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sunnyさんによるパーソナルトレーニングの考察①〜身体の基本構造とパフォーマンス〜



初めまして。

東京大学ア式蹴球部でフィジカルコーチを務めている田所剛之と申します。


今回の記事では、先日sunnyさんのパーソナルトレーニングを実際に受けた体験を基にそれらのトレーニングの目的や理論的背景を逆算的に考察してみたいと思います。

僕自身、sunnyさんがInstagramやTwitterにupしていらっしゃったトレーニング動画を見様見真似で実践してみたもののイマイチ効果を実感できていなかったのですが、実際にsunnyさんによる指導を受けた結果、抜群の効果を実感できました。

この記事を読んでくださった方が重要なポイントを抑えてトレーニングを実践し、その効果を体験して頂けると嬉しいです。


以下、実践した4つのトレーニングをそれぞれ紹介、考察していきます。


1.HOP


1つ目のトレーニングはHOP。JUMPじゃなくてHOPです。

どっちでも良いと思うかもしれませんが、言葉のイメージというのは強大な力を持っていて言葉遣い1つで動きは大きく変わるので、こういった部分に細かくこだわるのはとても重要です。

JUMPと言うと頑張って高く跳ぶイメージが付いてしまいますが、HOPトレーニングの一番のポイントはとにかく頑張らないことです。いきなりですが、実際に僕がこのHOPトレーニングを実践した動画を見てみましょう。



左がトレーニングを受ける前、右がトレーニングを受け終わった後です。

左右の動画を見比べてどのような違いがあるかを考えてみてください。

まず、注目して欲しいのはHOPの回数です。左側では16回目のHOPの頂上のタイミングで、右側では15回目のHOPの上り際で動画が切れています。たった10秒間で1.5回分の差が付いており、HOPの滞空時間が大きく向上したことが見て取れます。

この滞空時間の差をもたらした要因はとてもシンプルで、アキレス腱のバネ機構が利用できているか否かだと考えられます。右側の動画の足を注意深く見てみると何度かHOP直後に足が小刻みに震えるような形になっており、アキレス腱のバネ機構をうまく利用できていることが分かります。

そして、このアキレス腱のバネ機構をうまく活用するためのポイントは踵を地面につけることです。実際に先程の動画を見比べてみると、左側では常にかかとが浮いた状態であるのに対し、右側では踵が毎回地面についています。

ここで、議論を簡単にするためにアキレス腱を完全な一本のバネと仮定して、アキレス腱のバネ機構を利用するためには踵をつけるべきである理由を考えてみましょう。


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踵をつけた場合、バネ(アキレス腱)は撃力としての地面反力を直接受け、膝関節を曲げたりすることでその撃力を吸収しさえしなければ、この撃力はバネ(アキレス腱)に直接作用することになります。この撃力によってバネ(アキレス腱)は急激に短縮し、大きな弾性エネルギーを蓄えることができ、これが効率の良いHOPにつながります。

一方、踵をつけなかった場合、撃力としての地面反力はバネ(アキレス腱)に直接的には作用せず、バネ(アキレス腱)にかかり得る力は下腿三頭筋の収縮、足関節の背屈による力に限られます。これらの力は、踵をつけることによって得られた撃力と大きさを比較すると極めて小さいと考えられ、それによって蓄えられる弾性エネルギーも小さくなります。

つまり、接地時に得られる撃力としての地面反力をできる限りアキレス腱に弾性エネルギーとして蓄えることで効率の良いHOPができるようになると考えられます。アキレス腱を一本のバネとして見て良いのかという部分には議論の余地がありますが、とりあえず今回のトレーニングで自分が感じた感覚を説明できているとは思います。

さらに見ると、左側のHOPではアキレス腱のバネ機構をうまく使えていない代わりにつま先から着地し、足関節が背屈→底屈という動きをしています。この動きでは下腿三頭筋の伸張反射を利用しており地面を強く押すことができるので、このようなHOPトレーニングにおいて望ましい動きであると言われることが多いと思います。実際、僕もそのような知識があったので動画の左側のような踵をつけない動きをしていました。しかし、先程述べたような外力に起因するアキレス腱の弾性力と反射によって筋肉が生み出す力の大きさを比較すると、前者の方が大きいと考えられるのに加え(実際HOPの高さは右側が明らかに高い)、動作の効率という点でも筋肉を使わない前者の方が優れていると考えられるので、この場合により適切なのは踵をつけた右側のようなHOPという事になるでしょう。

これは、最初に述べた頑張る頑張らないといった感覚に結びつけることができます。左側のHOPは筋肉で頑張って跳ぶJUMPに近いですが、右側のHOPはアキレス腱のバネ機構を生かした、ある種受動的な動作であるため、頑張らないHOPと表現できます。実際にやってみると右側のような跳び方をした方が左側よりも圧倒的に軽く無理なく跳ぶことができます。

具体的なトレーニングとしては、股関節の真下に足を置いた自然な状態で30秒、左右の足を前後にずらした状態で30秒、肩幅に足を開いた状態で30秒をレスト15秒で行いました。

このトレーニングの目的は、アキレス腱のバネ機構をうまく使えるようにし、動作の効率を向上させることだと考えられるので、足のポジションがどうあれ踵をつけてアキレス腱のバネを感じられるように意識して取り組んでみてください。



2.Bear walk


名前からメニューが連想しづらいと思うので、最初にsunnyさんのトレーニングを継続的に受けていらっしゃる太田潤さんの動画を手本として見て頂きます。


綺麗ですね。これ実際にやってみると想像以上に難しいです。

ここでは、このトレーニングを実践するにあたってsunnyさんから教わったポイントを1つ1つ見ていき、それぞれのポイントを抑えることによって何が実現されるかを考え、トレーニングの狙いを逆算してみましょう。

・手は肩の真下で外向きにして骨で支える。

これはスプリント動作との類似性を確保するためのポイントだと考えられます。スプリント時の腕の振り方は、内旋させながら後ろに振って外旋させながら前に振り出すような形になります。このトレーニングの体勢で肩関節は屈曲外旋位を取っており、これはスプリント動作で腕を前に振り出した状態に対応します。また、スプリント中に腕に余計な力が入ることはないので、肩の真下に手を置き骨で支えるようにすることでこのトレーニングにおいても腕に力が入らないようにしていると考えられます。

・お尻をできるだけ高く上げる。

これはハムストリングをしっかり伸ばすためのポイントだと考えられます。お尻をしっかり上げることを意識すると膝が伸展し、股関節が屈曲されるためハムストリングを最大限伸張することができます。


・胸椎伸展、骨盤前傾させる。

これは広背筋を張るためのポイントだと考えられます。先ほどの太田さんの動画を見てみても、最初に胸椎伸展位を作った状態からトレーニングを始めており、これによって背中が丸まらないようになっています。ちなみに、僕は背中が完全に丸まってしまっていたのでまだまだです…



こんな感じでも広背筋にはしっかり効いており、トレーニング後の筋肉痛は広背筋が一番酷かったです。

・しっかり爪先立ちをする。

これはスプリントの爪先離地の直前の状態を再現するためのポイントだと考えられます。下のムバッペのスプリントの画像を見てみると爪先離地の際に明らかに左足の足底腱膜が張った状態になっていてここから爪先離地の瞬間に足底腱膜が収縮し地面を押す力に繋がることが容易に想像できます。例えるなら、最近話題の厚底マラソンシューズをムバッペの左足のように屈曲させた状態から一気に離すと勢いよく飛び上がるといったところでしょうか。


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・足を地面に突き刺す。

これも上で述べたような足底腱膜のバネを利用するために必要なポイントだと考えられます。突き刺すという表現はバネを利用する感覚を掴めるように意図されたキューイングだと推測できます。

以上まとめると、このトレーニングはスプリント動作の特に爪先離地のタイミングにフォーカスしたトレーニングであると考えられます。また、sunnyさんが以前記事にしていらっしゃった通り、爪先〜下腿三頭筋〜ハムストリング〜広背筋の連動は極めて重要です。


このトレーニングにおいては、下腿三頭筋、ハムストリングはそれぞれ収縮、伸張した状態でキープされておりほとんど動いていないという点ではスプリント動作との間に多少のギャップはありますが、爆発的なスプリント動作の基礎である広背筋の収縮が維持された状態で爪先で力発揮しているので、スプリントに繋がる基礎トレーニングと位置付けられると思います。


3.Cheetah walk



これは先ほどのBear walkの発展形と捉えることができます。

sunnyさんに教わったポイントは以下の通りです。

・手は肩の真下で外向きにして骨で支える。

・しっかり爪先立ちをする。

・肩甲骨を寄せて体を落とす。

これらは、先程のBear walkと全く同じポイントです。(スプリント動作に類似した腕の位置、腕の脱力、足底腱膜のバネ機構の利用、広背筋の収縮)

加えて、以下の2つのポイントを教わりました。

・膝は股関節の真下。

・体が並進運動をするように。

膝を股関節の真下に置くと意識しておかないと前に進むことを意識するあまり膝が股関節よりも前に出ることになり得ます。この状態では大腿四頭筋に無駄な力が入り、拮抗筋であるハムストリングは弛緩した、スプリント動作とはかけ離れた状態になってしまいます。それに加えて、膝が股関節よりも前に出た状態だと膝を抱え込むような形になり、どうしても肩甲骨の寄せが抜けて背中が丸まりやすくなってしまいます。広背筋が張っていることはスプリントの前提条件なので、背中が丸まる可能性のある動作は避けなければなりません。

また、体が並進運動をするようにというのは、地面と平行に動くように意識することで体が無駄に浮きすぎることを防ぐことが狙いだと考えられます。体が浮きすぎてしまうと手が地面から大きく離れてしまい、これまた肩甲骨を寄せた状態をキープすることが難しくなってしまいます。足底腱膜のバネをうまく使うことはとても大事ですが、それによって広背筋の力が抜けてしまっては意味がありません。

爪先で弾性的な力発揮をしている状況においても広背筋の収縮をキープするという点では、Bear walkと共通しており、トレーニングの目的としては同じであると考えられます。ただ、Cheetah walkはBear walkに比べて脚が大きく動く分、広背筋の収縮をキープするのが難しいので、より発展的でスプリント動作に近い実践的なトレーニングであると言えると思います。



4.Back walk



ラストは、Back walkです。

今までの3つのトレーニングをやった後にこれをやるとめちゃくちゃキツイです。

意識するポイントとしては、上の2つと同様に手を外向きにして肩の真下に置くこと、しっかり爪先立ちをすること、爪先は安定する位置(骨で支えられる位置)に置くこと、顔を進行方向に向けることです。

手の位置、爪先立ちに関しては上2つのトレーニングと同じです。

爪先の位置に関しては、骨で支えられる位置からずれた位置では、そもそも爪先立ちをするのが難しく、そこから無理に爪先立ちをしようとすると下腿三頭筋が過剰に収縮してしまいます。実際のスプリント動作の爪先離地時に下腿三頭筋はそれまでの伸張性活動によって貯蔵された弾性エネルギーを利用して力発揮しているために、筋活動自体が低くなっています。そのため、スプリント動作との類似性を考えると、下腿三頭筋の過剰な力発揮は抑えられるように筋肉に力を入れずに骨で支えられる位置に爪先を置くのが良いと考えられます。

顔を進行方向に向けるというのは、首を伸展させると言い換えることができます。これは僕の実感に過ぎませんが、首を伸展させることでより広背筋に効かせられたように感じました。首伸展筋と広背筋の間に繋がりがあるのでしょうが、ここは僕の勉強不足ではっきりとした説明ができないため、感覚的な説明になってしまいました。

また、このトレーニングが上の2つと違う点は重力がかかる方向と股関節の角度です。

上の2つのトレーニングにおいては重力がかかる方向は背中から腹の向きで股関節は屈曲位を取っていたため、ハムストリングはほとんど力発揮をしていませんでした。一方、このトレーニングにおいては重力がかかる方向は腹から背中の向きで股関節は0度をキープしており、お尻が落ちるのを防ぐためにハムストリングが動員されます。

つまり、このトレーニングにおいては広背筋、ハムストリング、足底が力発揮をしており、これまでのトレーニングよりも高いレベルで身体の連動を実現したトレーニングであると言えると思います。



まとめ


これらのトレーニングを行なった後に(実質30〜40分程度)、最初のHOPトレーニングやスプリントを行ってみると恐ろしいほどに体が軽くなっていて驚きました。

ただし、今回この記事を通してトレーニングの背景を考察してみた結果、アキレス腱や足底腱膜のバネ機構の利用、広背筋〜ハムストリング〜下腿三頭筋〜足底の連動のほんの基礎の部分といった極めてシンプルなものしか扱っていないと感じました。


人間の身体の基本的な構造を理解し、それを活かすための超地味なトレーニングをするだけでパフォーマンスは飛躍的に上がる。


これが今回の記事を通して僕が出した結論です。
パフォーマンスを上げるためには、とにかく身体を理解することが重要だと改めて実感しました。

この記事を読んでこれらのトレーニングに興味を持った方は是非実践してみてください。

きっとあなたのパフォーマンスは飛躍的に向上するはずです。


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writer:田所剛之
土佐94→東大理一/東京大学ア式蹴球部学生コーチ兼フィジカルコーチ


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