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140文字では足りない午前0時5分前

間も無く0:00。明日は6:00には起きる必要があるので、今すぐベッドに入って眠るべきという事は分かっているが、先ほど読み終えた町田そのこ「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」の感想をどうしても書き留めておきたくて、noteを開いた。いつもだったら読書メーターやTwitterに読んだ本のあらすじを交えて投稿するが、今回ばかりはどうにも文字数が足りそうにない。

この文章にはわたし自身の子ども時代の振り返りや、自分語りが含まれるので、そういうのが苦手な方は遠慮なく、クローズボタンで他の人のnoteやTwitter、読書メーターに戻ってほしい。かの本の感想や書評は素晴らしいものが溢れているので、そちらを参照していただければと思う。

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わたしは平凡な共働きの家庭で両親と母方の祖母と暮らしていた。特に不自由もなく、幸せな子ども時代だったと思う。あれは確か中学生の時、突然父が転勤になったと家を出て行った。それなりに寂しかったが、仕事に打ち込んでいた父の姿を知っていたし、そんなこともあるかと応援する気持ちで家を出る父を見送った。母は隣で膝から崩れ落ちて泣いていた。仲の良い夫婦だと思っていたので、ちょっと離れることがそんなに悲しいのかと、半ば呆れつつ、またすぐ帰ってくるでしょ?と慰めていたのを覚えている。ただ、そんな自分の思いとは裏腹に父は家に戻ってくる事はなく、家族一緒に暮らす事はそれ以降なかった。父は転勤なんてしていなかった。

ウソ転勤以降の父との交流は、わたしの誕生日やクリスマスの時に外で会って、夕飯を食べてそのまま解散という形で続いていた。わたしはまだ転勤中で忙しい父が仕事の合間を縫って会いに来てくれていると信じていた。そんな高校1年生の誕生日の時。

「お父さんとお母さん、離婚しようと思うんだ」

一緒に食事をしていた父から衝撃の一言が発せられた。いやまってよ。あんなに家族仲が良かったじゃない、今はただ転勤してるだけだよね、離婚なんて嘘だよね?
酷い冗談だと思った、でも父の顔が悲しく俯いていて、嘘なんかではないことを物語っていた。それに転勤のために家を出るんだよなんていう子ども騙しの優しい嘘をすっかり信じていた自分が馬鹿みたいで殊更惨めだった。そこからの事はあまり覚えていないが、泣きじゃくって1人では帰れそうもないわたしを母が迎えに来てくれたのだったと思う。

高校生とはいえ、まだ子どもだった自分はどれだけ嫌でも両親の決定には従うしかなかった。今となっては結婚した夫婦の半分近くが離婚をするというのだから、こんなのはありふれた話なのかもしれない。でも、自分にとっては人生最初の壁だったし、思春期の心は荒れ狂っていた。家にいると父は自分と暮らせなくてもいいと思ったんだなぁという事実と向き合わなければいけなかったので、とにかくバイトをしたり、友達の家に泊めてもらったり1人で過ごす時間を減らしていた。母は心配していたと思うが、いい意味で放任してくれていた。

自分ではどうにもできない心の傷は、時間が経つにつれて硬い殻みたいなもので覆われて、滅多な事では表に出てこなくなった。大学に進み、社会に出てその波に揉まれて強くなったと思う。15年近くが経ち、もう自分のその時の傷なんて忘れかけていた。「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」を読むまでは。

この本を読んで、当時の自分は結構立派に傷ついていたんだなぁということを思い出した。でもそれは悪い意味ではなくて。ここに傷があったね、これまで頑張って来たねと優しく「海になる」の清音のように包んでくれるような感覚だった。ああ、ありがとう。この本のおかげでそんな自分の傷も含めて、明日からまた歩んでいけそうだ。

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