名月という
こんばんは。
今夜は中秋の名月なんですってよ。
あなた今夜の列車に乗って行かれるの?
そう、それはようござんしたね。
では、お達者で。
月を見るたび思い出す月。
あの日のあの窓から昇って来た本当に大きく馬鹿みたいに明るい満月。
山と山の間から伸びる国道に光を射して大きな大きな黄金の月どんぶらこ。
今思えばあの窓から月など見えはしないのに。
月が追いかけてくるよ。
どこまでもついてくる。
そんなありきたりなことを言った。
言ってみたかった。
だってまだほんの子供だったのだもの。
あなた、あの列車に乗ってしまったらもう戻っては来られませんのよ。
知ってらっしゃる?
あれは火車ですよ。
片道切符の地獄行き。
お分かりになる?
あなた正気を失っていらっしゃるわ。
きれいな月ですもの。
正気など意味ありゃしません。
だってこんなに綺麗な月ですもの。
ああ月がね、光っているの。
本当に綺麗なつきですものね。
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