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どこよりも詳しい『失敗しないキッチンカー開業』part2 ~心の準備~

part1 から続きます。まだ読んでいない方はそちらから先にどうぞ。
この記事も長いので休みながらぼちぼち読んでください。

さてpart1 では飲食業の”闇”の部分を書き、あなたをかなり脅かしました。
飲食業界に憧れを持っていた方はひょっとするとすでに心が折れて開業を諦めたかもしれません。それはそれで良いとお伝えしました。
にもかかわらず本記事をまだ読み続けているということは、あなたは飲食開業によほど強い想いがあるんだと思います。これから先は私もそういうつもりで記事の執筆を続けます。



心の準備

飲食業界に飛び込むにあたって最初にすることは『心の準備』です。
なんかカッコいい響きですよね。
こ こ ろ の じゅ ん び。
ドラ〇エで使うアイテムみたいです。

ですが本記事は自己啓発セミナーとは異なります。
抽象的な言葉をなんとなく伝えて「あとは自分で考えてね(ニッコリ)」なんてやり方は初心者には向きませんし、時間の無駄なのでしません。本記事ではあなたに今必要なことを「具体的にどのような行動を取るべきか」という視点でお伝えしていきます。その上で言います。

『心の準備』とは事業に挑戦する気持ちを《言語化》することです。


言葉にする。文章にして書きとめる。それが言語化です。

もちろん日記として残しておきたいからではありません。事業の継続のため、収益をあげるために必要だから気持ちを言語化するのです。

あなたは疑問を持つでしょう。
「なんでそんなことをする必要があるの?」
その疑問に今からじっくりとお答えしていきます。



言語化の理由

「飲食業界は構造的に厳しい、、、」ということはpart1 を読んだあなたには理解いただいていると思います。そこであなたに問いかけます。

何故あなたはそんな厳しい道に挑戦するのですか?

周りの人は疑問を持ちます。私も同じく疑問を持ちます。
「なんで??」

答えは出せましたか?それをうまく言葉で表現できましたか?
心の中で思っているだけでは周りに伝わりませんよ。


気持ちを言葉にするのは案外難しいものです。
もちろんあなたの心の中に飲食業に挑戦する理由がある事は私も知っています。理由がなければ人は動きませんからね。ところがその理由の中身までは窺い知ることはできません。

普段からよく話している家族や友人ならばあなたの気持ちをよく理解していて改まった説明は不要なのでしょう。しかし初対面の人にあなたの心の裡はわかりようがありません。「あの人はこんな理由でキッチンカー始めるんだろうな」って外から理解できたら気持ち悪いですよね。

あなたはきっとこう思うはずです。
「挑戦する気持ちを他人にわざわざ教える必要あるの?」

その疑問に対する答えは「Yes」です。
言葉にすることも他人に伝えることも事業にとって必要なんです。
そのために気持ちの言語化をします。2つの側面から説明します。



【原点として】

1つ目の理由は《あなたの内面》のためで、自分の意思がブレそうになった時や判断に迷った時に戻るべき場所としての言語化です。


事業を始めると周囲の新しい情報が日々入ってきます。新しい店や新しい試みを誰かが始めたという情報です。反面あなたのお店はどんどん新しくなくなっていきます。これはpart1 で触れた通りの”事実”であり、そのこと自体に焦っても仕方がありません。
でも人間は弱いもの。世間が新しい店の話題で盛り上がっていると自分のしていることがちっぽけに思えたり、周りが必要以上に輝いて見えるかもしれません。そして自分も再度新しいことに挑戦したくなったり、今やっていることが無意味なものに思えてしまうかもしれません。(本当はそんな必要ないのに)

だから心が惑わされそうになった時は
自分はどんな想いでキッチンカーを始めたのか
・どんな人生を実現したいと考えているのか
という、あなたがキッチンカーを始めるに至った『原点』に帰ることが大事です。今やっていることがあなたの人生に必要であることの再確認です。


原点に帰るには原点の位置が明確でないといけませんよね。果たしてあなたの商売の原点は一体どこにあるでしょうか?

答えは「ここ」です。まさに今あなたがいる場所です。
原点とは事業を始める前、つまり今あなたが考えていることや感じていることを指します。

今ですよ!この記事を読んでいる今です。
開業に気持ちが燃えている今があなたの『原点』なんです!

「飲食業をやりたい!キッチンカーをやりたい!」と昂っている今の気持ちは開業後に日々の営業の中で少しずつ擦り減っていきます。変わり映えない毎日に慣れと飽きを感じている未来のあなたがいます。隣の芝生が青く見えてしまうあなたがきっといます。未来のあなたは今のあなたが抱いている熱い想いを忘れているのかもしれません。

そんな迷える未来のあなたに想いを届けるには、今の気持ちを言語化し文章にして残しておくしかありません。将来あなたが判断に迷う事態に直面した時「なんのためにこの事業を始めたのか」という『原点』はきっとあなたを助けてくれます。それが気持ちを言語化する1つめの理由です。




【説明資料として】

2つめの理由はあなたの想いを《周りの人》に説明するためです。
あなたはまた疑問に思います。「周りの人って誰のこと??」

実はあなたの想いを”誰か”に説明する機会は多くあります。
お客さんやマスコミ関係のこともありますが、ここで想定しているのは行政と金融機関です。
part1 で「行政や金融機関はあなたを応援してくれる」と書きました。ところが行政や金融機関は積極的に応援したくてもあなたが何者なのかを知りません。なにせ初対面ですからね。そこであなたは自己紹介をします。ここでの自己紹介は資料として提出します。資料とは、つまり文章です。

融資申込書や補助金申請書には必ずあなたのことを書く欄があります。もちろんあなたの趣味や好きな芸能人のことを聞きたいわけではありません。
先方が知りたいのは

・これまで社会人としてどのように働いてきたのか?〈過去〉
・どんな飲食店をしようとしているのか?〈現在〉
・実現したいビジョンは何なのか?〈未来〉

というもので「あなたはなぜ飲食店に挑戦するのですか?」という疑問に対する答えを求めています。

あなたはスラスラと答えられましたか?
もし難しかったのであれば気持ちの《言語化》がまだできていないということになります。
加えて言うと、上のような自己紹介は開業時だけではなく営業を開始してからも様々な場面で書類に書くことがあります。あなたが何者で何を成し遂げたいのかを説明して周りに応援してもらうことは事業の継続には不可欠ですからね。
これが理由の2つめです。


自分の気持ちや想いを表に出すのは恥ずかしいかもしれません。でも応援してくれる人を増やしていくためにも気持ちを言語化することは必要です。最初は家族や友人からで構いませんのであなたの”自己紹介”を見てもらってください。
※ポイントは初対面の人に理解してもらえるよう簡潔にまとめることです。自己紹介ってそういうものですよ。



心の準備のやりかた

とはいえ気持ちの整理をするのはなかなか難しいですよね。
今まで文章を書き慣れていない方ならなおさらです。


ご安心ください!!!(TVショッピング風)

下の図はそんなあなたの心の準備をお手伝いするためにあります。
「私はこういう理由で飲食に挑戦するんです!!」ということをしっかり説明できるよう一緒に考えてみましょう。

そしてpart1 でも書きましたが「よく考えてみたら別にキッチンカーじゃなくてもいいかも、、、」という気持ちになれば、いつでも休憩・離脱してください。もし開業を止めることになったとしても、自分の本当の気持ちがわかったということだけで本記事を読んだ意義があります。重ねて言いますが「始めないこと」は失敗ではありませんからね。


心の準備のお手伝いの図


この図はあなたの『判断』の積み重ねを表したものです。
あなたの心の準備のお手伝いをするために私が作りました。
この先で何度も同じ図を出しますので今は意味を理解できなくても問題ありません。

図においてあなたの気持ちは下から上に向かって進んでいきます。
特に意識して欲しいのは《思考は積み重ね》ということです。
下の部分(土台)が大事ですし、下と矛盾した上の部分はありえません。

たとえば「独立開業したい」のに「毎月安定して給料が欲しい」なんてのは無理ですよね。同じように「近所の常連のお客さんと関係を大事にしたい」けれど「旅するキッチンカーに挑戦」というのも難しいです。
このような矛盾が出てきたらそのまま上に行かずに一度下の部分に戻りましょう。そして再度考えます。自分が本当にやりたい事は何なのか?

あなたが優先すべきはいつでも下の部分です。
本当の気持ちはいつでも下の部分から出てきます。

一番の基礎である最下部は「あなたはどんな人生を送りたいのか?」です。


哲学の部分

どんな人生を送りたいのか?

一番の基礎である「どんな人生を送りたいのか?」
これは”あなたそのもの”への問いかけであると言えます。

一般に「どう生きるのか?」を考えることを『哲学』と呼びます。本記事でもそれ倣ってこの部分を哲学と呼ばせてもらいます。


改めて問います。
あなたは一体どんな人生を送りたいのですか?



キッチンカー開業の記事でこんなこと聞かれるとは思わなかったでしょうね。でも全ての物事の出発点はここからだと私は考えています。

どんな人にもそれぞれの人生があります。
送りたい人生のために全員に等しく《時間》があり、その時間を大切に使って何かのために《行動》します。

事業で成功するとかしないとか。
そんなことはあなたの大切な人生からしたらほんの些細な事です。
あなたには是非理解していただきたいのですが
事業の成功 = 人生の成功 ではないし、逆も同様です。

と、こんな風に「人生の目的とは~」みたいな話をすると途端にうさん臭く感じますよね。安心してください。私も誰かにお説教されたりするのはご勘弁な性格です。自分の人生好きなように生きています。
この記事はあくまでキッチンカー開業の記事で、人生相談ではありません。私はあなたの人生に何らかの指図する気なんてさらさらありません。



ここで私がお伝えするのは
「目標の方向が定まってないなら出発できないよ」という事だけです。
あなたの人生のゴール(目標、目的)には興味がありませんし、口出しするつもりも一切ありません。でも、どこに進むのかすら決めていない人がいきなり走り出すのは違うんじゃない?とは思います。

だからまず「大切なあなたの時間は何のために使うのか?」
ということをハッキリさせましょうか。


※余談ですが
『人生の目的』という人の根本部分に口出しをしてくる宗教や自己啓発セミナーのことは信用しない方がいいです。「あなたの自己実現のお手伝いします」なんて言われたら逃げてください。
断言しますが、あなたの自己実現はあなた自身にしかできません。
誰にもあなたの人生を左右する権利なんて無いし、口出ししてくる人があなたの人生の責任を取ることは絶対にありません。

自分のことは自分で決める。それは絶対のルールです。



元の話に戻ります。
先ほど「走り出す前にゴール(目標)の方向を確認する」と書きました。
でも将来的に目標の位置や形が変わる可能性は誰にでもあります。
先日youtubeでIT企業の社長がある日突然インドに出家したって番組を観ました。あなたにもこれから人生観が180度変わるような出来事が起こるかもしれません。それすらも人生の面白さではないでしょうか。

ゴール(目標)の方向が変わった時には、その時はまた新しい目標に向かって進み直しましょう。せっかくこの世界に生まれたんだから一度しかない人生を悔いのないように生きたいですよね。

ひょっとして、今こうしてキッチンカー開業に進もうとしてるのも、あなたの人生にとっての大冒険なのかもしれませんね。

改めてこの項目でお伝えすることは
現時点であなたの人生の『目標』が定まっていないのであれば開業はおススメしない、ということだけです。

人によって目標の位置や形は様々です。
現時点で目標が決まってないことは全然悪いことではないし、目標を探し続けること自体が人生だという考え方にも共感できます。あなたの目標を私は決して否定はしません。是非あなたの道を進んでください。

ただし開業の話は別です。
この記事を読んでいただいたのも何かの縁なのでそこは止めさせてください。なぜなら、目標なく商売を始めると必ず失敗するからです。
開業は大きなリスクを伴います。何も考えずに開業してしまうとあなたの人生に取り返しのつかないダメージを与えかねません。
やりたい事や成し遂げたい事が現段階ではっきりとしていないのであれば、今の仕事を続けながらあなたの『目標』について考えることをおススメします。

開業はいつでもできます。遅いという事はありません。
『心の準備』ができないのであれば、まだその時期ではありません。

ちなみに私の目標は
「好きな人と好きな場所で心に負担のかからない生き方をしたい」
「瀬戸内の島で時間に縛られない商売を仕事にしたい」です。
その方向に向かって日々行動しています。

いまのところこの目標は変わっていませんが、もちろん今後変わるかもしれないです。そうなったらまた別の商売を始めることになるかもです。





どんな仕事(生業)を選ぶのか

「どんな人生を送りたいのか」をひとまず自分の中で確認できましたか?
次は「どんな仕事(生業)を選ぶか」について考えます。

《生業》(なりわい)ってあまり聞かない言葉ですね。
辞書では「生活手段として行っている仕事」とありますが本記事では
人生の『目標』を実現するために日々とっていく行動。を生業と呼ばせてもらいます。


仕事(生業)と書きましたが、お金を得る労働という形でなくても生業を作ることは可能です。アイドルを推すことでも、ボランティア活動も、牛乳キャップのふたを集めることだって、それが当人にとって人生の『目標』であるならば活動は生業になります。
その内容について他人が口出しすることではありません。

「どんな人生を送りたいのか」は決して他人任せにせず自分で決めないといけないと書きました。同様に「どんな仕事(生業)を選ぶのか」も自分自身で決めるべきです。(それがキッチンカーであれば応援します!!)

もしあなたの生業がお金を得られるものでないなら、日々の労働は収入を確保するための副次的なものになります。「人生において労働は大きな要素ではない」という考え方で、そんな人生も楽しそうです。
ただし、その場合に開業をおススメしないのは先述の通りです。

あなたは目指すべき人生のためにどんな仕事をするかを自由に選べます。
しかし人生の『目標』と矛盾するような『仕事』をすることは止めたほうがいいとはお伝えしておきます。
世間にはたくさんの仕事(生業)がありますが「世界中を飛び回り戦争のない世の中を目指す」ことを目標とする人が市役所に勤めてはいけません。
「家族と四六時中いつも一緒に過ごして愛情を我が家に注ぎたい」のに外航タンカーに乗ってもいけません。

仕事(生業)は人生の目標を達成するための手段です。
あくまで人生の『目標』が先にあり、それを叶えるために『生業』があります。逆にすることはできません。

図で見ると「どんな人生を送りたいのか」が土台にありますよね。その上に「どんな仕事を選ぶのか」があります。繰り返しますが大事なのは下の部分で、本当に大事なのことは下の部分から出てきます。

目先の収入とか周囲の評価などに振り回されて目標と手段に矛盾が出ないようにしてください。あなたの日々の仕事が人生の目標に繋がっているのかよく考えてみてください。あなたが充実した人生を送るために。


とはいえ現実問題として何らかの収入がないと生活が成り立たない人がほとんどではないでしょうか。私もそうです。皆がみんな完全にやりたい仕事だけをしているとは言いません。

そこで生き方と働き方の間で折り合いをつけるのも自分自身です。
この部分も誰にもお手伝いできません。




積み重ねの思考

今こうして人生や仕事というような大きな話をしていますが、記事を通じてあなたにお伝えしたいのは『思考は積み重ね』ということです。
「下が大事」「下と矛盾する上は無い」「一番下(土台)は人生目標」と書きましたが、では一番上の部分は何でしょうか?

この記事において一番上は「日々の営業のこと」です。(図では水色矢印)
人生目標と日々の営業は一見無関係に思えます。
ところがこの2つは遠く見えても実は繋がっているんだということを是非理解して欲しいのです。
「ラーメンの価格を800円にするのか1000円にするのか」「チャーシューを3枚にするのか5枚にするのか」みたいな日々の小さな話も「どんな人生を生きるのか」という思考の延長線上にあります。(part3 価格の決め方の項で詳しく解説します)


一番下(人生の目標)は一番上(日々の営業)から一番遠い部分です。
あなたが手っ取り早く知りたいのは一番上の”実践的な”部分だと思います。ですが下の部分から積み重ねていかないと結局うまくいきません。なぜならあなたが本当に求めているのは一番下の部分だからです。
今は遠回りに思えるかもしれませんが、コツコツと思考を積み重ねていくことでブレのない店づくりができます。ここは私を信じてこのまま記事を読み進めてください。




戦略の部分

「どんな人生を送りたいのか」から「どんな仕事を選ぶのか」と思考を積み重ねてきました。そして更に一段上に昇っていきます。

次は人生・仕事で戦うための指針(戦略)を決めていきます。

戦略の部分ではメリットとデメリットの提示をします。哲学の部分(人生の目標・生業)で私は一切口を出しませんでしたが、戦略の部分(仕事の指針)では少し趣が異なります。
ここではあなたに選択肢を提示して、それぞれのメリットとデメリットを説明します。ただし「全員に共通する”良い”選択」というものはありません。


世の中にはカレーが好きな人もラーメンが好きな人もいますよね。カレーが良くてラーメンが悪いなんて話はありません。き〇この山とたけ〇この里の好みも個人の価値観によって異なります。ここまではあなたも共感できると思います。
上の選択と同様に、都会でサラリーマンをするのと田舎でカフェをするのでも、どちらの人生の方が優れているとかはありません。
ただし、それぞれのメリットとデメリットは当然あります。
カレーの美味さとラーメンの美味さは違いますよね。きのこの山のプリプリ感とたけのこの里のサクサク感も違います。都会のサラリーマンのメリットもあるし田舎のカフェのデメリットもあります。もちろんその逆もです。

二つのライフスタイルの間には収入・通勤電車・週末の過ごし方・老後の年金など様々な違いがあり、あなたの選択によってメリットとデメリットがそれぞれ出てきます。
ラーメンやカレーは日替わりで選ぶこともできます。しかし仕事やライフスタイルはそのようにはいきません。必然的により慎重になります。
そこでメリットデメリットを比較した上で「どのように働いていくのか」を決めるのもあなた自身です。

もし戦略をどうやって選べばよいのかわからないのであれば哲学「どんな人生を送りたいのか」「そんな仕事を選ぶのか」に戻ってください。
改めて言いますが絶対的な正解というものはありません。
あなたの目標や価値観に合わせて選択を積み重ねていきましょう。

戦略上、一番大きな選択は「サラリーマンを続けるかどうか」です。
今あなたは独立を考えています。
けれどもあなたは「サラリーマンとは何か?独立とは何か?」ということを真剣に考えてみたことがあるでしょうか?

次項から世間一般で言われているサラリーマンの真実と誤解について書いていきます。脱サラの意味を一緒に解き明かしていきましょう。



サラリーマン最強説

今あなたは「開業!」とテンション上がってますよね。
ヤル気があるのはいいですが、ありすぎて冷静な判断ができないのはいけません。本当に独立して大丈夫なのか?確認していきましょう。



まず実際に脱サラして独立した私の感想をお伝えします。

開業直後⇒「自由って素晴らしい!!そしてシンドイ。。」
 現在 ⇒「人を雇うのシンドイ。。サラリーマン最強!!」

そうです。結局シンドイんです。。。。
まぁこれは私の感想なのでそうでない人も大勢いると思います。しかし後段の「サラリーマン最強!!」の部分は事実なので解説していきます。


サラリーマンの素晴らしさは現在お勤めの方にはあまり実感が湧かないですよね。私もサラリーマンの時には有難さを理解できていませんでした。しかし、すでに独立している方に聞くとサラリーマン最強説に激しく同意していただけます。ピンときていないあなたに何が最強なのかについて話していきますが、おそらく今あなたが考えているのとは全く別の部分の話です。


サラリーマンの本質

あなたが「開業を考えている!」と言うと周りから
「毎月給料が入ってくるのはありがたいことだよ」
「みんなにフォローされているから仕事ができるんだよ」
「独立すると社会保険料上がるし確定申告が大変」
「誰にも相談できないから経営者は孤独だよ」
と忠告を貰うのは独立あるあるです。

独立開業のための本にもこんな言葉が山ほど並んでいますよね。
このような事態は当然あなたも想定済みで「開業すると決めたんだからやり通します(キリッ!)」と返します。

その次に言われるのは
「私もあと〇〇歳若かったらな~」
「人生楽しそうで羨ましいな~」
「お店ができたら遊びに行くわ~」
と応援してもらえるところまでがセットです。あなたもここまでは想像できているでしょう。きっと。

もちろん上のイメージは事実なのですが、本記事を読んでいるあなたには是非とも知っていて欲しいサラリーマンの別の大事な側面があります。経営者として見る《商売》の側面です。

私たち経営者には サラリーマンの仕事 = 上手くいっている商売 という図式が真っ先に浮かびます。ピンときましたか?
考えてみれば当たり前ですが、人を雇うのは自分たちだけでは手が回らないからです。忙しくて人手が足りないから仲間(従業員)を集めるという構図でサラリーマンは生まれます。

そしてこちらもあまり意識されないことですが、会社やお店は最初からそこにあったわけではありません。社会に必要なサービスを産み出した人がいて、それが世間に認められたから会社やお店は存在し続けています。
どんな大企業でも最初は誰かのアイディアと行動から小さく商売を始めました。あなたも有名経営者の本を読んだことありますよね?マイクロソフトもアマゾンもガレージからスタートしています。現在ではどちらの企業も世界中で何十万人の仲間と頑張っているのはご存じでしょう。

世の中にサービスが受け入れられると徐々に商売の規模が大きくなり業務に携わる人が増えていきます。その事業に携わる仲間たちのことを世間では《サラリーマン》と呼んでいます。仲間が増えたことでサービスはもっと広まり更に多くの仲間を必要とします。こうして大きくなっていった事業は皆をますます幸せにしていったとさ。

めでたしめでたし。

というようにサラリーマンは
社会から必要とされている素晴らしい仕事に携わっている人たちなのです。毎月入ってくる給料がその証です。



サラリーマンの不満

このように世間から認められているサラリーマンですが、反面どうにもならないこともあります。それは「他人の商売を手伝っているだけ」という事実です。いくら一生懸命働いたとしても自分自身の事業ではありません。どんな立派な大企業に勤めていようが同様です。
世間に「うちの会社は~~~」って自慢するサラリーマンが居ますよね。きっと立派な会社にお勤めなのだと思います。でもその言葉の意味は「私がお手伝いしている会社は~~~」に過ぎません。「俺の友達はすごいんだぞ」と本質的に変わらないのです。サラリーマンは決して主役ではないのです。

先日テレビで定年後に自分の価値を感じられないおじさんのニュースを見ました。「名刺が無くなった時、自分は何者でもないことがわかった」そうです。
サラリーマンは「もっと働きたい。まだ役に立てる」と思っていても定年になると一律に会社から追い出されます。自分の仕事のことなのに自分自身で決められないのです。もちろん辞めた後は会社の名刺は使えませんし、手がけてきた仕事の実績は後輩に受け継がれて退職後のあなたと関係がなくなります。
サラリーマンは一生懸命に働いて大きくした仕事の成果が一切手元に残りません。(残っていたらそれは横領という犯罪です)

働いている最中も意に沿わない異動を命じられることもあります。現場で働きたいのに総務部配属、大阪に居たいのに東京とかですね。こちらも自分の意志ではどうにもなりません。

サラリーマンにこのような”悲劇”が起こるのには理由があります。(世の中の物事にはすべて理由がります)
その理由とは
「会社のルールはサラリーマンではない誰かが決めているから」です。

誰かって誰??答えは明確です。
お店はオーナーのもの。会社は株主(の意向を受けた取締役)のもの。
そういうルールであなたがいる資本主義社会は回っています。社会の歯車に組み込まれている以上、ルールには従わなくてはいけません。

さて、あなたには人生で成し遂げたい『目標』があります。

サラリーマンのあなたにやりたい『仕事』があっても取締役が「NO!」と言えば叶いません。それがルールだからです。
サラリーマンにできることは、仲間に愚痴り、わかってくれない上司に不満を抱き(その上司もサラリーマンのことが多いですが)、果てに独立を考えるくらいです。
ひょっとしてあなたもそんな経験をしてこの記事を読んでいるのかもしれませんね。



独立開業ということ

そんな不満を持ったサラリーマンは独立を考えます。
他人の商売を手伝うより自分の商売をしたいんだと。

でも少し待ってください。もう一度別の角度から見てみましょう。
先ほど「サラリーマンは上手くいっている商売のお手伝い」と書きました。
それなら独立開業は
上手くいっている商売 ⇒ 上手くいくかわからない商売 への転換です。これこそが多くの方に欠けている視点です。

さらに言えば、商売の中でも「飲食店はほとんど上手くいかない」という事はpart1 で書いた通りです。つまりあなたは極めて不利な方向に進んでいこうとしています。

あなたはこの”事実”を把握していたでしょうか?
ひょっとして考えが及んでいませんでしたか?
本来はその自覚をしてから独立開業を検討するべきです。


ふわふわした夢が先に来るのではなく、どうしようもない不安の中で人生を切り拓くためにもがく行為が独立開業です。
偉大な先人が築き上げた、サラリーマンという舗装された道から外れて先の見えない荒地を進む覚悟が必要です。

ここであなたに問いかけます。
あなたの味方として親身の問いかけです。
人生で成し遂げたいことは会社に勤めながらでは絶対にできませんか?
今の会社で無理なら、他の会社に転職するのはどうですか?


断固として「NO!」と言えないのであれば、あなたはサラリーマンを続けるべきです。私なら必ずそうします。




経営者の目線

ここであなたの給料の話をします。
「人を雇うのはタイヘン」と書きましたが、あなたは経営者目線で自分の給料について考えたことがあるでしょうか?サラリーマンにとって給料なんてものは不満はあっても感謝はなかなかできないのが一般的です。

でもこれからあなたは経営者になるかもしれません。そのつもりで計算をしてみましょう。

あなたの給料が年400万円だとします。(平均的なサラリーマンです)
内訳は月給25万円、夏冬ボーナスで50万円ずつ。手取りにすると月20万円ほどで生活に余裕があるとは言えません。
そんなあなたの給料に対する事業者の人件費負担はどれくらいでしょうか?

社会保険料を会社が半額負担していることはご存じだと思います。給与明細にある健康保険料と厚生年金保険料は、あなたが払っている金額と同じ分だけ会社も払っています。あなたは本来の金額の半分しか負担していません。
交通費や諸手当を支給されている方も多いです。さらに会社はあなたの退職金を積み立てていたりします。
そのような直接的な支出だけでなく、会社はあなたのために机を用意したりパソコンを購入したりと様々な費用を負担しています。他にもあなたの健康診断や福利厚生をして、、、なんてやってると雇用にかかるコストは給料の1.25倍~1.5倍つまり500万円~600万円程度になります。(一般的な会社の話です)
会社はあなたにこれだけ直接的、間接的に払っています。


経営者としてはそれだけで話は終わりません。
会社があなたに払っている500万円ですが、その500万円はどこから出てきていると思いますか?
もちろん事業の利益から支払われています。


それを踏まえて計算を続けます。
あなたにかかる人件費500万円を捻出するにはどれくらいの売り上げが必要でしょうか?
飲食業の場合、売り上げにおける人件費負担率が30%程度の会社が多いので 500万円÷30%≒1700万円 となります。
この計算の意味は「あなたを雇うためには年間1700万円の売上が必要」ということです。
そしてあなたの給料は今後上がっていくことが見込まれます。給料が上がればそれに比例して会社の負担分も当然上がっていきます。今400万円の給料が徐々に上がり600万円になったとしたら、単純計算で会社は2500万円の売り上げを確保しなくてはいけません。
あなた一人のために2500万円ですよ!!

極めつけとして会社は「あなたが65歳になるまでこの負担を維持する」という約束を守るつもりでいます。
なぜならあなたをそれ以上の価値を会社に提供してくれる人材として評価しているからです。実は会社はあなたにメチャメチャ期待しているのです。

会社って実は結構すごいですよね。もっと見直してもいいと思いませんか?


強い想い

残念ながら今の日本社会ではサラリーマンを一度辞めてしまうと再度雇用される際に条件が悪くなることがほとんどです。個人的に良くない慣行だと思いますが現実そうなのだから仕方ありません。

焦っているあなたにお伝えしますが、飲食の独立開業に逃がせないタイミングなんてものはありません
何歳からでも独立開業できます。定年後でもかまいません。あなたがあなたの人生の良きタイミングで挑戦することができます。

それって本当に今ですか?
今すぐにしなくてはいけませんか?


それでも。どうしてもサラリーマンはこれ以上続けられない。
今すぐ。そう今すぐに自分の人生は自分で切り拓いていくんだ!

そんな抑えられない想いを持っている方も居るのかもしれません。
むしろそういう方だからこそ本記事をここまで読み進めていただいているのだと思います。私がこれまで伝えたような事は全部覚悟の上で「それでも進むしかないんだ」という気持ちが溢れているのでしょう。

そんな方に「開業は止めた方がいい」なんてもう言えません。
この記事では最初からずっと「飲食開業なんて止めておこう」と言い続けた私ですが、強い想いを持っているあなたに言えることはひとつです。



さぁ挑戦だ!!


もう引き留めません。
記事はここから先、あなたを応援するフェーズに変わっていきます。
あとは『失敗しない開業』に向けて進むだけです。






飲食業のメリット

part1 から始まりずっとネガティブなことを言い続けてきました。
あなたに『覚悟』して欲しくて負の側面にスポットを当ててきました。
もう脅かすような言い方は必要ありません。
ここから先はあなたが知っておくべき飲食業のポジティブな面の紹介していきます。当たり前ですが飲食業に良い面が全く無いわけありません。(全く無かったら私もみんなも続けられていません)

飲食業は闇も大きいですが光も大きいです。あなたもきっと飲食のそんなキラキラしている部分に惹かれてやる気になったのだと思います。

たとえば
・お客さんとのコミュニケーション
・食べ物を提供する楽しさ
・おしゃれが映える店内
・たくさんの笑顔
飲食店には素敵な光景が本当にたくさんあります。
これらは他の業種ではなかなか見られない飲食業特有の素晴らしさです。

とはいえこの記事は「心地よい働き方」のような『感覚』の話はしないと書きました。なので気持ちや感情の部分は割愛します。飲食店のキラキラした部分は他の方がたくさん紹介していますのでそちらを参考にしてください。
この項目でお伝えするのはあくまで飲食店の”経営的”な強みです。
他の業種との比較を通じて飲食業の強みを可視化していきましょう。




現金商売

飲食店にとって最も大きな武器は《現金商売》であるということです。
現金商売とは「お客さんから代金をその場で現金をもらう」商売のことを指していて、営業すれば売り上げが現金として入ってきます。

えっ!?そんなの当たり前って考えてますか?
だとすればその認識は違います。
「お客さんから現金を払ってもらえる」ってことは実はすごいんです。
他の業種との比較を交えながら、なぜ現金商売がすごいのか説明します。


ごはんを食べにいくと代金をその場で支払いますよね。
スナックやホストなどいわゆる夜のお店でツケの文化があることを知っていますが、飲食店でツケはあまり一般的でなく当店でも9年間一度もツケたことはないです。あなたも飲食店にツケた経験はおそらくないでしょう。

だから「ツケ」と書くとなにか特別なお店が使うものという印象があります。でも「売掛金」という名前にしてみたらどうでしょうか。
《売掛》はごく一般的に用いられている取引方法で、むしろ企業間取引ではほとんどが売掛で行われており、現金払いの方が珍しいです。
ツケと売掛は名前が違うだけで仕組みは同じです。「今日サービスを受けた代金は〇月〇日に払います」という”約束”のことを売掛といいます。

実はこの売掛という仕組みは商売人にとって厄介なもので、特に経営体力のない個人事業主にとって命取りになります。


たとえば「フリーランスでデザインの仕事してます!」なんて人は納品してから翌々月に入金なんてことはザラです。
時系列で書くと
7月22日に納品 ⇒7月31日に月締め ⇒8月初旬に請求書を送り 
⇒先方の経理処理が8月中 ⇒9月20日に入金  の流れです。

上は「月末締め翌月20日払い」という売り掛けの例です。
よくある形であなたも聞いたことあるフレーズかもしれません。
取引先によっては支払いが手形なんてこともあり、その場合は更に1か月経たないと現金になりません。
上の流れでの入金が1か月の約束手形ならば
9月20日に手形をもらう ⇒10月21日以降に銀行で現金化  です。
手形と書くと理解が難しいかもしれませんが要はなかなか現金にならないってことです。
こんな形だと仕事が終わっても3か月経たないとお金が入ってこないことになります。この仕打ちは個人事業主にとって本当にシンドイです。その間の生活費や経費はどうするんだっていうね。

さらに恐ろしいのは、この話が「特に厳しい状況に置かれた人」の事例ではないことです。フリーランスで活動している人の多数が経験するごく一般的な話です。みんな納品した後で入金があるまで戦々恐々としています。

ところが飲食店では食い逃げでもない限りその場で代金を支払われます。
私もあなたも店でご飯を食べたらその場で払います。みんな飲食店の現金払いを当たり前に行っていますが、実は事業者にとってものすごく大きなメリットであることを理解してください。


これを会計的に言うと
売上と入金のタイムラグがない = 資金繰りが楽になる
となります。
「会計」とか「資金繰り」とか言葉が少し難しいかもしれませんね。心配要りません。この記事はあくまで”初心者”向けなのでシンプルでわかりやすい説明を心がけています。(シンプルな分、正確な言い回しでないことをご了承ください)
次の項目でもう少し詳しく見ていきます。




2種類のお金

大雑把に言うと、お金は《手元にあるお金》と《もらえる約束のお金》の二つに分かれます。
銀行に預けているのは「手元にない」と感じるかもしれませんが、ATMへ行けばすぐ引き出せるのでここでは《手元にあるお金》となります。
会社で働いた分の給料はいずれ《もらえる約束のお金》だけど給料日までは支払われないので手元にはありません。
まずはこの違いを意識してください。


商売で大事なのは手元にあるお金です。
なぜなら「もらえる約束のお金が貰えなかった(涙)」なんてのはよくある話だからです。

ドラマで貧乏な主人公が「支払いはもう少し待ってください、、、」って土下座しているシーンがありますよね。テレビで見ている分には同情して「待ってあげてもいいじゃんね(怒)」と言いたくもなります。
でも、あのシーンを逆の立場(取り立て屋)から見ると「約束した日時に約束したお金を貰えなくて困る」となります。

ドラマではサングラスをした恐いオジサンが怒鳴っているから「待ってあげれば、、、」と感じますが、現実の売掛金の回収は経理部や営業部のいわゆる普通のサラリーマンの仕事です。あなたの会社の同僚がやっていることと同じです。フリーランスで仕事をするのであれば、仕事をした当人が回収まで責任を持たなくてはいけません。つまりあなたもサングラスのオジサンの立場になるかもしれないということです。

そしてお客さんからもらえる約束のお金を貰えなくても、仕入れ先には支払う約束のお金を払わなくてはいけません。これはピンチです。
あてにしていたお金が入ってこないと急遽どこか別のところからお金を持ってくる段取りをしなくてはいけません。もし支払いができなければあなたの事業は倒産するからです。


支払いのその先についてもう少し考えてみます。
もしあなたが取引先に支払いをしなければ、あなたの入金をあてにしていた取引先はもらえる約束のお金が貰えないことになります。そしてその仕入れ先の仕入れ先が、、、となり世にも恐ろしい連鎖倒産の始まりです。
こんな事態を避けるために、およそほとんどの商売では与信管理をして「果たしてこのお客さんはきちんと期日通りに払ってくれるのだろうか」といつも心配しています。

でも飲食店ではこんな心配はありません!!
もらえる約束のお金はお客さんから「その場」で「全額」貰えます。
これが安心安全の現金払いの素晴らしい効果です。


黒字倒産

ところで《黒字倒産》という言葉を聞いたことありますか?
帳簿の上では儲かっているのに倒産してしまうことです。
儲かってるのに倒産??なにそれ?そんな事あるの?


実はあるんです。
世間で起こる倒産の4割は黒字倒産と言われています。(商工リサーチ調べ)

誤解してはいけないのですが事業が潰れるのは売り上げが少なくて赤字の時ではありません。赤字の会社はいくらでもあります。
資産を全部売っても借金が返せなくなる時でもないです。債務超過の会社は稀にあります。
倒産は「支払いができなくなる時」に起きます。

「今日までに〇〇円払わないといけない。でも手元にお金が足りない。もらえる約束のお金さえあれば足りるのに、、、」
大体そんな時は金融機関に融資してもらったり、貰える約束のお金を誰かに割引価格で譲ったりして手元にあるお金を増やして乗り切ります。
でもどうしようもなくなる会社がたまにでてきます。
「手元に現金が無い!貸してくれる金融機関もない!!」これが倒産です。

だから経営者はいつも資金繰り表とにらめっこです。
「いつ入金があって、いつ支払いしなくてはいけないのか」を常に把握しないと経営はできません。(会計的にはキャッシュフローと言います)
資金繰りがうまくできなければすぐに倒産します。経営者はうまく資金繰りする才覚を求められます。むしろ中小企業の経営者の仕事のほとんどは資金繰りだと言っても過言ではありません。

そしてこれがなかなか難しい。先ほど書いた通りもらえる約束のお金が常に期日通りに全額貰えるとは限りません。経営者の資金繰りの心配の種は尽きないのです。

ですが飲食店では売り上げと入金のタイミングが同じと書きました。
極端に言うと 売り上げ = 手元資金 となります。

飲食店の資金繰りは手元のお金だけ見ていればひとまず大丈夫です。
「会計のことはよくわからないんだよね。キャッシュフロー?なにそれ?」というオジサンでもそれなりに飲食店経営ができてしまう理由がここにあります。

小さな飲食店はお金の流れも単純で
料理を提供して代金をもらう ⇒ 代金の一部で材料買う ⇒ 料理を提供
の繰り返しです。会計知識はほとんど要りません。

誤解を恐れずに言うと、飲食店の資金繰りは小学生の小遣い帳レベルの知識で回せます!(飲食店経営の皆さんゴメンナサイ)

これも現金商売特有のメリットです。

少しは安心できましたか?
とはいえ貸借対照表と損益計算書の読み方くらいは覚えておくことをおススメします。理由は後述。



Payの罠

飲食店のメリットだけを書くつもりでしたが、現金商売の説明するからには
〇〇Payについて触れないわけにはいきません。

最近、飲食店に○○Payがたくさん導入されています。(各社参入していますが仕組みは全部同じでなので〇〇には好きな名前を入れてください)
消費者として使うのであればPay便利ですよね。財布を持ち歩かなくてもいいしクーポンやポイントバックもあります。現金よりも使い勝手が良いので私もPayできる店ではPayしています。


ではPayを受け取る飲食店の立場になってみるとどうでしょうか?
ポイントバックやクーポンの原資は誰が負担してますか?
最後は値上げという形でお客さんに転嫁しますが、まずは飲食店の負担となります。
お客さんがPayを使うとお店は手数料としてPay社に約2%の手数料を支払います。利益の2%ではなく売上の2%です。
「2%ぐらいなら仕方ないか」って感じますか?
何度も言いますが”なんとなく”の感覚は危険です。きちんと計算してみましょう。

〔ラーメン屋の話〕
1杯1000円で提供しているのラーメン屋がPayするとします。

ラーメン価格の大まかな内訳は
 原価350円(35%) スープとか麺とか豚肉とか
人件費300円(30%) アルバイトさん
 経費200円(20%) 家賃や水光熱費、減価償却費
 利益150円(15%) 儲け

ラーメン屋の収益構造はこれぐらいのところが多いです。1000円のラーメン1杯売って店のもうけは150円。これが多いか少ないかの判断は今はしません。

売上からPayに1000円の2%、20円を持って行かれるとどうなるでしょうか?利益が130円になります。単純な引き算です。
150円だった利益が130円になると13%減です。
月次で見てみましょう。

お客さんの半分がPayすると仮定します。(もちろん店舗によってPayする客の割合は異なります)
月300万円の売り上げのうち150万円がPay払いです。月々支払う手数料は3万円になります。

今まで毎月45万円儲かっていたものが42万円になってしまいます。月に25日営業するとしたら1日はタダ働きになる計算です。
別の言い方だと「Payされるとあなたのお金が7%減る」となります。
もしサラリーマンの毎月の給料を7%カットされたら大変ですよね。Payされるってことはそれと同じくらいシンドイことなんです。


この事例で
売上の2%の手数料と軽く考えて利益の7%を持っていかれていることに気付けていなかった方は経営センスに問題ありです。
(ちなみにクレジットカードだと売上の5%以上持っていかれます)
そしてPayするお客さんの割合が増えればさらに経営は悪化します。

さらに切ない情報を頭に入れておかないといけません。
Payやクレジット決済は入金のタイミングが1か月ほど遅くなります。
先ほど「売上と入金が同じタイミングなのが飲食店の良いところ!!」と書きました。その現金商売のメリットをPayやクレジット決済は台無しにしてしまいます。


以上の理由から、できれば現金以外の決済手段は導入したくないのが飲食店の本音です。しかし客の立場からするとPayできる店に足が向くのは否めません。だからこそPayを導入した場合の「客数の増加」と「費用負担」のバランスをしっかりと見極めないといけません。その上で自店はPayをした方がいいのかどうか判断します。

part1 で「なんとなくで開店した店はすぐ潰れる」と書きました。Payも同じで「なんとなく」で導入すると痛い目にあいます。

ちなみに当店では手数料無料の時期に最大手のPayを試験運用しましたが、思うように客数が伸びなかったので本採用は見送りました。お客さんから「Payやクレジットは使えますか?」とよく聞かれますが「現金だけですスミマセン」と断って特に問題は出てません。
ただしこれは外国人観光客メインの当店だからできることかもしれません。地元のお客さんは一度Payして便利になってしまうと後戻りは難しいと思います。オフィス街のランチタイムを目当てに営業したり都心の若い人向けのお店であれば、財布を持ち歩かない人も多いのでPayした方が良いと思います。


このように地域性・取扱商品・顧客層によってPayを導入すべきか否かは変わりますので一概に止めろとは言いません。
この項目で伝えたいのは
導入するならPayするリスク(手数料)を考慮に入れた経営計画を立ててから。Payするメリットとそれに伴うデメリットをしっかり効果測定してから導入する。なんとなくで導入するのは絶対にやめるべき。
考え方は本記事を通じて同じですね。



経理は自分で

ついでに会計に関しても一言お伝えしておきます。飲食店のメリットを語るはずが横道それまくりでスミマセン。

「飲食店はお金の流れが単純で会計知識がなくても経営しやすい」と書きました。ですがあなたに覚えておいて欲しいことがあります。
経理のことは決して他人任せにしてはいけません。

これは日々の入力や支払いを自分でするという意味ではありません。税理士を入れてもいいし従業員に会計ソフトをお願いしてもよいです。ただし最終チェックを必ずあなたにして欲しいのです。経営に責任のある立場の人が最後に数字を把握しなくてはいけません。

「うちは家族でやってるから泥棒なんていないよ。大丈夫」と考えているあなた!
経営者が数字を確認する目的は不正をチェックすることではありません。「何が良くて儲かっているのか?」逆に「何が悪くてピンチなのか?」という現状を把握をするためです。

商売の調子は『損益計算書』に表れます。
お店の状態は『貸借対照表』で確認できます。
そこに出ている『数字』は決して嘘をつきません。

この記事でも再々触れていますが『数字』こそが商売における客観的かつ絶対的な指標です。
あなたの「今月は忙しかったなぁ」とか「結構売れたんじゃないの」みたいな感想には何の意味もありません。つまり数字に表れない頑張りはただの自己満足でしかありません。経営は数字こそが全ての世界です。



どんぶり勘定

損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書。
(飲食店は現金商売なのでキャッシュフロー計算書は不要かもしれません)
これらの数字を見ないで経営することを世間では《どんぶり勘定》と呼びます。正直なところ、どんぶり勘定の飲食店は珍しくありません。それで問題なく営業できている店も多数あるのは事実です。

ですが再度思い出してください。あなたは2年で50%のどちら側ですか?
あなたの店が生き残るためには日々数字に向き合う必要があります。
なぜか?
あなたがダイエットをするなら必ず体重計に乗るところから始めますよね。壊れた体重計でダイエットしても痩せるわけないです。(というより痩せたのか太ったのかすらわからないです)
本当に痩せたいならば正しい体重を毎日記録しなくてはいけません。運動することも大事ですが、まずは体重計に乗らないと始まりません。

商売における経理もそれと全く同じです。
損益計算書』と『貸借対照表』は商売の体重計です。
貸借対照表で現在の体重(お店の状態)を知ります。損益計算書で何キロ痩せたのか太ったのか(儲けた損した)を理由を含めてを確認します。


これが先ほど言った損益計算書と貸借対照表の見方を勉強する理由です。

とはいえ「なんか難しいこと言ってんな、、、」とあなたが思う気持ちもわかります。今まで会計なんて意識したことないですからね。

ここでまた安心してください!
損益計算書とか貸借対照表とか、漢字が並んでいるから難しく感じるだけです。個人経営の飲食店経理は小学生のお小遣い帳レベルなのは先述の通りです。損益計算書も貸借対照表もパソコンの会計ソフトに数字を入力していくだけで自動的に計算結果として出てきます。

結論として、飲食店の経理は超簡単です。
だから気負わないでとりあえず始めてみてください。他人任せにせずにね。




販売、仕入れルートの開拓

飲食業のメリットの話は続きます。
これも他の業界と比較する話になりますが、飲食業は「仕入れ」や「販売」が容易です。その意味するところを解説します。


【仕入れ】
もしあなたが中華料理屋を始めるとして材料はどこから買いますか?
世間には業務用食品卸の会社は沢山ありますが、小さな飲食店ならば近所のスーパーで買い出しすれば事足ります。白菜や豚肉などは普通に売ってますし、珍しい調味料でも今どき何でも揃います。営業中にゴマ油が無くなくなったからスーパーまでひとっ走りなんてことも可能です。
「材料の入手方法がわからない、、、」なんてことは無いですし、新規参入だからといって材料が買えなかったり購入条件が変わることもありません。

また”当たり前”のことを言っているように思えますか?
このパターンは実は当たり前じゃないパターンですよね。そうです。当たり前に思えるのはあなたが飲食店に慣れ親しんでいるからです。比較のために他の業種の話もします。


あなたが小さな印刷屋を始めるとします。(ちなみに私は印刷会社に勤めていたこともあります)
小さな印刷屋でも機械や紙やインクなどが必要になります。全ての話をすることはできませんので、ここではインクだけ例にとります。

まず苦労するのは入手ルートの確保です。業務用の印刷インクはホームセンターには売っていません。もしたまたまインク卸のことを知っていたとしても、そういう会社は新しい小さな印刷屋と取引してくれるかどうかわかりません。飲食店にとって「新しさ」は武器でしたが他の業種では違います。新しく設立された会社は信用がありませんので相手は取引に慎重になります。ひょっとしたら取引を断られるかもしれません。

取引を始めることができたとしても新規取引の条件は厳しいのが普通です。企業間取引は売り掛けが主であると説明しました。新規参入業者は信用が無く売掛金の回収ができるかわからないので現金払いを求められることもあります。ところがあなたが印刷物を販売するお客さんは売り掛けを求めてきます。つまりあなたは材料費や運転資金を自腹で数か月分立て替えるリスクを負うことになります。

印刷機械を回していてインクの在庫が無くなっても近所には売っていませんから卸に注文します。注文してから実際に手に入るまで2~3日かかるのが普通でしょう。インク切れで仕事ができないなんてことは絶対に避けなければならないので在庫を多めに抱えます。これは収益悪化の要因です。

注文した印刷用のインクの配送は大きなトラックでやってきます。既存の配送ルートに入っていないので、新規の取引では配送料金が高かったり何十万円以上でないと注文を受け付けないなんてこともあります。インク卸会社の立場になってみれば、あなたのためわざわざルートを新しく作るのはリスクでしかありません。ひょっとしたら赤字になるかもしれませんからね。


インクの例を挙げただけで厳しい話がポロポロ出てきました。
印刷屋に限らず他の業種でも新規開業の業者は不利な取引環境が普通です。
そういう様々なことを総称して「参入障壁が高い」と呼びます。

お気づきだと思いますが、参入障壁が一番低いのは飲食業です。

飲食業のハードルは低い


【販売】
仕入はなかなか新規開業の業者に厳しそうでした。では販売面のことも考えてみます。

「飲食店にはスタートダッシュがある」とpart1 で書きました。新しい店が大好きなお客さんは新しい店ができたというだけで、あなたの店のことを詳しく知らないのに来てくれます。
あなたはSNSで告知したりチラシを撒いたりするくらいで特段の営業活動は必要ありません。飲食店の営業部員なんて見たことありますか?ありませんよね。
飲食店は新しい店に行く気マンマンのお客さんに対して「こんなお店できましたよ~」と伝えるだけで簡単に集客できます。

「いや、そんなに甘くないよ。こっちは集客に苦労してんだよ(怒)」
という飲食店の声が聞こえてきそうです。
ですがそれは他の業界のことを知らないだけです。
断言しますが一般企業での新規顧客獲得の厳しさは飲食店の比ではありません。


あの新しい印刷屋さんはどのように販売ルートを開拓するのでしょうか?
もちろんSNSやネットでの告知なんてのは当たり前です。営業活動以前の問題なので書くまでもありません。

営業マンが想定顧客に向けてアポイントを取り既存の印刷会社からの切り替えをお願いします。「アポイントを取る」と簡単に言いますが実行は至難の業です。
顧客の立場になってみると新しい業者と付き合うのは冒険です。今までのやり方で大きな不都合が出ていないのに、あえて変更するメリットも見つかりません。新しい業者と付き合って不具合が出たら最悪です。結果としてどのような業種でも新規顧客獲得の営業は大変難しいものになります。


私はサラリーマン時代に広告代理店でも営業をしていましたが、特に新規顧客獲得での苦労は並大抵ではありませんでした。100件電話しても3件会ってくれたらマシな方です。(知らない会社に毎日毎日100件電話するのはシンドイですよ)
話がまとまり受注に繋がるのは、それこそ1000件に1件というような具合です。その上で厳しい条件が付きつけられます。

一般的に販売戦略は「1を10」にするよりも「0を1」にする方がシンドイとされます。だからこそ企業の中では新規顧客が重宝されます。
ところが飲食店は最初から「10」の状態で始めることができます。それが飲食店のスタートダッシュ効果です。

このように集客が”容易”なのも飲食店の大きなメリットです。


時間の調整が自由

メリットは他にもあります。
飲食店、特にキッチンカーは気兼ねなく休めます。

情熱で燃えている今のあなたに「休める」なんて言葉は響かないかもしれません。しかし営業を「継続すること」を目標にするなら休みをフレキシブルに取れるのはとても重要なことです。特に生活の質の向上を人生の目的に掲げているとしたら最も優先すべきことなのかもしれません。

なぜ飲食店が休めるのかというと、休みになって困る人が居ないからです

臨時休業

はっきり言っば社会にとってあなたの店の重要性はありません。
他にいくらでも店はあるし、ほか弁やコンビニで済ませることもできます。
スキルの代替性の項目でも説明しましたが自炊も簡単です。

ラーメン屋の前に「臨時休業」なんて書いてあるのを見たことがありますよね。スープの出来が悪いのかもしれませんし、店主が風邪をひいたのかもしれません。お客さんは貼り紙を一瞥して別のところへ向かい、特にそれで問題が起こることはありません。
キッチンカーなら出店予定だったことすら気付かれないかもしれません。

これも他の業界と比較をしてみます。
もしインフラ関係の仕事だとどうなるでしょうか?
学校が急に臨時休業なんてしたら困りますよね。電気水道ガス、病院や運送業でも同じです。
「常に稼働しなくてはいけない」「約束の期日を守らないといけない」そんな”大切な”仕事が世間にはたくさんあります。個人の事情よりも公共の方が優先される業種です。(そんな仕事に従事されている方を私は尊敬します)

ところがキッチンカーに代表される小さな飲食店だと前日から予約を受けることはあまりありません。当日朝に「子供の熱が出て、、、」みたいな理由で臨時休業することも大体許されます。
このように飲食店は休む時に社会への影響を考えなくてもよさそうです。

飲食店の心配は単純に売上のことだけです。あとは自己の裁量で営業日数や営業時間を決めることができます。そういう自由も個人経営の飲食店のメリットです。ただし急な休みが続くとお客さんからの信頼がなくなるということは付け加えておきます。

ひとやすみ



飲食業で働くということ

いくつか飲食業を経営するメリットを挙げました。
本記事でサラリーマンへの見方が変ったように飲食業への見方も変わったのではないでしょうか?

付け加えるなら、あなたは飲食業を経営するだけでなく働くことにもなるかと思います。飲食業で働く魅力は経営するよりも数多くあります。

それは、出会いであったり、コミュニケーション能力であったりとここでは紹介しきれません。(本記事は開業向けの記事なので詳しく触れないのは前述の通りです)
全部ひっくるめて「飲食業は楽しい」です。

あなたも飲食業のメリットとデメリットを理解して是非楽しみましょう。




固定店舗かキッチンカーか

さて『飲食業のメリット』について語ったところで話は次のフェーズへと移ります。

飲食業をやることに決めたあとは、固定店舗を構えるか?キッチンカーにするのか?の選択です。

この記事は『失敗しないキッチンカー開業』について語るものですが、みなさん全員にキッチンカー開業を勧めるわけではありません。

戦略の部分はメリットデメリットを提示して皆さんの人生目標にあった方を選んで欲しいと書きました。
サラリーマンのメリット・独立のメリット。飲食業のメリット・デメリット。そんな選択を積み重ねてきたように、キッチンカーにもメリットとデメリットがあります。固定店舗とキッチンカーとを比べて絶対的にどちらが良いとか悪いとかはありません。あるのは「あなたの状況にはどちらが向いているのか」だけです。
やりたい商売の内容・挑もうとしている商圏・家族の環境などによってどちらの選択肢を取るべきかは変わります。
あなたはどちらのスタイルにフィットするでしょうか?詳しく見ていきましょう。





固定店舗のメリット

まずは固定店舗のメリットについて触れます。


自由

固定店舗のメリットは何よりも『自由』です。

自由って何?それは
希望の日時・希望の商品で営業できることです。

逆に言えばキッチンカーには自由がありません。
なぜならキッチンカーは常に”誰か”の場所を借りることになります。スーパーの軒先やイベント会場などは全て自分ではない誰かが管理している場所です。「この時間にこの品目なら営業して良いよ」と言われた範囲の中でしか営業できません。(この辺はキッチンカーのデメリットの項目で詳しく触れます)

固定店舗なら自前物件はもちろん、賃貸物件であっても誰にも遠慮する必要はありません。早朝や深夜に営業することも、自分がやりたい内容の商売をするのも、BGMにレゲエを一日中かけるのも、ショッキングピンクな店構えにするのも固定店舗なら可能です。
あなたの商売は誰からも文句は言われませんし誰の指図を受けることもありません。(法令は遵守してください!近所付き合いも)


「自分のやりたいように営業ができる」これが固定店舗の『自由』です。

自由の


安心感

また、固定店舗は
決まった場所で決まった時間に開いているので『安心』です。

お客さんは「あそこに行けばあのサービスを受けられる」と事前にわかっているので予定を立てて来ます。家族や友達と店で待ち合わせをするなんてことも可能です。
あまり意識しないことですが
固定店舗は営業時間外でも常にそこにあります。
つまり店舗そのものが
看板の役割を一年中担っているのです。

「あそこにある店が気になるから今度行ってみよう!」なんて会話は最高の宣伝ですよね。長く営業を続けることができれば店はそんな風に街の風景の一部となり、お客さんの日常生活の中に組み込まれていきます。
いつもそこにある店、これが固定店舗の『安心感』の正体です。
あなたにも行きつけのお店があるかもしれません。残念ながらそれはキッチンカーではないはずです。



リピーター(常連客)その1

固定店舗のメリットは他にもあります。
先ほど「あなたの行きつけの店はきっとキッチンカーではない」と書きました。逆に言えば固定店舗なら《常連客》がいるということです。
一般に常連のお客さんがいるお店の経営は強いです。広告宣伝の費用と労力をかけなくてすむのがその理由です。

他業界に比べて飲食店の集客難易度が低いとはいえ、既存のお客さんと比較すると新規のお客さんを呼ぶのはとても大変です。
飲食業界でよく引用される経営知識をここで紹介します。

『新規の顧客を呼ぶにはリピーターを呼ぶ5倍のコストがかかる』

これは「1:5の法則」とか「ライクヘルドの法則」と呼ばれているもので飲食関係のセミナーに行くと毎回のようにこの話は出ます。
「常連を作ろう」「常連を作るには」そんな話を講師は毎回丁寧に時間をかけて話しています。やはり飲食店の経営にとって常連客の存在はとても大きいものですからね。

逆に常連のお客さんが少ない店は新規顧客獲得に苦労しています。
インスタの更新をして、チラシや情報誌に出稿して、店先での呼び込みもしていく。そんな作業も最初は楽しいのかもしれませんが2年3年と続けていくのは大変です。

大手チェーン店が宣伝をし続けられるのはそれ専門の人員がいるからです。
個人経営の飲食店においては新規顧客獲得のための宣伝活動はいずれ限界がきます。SNSも毎週のように投稿していくとネタも尽きていきます。必然的に同じような内容になり、季節の話だけになり、業務と関係のない話がメインになっていくでしょう。そんな個人店のSNSを誰が喜んで逐一チェックするのでしょうか。

キラキラ系の飲食店はSNSを巧みに操りますがパッっとオープンしてサッと消えることも多いです。キラキラ系の店にやってくるお客さんは移り気で新しい素敵な店にすぐ宗旨替えするからかもしれません。
ところが長年営業を続けている店はSNSアカウントさえ無い事も珍しくありません。新しいお客さんに来てもらわなくても常連さんだけで店が回るから必要ないのです。
常連がいる店は新規顧客獲得のための苦労が少ないです。街中で長年営業している中華料理屋さんのインスタなんて見たことありますか?行きつけのお店のSNSなんて頻繁にチェックしないのが普通です。
何も見なくても「いつもの店」に行き「いつもの料理」を注文します。店からしたら一番面倒がなくて一番ありがたいお客さんです。



まとめると「宣伝しなくても集客できるようになる」のが飲食店を続けられるコツです。労力は集客でなく日々の営業に向けてください。そのための方法を次に紹介します。



リピーター(常連客)その2

もうひとつ法則をお伝えします。
「パレートの法則」は聞いたことありますか?その中身は

『2割のお客さんが8割の売り上げを作る』

というもので、飲食業界に限らずよく使われている経営知識です。

この法則は「お客さん全員に公平に接してはいけない」ことを示しています。
日本人は真面目なので「みんな同じお客さん」と考えがちですがそれは違います。実際の所あなたの商売の8割を作るのはたった2割のお客さんです。お客さんは全員同じではありません。はっきりとした優先順位があります。あなたは「2割のお客さん」を徹底的に贔屓しなくてはならないのです。

人間誰しも特別扱いされると嬉しいものです。
あなただって行きつけのお店で「よく来てくれるからオマケね」とか「特別にちょっとだけサービスしといたよ」なんて言われたら悪い気はしないでしょう。そしてまたその店に向かうようになります。

2割の大事なお客さんは”特別に”扱います。
常連になってもらうためです。そして常連で居続けてもらうためにです。
その時、残りの8割のお客さんに贔屓が見えないようにするのがコツです。

前段では集客コストの観点からリピーターの存在のありがたさを解説しました。この項目では売り上げ面からリピーター獲得の重要性に触れました。
今回取り上げたようなことは飲食経営関連の本にもよく書いてある知識で特別なことではありません。どの店もみんなリピーターを作って営業上のメリットにしたいのです。

そしてここで強調します。
リピーターを作れるのは固定店舗だからです。
お客さんの都合で「いつでも店に行ける」からこそ頻繁に足を運びます

いつどこに居るかが定まっていないキッチンカーではリピーターの獲得は難しいです。(無いとは言いません)
私もキッチンカーを走らせていて「次はいつ来るの?」と問い合わせを受けることがありますが、お客さんにとっては店の都合に合わせなくてはいけないストレスの裏返しです。


まとめると
常連を確保して経営を安定させやすいのが固定店舗の大きなメリットです。




天候

天気の不安が無いのも固定店舗のメリットです。
キッチンカーは少しの雨や風で営業が困難になります。屋根付きの場所に出店することもありますが基本は屋外ですからね。屋外が気持ちいいのは春と秋の晴れている日だけで、そんな時期は年間で数えるほどしかありません。日本には四季があり年間平均降雨日数は100日ほどです。冬の寒さや夏の暑さ、風の強い日も雨の日もキッチンカーは屋外で頑張らなくてはいけません。宮沢賢治もびっくりです。

人間が「家」を作るのは快適さを求めてです。そのことからもわかるよう屋外よりも屋内の方が快適なのは当たり前です。お客さんにとっても同様で、キッチンカーはお客さんに快適な環境を提供することはできません。伸縮式の屋根(オーニング)をつけているキッチンカーもありますがカバーできる範囲は狭いし頑丈ではないです。

快適でないキッチンカーはお客さんに申し訳ないというだけではなく経営面にも影響は及びます。お客さんはわざわざ快適でない場所に行きません。
GWやお盆など大きな売り上げが見込める日に大雨が降ったりするとキッチンカーの売上はとても残念なことになります。

固定店舗だと荒天で客足に影響があっても営業休止になる心配は要りません。外がどんな天候であっても店内は年中快適な環境になっています。
みんな夏の暑い日にはオーブンカフェのテラス席ではなく冷房ガンガンの店内に入りたいですよね。私もそうです。
「屋根」と「壁」がある環境というのはあなたが思っている以上に大きなメリットになります。

キッチンカーを走らせている事業者はみんな、週間予報の段階から空模様を気にかけています。「この日は風が強そうだな、、」「寒そうだな、、」「雨が強そうだから休もうかな、、」とかです。そんな心配をしていたら売り上げが安定するわけありません。
固定店舗だと天候に大きく左右されずに売り上げを安定させることができます。



設備

固定店舗のメリットの紹介はまだ続きます。
先ほど固定店舗は『自由』だと書きました。その自由は営業内容だけでなく設備面にも及びます。つまり
固定店舗を選んだあなたは”好きなように”お店を作ることができます


固定店舗は飲食店に必要と思われる設備を全て導入することができます。
・水道管が繋がっている
・商用電源(普通のコンセントのこと)が使える
・排水を自由にできる
当たり前すぎて実感できないかもしれませんがこれらは固定店舗の大きなメリットです。キッチンカーだとどんなに広くても1坪ぐらいの床面積しかないのでなので限られた空間で設備をやりくりしなくてはなりません。

たとえば冷凍庫がないクレープキッチンカーはアイスクリームが使えなくて不自由しています。冷蔵庫のない車だとフレッシュフルーツを置けませんので、生クリームとフルーツソースとバナナだけでメニューは構成されています。そんなクレープばかりだとお客さんも飽きますよね。(特定のキッチンカーをディスってるわけではないです念のため)

また、車内で営業するキッチンカーは気温も敵です。
冬は着込めば何とかなりますが、エアコンのない車内で夏場に働いてみてください。夏場の私は1日5枚以上シャツを着替えます。当たり前ですがキッチンカーでの労働環境は厳しくなりがちです。

反面、固定店舗だとお客さんや働く人の《快適さ》を追求して自由に設備を入れたりこだわりの造作をすることができます。あなたのセンスでお花を飾ったり家具を置いたりして素敵な空間を作るのも自由です。好きな音楽を流してノリノリで仕事するのもいいですね。もちろんクーラーもガンガンのキンキンです。
そして設備面で見過ごされがちなことはトイレです!
自前のトイレがあるのは本当に助かります。綺麗なトイレがいつもあるのはサイコーです!トイレありがとう大好きトイレ!
超大事なことなので思わず興奮してしまいました。

キッチンカーにはトイレなんてありません。
そうすると出店先施設のを借りるか公衆トイレを探すことになります。これが毎日のこととなると地味に辛いです。特に清潔なトイレでないと嫌な方ならば問題は深刻です。私もお腹がデリケートなのでトイレ探しにはいつも悩まされています。いまどきシャワートイレがないところだと軽く絶望してしまいますよね。やっぱりマイトイレには憧れます。

設備で苦労しないのも固定店舗のメリットです。





固定店舗のデメリット

固定店舗は紹介したとおり《営業環境》《労働環境》においては完璧で非の打ちどころがありません。
とはいえ皆さん全員に固定店舗を勧めるわけでないのは既に説明した通りです。なぜなら固定店舗にもデメリットがあるからです。もちろん。


立地のやり直し不可

固定店舗はほとんど全ての部分でキッチンカーより優れているのですが、どうしても克服できない”致命的な”欠点があります。「固定」するが故の弱点です。それは

固定店舗は立地のやり直しができません。


一度作った店は、もしうまくいかなかったとしても簡単に引っ越しできないのです。
よく「飲食店は立地が9割」なんて言われますが、これは事実です。
どんなに美味しくても、どんなにサービスが良くても、立地が厳しければお客さんは来てくれません。「特別なお店のためにわざわざ出かけて行く」というミシュランガイドに載っているような店の事例(成功したお店)はありますが、その成功した店の話は今回の主旨と違うので省きます。


立地が大事だという理由は『飲食業界の構造』とも関わっています。
たった1人でも「猛烈に気に入ってくれたお客さん」がいれば商売が成り立つ業界もあります。不動産や建設機械などがそうで、高額な商品を販売する業者の取引は年に数回だけなんてことも珍しくありません。そういう業界のお客さんは会社が山の中だろうが海外だろうがどこへでも取引をしに行きます。
しかし飲食業は違います。
飲食店は毎日「ある程度の数のお客さん」に来てもらわないといけません。
立地の悪さを気にしない一部の熱烈なお客さんだけでは絶対的な客数が足りなくて商売が成り立たないのです。飲食店でひとりのお客さんが支払う金額はたかが知れています。胃袋の限界がある話をしましたが、広く薄くお客さんを集める必要があるのは飲食店の構造的な宿命です。



【赤と黄色の店の話】

ここで赤と黄色の某ハンバーガーチェーンMのことを考えてみます。
あのチェーンは全店舗で同じ商品・同じ価格・同じサービスで提供していますよね。駅前の店はピクルス2枚だけどは郊外の店は3枚ということはありません。
「チェーン店ってそういうもの」とあなたは言いますが、オペレーションや品質管理を考えると全ての店舗に同じサービスを提供できるのは実は並大抵のことではありません。
あなたが思っている通り「各店舗を均一に仕上げること」はチェーン店の本質です。チェーン店のその姿勢は、知らない土地でも「同じ看板の店なら同じメニューを同じ価格で購入できる」という安心感につながります。
だから全ての店を均質にすることに本部は一生懸命になっています。

さてチェーン店は基本的に「全て同じ」であると書きました。
ところがそんなチェーン店の中でも繁盛する店舗と潰れる店舗が出てきます。駅前の店は繁盛してるけど100m離れた同じチェーン店は潰れた、なんて事例もあります。
何故こんなことが起こるのでしょうか?
同じチェーン店は同じ商品を同じサービスで同じ価格で売っているのに。


答えは立地が違うからです。
逆に言えば『立地』しか違いません。他の全ては均質ですからね。

もし店長のレベルが違うことが店舗間の差異の原因ならば、本部は店長の異動をすればいいだけです。アルバイトが足りないのならば他の店から応援に行けばいいだけです。そんなことでわざわざ店舗を潰したりしません。
結局のところ、チェーン本部が店舗を潰す理由は「その立地に見切りをつけたから」に他なりません。


では何故立地が違うだけで売り上げが違うのでしょうか?
それはお客さんが変わるからです。
同じ商品を同じ価格で同じサービスで提供しても、サービスを受け取るお客さんの状況が変われば売り上げも変わります。200m先のハンバーガーよりも目の前の白いおじさんのチキン屋で足を止めてしまいます。

基本的にお客さんはわがままです。
少しの立地の違いで足を運んだり運ばなかったりします。
だからこそ全てのチェーン店は良い立地を探し続けています。


この話で伝えたいのは『立地』で失敗すると他の部分(メニューや価格やサービス)では取り返しがつかない。ということです。

重要なことなので繰り返します。
固定店舗を開業する時は『立地』を最優先に考えなくてはいけません。



【良い立地とは】

ではあなたはどのような立地を求めるべきなのでしょうか?
もちろんA店にとっての”良い”立地がB店にとっても良いというわけではありません。”悪い”立地に関してもそうです。
求めるターゲット(お客さん)が異なれば求める立地も変わってきます。

駅前が得意な店、郊外が得意な店、都心が得意な店。
それは各店の戦略によって異なりますので一概に「どこの立地がいい」なんてことは決まっていません。子供服の西〇屋はロードサイドに出店するし、ルイ〇トンは百貨店や都心の路面に出店します。それは彼らのマーケティングの成果でありお互いに真似をすることはできません。

同様にあなたにとっての『良い立地』は、あなたが地道な《マーケティング》をして見つけ出すしかないのです。


※補足
マーケティングは人によって語られる意味が違う曖昧な言葉です。
辞書では市場調査、分析、商品企画、広告宣伝etc. いろいろな意味が載っていますが、本記事ではマーケティングを
どこで・何が・いくらで・どれくらい売れるかを事前に調べること。
と定義します。
マーケティングについての詳しい話とやり方はpart3 で解説してます。



もちろん赤と黄色のハンバーガー屋もしっかりとマーケティングをしています。専門の部署が多大なリソースを割いて出店候補地を絞り、市場調査をして最終的な立地を決めています。
それでも時には失敗してしまう。それくらい立地選びは本当に難しいです。

私も自分の店にとっての良い立地はようやくわかってきましたが、他のお店の立地を探してと言われても自信がありません。
商売の『成功』の形が様々であるように『良い立地』も店ごとに様々です。
ただし商売の『失敗』の形はみんな一緒であるとお伝えしたように『立地の失敗』に共通するものは掴みましたのであなたにコツを伝授いたします。




【失敗する立地とは】

固定店舗を検討しているあなたに気を付けて欲しい、立地選びのポイントは2つです。
飲食店が次々と入れ替わっているような場所は次に入る飲食店も厳しい
・居抜きは一見安上がりだが結構シンドイよ

〔入れ替わりが激しい立地〕
個人経営の飲食店は同じような顧客を相手にすることが多いです。なぜならお客さんは基本的に近所の方たちだからです。(商圏の話を後ほどします)
つまり前に潰れた飲食店と”同じような”お客さんをあなたも求めることになります。

利益を確保できている優秀な飲食店はその場所で営業を続けていきますよね。その場所がその店にとっての良い立地だからです。成功している店はその場から動くことはありません。
とすると必然的に、これから開業しようとするあなたが紹介される店舗用地は誰かが「失敗した後の立地」になります。

誰かが失敗した後の立地にまた別の誰かが入る。それも失敗してまた別のだれかが入り、、、。というように同じ立地で店舗がコロコロ入れ替わる現象をあなたも見かけたことがあるでしょう。「ここ前はたこ焼き屋だったよね。その前はクレープ屋だったよね。その前は、、、」というように
同じようなお客さんを求める店が同じ場所に入ったら同じ結果になるのは目に見えています。つまり『失敗』です。

頻繁に店舗が入れ替わっているような立地に出店すれば、あなたも「次の誰か」になる可能性は高いです。
だから店舗が数年ごとにコロコロ入れ替わっているような立地は避けた方がいいです。さて、あなたが検討している場所は以前はどんな様子でしたか?



〔居抜き〕
上のコロコロ入れ替わる話に関連してます。
世間の開業本では「居抜き物件で初期費用を節約!」みたいに書いてあることが多いです。そのこと自体は間違いではありませんが前提となる条件の確認をしておかないといけません。
まず理解するべきなのは上で説明した通り
居抜き物件はその場所で誰かが「立地で失敗した証拠」ということです。
そうです。
”誰か”があなたと同じように
「独立開業を夢見てセミナーで勉強し、何とか資金を集めてようやくオープンにこぎつけました!これから頑張ります~。って初めは順調だったけど段々と客足が鈍くなってきたな、、、。色々と工夫して営業してたけど、もうどうしよもない。うぅぅ閉店」 それが居抜き物件の正体です。


もしも居抜き物件で、潰れた前の店と《同じような業態》の店を検討しているのであれば特に注意しなくてはいけません。

カフェを始める際にカフェの居抜き物件を紹介されたらどう思いますか?「カフェが潰れたところだから設備をまるまる使えてラッキー!」なんて喜んでいる場合ではありません。
「前に潰れたカフェと自分のカフェは《客観的に》どんな違いがあるだろうか?」と自問しなくてはいけないのです。

間違えないで欲しいのは「店主のこだわり」とか「雰囲気やセンス」みたいなのものはお客さんにとって客観的な違いになりません。あくまで求める客層が客観的に違うかどうかが重要です。
客観性が目に見えてわかり易いのは価格です。
潰れたカフェが500円のコーヒーを出していたのであれば、あなたが出すのは200円のコーヒーか1000円のコーヒーです。それぐらいの差がなければ”客観的に”違いのある店だとは思われないでしょう。
「うちは前のとは違うから大丈夫!」なんて言葉は、きっと潰れたカフェの人も言っていましたよ。


同じ立地で同じような店を出したら同じように潰れます。

居抜きで節約!なんて浮かれている場合ではありません。


【立地の探し方】

頻繁に店が変っている場所や居抜きを避けて、新しくできる店舗用地を探すのはどうでしょうか?
なかなか良い目の付け所に思えます。なにせお客さんは新しい飲食店が大好きなので、新しいビルの新しい店なんてことになればそれだけで大きなアドバンテージです。

ですがその考えもうまくいきません。
新しいビルの飲食フロアのような良い立地は、既に成功しているお店が多店舗展開するために最初に押さえます。
いい条件の話が新規開業のあなたに届くことは決してありません。儲け話を他人に教えるバカがいないのと同じです。覚えておきましょう。

ビルのオーナーや不動産会社の立場になってみればわかりますよね。
すぐに潰れるかもしれない新規開業の店、お客さんを呼べるかどうかわからない実績のない店よりも、チェーン店や有名店に出店して欲しいのは当然です。結果、あなたに届く話は実力店が敬遠した残りものだけです。



というわけで、これから新たに飲食店に挑戦していくあなたは
自分の「足で見つけて」自分の「頭で考えて」失敗しないための『立地』を探すしかありません。
とてもとても難しくて決してやり直しのできない立地選びをどのように考えますか?

素人のあなたにできますか?それは運任せではないですか?
これが固定店舗の最大のデメリットです。




初期投資が高い

そして他のデメリットも紹介します。
飲食開業の現状でも書きましたが、固定店舗はどうしても初期投資金額が膨らんでしまいます。広いスペースと快適な設備を有する代償です。

特に大きく金額がかかるのは水回りです。
飲食店には水回り設備が必須なのは言うまでもないですが、郊外物件で浄化槽を新設しなくてはならない場所は注意が必要です。飲食店舗は床面積によって必要とされる浄化槽の大きさが決まっておりとんでもなく高価になります。(ウン百万円単位)
オフィス用に作られた建物や住宅を改造する場合にも浄化槽問題は常について回ります。「古民家をリフォームしてお洒落なカフェにしよう」なんて考えている方は水回り関係に特に注意してください。保健所に「店舗のトイレはありません」とか言って営業許可を取りながら、自宅用として設置してあるものをお客さんに貸し出して怒られる事例をよく聞きます。

街ナカで下水道に接続できるような場所でも水回り問題はついて回ります。居抜きで店舗レイアウトそのまま、水回り関係は一切いじらないということなら別ですが、一般的には多少の手を加えますよね。改装において電気関係は比較的容易に工事できるのですが、水回り(特に排水)工事は制約が多く費用も高額になりがちです。理由を簡単に言うと、傾斜が必要であり飲食店からでる排水はとんでもなく汚ないからです。
ひとつ注意しておきますが、素人考えで水回りの金額を見積もるのは止めてください。経営計画を立てる時に「大体これ位で行けるやろ」みたい考えは水回りに関して大きく外れます。きちんと設備屋さんに相談して参考見積を出してもらってからにしてください。

さらに固定店舗は水回りだけでなく内装工事も面積に応じてお金がかかります。小規模店舗の内装工事費は坪単価で30~50万円、一般的な小さな店で200万円~500万円程度の費用と言われています。もちろんこの金額はどのような工事をするかによって変わりますし、居抜きなら安く済むこともあります。ただし、あなたが「100万円くらいでなんとしようかな」とぼんやり考えていたら、それは考えが甘いと指摘しておきます。

上に挙げたのはほんの一例で固定店舗を開業するには他にもお金かかることたくさんあります。
ちなみに
個人で開業する飲食固定店舗の初期費用は 平均1000万円 です。
(日本政策金融公庫調べ)

みなさん節約を意識してこの金額です。
あなたと同じような状況の方が精一杯節約して1000万円かかっているという事実は覚えておいてください。あなたはおそらく生涯で1000万円の何かを買ったことはないですよね。住宅ローンくらいでしょうか。住宅ローンならば持ち家が残りますが店舗は失敗したら何も残らないと付け加えておきます。

とにかくお金はすぐに無くなります。特に固定店舗においては。
そんな中でも節約すべきポイントの解説はpart3 でしています。





キッチンカーのメリット

固定店舗のメリットとデメリットを解説してきました。
なんとなくあなたにフィットしそうですか?それとも難しそうですか?

続いてキッチンカーの話に移ります。私はキッチンカーが大好きなので説明に力が入ってしまうかもしれません。



立地その1 やり直せる

あなたもお気づきの通り
キッチンカー最大にして最強のメリットは、立地(出店)を何度でもやり直せることです!!(固定店舗のデメリットの逆です)

「飲食店は立地が9割」です。
大手チェーンが多大な費用をかけて立地に関するマーケティングをしていることは既に書きました。それなのに失敗することも多々あるともお伝えしました。このことからもわかる通り
飲食店にとって立地選びは”超重要”なのに”超難しい”のです。

そんな重要な立地選びを素人のあなたが簡単なマーケティングだけで挑戦しなくてはなりません。正直なところ個人事業主ができるマーケティングなんてたかがしれています。大手企業と異なり費用も人員も不足していますからね。そもそもマーケティングの業務経験がある方も少ないでしょう。これはあなたに「プロ野球選手からヒットを打って」とお願いするようなものかもしれません。あなたは不安になります「もし立地選びで失敗したらどうしよう、、、」
そう思うのは当たり前です。
そして大半の人の不安は当たります。「2年で50%、5年で80%、10年で95%」という例の数字です。この中にも数多く「立地選びで失敗した人」たちがいます。



ところが、、、心配ご無用!だってキッチンカーだから!!

シャキーーン!!

キッチンカーは「立地に失敗した」と感じたらすぐに別の場所に移り再チャレンジできます。何度でもできます。タイヤが付いていて良かったですね!

こキッチンカーには飲食店にとって重要な『立地選び』のリスクがありません固定店舗が一番苦労している部分を簡単にクリアできます。



先輩の助言

立地に関してさらに言うとキッチンカーは「毎日同じ場所で営業するわけではない」です。何を意味するかというと
他のキッチンカーが調子よかった場所にあなたも出店できるということです。他のお店から貴重な立地のノウハウを教えてもらえます!

固定店舗は「同じような立地に同じような店を出したら同じように失敗する」と書きました。「成功する店はそこから動かない」とも書きました。
キッチンカーは成功している店でも動きます。
「調子が良かった立地に同じように店を出したら同じように調子が良い」確率が高いとは思えませんか?

固定店舗ならば商店街の隣り合うお店、とんかつ屋と牛丼屋は同じお客さんを取り合う競合店です。お客さんはその日、片方の店に行けば別の店には行きません。とんかつ屋は牛丼屋にマーケティングの秘訣は教えないし、牛丼屋もお客にウケているやり方を内緒にします。相手の店の売り上げが増えることが直接的に自分の店の売り上げ減少に繋がるからです。

ところがキッチンカーでは同じ場所に出店するのでも日にちが異なります。同じお客さんを取り合うわけではないので喜んでコツを教えてくれます。
実は
他のキッチンカーにとってあなたは競合ではありません。同様にあなたにとっても他のキッチンカーは競合ではないです。仲間です。

あなたのキッチンカーの売り上げが増えても他のキッチンカーの売り上げが下がるわけではありません。だってその日は別の場所にいますからね。
他のキッチンカーにしてみれば、あなたが「その場所」を盛り上げてくれた方が自分のキッチンカーが行く時にもメリットが出ます。

そんな状況なので
「あそこのスーパーは水曜日がいいよ」「あそこの住宅展示場でキッチンカー探してたよ」「あの場所に新しく屋台村ができるんだって」
なんて情報共有し合う光景もキッチンカーあるあるです。


まとめると
超難しい『立地選び』ですが、キッチンカーなら心配要りません。
何度失敗しても構わないので自分に合う『超いい立地』を見つけられます。
先輩からも親切に助けてもらえます。
これがキッチンカー最大のメリットです。



立地その2 移動できる

キッチンカーの立地のメリットの話は続きます。

キッチンカーは何度でも立地選びをやり直せると書きました。それに加えてもうひとつ重要なことがあります。
キッチンカーは《お客さんのいる場所》に出向くことができます!!
「お客さんに来てもらう」のではなく「お客さんのところへ行く」です。

この違いがわかりますか?何を意味するか解説していきます。


〔商圏〕
商圏》という言葉を聞いたことありますか?
お店にアクセスできる範囲のことで金融庁の定義によると

そこそこ美味しい飲食店なら自転車(郊外なら車)で15分以内
地元でも評判の有名飲食店なら車で30分以内  が商圏とされています。https://www.fsa.go.jp/policy/chuukai/0330gyosyubetu_04.pdf

これはあくまで全国的なデータなので都心であれば徒歩15分程度が商圏になります。(歩いて来店する人がほとんどのため)
それより遠くにいる人は基本的に来店が見込めません。つまり
商圏の範囲内で活動している人だけが「お客さんになるかもしれない」のです。

たしかに普段の外食で「車で60分かけて行っています」って人はなかなか居ないですよね。ちょっと良いレストランに行く時でも、車で2時間だとそれは日帰り旅行になってしまいます。

固定店舗の場合
新規開業のあなたのお店は、自転車で15分(半径3キロ)の範囲に住んでいるか勤めている人”だけ”を顧客にします。限られた範囲の中でお客さんの奪い合いをするのが固定店舗の宿命です。

part1 で
「あなたの店が生き残るには誰かの店を潰さないといけない」
「新しい店の陰には新しくなくなった店がある」  と書きました。

固定店舗は同じ商圏の中で次々と出てくる新店舗との競争に勝ち続けなくては潰れてしまいます。いわば限られた顧客を奪い合う椅子取りゲームです。相当の覚悟が要りそうですね。


キッチンカーは違います。キッチンカーにとって商圏は無限大です

たしかにお客さんに車で30分かけて来てもらうのは大変なことです。でもあなたがお客さんの所まで30分運転して行くのはどうでしょうか?
大したことではないですよね。通勤時間が30分なんて都会ならば恵まれている方でしょう。

地元でも評判の有名飲食店の商圏が「車で30分」と書きました。
つまりキッチンカーなら大成功している店と同じか、それ以上の商圏を”移動するだけ”で自動的に獲得できます。

運転するだけで「お客さんになるかもしれない人」の数は爆発的に増やせます。車で1時間も走れば県内大体のところに行けるのではないでしょうか。

商圏を拡大し、多くのお客さんにサービスを届けられるのもキッチンカーのメリットです。




立地その3 人を集められる

まだまだキッチンカーのメリットの話は続きます。またしても立地の話です。なんせ「飲食店は立地が9割」ですからね。

前段で商圏について触れました。
固定店舗は商圏人口が少ないと成り立ちません。当然のことながら都会に多く田舎は少ないです。

人があまり居ない山奥に飲食店を構えても経営が厳しいのはわかりますよね。実際、郊外に行けば行くほど飲食店の数は少なくなっていきます。
商圏の中にある胃袋の数と飲食店の数は単純に比例します。

一般に商圏人口が2万人いれば飲食店は成り立つと言われています。逆に、商圏人口を確保できない立地だとどんな素敵な店でも経営は厳しいです。
田舎の小さな飲食店は他に仕事を持っていたりして、店の利益で生計を立てる必要のない店も多いです。そうでないと続けられません。もしくは地元でも評判の有名店で車で時間をかけて来てくれるかです。
固定店舗の経営は商圏人口と密接に関わります。


ところがキッチンカーは商圏人口が少ない場所でも営業できます。
固定店舗ではとうてい商売が成り立たないであろう田舎でもキッチンカーは営業が可能です。なぜだと思いますか?

答えは「キッチンカーはたまにしか行かないから」です。

私のキッチンカーは結構な田舎にも出店します。もちろん頻度は多くなく、季節で1回とか半年に1回だけみたいなペースです。そうすると面白い現象が起きます。
お客さんがキッチンカーを見かけたら友達に「キッチンカー来てるよ!」と電話で知らせて若者がSNSで写真を拡散してくれるのです。「なにがでっきょん?」と散歩しているおばあちゃんが声をかけてきます。あっという間にキッチンカーの周りに人がやって来ます。
人口500人程度の地域でピザが50枚以上売れたこともあります。
「みんな晩ごはんピザか、、、やるな自分!」と感激したものです。
この現象は私だけでなく、他のキッチンカーも経験しています。

理由として”たまに”キッチンカーが行くと周囲の少ない商圏人口が集まり十分な密度になります。半年分のお客さんを1日に圧縮するイメージですね。
本来であれば別のごはんを用意していたであろうお客さんが、あえてあなたの商品を購入してくれます。今日を逃すと次に購入できるのがしばらく先になってしまうからです。

飲食店が少ない郊外だとあなたのキッチンカーを待っているお客さんがたくさんがいます。みんなたまには違うものが食べたいですよね。
改めて言いますが「お客さんは新しい飲食店が大好きです」
その地域にとってあなたのキッチンカーは『新しい飲食店』そのものです。


このように人を集める力があるのもキッチンカーのメリットです。




対応力

メリットの話は続きますが、さすがにもう立地の話ではありません。
キッチンカーの『対応力』の話です。


世の中はとても激しいスピードで変化しています。かつて「10年ひと昔」というように言われていましたが、今では「1年ひと昔」と言ってもよいぐらいです。社会や企業は毎年のように大きく変貌を遂げています。
我々の世代のイメージでS〇NYは家電メーカーですが、最近はイメージセンサーとゲームで生き残っています。昔は農協と言えばお百姓さんの集まりでしたが、現在では金融機関として稼いでいます。社会環境の変化に伴い会社や商売の在り方も大きく変化していっている表れですね。


ダーウィンは進化論のフレーズは有名です。
「生き残るのは賢い者でも強い者でもなく変化に対応できる者だ」
未来は決して予測できませんが、変化には対応していかないといけません。

またしてもチンプンカンプンな話が出てきましたね。
キッチンカーのメリットの話をしていると思ったら、、、何の話??って、このパターンにもそろそろ慣れてきたと思います。
例によって私が本当に伝えたい事はこの次に出てきます。それは

未来は予測できませんが、キッチンカーは変化に『対応』できます



【引っ越し】

ダーウィンの説を借りればキッチンカーは「生き残りに有利」です。
固定店舗は立地を動かせません。
正確に言えば固定店舗も引っ越しできるのですが新規開業と同じくらいの費用がかかります。店舗移転は内装工事を伴うのでどうしてもお金がかかりますよね。

だから固定店舗を経営しているあなたが
「都会で飲食店をしていたけれども親の介護が必要になったから実家の近くに店を移したいなぁ」なんて事情に対応するのはかなり難しいでしょう。ひとまず店を畳むのが現実的な選択です。
新しい目標に向かって進むことは素晴らしいと思いますが、そのためには今まで築きあげてきたもの(固定店舗)は終了しなくてはいけません。固定店舗は処分する際にも費用がかかるというのはpart1 で紹介した通りです。

ラーメン屋のあとにラーメン屋が入ってくれるのであれば店舗の設備も有効利用できるかもしれませんが、次が喫茶店なら全て撤去です。原状回復にかかる費用も相当なものになるでしょう。
あなたの店の設備や内装を気に入って興味を持ってくれている方がいても、その方の出店希望場所が遠ければ意味がありません。福岡の固定店舗の居抜きに興味を持つのは福岡で商売をする方だけです。

店舗の『商圏』はお客さんにとってだけでなく、次にそのお店を手に入れる方を探す時にも『商圏』なのだと言えます。

このように固定店舗の跡を本当に有効利用できるのは「その場所」で「同業」の商売をされる方だけです。ただし前にも書いた通り、同じような商売をする方は『立地』を考えて同業が潰れた場所を避けるのが普通です。

この後に続く言葉はもうわかりますね。そうです。キッチンカーの話です。

キッチンカーが何らかの事情で遠方に引っ越しをしなくてはならない場合でも、ただ運転して移動するだけです。(営業許可は取り直しになります)

同じ商売を同じようにできます。もちろん新しい場所でも立地は何度でもやり直しできます。これがキッチンカーの対応力です。




【売却】

キッチンカーは引っ越しが用意であると書きました。
でも移転ではなくキッチンカー自体を諦めるというような選択もあるかもしれません。ある日突然運命に目覚めて占い師に転職したりする事態が来ないとも限りません。
その際はキッチンカーを売却します。固定店舗を次の人に譲るのは難しいと前段で説明しましたのであなたは不安になるかもしれません。
しかしキッチンカーなら売却もスムーズです。理由を3つ挙げます。



〔改造しやすい〕
キッチンカーには「厨房」としての機能のほかに「自動車」としての機能があります。実はベース車両はキッチンカーとして購入されるだけではなくキャンピングカーやトラックとして再利用されることがあります。キッチンカーもキャンピングカーもベースとなる車は一緒だからです。
他の用途に改造するためキッチン部分の撤去することになっても、費用は固定店舗と比べると格段に安くなります。面積が狭く作業工程が少ないからです。固定店舗と比べて不便だった点がここでメリットに変わります。
このようにキッチンカーを探している方はキッチンカーをする方だけに限りません。売却しやすい理由の1つ目です。




〔造作が似ている〕
キッチンカーのつくりは実はどの車もとてもよく似ています。
保健所の規定があり、全てのキッチンカーは「運転席と区切ったスペース」「2シンク以上の流し台」「温度計付き冷蔵庫」など必要とされる設備が共通だからです。
だから新たにキッチンカーを始めようとする方には「中古のキッチンカーを購入して改造を加えよう!」という選択肢が普通にあります。ひょっとしたらあなたも中古車を探しているのではないでしょうか?(車の選び方はpart3 で解説してます)

固定店舗では居抜きにしても多少の改装工事をするのが普通です。それならば新しくイチから自分好みで始める方がいいと考える方もいます。だから売却する固定店舗は設備の撤去費用負担が問題になり、次の人にとっては「固定店舗であった」ことがマイナスになることも多いのです。
キッチンカーは違います。手を加えるのは外観と雰囲気くらいで基本的な設備はそのまま使います。そもそもの選択肢があまりないですからね。だから「キッチンカーであった」ことは次のキッチンカーをする人にとってもプラスの要素となります。売却しやすい理由の2つ目です。


〔地域に縛りが無い〕
上記に加えてキッチンカーは全国どこにでも販売できます。
キッチンカーを新しく始めたい人は、どこにいてもあなたの中古車を買うことができます。
固定店舗と異なり「失敗した」キッチンカーでも問題ありません。なぜなら『立地』が変わるのだからそれは全く別のキッチンカーとしての商売を考えられるからからです。
東北のキッチンカーを関西の人が購入するなんて話も聞きます。私も北海道の方からキッチンカーについて問い合わせを受けたことがあります。
どこの誰にでも同じように使える。売却しやすい理由の3つ目です。

このように何らかの事情で「キッチンカーを手放す時」が来たとしてもあまり心配いりません。あなたのキッチンカーを欲しがる人はきっと現れます。

総じてキッチンカーは変化に対して対応できることがメリットです。


※余談ですがキッチンカーに思い入れがあり「どうしても手放すのが惜しいなぁ」ということであれば自家用車として乗り続けることもできます。内装設備さえ取り払ってしまえば普通の貨物車です。
商売から身を引いた私の友人も引き続きキッチンカー(だったもの)に乗り続けていますよ。ちょっと目立ちますけどね。




初期投資が安い

キッチンカーのメリットの話は続きます。
固定店舗に比べて初期費用が格段に安上がりで始められます。

固定店舗の平均開業費用が1000万円だと書きました。
「1000万円」と簡単に文字にしましたが実際に資金を作るとなると覚悟が要ります。失礼ながらこの記事を読んでいる方が簡単に出せるような金額ではないはずです。私にとっても「1000万円の投資」なんていったら大勝負になります。今は開業することに目一杯で通常の金銭感覚を忘れているかもしれませんが、あなたが普通にサラリーマンとして働いて1000万円の資金を貯めるのに何年かかりますか?そんな簡単に動かしていい金額ではないはずです。金融機関から借りるにしても「借りたものは返す」ということを忘れてはいけません。事業で失敗したからといっても借金が無くなるわけではありません。

私は1000万円どころか日々の1万円を手に入れるために必死に働いている人間です。もちろん開業費用は「少しでも安い方がいい」と思ってます。きっとあなたもそうでしょう。
そんなあなたに朗報です。
キッチンカーは300万円~500万円もあれば十分に開業できます。
これでも十分に大金ですが固定店舗に比べたら半額以下です。


初期投資費用というのは事業を通じて必ず『回収』すべきお金です。
それは売上の中から減価償却費として行われます。(ここらへんの言葉の意味や詳しい計算方法はpart3 にて解説しています)
「初期費用が安い」ことはそのまま「月々の負担が軽い」ことに繋がり
事業の失敗の確率が下がることを意味します。

キッチンカーと固定店舗とは初期費用の「中身」が違います。
キッチンカー開業費用の大半が車本体および改造の費用です。もし事業を止めることになったとしても初期費用の塊であるキッチンカーが現金化しやすいのは前述の通りです。買った値段よりも多少安くなるのは仕方ないですが、それでもゼロになることはありません。固定店舗が商売に失敗したら何も残らないのと比べたら雲泥の差です。
その意味でキッチンカーは資産と呼べます。

〔開業初期費用〕
※参考までに私のキッチンカーの開業初期費用の内訳をお伝えしていておきます。10年近く前の話なので今とは状況が違う事はご了承ください。
金額はザックリです。

ベース車(中古)100万円  キッチンカーのベースは中古でも高いです
改造費     150万円  石窯、設備込み
車関連費用    50万円  車入手や改造のための旅費その他
備品       50万円  発電機や薪割り機など
諸経費 雑費   50万円  ピザ作りの修行

で合計400万円程度かかりました。もちろん節約はめちゃくちゃ意識していました。補助金を200万円取りましたので実質負担200万円です。
固定店舗では到底不可能な金額です。





キッチンカーのデメリット

私はキッチンカーが大好きなのでメリットの解説に思わず力が入ってしまいました。が、こんな素晴らしいキッチンカーにもデメリットは当然あります。そのほとんどが固定店舗のメリットの裏返しです。

・不十分な設備
・天候の不安
・安定しない顧客基盤
これらは「安定した商売をしたい」と考えている方には深刻なデメリットになるかもしれません。あなたがこのような事態を避けたいのであれば固定店舗の開業を念頭に置くことをおススメします。



自由が無い

そして上に挙げたデメリットの他にキッチンカーにはもう一つ大きなデメリットがあります。それは『不自由』なことです。

世間のイメージでは「自由気まま!!」って雰囲気を出してるキッチンカーですが実態はまるで逆です。
キッチンカー営業とは即ち「許可を取り続ける日々」に他なりません。

キッチンカーは常に誰かの顔色を気にしています。なぜならキッチンカーの立地は全て借り物だからです。メリットであった「立地を何度でもやり直せる」のは別の側面を見ると場所が借り物だからできることでした。
逆に「場所を借りられなければ何もできない」ということになります。
立地のリスクを負わないゆえの不自由さです。

・出店したいと思った場所でも管理者が「NO」と言えば当然できません。
・出店したい日時があっても他の事業者との兼ね合いで我慢しなくては
 いけないこともあります。
・イベントで売りたい商品があっても制限されることがあります。

このようにキッチンカーは常に誰かの管理下にあるフワフワした存在です。言うなれば地に足のついていない根差し草です。
事業を開始してしばらくの間はそれでもいいのかもしれません。
でも、この先5年10年と本当にそのような営業を続けていけますか?

実は、事業が順調に回っているキッチンカーでも、ある程度の時期(5~10年くらい)が来ると車を降りて固定店舗を構える人が多いです。
理由は人それぞれですが、家庭環境のことや将来の不安のことがあるのかもしれません。”自由”な営業をしてみたくなったのかもしれません。
土地に根差してお客さんを育てていく固定店舗が農耕民族なら、お客さんという獲物を求めてさまようキッチンカーは狩猟民族です。縄文時代から弥生時代へと人は進化してきたように、キッチンカーもいずれ固定店舗となる運命なのかもしれません。

どちらのスタイルを選ぶかはあなた次第ですが、成功したいなら固定店舗で失敗を避けたいならキッチンカーでないかと私は考えています。
商売に自信がついてきて『失敗しない』から『成功する』にシフトチェンジすることになった場合、その時がキッチンカーを降りるタイミングなのかもしれません。

永続できる商売ではない。それもキッチンカーのデメリットです。



キッチンカーの種類

難しい話が続いて疲れてきましたね。
先日、営業前に周辺を散歩していたら彼岸花が咲いていました。
一輪だけポツンとしている様になんだかアートを感じて撮ってみました。(本題には全く関係ありません)

癒されたところでキッチンカーの『種類』の話をします。
種類といっても車種という意味ではなく、用途・目的の話です。

キッチンカーは大きく3つに分けられます。
【日常型】 【遠征型】 【イベント型】 で、これは私の造語です。
(ネットで検索しても何も出てきませんのでご注意ください)

それぞれの特徴を見ていく前に注意事項があります。
この区分はあくまで「何をメインと捉えているか」という意味だけであり、区分に縛られるというわけではありません。日常型のキッチンカーがイベントに出店してもいいし、イベント型のキッチンカーが店頭販売をしないという意味ではないということです。ただし事前に言っておくと、全てのシーンに万遍なく対応することは不可能です。

日常型、遠征型、イベント型のキッチンカーはそれぞれに特長があります。
特長があるということは得意な環境と苦手な環境があるということです。
各タイプのキッチンカーは設備・営業品目・人員配置といった部分が異なります。それぞれの営業目的に最適化するためです。

野球チームでもホームランを打つバッターが居ればバントでチームに貢献する選手もいますよね。一発逆転ホームランが欲しい場面で小技の上手い選手を代打に送ることはないでしょう。キッチンカーも同様です。
日常型キッチンカーではイベント対応は完璧にはできませんし、逆にイベント型キッチンカーは日常型のようにランニングコストが安いわけではありません。
物事には優先順位があります。
その順位は「あなたがキッチンカーに何を求めているか」によって変わります。あなたの哲学・戦略と相談して、あなたのキッチンカーの『種類』を決めていきましょう。
では一つずつ解説していきます。




【日常型】

最初は日常型についての説明です。
キッチンカーで起業を考えられている方はこのタイプを念頭に置かれていることが多いと思います。


〔日常型の特徴〕

日常型は自分の生活圏内およびその周辺で日々営業するタイプのキッチンカーです。自宅から片道30分程度までを営業範囲とします。(お住いの自治体とその隣くらいのイメージです)
日常型キッチンカーは毎日移動しますので出店先があまりにも遠いと通勤が大変です。
日常型は決まった曜日・決まった時間に働きます。
サラリーマンのように規則正しい生活を送りますので家族にも理解が得られやすいです。

このタイプのキッチンカーは「お客さんとの繋がりを大切にしたい!」「地域の課題をキッチンカーで解決したい!」そんな想いを持った方に向いている地域密着のローカルビジネスです。

日常型のキッチンカーは小規模な商売です。
基本的にはあなた一人で運営全てやるつもりでいてください。夫婦やカップルでキッチンカーに挑戦したい方もいるかもしれませんが、このタイプのキッチンカーで二人分の給料を出せるような売上を確保するのは難しいです。

日常型は、地元スーパーの店頭や地域の小規模イベントに出店して営業します。あるいは自分で場所を確保し(自宅前の駐車場とかですね)決まった場所で「疑似固定店舗」のような形で営業する方もいます。
一般にリピーターを作りづらいキッチンカーですが、地元で活動し続けるこのタイプでは顔なじみのお客さんを増やすことも可能になります。



〔日常型の商品〕

販売商品は「晩御飯のおかず」になるものがおススメです。
あくまで日常の中でのキッチンカーなので変わったものは好まれません。週2で唐揚げを食べる人はいるでしょうが、週2でトムヤンクンな人は珍しいですよね。たまに奮発してウナギを食べることもありますが毎週購入できる家庭は少ないでしょう。
それに日常型のキッチンカーは基本的に同じお客さんを相手にし続けます。
決まったお客さんに同じ商品を買い続けてもらわないといけません。そのためには「良いもの」を「適正な価格」で販売することが重要です。
この部分は固定店舗とほとんど同じです。(価格の付け方はpart3 で解説します)

スーパー店頭にいるキッチンカーには買い物ついでに寄るお客さんが圧倒的に多いです。「今日の晩御飯は何にしようかな」とやって来た店先にキッチンカーがあるとテンション上がりますよね。

ここでも注意点があります。
晩御飯のおかずになるものといってもスーパー店内の商品と競合するのはやめましょう。お総菜コーナーで売っているのと似たような商品を日常型キッチンカーで販売するのは難しいです。
最初は物珍しさで売れるかもしれません。でも3回5回と出店を重ねるうちにスーパー店内の商品には価格で負けてしまします。もしスーパーに品質と価格で勝てるような商品をあなたが用意できるなら、それはキッチンカーでなく固定店舗で大々的に販売した方が良いです。

「うちのは特別だから!こだわりの商品だから!モノの良さではスーパーには絶対に負けないよ!」と考えている事業者もいます。しかしお客さんにとって売り手側の”こだわり”なんてものは全く関係ありません。事業者の独りよがりです。
スーパーにやってくるお客さんが求めるのは品質と価格です。作り手のストーリーでは決してありません。

たしかに旅先で行く飲食店や、特別な日に出かけるレストランでは店舗の雰囲気やメニューにまつわるストーリーも大事です。ですがスーパー店頭のような日々の暮らしの中では作り手の想いよりも家計への貢献が優先されるのは仕方ないです。立派な想いでも届かなければ意味がありません。



〔日常型のメリット 安定〕

日常型のメリットは地域の一員として商売できることです。
経営的に言いかえると「リピーターを確保し売り上げを安定させやすい」です。
そのため日常型のキッチンカーは《決まった時間に決まった場所》で出店するのが大切です。
これは本当に重要なことなので必ず守ってください。

出店間隔は週1回でも月2回でもあなたが自由に決めてかまいません。
月曜日はスーパー○○、火曜日は▲▲公園前、第2第4水曜日はスーパー◇◇、、、というように、お客さんが「キッチンカーの来るタイミング」を認知できるようにすることが大切です。

そこでは「次いつ来るの?」「毎週金曜日です」という会話が生まれてお客さんをリピーターにすることが可能になります。
「次がいつになるかはちょっと未定です、、、」なんて返事はみすみすお客さんを減らしているのと同義です。お客さんが興味のないキッチンカーに予定を聞くことはないですからね。

主婦主夫の方は毎日スーパーに行くことも珍しくありません。決まった曜日に出店していれば「今日は金曜日だから晩のおかずはキッチンカーのアレにしよう!」なんてことにもなりますよ!



〔日常型のメリット 平準〕 

スーパー店頭は夕方に少し混みますが、基本的にお客さんの流れは朝から晩まで緩やかで、ピークタイムでもそこまで忙しくなりません。
人の流れが一定という事は、準備を《平準化》しやすく営業上有利です。

一般に飲食店はピークタイムに合わせてヒトとモノの準備をします。
忙しい時間に向けて仕込みをしてアルバイトを確保してという感じです。
店頭販売のキッチンカーに大きなピークタイムがないということは、それに合わせた準備もそこまで必要ありません。
これを経営的に見ると「余分な人件費がかからない」ということを意味します。あなた一人で十分に営業が可能なのでピークタイム用のアルバイトを雇わずにすむからです。

仮にアルバイトを雇うとして計算してみます。
アルバイトをお願いするとしたら「昼の11時~13時と17時~19時だけよろしく!」ってわけにはいきませんよね。キッチンカーは日々営業場所を移すので休憩時間に家に帰るわけにもいかず、必然的に8時間拘束(休憩1時間)になります。時給1000円で7時間だと経営にとっては7000円の人件費負担です。
人件費を7000円分捻出するためにはおよそ15000円以上の売り上げが必要になります。たとえば1パック500円の唐揚げを売っているとしたら30パック以上です。

つまりアルバイトを雇うならばその人がいることで30パック以上「いつもより多く」売れますか?という話になります。もし「いつもより多く」売れる自信がないならアルバイトをお願いしない方が経営的には助かります。
昔「食い逃げされてもバイトは雇うな」って本が流行りましたね。あれと言っていることは同じです。

日常型の店頭販売に関して言えば、2人で80パック売るよりも1人で60パック売る方が簡単です。人員が倍になっても売り上げは倍になりませんが人件費は倍になります。

スーパーの店頭販売では
 入店前にキッチンカーに注文 ⇒ 買い物をしたあとで商品を受け取る
という流れがあります。
買い物に10分20分かかることは普通なので、調理や商品提供の準備に多少の時間がかかっても問題ありません。もし注文が多くて混雑していても出来上がり予想時間をお客さんに伝えればスーパーの中で時間を潰してから取りにきてくれます。

結論として日常型キッチンカーでは他の人に手伝ってもらう必然性はありません。


パートナーの人件費

ちなみに夫婦やカップルで始めるともっと大変です。
一般に自営業者は1日働いたら最低2万円ほど手元に残さないと営業を継続していくことはできません。(理由はpart3 で解説してます)
「手元に残す」というのは売上から仕入れの金額と他の経費を払った残り、つまり「あなたの儲け」が最低2万円ということです。売り上げにすると1日4万円のノルマとなります。

と言われても未経験のあなたにはこの数字がどれくらい大変なのかピンとこないですよね。私の感覚で言えば1日4万円の売り上げはそんなに難しいことではありません。他のキッチンカーの話も聞いていると4万円ぐらいの売り上げは細々とやっているキッチンカーのレベルです。

あなた一人なら細々と1日4万円のノルマですみますが、カップルでキッチンカーに取り組んだとしたら、、、当然ノルマは跳ね上がります。これも単純な話です。

パートナーの人件費は決して無料ではありません。むしろアルバイトよりもよっぽど高くつきます。パートナーはあなたの店を手伝う時間に他の会社に勤めに出ていたら給料を持って帰ってくるはずです。この金額は本来あなたが負担しなくてはいけない金額と同じ額であるはずです。
会社で勤めていたら毎月20万円稼いでくるパートナーには、あなたのキッチンカーでも20万円を払わなくてはいけません。それができないのであれば(経営的には)パートナーにキッチンカーを手伝ってもらうべきではありません。もっと言えばパートナーはアルバイトと違い、途中で雇うのをやめることはできません。
始めたばかりのキッチンカーが背負う責任はどこまでも重くなります。

とはいえパートナーと一緒にキッチンカーをするのを一律で禁止するわけではありません。あなたのキッチンカーをする『目的』に「パートナーとともに働くこと」が入っていればそれは私がとやかく言えることではないですからね。
私がここで言えるのは、人件費の観点だけで見ればパートナーと一緒にキッチンカーをするのは厳しいということだけです。



〔日常型のデメリット〕

日常型のデメリットはズバリ「飽きられる」ということです。

日常型キッチンカーにはその名の通り「日常」で遭遇します。2週間に1回の出店ペースでも単純計算で年に25回キッチンカーと接点があることになります。毎週ならば年に50回です。決まった時に決まった場所にいるのは便利ではありますが、便利すぎてありがたみも無くなるかもしれません。

意外性は最初の数か月で無くなりますし、毎週決まって見かけるので「次の機会でもいいかな」という心理も働きます。だから固定店舗と同様に新メニュー開発や季節のキャンペーンなどの顧客満足度を上げる施策を打ち続けなくてはなりません

また日常であるがゆえに財布の紐は緩くなりません。
「たまの贅沢に奮発しちゃおうか!」ということはなく「いつものアレちょうだい」にならないといけないからです。普段遣いのものは家計に優しくないといけないのは前述の通りです。

このように日常型キッチンカーでは「価格と品質が釣り合っていないもの」が売れ続けることはありません。真面目にコツコツお客さんと向き合った商売をすることが求められます。この特徴は固定店舗と同様です。
さらに言えば
日常型のキッチンカーには商品が「美味しい」ことが求められます。
日々の食卓に乗り続けるには美味しさは重要です。
飲食店の経営で「美味しさ」は最優先ではないと書きましたが、日常型キッチンカーにおいては重要な要素となります。


まとめると
美味しいものを適正な価格で真面目にコツコツと営業していく。
そういう姿勢が日常型のキッチンカーには求められます。




【遠征型】

次は遠征型キッチンカーの説明です。
遠征型のキッチンカーと聞いてもピンとこないですよね。これは県外まで出かけていって販売するキッチンカーのことを指しています。
遠征型のキッチンカーは業界の中でも数は少ないですが、このタイプのキッチンカーはうまくいっている店の割合が多いです。あなたも環境が許せば挑戦してみる価値は十分にあるはずです。

ちなみに私は遠征型に挑戦したことがないので、この項目は全て遠征型キッチンカーをしている方への取材で聞いた情報をもとに書いています。情報が不足している部分や表現が曖昧な書き方があればすみません。



〔遠征型の特徴〕

遠征型は地元を離れて営業する「行商人」のようなキッチンカーです。
古来から貿易は利益率の高いビジネスですが「モノが余っている所から不足している所に運ぶ」という意味では遠征型キッチンカーも同様です。

このタイプのキッチンカーは
「家を1週間単位で空けられる方」「旅行と新しい環境が好きな方」「初対面でうまくコミュニケーション取れる方」に向いています。

遠征型キッチンカーは土地土地を旅するような働き方をします。
県外を飛び回り2週間働いて家に帰り1週間休み、次は別の県に2週間、というような日々です。同じ場所で1週間程度営業して、その間はビジネスホテルなどに泊まります。

遠征型キッチンカーをするにあたっては周囲の助けが必要です。家族がいる場合は《理解》してもらわなくてはいけませんし、さらに地元に《協力》してくれる人がいないと営業できません。

ここでの理解は「家を空けることを認めてくれる」ということです。
2週間も家に帰らないのは困る、と家族が考えているのであればこのタイプのキッチンカーは諦めましょう。育児や介護をしている方の挑戦はまず無理です。
協力は文字通り商売のサポートをしてくれるということです。
遠征型のキッチンカーは自宅から離れた他県のスーパーなどで店頭販売します。家に帰れないということは商品在庫を地元から送ってもらわないといけません。出店先での材料調達が難しいからです。
食品を扱うということで賞味期限の問題もあり長期保管は避けなくてはいけません。仮に出店先で材料が手に入ったとしてもビジネスホテルでは仕込みなんかできるはずありません。キッチンカーには余分なスペースが無いのでまとめて材料を持っていくことも不可能です。2~3日分なら冷蔵庫パンパンでいけば何とかなるかもしれませんが、キッチンカーはもともと狭い造りなのでそれ以上の長期となると難しいです。

結論、材料は宅配便で送ってもらうか協力者に車で運んできてもらいます。このことからも遠征型キッチンカーには地元協力者のサポートが必須となります。


〔遠征型の商品〕

販売する商品は《地元特産》のグルメです。

できれば晩御飯のおかず系がいいですが、デザート系も好まれます。名前は聞いたことあるけど食べたことない地方の有名スイーツなんてのもいいですね。商品を販売する場所で手に入りにくい商品にこそ遠征型キッチンカーの価値があります。出店先の近所で売っているようなものだと意味がありません。

遠征型の商品は《美味しい》に越したことはありませんが、それよりも《珍しい》ことが優先されます。
なぜなら遠征型キッチンカーは「日常」ではないからです。美味しくて家計に優しい商品を売るのではなく「〇〇からきたキッチンカーが珍しいの売ってたよ」という体験を販売します。

あなたがチョコレートを食べるときのことを考えてみます。グ〇コやme〇jiの板チョコは安くて美味しいですよね。普段ならばそれでもいいでしょう。でも、ある日スーパーの軒先でコートジボアール産チョコレートが販売されていたら多少高くても家へのお土産にと買ってしまうのではないでしょうか。その時あなたが求めているのは美味しさとかお手頃な価格ではなく、コートジボアールのチョコを食べたという「体験」のはずです。友達や家族に話すネタです。

そんな情報や体験を売るのが遠征型キッチンカーです。



〔遠征型の告知〕

遠征型キッチンカーの営業場所は日常型と基本的に同じで、スーパー店頭や繁華街など人が大勢集まる場所で販売します。ですが出店に際して日常型と異なる部分もあります。
それは事前の告知を”毎回”する必要があることです。

決まった日時に決まった場所へ行くわけではない遠征型キッチンカーは、出店の事実(時間と場所)をなるべく多くのお客さんに伝えなくてはいけません。「今回は9月下旬に1週間行くからよろしく~」と出店先でその旨を宣伝してもらいます。よくスーパーのお知らせコーナーにチラシとか貼ってありますよね。

出店のペースは年に1回程度。同じ場所では多くても年2回までです。
それ以上に顔を出すとあなたの《希少性》が薄れて、商品である情報や体験の価値が下がっていきます。
ひとつの場所に年に1回、1週間ずつの出店として、休みのことを考えると年間計30か所くらいの営業スケジュールになります。私の知っている遠征型キッチンカーは皆さんこれ位のペースなのできっとこれくらいの間隔が心地よいのかもしれません。



〔遠征型のメリット〕

遠征型キッチンカーは商品に《地域性》という希少価値があるので、競合がなく高い価格を付けやすいです。販売難易度が低いとも言えます。

たとえば香川県に骨付き鶏という名産品があります。鶏モモ肉をスパイシーに味付けしたビールのお供です。

香川県では焼く前のものをスーパーで普通に販売していますが富山県ではあまり見かけないでしょう。もしこれを富山県まで持っていってキッチンカーで売ったらどうでしょうか?物珍しさもあり「話のタネに」とたくさん売れそうです。
主婦主夫の立場で考えると、毎日決まったスーパーで買い物して決まったおかずを作るのにも飽きてしまいます。珍しいキッチンカーが他県からはるばるやって来て地元にない商品を販売していたら、私なら買ってしまいます。


遠征型は販売価格の面でも有利です。
付近で売っていないので相場観がなく、500円と言われれば500円、900円と言われれば900円なのかなと受け入れられます。
「ちょっと予算オーバーだから5本欲しいけど3本にしておく」ということはあるかもしれませんが「よそのスーパーの方が安いからそっちにしよう」とはなりません。あなたは骨付き鶏が1本いくらぐらいか想像つきますか?

競合や相場が無いことはそのまま利益率の高さに繋がります
ライバルがいない状況ではあなたの付けた値段が「相場」になるからです。

はっきり言うと遠征型キッチンカーは儲かります。最大のメリットです。



〔遠征型のデメリット〕

遠征型のデメリットは「生活コストが2重にかかる」こと、「ルート開拓が大変」なこと、「日常型への変更が困難」なことです。


1か月もの間、ビジネスホテルに泊まれば結構な金額になりますし、ずっと外食となればお金の面でも健康の面でも不安があります。頑張って1日営業しても帰るのはビジホです。違う環境で生活する新鮮さは1か月でなくなりその後は寂しさばかりがつのるでしょう。家族となかなか会えない生活は遠征型キッチンカーをしている限りずっと続きます。

最初のルート開拓は見知らぬ土地で始めなくてはいけません。
地元ならどのスーパーが人気だとか週末にどの場所に人が集まるとか肌感覚でわかります。でも隣の県のことなんてよく知らないですよね。
出店交渉の仕方はpart3 で解説しますが、最初はとても苦労することになるでしょう。飲食店にはスタートダッシュがありますが、それはあくまで出店できてからの話です。出店にこぎつけるまでには他の業界と同様に新規開拓の苦労を味わうことになります。

そして遠征型の生活に疲れ、日常型キッチンカーのような働き方をしたいと思ってもなかなか簡単にはいきません。
販売商品が地元の特産品であることは遠征型には有利でも日常型にとって何のメリットにもならないからです。先に書いた通り地元の特産品は地元のスーパーなどで普通に売っています。地元のお客さんはみんな相場観を持っています。そのような販売商品で日常型のキッチンカーに転換することは難しいく、業態転換するのであれば販売商品の見直しを含めた抜本的な変更が必要になります。


このように厳しい生活環境・新規開拓の苦労・潰しがきかない商材という面が遠征型のデメリットと言えます。

旅はずっと続く




【イベント型】

イベント型はあなたもよく目にしているキッチンカーで、読んでそのままイベントに出店することを目的としています。

〔イベント型の特徴〕

イベント型キッチンカーは「既に固定店舗を持っている」または「別に本業を持っている」というように、現在の仕事に加えて新しい何かに挑戦したい方に向いています。
逆に言うとイベント型キッチンカーを本業にするのはとても難しいです。
(デメリットの部分で説明します)


イベント型キッチンカーの特徴は何より商品を提供する《スピード》です。

イベント会場を想像してもらうとわかりますが付近に常設の飲食店はほとんどありません。(だからこそ主催者はキッチンカーを呼びます)
そんな環境で、スポーツ観戦やライブにおいてはみんな同じタイミングでキッチンカーに押し寄せてきます。会場でアーティストや選手が活躍している時に外でホットドッグを買い求める人は少ないですよね。来店ラッシュの時にモタモタしていたら次の演目が始まってお客さんが風のように去っていった、なんて悲しいことになってしまいます。

その求められるスピードですが
提供の目安は「1食20秒以内」と言われています。
(あくまで目安なので絶対的な数値ではないです)

20秒って速く思えますか?
でも計算すると10分で30食です。お客さんの立場からすると「結構待たせるなぁ、、、」と感じるぐらいの列の動きです。前に20人も並んでいたら購入を諦めるかもしれません。

だからなるべく早く商品を提供するための工夫として
品物を作り置きしておく・提供に手間をかけない・なるべく多くの人員で分担するというような方法があります。
「サンドイッチを大量に作っておいて現地では売るだけ」とか「ごはんをよそってカレーをかけるだけ」みたいなイメージです。
正直なところイベント型キッチンカーでは美味しさはあまり求められていませんし価格もそこまで重要ではありません。
なにより提供のスピードこそがこのタイプに求められるものです。

スピードを主眼においたメニュー開発やオペレーションは各店のノウハウが活かされます。普段は固定店舗で営業していて「どのようにしたら早く商品を提供できるか」ということはあなたが一番熟知しているはずです。
同時に人員の確保もしなくてはなりません。
注文を聞く人・会計する人・ごはんをよそう人・カレーをかける人。通常営業では一人で行うような工程もイベント型キッチンカーでは分業して行います。端的にその方が早く多く商品を提供でき、結果的に儲かるからです。

日常型のキッチンカーの項目で「アルバイトを雇うことで唐揚げが30パック多く売れますか?」という問いかけをして平準化の重要性をお伝えしました。しかしイベント型では様相がまるで異なります。
イベント会場では30パックはおろか50パックでも100パックでも多く売ることができます。お客さんはひっきりなしにやってきます。イベントのピークに対応するためには人員がいなくては不可能です。
イベント型キッチンカーでは「経費削減」よりも「売上増加」に目を向けることが重要です。

イベント型キッチンカーはピークタイムに対応するために工程を分業するスペース・多くの人員・準備しておく大量の商品を車内に格納しなくてはなりません。そのためイベント型キッチンカーは大型化します。
大型化するということは費用もそれなりにかかります。固定店舗とおなじくらい、少なくとも日常型のキッチンカーよりは車体費用も改造費用もだいぶ多めに見積もっておく必要があるでしょう。


このタイプのキッチンカーは「大きく投資して大きく儲ける」ことを主眼におきます。なるべく素早く・なるべく大量に・誰でもできるような工程で、というようなある意味での”割り切り”が必要です。
ひとりひとりのお客さんに向き合っている時間なんてありませんし、商品の品質をハイレベルに保つことも難しいでしょう。自分なりのこだわりややりがいみたいなことを求める方には向いていないと思います。




〔イベント型のメリット〕

イベント型キッチンカーのメリットは、売り上げが「確実に」確保できるということです。お客さんが来ないということはまずありません。

また、イベントでは強気な価格設定も許されます。
お客さんは次から次へとやって来るので「ここは高いから」と商品を買わない人を相手にする必要はありません。それにイベント会場では財布の紐も緩みがちです。野球場のビール価格が高いからといって飲むのを我慢する人は少ないです。世間の人はイベント会場での販売価格が高いことを「それはそういうもの」と受け止めています。
常に需要が供給を上回っている状態なので、安値で対抗してくるキッチンカーなんていません。私も大きなイベントに出店する際には価格を1.3~1.5倍に上げていますし、他のキッチンカーを見てもイベント用の特別メニューや特別価格で販売している店が多いです。

イベントの後にいつも思うのは「もっと強気の価格でもいけたかなぁ」という反省です。「もっと安くしておけばよかった」と感じたことは今まで一度もありません。



〔イベント型のデメリット〕


もちろんイベント型キッチンカーにもデメリットはあります。

〔開催頻度〕
1つ目は開催頻度です。
基本的にイベントは週末にしかありません。みんな平日は働いてますからね。さらに毎週末にあるわけでもありません。都心ならともかく地方都市において商圏内で開催されるイベントは月に3~4回というところでしょう。地方で活動する私の実感では年50日もイベント稼働できればだいぶ良い方です。

開催頻度が少ないことは
・イベント型キッチンカーだけでは年間の売上を確保できない
・イベント時の人員の確保が難しい
に繋がってきます。

売上の確保が難しいのは読んでそのままです。
イベント型のキッチンカーは日常型のように店頭販売をする仕様にはできていませんので平日はお休みとなり、別の本業がないと厳しいでしょう。

人員の確保はアルバイトさんの立場になってみればわかります。
普段は固定店舗を経営している方がサブ事業としてキッチンカーをするのであればアルバイトさんの確保は比較的容易です。固定店舗のシフト調整をしてイベントのある日だけ多めに出てもらえばよいだけです。
では固定店舗を持っていない方はどうするのでしょうか?その都度でアルバイトさんを確保するのでしょうか?前述の通りイベント型では人員が多く必要になります。だからなるべく多くの人員を確保したいのですが、毎週開催されるわけではないイベントのためにアルバイトさんが他の仕事をキャンセルすることはないです。
「イベントの時だけ」来てくれるなんて都合のいい話はありません。


〔出店料〕
2つ目は出店料です。
イベントの規模によって出店料はピンキリですが、小さな地元のイベントでも5千円程度、大きなフェスになると何十万円になることもあります。

主催者は商売でやっています。(商工会議所主催のイベントは除く)
なるべく多くの出店料を確保するのが彼らのミッションで、そのために集客を頑張り出店者に気持ちよく営業してもらう段取りをしてくれています。
キッチンカーが何も用意せず当日ポンと行くだけで営業できるのも主催者のおかげです。そのフィーが出店料です。

イベント型はめっちゃ儲かるので人件費をかけても単日赤字になることは基本的にないです。しかし出店料を加味すると収支が微妙になる場合があるのは事実です。
出店料5万円のイベントならそれを回収するために10万円分多く売らないといけません。大勢の人員を確保して忙しく沢山売れたけれども、最後に計算してみたらあまり手元に残っていなかった、、、なんてこともあります。
「出店料」と「売上予測」を比べて、出店すべきか否かを判断するのはイベント型キッチンカー事業者のウデです。


とはいえイベントは儲かりますし何より楽しいです。
あなたがイベントに出店したいのであれば、普段は日常型として頑張ってプラスアルファでイベント出店するということも可能です。
もちろんその場合は数多くのお客さんに素早く商品を提供することはできません。でも普段よりは売り上げ伸びますよ!!




決意

さて、本記事をここまで読んでみてあなたはどんな感想を持ったでしょうか?もう一度「心の準備のお手伝いの図」を出します。

下の部分から見てきて上の黄色の「キッチンカー」までたどり着きました。再度言いますがあなたの「選択」は下から上に向かって進んでいます。
飲食に挑戦できますか?キッチンカーにしますか?



本記事で重要な部分をおさらいします。

「何がなんでも独立開業しなくてはいけない」
「人生で成し遂げたい事が定まっている」

そんな方は先に進みましょう。
違うのであれば今の仕事を続けた方がいいです。


「飲食業にするとは決めたけれど固定店舗かキッチンカーか迷っている」
そんな方はもう少し時間と情報が必要なのかもしれません。
決して焦る必要はありません。飲食業はいつ開業しても大丈夫ですから。


応援の言葉

ひとまずあなたの「進むべき方向」が定まったという前提で、ここでエールを贈ります。様々な”あなた”が居ると思いますのでそれぞれの方に向けたエールです。

【サラリーマンを続けていく方へ】
あなたはとても良い選択をしたと思います。
先に書いた通り「雇われる」ということは「誰かに必要とされている」ということです。あなたはこの社会にとって大事な存在です。入社面接で「ここで働きたいです!!」って言った気持ちを忘れずに頑張ってください。正直に言うと私自身もサラリーマンに戻れるものなら、、、と考えることもあります。
さぁ、日常に戻りましょう!


【飲食以外で開業する方へ】
それで正解です。
一般に会社員の年収は「どの業務をするか」ではなく「どの業界で働くか」で決まります。同じ経理をするのでもサービス業より製造業の会社の方が給料が高いです。開業にも儲かりやすい業界と難しい業界があります。
ご存じの通り飲食業は後者の代表例です。
あなたのスキルを活かせるような業界に進むのであればそれはとても賢い選択です。私に無いものを持っているあなたが眩しい!
これからは同じ経営者仲間ですね。
事業の存続のためお互い一生懸命やりましょう!


【固定店舗で飲食開業する方へ】
勝負に出ましたね。もう後には引けません。
きっとあなたの夢や・商圏・家族の状況を考えた時にそれがベストなんだと思います。あとは地域で愛される飲食店を目指して一生懸命にやるしかありません。さんざん今まで脅かすような文章を書いてきましたが、これだけ読んでも飲食店を開業すると決めたあなたには深い考えと努力できる素質があります。
きっと成功できますよ!応援してます!


【キッチンカーをお考えの方へ】
ここまで読んでいただいてありがとうございます。長かったですよね。
一度休憩しましょうか。(ふぅ)
でも私が本当に伝えたかった『失敗しないキッチンカー開業』の本編は実はこれから始まります。(ひぇ~)

本編では『戦術』と呼ぶ具体的な方法をお伝えしていきます。
今までの記事と異なり「良い方法」「良くない方法」の事例を交えながらの話になります。私が長年培ってきたノウハウを全て提供しますのでご期待ください。

ここまで引っ張っておいて申し訳ないですがPart3 は一部有料とさせていただいています。これは私なりのマーケティングの一部で「私の”経験”に市場価値が付くのか」という実験でもあります。
内容は他では決して手に入らないノウハウです。(少なくともネットの中にはありませんでした)
決して後悔するものではないとお約束しますので「キッチンカーをする」と心に決めた方は是非お進みください。

一例を挙げるとpart3 ではこんな感じの表を一緒に作っていきます。すべての『数字』に”意味”がありますが、それを本当に理解するのはきっとPart3 を読み終えた後ですね。


ではではでは。


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