が、今を生きる人々の生き方に影響を与えている。  今回は、かつて反権力を唱えていた元・新聞記者で、現在は政権を擁護する政治ジャーナリストの横松輝夫(佐藤B作)を中心に物語が展開する。70.4度の発熱がある横松は、別室に隔離されるが、その部屋は桜木が縊死した部屋だった。  アシスタント・ディレクターの袋川(

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未曾有の苦難にあえいだ歌舞伎。今年、私が揺さぶられた三本を選んでみた。

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カレル・チャペック『白い病』の黒い笑い。

 今日は仕事を早々に済ませて、ベランダの薔薇の冬剪定にかかった。  四鉢とはいえ、剪定の作業には、中腰が避けられない。  腰が痛いな、寒さが身に染みると思ったら、急にカレル・チャペックの『園芸家の十二ヶ月』(中公新書)を思い出した。  園芸家は御苦労なことに、腰痛も厭わずに冬の庭仕事に精を出す件りである。   カレル・チャペックの戯曲『白い病』(岩波文庫)の新訳が出た。  阿部賢一の訳は、簡潔で余計な修飾がない。帯にも引用された「閣下、握手はできません……私は……〈白い

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花の官邸の御栄燿に引き比べて

 わたくし風情が今更めいて天下の御政道をかれこれ申す筋ではございません。それは心得ておりますが、何としてもこの近年の御公儀のなされ方は、私どもの目にあまることのみでございました。天狗星が流れます年の春にはご宰相のお花ご覧、また、森かけの親友へのご寵愛、官邸の御供衆は、沈香を削って同じく黄金の鍔口をかけたものと申します。  その一方に民の艱難は申すまでもございません。例の騒動の年には、大嘗会もありましたが、役がかかります。徳政とやら申すいまわしき沙汰も義政公治世に幾度となく行

【劇評167】空白を超えて、衝撃的で、極めて思索的な野田秀樹作・演出『赤鬼』の初日を観た。

 厳戒態勢のなか『赤鬼』を観た。  舞台を取り巻く状況 東京芸術劇場には、四ヶ月ぶりに訪れたが、私は自分自身の車を運転して行った。地下三階の駐車場に止めて、エレベーターで地下一階に上がる。  開演三十分前に到着したが、シアターイーストを取り囲むようにロビーには観客が集まっている。  客席は自由席で、当日渡されたチケットの整理番号が呼ばれ、順番に入る。案内の方ばかりではなく、スタッフ全員がマスクの上にフェイスシールドをかぶっている。切符の半券は、観客が自分自身で切るように指示

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東日本大震災の経験をひとりひとりが生かしたいと思う

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ウィーンへ私は果たして渡航できるのでしょうか?

昨年の春からすすめてきたウィーンへの渡航ですが、コロナウィルスの行方によっては、いったいどうなるか、予想がつきません。 今のところウィーン大学からは、特に何も言われておりません。演劇・映画研究所の教員メーリングリストには加えられましたので、毎日、何らかの情報は送られてきますが、特に、コロナウィルス対策に関するメールは流れてきません。 私が今、注目しているのは、在、オーストリア大使館が出しているメーリングリストです。 毎日のメールの末尾には、以下のような参考リストが掲げら

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政権末期の安倍首相に対して、憲政史上最悪の総理大臣という悪名を、少しでも軽減するために、緊急におすすめしたい三つの方策。

 将棋の大名人、大山康晴の言葉に「助からないと思っても助かっている」がある。終盤、どれほど追い詰められようとも、安易に投了してはいけないとの意味だと思う。けれども、今回の安倍晋三政権の迷走を思うにつけ、明日にでも、投了をお勧めしたいと思う。  大変、逆説的な提言をする。  これほどの長期政権を続けながら、晩節を汚しているのは、さすがにご本人も承知していると思う。  けれども、政権を投げ出さないのは、怖れである。一国会議員に戻ったならば、即座に検察特捜部から刑事訴追を受け、

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『風の谷のナウシカ』とコロナヴィールス

『風の谷のナウシカ』。ディレイビューイングが、全国の映画館で始まりました。12月の公演ですが、劇評を書いたのが、ずいぶん遠い過去のように思えます。コロナヴィールスのような近似したことがらが、世界を覆ったからでしょうか。劇評を書き替えたくなりますが、その時点での記録なので、改めるのはやめておきます。 ■公開 前編・後編 各1週間限定上映 前編 2020年2月14日(金)~2月20日(木) 後編 2020年2月28日(金)~3月5日(木) ※一部映画館では上映期間が異な

コロナの行方を心配しつつ、レクチャーの準備を進めています

今回、ウィーンでおこなうレクチャーは、全部で八章に分かれています。 原稿はすでに昨年の後期に、芸大のゼミで展開していました。なので、今は、学生からのフィードバックを入れつつ、ウィーンで使うキーノート書類の準備を進めています。ようやく第三章にまで辿り着きました。この章では野田秀樹の『THE BEE』の場面を切りとって、分析をする予定です。 日本での授業で、キーノートを使うのはまれです。ただ、今回は、フランスの人名などを表示して、私の説明不足を補ったりする役割もあり、 キーノ