マガジンのカバー画像

尾上菊之助の春秋 その壱 春

83
尾上菊之助さんの話題が中心のマガジンです。筆者の長谷部浩は、『菊之助の礼儀』(新潮社)を以前、書き下ろしました。だれもが認める実力者が取り組む歌舞伎、その真髄について書いていきま…
有料記事をランダムに投稿します。過去の講演など、未公開の原稿を含んでいます。アーカイヴが充実すると…
¥6,800
運営しているクリエイター

2020年8月の記事一覧

「廓の掟に縛られながらも、懸命に生きていく薄幸な女をいつかは演じてみたいと思っていました」菊之助の『籠釣瓶花街酔醒』。初演当時のインタビューを再録します。

「廓の掟に縛られながらも、懸命に生きていく薄幸な女をいつかは演じてみたいと思っていました」菊之助の『籠釣瓶花街酔醒』。初演当時のインタビューを再録します。

五代目菊之助は、2012年の12月、新橋演舞場で『籠釣瓶花街酔醒』の八ッ橋を初役で演じている。八ッ橋をひと目見たとたんに魅入られる自動左衛門は、父菊五郎だった。

この初演のときに、菊之助を私がインタビューしたメモが見つかったので、ここに再録しておきます。

○今回、籠釣瓶花街酔醒の八ッ橋役を勤めることになった経緯を教えて下さい。

 10月の名古屋御園座で『伊勢音頭恋寝刃』のお紺を初役で勤めさせ

もっとみる
巨象のような体躯を持った歌舞伎は、どこへ行くのか。

巨象のような体躯を持った歌舞伎は、どこへ行くのか。

 演劇は舞台と観客が同じ空間と時間をともにするのが基本だと思ってきました。
 その考えは、今も変わっていませんが、NTライブのすぐれた作品は、演劇ではないけれども作品としての価値が高いので、ときおり映画館へ足を運びます。千穐楽に行ったりすると、演劇関係者が半数などという日もあって、みんなよい舞台を観たいのだなとかねがね思っていました。

 コロナウィルスの脅威が始まってからは、急に歌舞伎界がこの配

もっとみる
秀山ゆかりの「引窓」と吉右衛門の決断。

秀山ゆかりの「引窓」と吉右衛門の決断。

9月大歌舞伎の演目が発表になった。

 毎年9月といえば、秀山祭である。二代目中村吉右衛門は、現在の歌舞伎を代表する俳優であり、六代目菊五郎とならび称された初代吉右衛門の藝を受け継いでいる。
 初代の生誕120周年を記念して2006年に始まったのが、現在の秀山祭だが、十五年近く続いてきた看板を下ろした。今回の新型コロナウイルスの影響で、変則的な四部性を取っている。それぞれに芯を取る役者を置くと、一

もっとみる