「人が増えても速くならない」はエンジニアと経営者を繋ぐ橋になる
6月27日(火)に倉貫 義人さんの新作「人が増えても速くならない~変化を抱擁せよ~」の読書会をアクティブ・ブック・ダイアローグ(ABD)形式で開催しました。
倉貫さんが別件で高知にいらっしゃるとの連絡が私にあり、その日に合わせて読書会を開催する事ができました。高知という地方にあって、先進的企業の経営者としてあちこちで引っ張りだこの倉貫さんを交えてABDが開催できるという僥倖に恵まれましたので、書籍の感想と開催レポをお届けします。
この本の特徴
倉貫さんの新しい本は、以前の本と比べてページ数や文字数が少なくなりました。全体で8つの章があり、各章は10ページから15ページ程度です。また、章ごとに内容が独立しており、特定の章だけを読んでも問題ありません。
また、XPやアジャイルといった倉貫さんの活動の原点になる領域特有の言葉は今回全く出てきません。非エンジニア、特に経営サイドの方が読んでも用語が難解だから判らないという事は一切無いでしょう。聞けば、倉貫さんが株式会社クラシコムに社外取締役として参画した際に、売上が急拡大する中で経営者が取ろうとした施策に対してアドバイスをした事が元ネタになっているとの事。つまり、この本のターゲットはエンジニアではなく経営者に寄っています。
DXを狙って内製のためのエンジニアを雇ってみたがどうにも上手くいかなかった経験をお持ちの経営者の方は深い気付きがあるのではないでしょうか。また、これからチャレンジをしていきたい場合は、誤った施策を打たないための金言を授けてくれる本だとも言えます。
エンジニアが思ってても伝えられない言葉がある
受託開発はかつて、建築業や機械製造のような業種から学んだプロジェクト管理手法を用いていました。これは、コンピューターの能力が限られていても大規模なプログラムを書く必要があった時代に適していました。
しかし、現在では高機能のフレームワークとクラウド技術の進化により、以前より短時間でより多くの機能を実現できるようになりました。プログラマーの仕事は創造性を必要とするものに変わり、他業種や昔の管理手法はあまり意味を持たなくなりました。現在の開発作業は、小説を書くや絵画を描くといった創造的な活動に似ており、作業量や工程を単純に分担することで時間短縮ができるわけではなくなっています。
現場のエンジニアはその変化を日々感じているのですが、経営者の方はその新しい常識を実感する機会がありません。私にはそれを言語化できず上手く伝える事ができなかった過去があり、この本の倉貫さんの「言葉」には思わず感服してしまいました。
Social Change!
経産省のDXレポートに指摘されているように、古い常識に捉われた経営者が多い結果、ユーザー企業とベンダー企業は「低位安定」な相互依存関係に陥っています。この現状は、時代遅れの管理手法を続けさせ、不満を生む状況を繰り返してしまいます。この悪循環を断ち切るためには、経営者の古い常識を上書きすることが必要ですが、それは容易ではないでしょう。
持続的な変化をもたらすエンジニアが力を全うに発揮するためには、現在の低位安定な社会の常識を改める必要があります。この「書き換え」にはエンジニアと経営者が単に主張をぶつけ合うのではなく、互いの常識を分かち合う努力が必要です。この本にはそのための手がかりが詰まっています。
アクティブ・ブック・ダイアローグ
私の考えでは、互いの常識を分かち合うには「対話」が適しています。自分の視点を相対化し、他者の意見に耳を傾けることで新たな洞察が得られ、常識が変わる可能性があります。しかし、対話は参加者の心の準備と、対話の場の適切なデザインが必要です。
本を対話のトリガーに
ABD®は以下のように進行します。
本を10ページから20ページぐらいで切り分ける(パート分け)
各パートの担当を決め、決められた時間で要約し、紙に書き出す(コ・サマライズ)
書き出した紙を一列に並べる
各パートの担当者が自分の読んだパートを3分でプレゼンする(リレープレゼン)
対話に備えて、もっと深く知りたい・話したいパートを決める
対話を行う
最後に感想を述べ合う
一般的な読書会に比べて準備が極めて少なくて済み、コ・サマライズとリレープレゼンで場の雰囲気を徐々に対話向きの場に醸成していきます。また、テーマの無い対話と違い、本の内容を軸に会話を切り出す事ができるため、対話の時に難しい「最初の一歩」がとても簡単にできるようにデザインされています。
「人が増えても速くならない」がABDに最適なワケ
今回のこの「人が増えても速くならない」はABDに最適だと言える理由は以下のようなものです。
章ごとの文字数が少なく1パートの分量が少なくでき、初心者でも簡単に要約できる
切り分けた際に分離がしやすいよう本が最初からデザインされている
各章の内容がほぼ独立している。以前の章の内容理解が必要な章がなく、その章だけ読めば要約できる
技術用語を極力排し平易な文章で綴られている
数式での証明や重厚な論理展開ではなく、要約しても主張が伝えやすい
8章8人での分担は対話時にちょうど良いサイズになる(対話1グループの人数は1桁台が限度)
さらに今回は、参加いただいたのがちょうど8人と8章を分担するのにちょうどの人数という奇跡的な状態で開催する事ができました。8人だと話題も広げやすいし、対話が苦手な方が無理して話さなくても場が完全に静かになってしまう事もありませんでした。しかも、エンジニアのみではなく、経営者や新規事業を仕掛けている方など多様な参加者だったので、多様な観点と経験が混ざって対話が深まっていきました。
その後、感想を順番にお話して、会場近くの居酒屋で懇親会となりました。とても楽しい火曜日の夜を過ごす事ができました。1週間前からの参加募集と急なお話にもかかわらず、8名もの方が参加いただけとても有り難い気持ちになりました。参加いただいた皆さん有り難うございます。
当日は沢山の方が事前に購入し持参くださいました。
開催後にも「本買ったよ」とのご報告がありました。嬉しいですね!この輪をどんどん広げていきたいです!
我が高知県が賢く縮むには、限られた予算を無駄撃ちすること無く確実にDXを推進していく必要があります。経営者の皆様にこの本を手にとって読んでいただきたいと思います。もし、この本でABDやりたいとのお話ありましたらぜひ私まで「人が増えても速くならないのABD希望!」とお声がけください。
最後までお読みいただきありがとうございました!
付録
この本にご興味がありましたら、下記も視聴ください。
いただいたサポートは、ワークショップのデザインを学ぶ費用として大事に使わせていただきます。高知で大人の学び直しができる場を作っていきます。