聴くことだけに集中すると
音楽を聴くのが好きだ。授業中以外は、だいたい起きてから寝るまで音楽を聴いているが、私はその度に罪悪感を抱いている。この時抱く罪悪感とは、音楽を作った人達に対して「ちゃんと聴かなくてすみません」というものだ。
私が何かをしながら聴く音楽はただのBGMであり、アーティストが一生懸命考えた歌詞も、奇跡的に思いついたかもしれないメロディーもほとんど耳に入っていない。
音楽は私の周りで流れ続ける。音楽を聞いていたら落ち着くのは、何も無い場所に「なにか」がある安心感からだろうか。音楽は私の寂しさを埋めるためのものなのだろうか。そんなことを考えていた矢先に、音楽を「ちゃんと」聴く機会がやってきた。
先日、北海道の新冠町にある、レ・コード館に訪れた。ここは約100万枚のレコードを収蔵している博物館で、館内ではレコードの仕組みや歴史が知れる他、実際にLPでレコードを聞くことも出来る。
私たちは事前申し込みをしていたので、奥行3.4メートル、開口部が1.7メートルの大きくレトロなスピーカーでレコードを聴いた。それも、ふわふわの椅子に座りながら。
レ・コード館のコレクションの中から好きなものを聴けるので、赤いスイートピーとtake fiveをリクエストした。
一音目が流れた瞬間、私はこのレコードが作られた時代のことを想像した。きっとその時代に生きた人達は、とても感動しただろう。針を落とすだけで、いつでも松田聖子ちゃんの声が聴けるのだ。take fiveを聴いた時には、まるでジャズコンサートにいるような感覚になり、目の前にサックスやドラムが見えた。演奏者の息遣いまで聞こえてきそうだった。それに加え、「そんな難しいことをしていたのか」とイヤホンではよく聞こえないものが聞こえたり、なんだかアーティストたちの思いも伝わってきたような気がした。
音楽だけに集中することの意義を心から感じた。
何も持たずに聴くためだけに椅子に座り、目をつぶる。すると、見えてこなかったものが見えてくる。その見えていなかったものこそが、寂しさを埋めてくれるものの正体だろう。レコードで聴いたことで気がつけたのだ。昔から大切にされているものには、いろいろな人の想いが含まれている。それらに触れることで、また新たな気づきを得られるだろう。
来週は「集中」でよろしく。
23/11/17 南
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