ファンタジーとミステリーのバランスの取り方

新作『虚ろな探偵の憧憬』は魔法がある世界のミステリーという、ファンタジー×ミステリーのお話です。

執筆しててやはり感じたのが、現実にないギミックや設定、超能力等をミステリーに組み込むのはだいぶ難しい。魔法を下地にしてミステリーを展開するのはなかなか骨が折れました。魔法なら何でもありになってしまうので、そこにどのような制約と条件を付け加えるかが肝でした。制約を付けすぎても面白くない。しかし緩めれば何でもありで抜け穴だらけになってしまう。物語に合わせてやってみてもご都合主義感が出てしまう。

そこで思いついたのが「魔法を使うと空気中に痕跡が残る」という、発動することにデメリットがある設定です。その痕跡が見える人(今作主人公の探偵と捜査機関の特殊な役職)がいて、しかも色で何属性を使ったかがわかるため、どういう魔法使い犯人を絞りやすい。しかも魔法を使える人は免許を取らなければならないという決まりがあり、大きい組織に個人情報を握られている。そんな制約、縛りを決めた上で話を書きました。

この設定を思いついた時。やけにしっくり来たのです。なぜかと言えば、現実世界のある物を参考にしたからです。

魔法の痕跡は指紋やDNA鑑定。免許は文字通り運転免許ですね。

現実とは違う法則があるのに、似たようなものが現実にあるから割とすんなり受け入れられる。

今回の新作を経て、ファンタジー設定、異能力の設定は、現実世界にある何かをヒントにすればスムーズにいけることがわかりました。

実際今回の新作も、この二つの決まりを事前に決めたため変に突っかかることなく話を書けました。新作の制約と物語を例にします。

1)魔法を使うと痕跡が残り特殊な方法で解析ができるため、魔法で犯罪を犯せばすぐにバレる。だから魔術師は魔法を慎重に扱うし、犯罪の道具に使おうとしない。
しかしそんな世界で魔法で殺された遺体が川から見つかる。遺体の火傷痕と汽車の客室から魔法の痕跡が見つかり、客室が現場で、窓から遺体が捨てられたのだとわかる。すると探偵は犯人が今も汽車の中にいると推理する。ここに来るまで駅はいくつか通り過ぎたのに、一体なぜ断定できたのだろう?

2)街中にある館で有名小説家が殺されていた。遺体の死因はナイフによる刺殺だが、なぜか館の外れで火の魔法が使われた痕跡がある。どう考えても魔法を使う場所ではないし、痕跡が残ったら前述したとおり特定されてしまう。一体なぜこんなところで犯人は魔法を使ったのだろう?


話そのものの興味を引くフックにもなる部分にもなるのでここは頑張って作りました。今回は自分の作品を例に挙げてみましたが、ファンタジーとミステリーが混ざった有名作品の『制約』を注視してみてください。僕のオススメはやはり米澤穂信の『折れた竜骨』です。あれはこんな単純な制約ではなく、もっと複雑で緻密な設定をしているのでぜひ見て欲しいです。あれはマネできない。

制約はファンタジーに限らずミステリーでも重要な部分です。それっぽい縛りは現実世界にあるものを真似ればいいのです。適度な制約と縛りは話を面白くする。物語を作る際は、設定だけでなく、制約も充分に作っておくのを強く薦めます。

今回作った作品


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