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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2024年2月の記事一覧

ホーヴェの「Opening Night」を観に、ロンドンに行ってきます。

 明日からしばらくのあいだロンドンに行ってきます。 イヴォ・ヴァン・ホーヴェの「Opening Night」が開幕しますので、 しばらくは、ロンドンのリポートをお楽しみください。 https://www.londontheatre.co.uk/show/36785-opening-night?utm_source=google&utm_medium=cpc&utm_campaignid=11060757766&utm_adgroupid=153435095017&utm_a

【劇評329】勘九郎、長三郎の『連獅子』。名人、藤舎名生、裂帛の笛に支えられ、難曲を見事に踊り抜いた。六枚。

 勘三郎のDNAが確実に、勘太郎、長三郎の世代にまで受け継がれている。そう確かに思わせたのが、十八世十三回忌追善の三月大歌舞伎、夜の部だった。  まずは、七之助の出雲のお国、勘太郎に猿若による『猿若江戸の初櫓』(田中青磁作)。昭和六十年に創作された舞踊劇だが、江戸歌舞伎の創始者、中村座の座元、初世中村勘三郎をめぐって、その事跡をたどる。  七之助、勘太郎の出から、七三でのこなしを観るにつけても、すでに勘太郎には強い型の意識があるとわかる。型だけではなく、中村屋の核にある心

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伊藤英明のスタンリーは、胸の傷から、獣の傷つきやすい魂を解放した。

 伊藤英明のスタンリーは、沢尻エリカのブランチと対になっている。  粗暴で野性に満ちているかに見えて、その奥には、恐ろしいまでに傷つきやすい心がある。テネシー・ウィリアムズは、ブランチを自分の分身としただけではない。スタンリーもまた、劇詩人のもうひとりの分身なのだった。  『欲望という名の電車』を観ているあいだ中、そんなささくれだった男が気になっていた。演出の鄭義信は、伊藤のスタンリーに、聖痕を与えている。胸にある痛ましい傷は、肉体を切り裂いただけではない。もともと、ポーラ

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沢尻エリカのブランチを観た。その日、彼女は、新国立劇場の祭司となった。

 テネシー・ウィリアムズ作 鄭義信演出の『欲望という名の電車』を観た。新国立劇場中劇場が、完全に満席な状態で、満員御礼だった。  数は力であるという考えに、従えば、この沢尻エリカ復帰プロジェクトは、ビジネスとして圧倒的な成功を収めたことになる。  あらためて、思ったのは、テネシー・ウィリアムズの戯曲の強さである。どれほど、恣意的な改変を行っても、構造は揺るがない。むしろ、その改変が思いつきに見えてしまう怖ろしさがあった。  沢尻エリカが、芸能界に復帰するために、考え抜かれ

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寒雷

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【劇評328】鶴松の『野崎村』と勘九郎、七之助の『籠釣瓶』。一門の団結を見せ、よい勘三郎十三回忌追善となった。

 大間のやや下手側、追善興行のときは、思い出の写真が飾られる。今月の歌舞伎座は、十八世中村勘三郎十三回忌追善で、写真の前には、お香がたかれていた。手を合わせる。  昼の部は『野崎村』。七之助は久松に回って、鶴松がお光に挑む。児太郎は、お染を勤める。  鶴松のお光は、特に前半がいい。出から実に初々しい。久松との祝言を心待ちにして、気もそぞろな心の内がよく見て取れる。お染が出てから、嫉妬心にかられて、木戸から閉め出してからも、恥じらう乙女で一貫している。 底意地の悪さはなく、久

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【劇評327】細川洋平の『センの夢見る』が、永遠に問いかける「夢見る力」。

 私にとって、2022年は『レオポルトシュタット』の年だった。トム・ストッパードは、ウィーンの裕福なユダヤ人家族が、1899年から経験せざるをえなかった流転を描いていた。ナチスの台頭、戦争の激化、そしてユダヤ人虐殺が扱われたこの舞台を、九月にNYで、十月に東京の新国立劇場で観た。ヘヴィーだけれども、二十世紀を振り返るために、どうしても必要な体験だったと思う。  けれども、この『レオポルドシュタット』を、ガザ地区でのジェノサイドが現実に進行している今、再演された舞台を、観たと

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九段理江『東京都同情塔』の挑発。

 友人の編集者に勧められて、九段理江『東京都同情塔』を読んだ。 ザハ・ハディッドの新国立競技場が建っていた仮想未来を描いた作品で、「「犯罪者」に対するこれまでの偏見や差別を、まずは言葉から変えていく」旗印のもとに、都心に豪華なタワーマンションが構想される物語だった。  こうしたディストピアアイデアとしては、松尾スズキが、ずいぶんまえに、覚醒剤の町を書いていたのを思い出した。全財産を寄付すると、覚醒剤が無限に供給されるポンプを装着できる。ただ、その町から出ることはできない設定

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紀伊國屋ホールの舞台を踏んだ思い出。

 年に一度だけ、舞台裏に入ります。暗幕の向こう側が、受賞者と審査員の控え室になっていて、開場の一時間前から、三々五々、集まって来て、あれこれご挨拶したり、おめでとうを言ったりします。  奥の楽屋ももちろん使えますが、大抵は俳優さんが着替えなどに使うので、私は立ち入ることはありません。    会場に向かうエレベーターで篠井英介さんと、ばったり会いました。あれこれ話をしながら、舞台袖の階段から裏へ回りました。キャリアが長い篠井さんだけに「今日は楽屋は使えますか」と紀伊國屋のスタッ

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