マガジンのカバー画像

長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

歌舞伎や現代演劇を中心とした劇評や、お芝居や本に関する記事は、このマガジンを定期購読していただくとすべてお読みいただけます。月に3から5本程度更新します。お芝居に関心のあるかたに…
すべての有料記事はこのマガジンに投稿します。演劇関係の記事を手軽に読みたい方に、定期購入をおすすめ…
¥500 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

2023年11月の記事一覧

鶴松がお光を勤める『野崎村』。勘三郎の思い出。

 猿若祭二月大歌舞伎。もう十三回忌となるのか。墓参りは欠かさないようにしているが、今も、献花やお香が絶えないのは、故人の遺徳だと思う。

¥100

【劇評320】人間の根源的な欲望をいかにみせるか。森田剛、三浦透子の『ロスメルスホルム』。

 イプセンは、言葉による決闘を見るものだとよくわかった。  『ロスメルスホルム』(ヘンリック・イプセン作 ダンカン・マクミラン脚色 渡辺千鶴翻訳 栗山民也演出)は、暗く陰鬱な館の場面からはじまる。  ヨハネス・ロスメル(森田剛)は、地域を支配してきた名家ロスメルの末裔である。  下手側にしつらえられた壁一杯に、男系の一族の肖像画がところせましと飾られている。彼は、名門の生まれという特権とともに、家の流儀を守る責務に押し潰されようとしている。

¥300

【劇評319】宮沢章夫独特の感覚が、舞台によみがえる。笠木泉演出の『砂の国の遠い声』

 唐突かもしれないけれども、劇壇 GALBA、宮沢章夫作、笠木泉演出の『砂の国の遠い声』を見ながら、人が蒸発することについて考えていた。  さまざまな理由があるのだけれども、家族や職業を捨てて、人は、ふっと姿を消してしまう。残された人間は、その理由を探ろうとするが、消えたという事実の重みによって、混乱がもたらされる。  宮沢章夫の奇想は、砂漠監視隊の七人が、閉ざされた空間で、生活共同体を営んでいるのだが、消えたコバヤシが戻ってきたという設定にある。彼は失踪した期間の記憶が

¥300

【劇評318】前川知大の新作 『無駄な抵抗』は、私たちのあらがいようのない生を照らし出す。

 半年前から、この駅前広場のある駅に、電車が止まらなくなった。理由はわからない。ただ、踏切の警告がときおり鳴り響くだけで、電車はなにもなかったかのように、この駅を通過していく。  さびれた広場には、大道芸人のダン(浜田信也)がいる。彼の藝は、どうやら、「なにもしない」ことのようだ。  歯科医の山鳥芽衣(池谷のぶえ)は、この広場で、カウンセラーの二階堂桜(松雪泰子)と待ちあわせている。かつてふたりは、小学校の同級生だったが、まったく別の道を歩いてきたとわかる。  『無駄な

¥300

【劇評317】歌舞伎座で歌舞伎らしい歌舞伎を観た。仁左衛門が融通無碍の境地に遊ぶ『松浦の太鼓』。

   十一月歌舞伎座、夜の部は、久し振りに歌舞伎を観たと実感できる狂言立てだった。世代を超えて、未来に残すべき狂言を一気に観た。  まずは秀山十種の内『松浦の太鼓』。播磨屋、中村屋が家の藝としてきた演目だが、仁左衛門の松浦公は、融通無碍で、この性格に一癖ある小大名の人間がよく見えてくる。  なかでも、松浦邸の場で、歌六の宝井其角を相手に、怒り、拗ね、笑い、喜ぶありさまを、見事に見せる。  本作は、いわずと知れた『忠臣蔵』外伝だが、忠義を尊く思う武士の世界のなかで、これほどま

¥300