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「重要文化財の秘密」展

重要文化財の秘密展行ってきました。

私が一番印象に残った作品は下村観山の「弱法師」(大正4年 東京国立博物館)です。
同名の能楽を題材とした六曲一双の金地の屛風絵で、いくら見ていても飽きることのない美しさ。折り曲げて立つ屛風の特性を活かした「右から見える景色と左から見える景色の違い」も趣深く、どちらも美しい梅が際立ちます。

下村観山「弱法師」 右から見た景色


下村観山「弱法師」 左から見た景色


描かれている梅の木はそれ自体は決して美しい姿ではなく、苔むし折れたままの枝と若い枝が乱雑に交差していて手入れされている梅の木ではない事が分かる。それでもちらほらと咲く梅の花と日輪に向かって咲き誇る梅の花は屛風が折られる事で凝縮され生命感あふれる姿で迫ってきます。
右隻に描かれた弱法師(俊徳丸)は左隻に描かれた日輪に手を合わせていると解説されてますが、その表情は満ち足りていてありがたやと手を合わせているというよりは梅の香を愛で寿ぎその花びらをそっと受け止めようとしているように見えます。
まん丸の日輪はどうやって描かれたのかなぁと近くで散々見ましたが、際の部分は何度か塗り重ねた跡があり、それが貼り付けたような丸ではなく丸々とぽっかり浮かんだ印象を与えているのかなぁと思いました。

もう一つ時間を忘れて見入ったのは、高村光雲「老猿」(明治26年 東京国立博物館)です。

高村光雲「老猿」

この作品はとにかくどの角度から見ても本当に魅力的で、今にも動き出しそうな一瞬を切り取ったポーズ、何かに見入っているような表情、木彫である事を忘れさせる力強い毛並みと艶(つや)やかな口元、写実性だけではない仁王像にも近い様式美のようなものも感じられる存在感と美しさを感じました。

高村光雲「老猿」 後ろ姿

後ろ姿は逞しく引き締まっている。しかし少しその背は丸く哀愁漂うようにも見える。正面の表情とは裏腹に腰は全く浮いていない。そこに「老い」があるように感じられる。この後ろ姿が私はとても印象的でした。

さて、洋画では
有名な高橋由一の「鮭」ですが。
正直ちょっと地味で驚きました。
もちろん絵自体は素晴らしいのですが、今まで印刷物でしか見たことがなかったので、実物の色味がとても落ち着いていることに驚きました。

高橋由一「鮭」

図録含め印刷物で見るともっと青みが強く魚の皮が青白く光っているように見え生魚に近い色味に見えるのですが、実物は青みは全く強くなくむしろ干物の質感が強い。皮に皺がより凸凹している様子からも生魚というよりは干物ではないかと思うのですが腹は裂けていない(お腹に赤い筋がうっすら見えるのは裂けてるのか!?)。

高橋由一「鮭」 一部拡大

リアルな鱗も拡大してみると緻密に描き込んでいるというよりは必要最小限で最大の効果をもたらしているように感じます。拡大してみると鱗よりもむしろ身の切り口の方が緻密で写実的に見えます。
鮭を吊るしているひも(麻縄?)もとても質感が豊かで、そのささくれだったひもの毛羽立ちが繊細で美しいなぁと思いました。

もう一点、有名すぎる岸田劉生の「麗子微笑」(大正10年 東京国立博物館)はとにかく毛糸の表現がエグい。

岸田劉生「麗子微笑」 一部拡大

実物を間近で見ると毛糸の編み目や毛羽立ちまでも本当によく表現されています。特に首周りの近くの黄色い毛糸の上に赤い毛糸の毛がうっすらとかかっているようなところなどとてもリアルです。しかし麗子本人の顔や髪などはあまり写実的ではない。むしろデフォルメされ簡略化されているようにも見えます。絵画と写真の違いはこういう部分にあり、それこそが絵画の魅力なのかもしれません。
これまで何点か麗子像は見てきたけれど、正直不気味であまり好きじゃないな…と思うこともあったのですが、この麗子像は愛らしく温かみがありとても好きだなぁと思いました。

さて。
平日でも結構な混雑ぶりでしたが、順路を追わずに空いてるところ空いてるところ…と回ると時間はかかるけど比較的ゆっくり鑑賞できました。
横山大観の「生々流転」は近くで見るためには行列に並ぶ必要があり、上野のパンダ舎の様に止まらずに横歩きしながら鑑賞しなければならず、この日本の展覧会システムいい加減なんとかならんの?と思わずにいられませんでした。
なんでどこもかしこも絵画展は激混みなんでしょうねー。
まぁ事情については色々取り沙汰されてはいますが、国内所蔵の作品くらいはもう少しゆっくりと鑑賞したいものです。

生々流転は初めて本物を観たのですが、あんなに長いとは!
そしてその途切れなさ加減!!
薄墨のムラの無さとか切れ目の無さとか「……どういうこと?」
そこへポツポツと描かれる動物や人々の営みは本当にちっぽけであっという間に大きな流れに飲み込まれていくようなそんな絵でした。
前後何も見えないような靄の中小さな舟を漕ぐ3人の人と沢山の松の木に律儀に描き込まれた松ぼっくりが個人的にはお気に入りです。
鑑賞の列は人や動物の描き込まれていない部分は素通りされる方が多く、私が観ていると「間を空けずに進んでください」と係の人に言われたのが辛かった……(前の人が素通りしたら続いて素通りしなきゃいけない謎システム!)。特に最後の大きなうねりと渦、そして静けさがあり、落款、という一番の見どころもほとんど誰も観ずに次行っちゃうのもったいないなぁ。残念だなぁ。と思いました。
人それぞれなのでいいんですけど。まぁそもそも列を乱さず立ち止まらず絵を観るって何!?って事なんですけど(苦笑)。

さすがは重要文化財なだけあってどの作品も見応えは充分。
とても勉強になりました。
途方に暮れる気持ちにもなりましたが、何でもできる!みたいな希望も感じました。

菱田春草の「黒き猫」は後半の展示らしいので、後半もう一度行けたらいいなぁ。

さて、最後に、『展覧会』『美術展』に対して最近ちょっと思うこと。
あくまで個人的感想ですが、どの展覧会も激混みな上にイヤホンガイドや最近ではカメラ撮影のため長く作品の前で立ち止まる人も多く、なんとかならないのかなぁと思います。いや、鑑賞してる人は長く立ち止まっててもあまり気にならないんですけど、作品の真正面でずっとカメラの設定してる人とかイヤホンガイドずっといじってる人とかは正直ちょっと邪魔だなぁと思ってしまうことあります。
会場にいる係の人も「リュックを前に」とか「それは撮影禁止です」とか主に注意をする係の人で、作品のことを質問したくても学芸員さんがいないことが多い(いるかもしれないけど、私が質問したいと思った時にはいたことが無い)のも残念かなぁ。
あとはなんといっても観覧者に高齢者が多く若い人がほとんどいないのは本当に寂しい事だと思うし残念だなぁと感じます。でもあまり興味がない、よく分からない美術展が空いてるならまだしも激混みしかも年齢層高い、ってなったらやっぱり同じお金払うなら違うとこ行きますよねー。
いや、高齢者が悪いってわけじゃないんですけど(私ももう半分高齢者みたいなもんなんで)、なんていうか、誤解を恐れずに言うと美術展が時間とお金のある高齢者の暇つぶしみたいな位置付けみたいな状況がなんか嫌だなぁ、もったいないなぁと思ってしまうんです。綺麗な景色とかかわいい雑貨を見に行く感覚でもっと展覧会観に行く若い人が増えたらいいなぁ、と。
あくまで個人的感想です。はい。

あ、もうひとつ最後の最後にーー。
今回の図録がとても良い。とお伝えしたいですっ。
最近の美術展の図録は図版が小さくて満足度が低いものが多かったんだけど、今回の図録はいい!図版がすごくいい!です。
それでもやっぱり色味や質感は実物観た後だと結構違うなぁと感じますが、とはいえ今回の図録は大満足でした!
オススメです。

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