劇場版おっさんずラブの春田と牧のこと

劇場版の春田と牧はものすごーく生々しかった。
ほんとに自分の身近にこんな二人が生きていそうな感じで『あれ、いつの間に彼らはこんなに私たちの近くに来ていたんだろう』と思った。

わんだほうからの帰り道、きんぴら橋のシーンはめっちゃ照れた。
気心の知れた友達カップルの、普段は見ない二人きりの時のプライベートな顔をうっかり目撃しちゃった感じ。『え? これいいの? これ見ちゃって大丈夫?』ってなりました。照れた。

春田と牧がドラマのラストで両思いになってから一年。遠距離ではあっても、彼らはしっかり恋人としてその時間を過ごしてきたんだなとわかった。

香港の春田の部屋にやってきたときの「ニイハオ」は、牧くんもこんな風に浮かれるんだって意外で可愛かった。
「まきまきまき〜!」って迷わず飛びついたとき、あの春田が牧への「好き」を全身で表現していることにびっくりしたし、帰国した日の夜も酔っ払いつつ真っ直ぐ抱きつきにいっててまたびっくりした。そしてそこにさらりと挟まれる「ぜんぜん酔ってねぇから」のニュアンスの生々しさ。ほんとに恋人同士……。

春田は、たとえばジャスとはバスケでじゃれ合うようなことはあってもスキンシップはしない。当たり前だけど。自己紹介の時にはハグされて「近いな」って言いながらやや体を反っているように見えるし、サウナの時には心の距離は近づいてるけど「ばかやろう」ってツッコミを入れる風にしながらジャスには触れずに自分の太ももを叩いてる(ここ個人的にすごくツボだった)
誰にでもオープンなように見えて、春田の中にはちゃんと線引きがあるんだなと思った。

それでいくと、黒澤部長とのハグには信頼と親愛がちゃんと見える。春田が帰国して営業所に帰ってきた日の二人は互いの肩越しにいい顔をしていて、こっちまでほんわかした気持ちになった。部長もまた、春田にとっては恋とは違った場所にいる大切な人なんだなと感じた。

そして、その上でやっぱり「牧」だけが他の誰とも違う。そこにぐっとくる。

劇場版はほんとに、二人でいるときの目線とか触れ方とか、何より空気がすっかり恋人だった。互いの肌を知っているんだとわかる。互いへの気持ちを育ててきたんだとわかる。二人でいるところを見ているだけで、劇中では描かれていない彼らの経てきた一年間を感じさせてもらえることにすごく驚いた。役者さんって凄まじい……こんなところまで表現出来てしまうのか。

きんぴら橋のネクタイをひっぱるシーン、良いなぁ。
牧くんの色っぽく挑発的な、でもいたずらっ子のようにも見える顔と、またそれを受けての春田の表情がほんっとーに素晴らしかった。戸惑いつつも満更じゃなくて、思わずデレっとニヤけちゃう感じ。甘い共犯の空気。人目を気にしてちらっと後ろを向いちゃう一瞬。どこを切り取ってもすごい。
同じように周りの目を気にしていても、連続ドラマの第5話の時とは意味がもうまるで違う。春田の気持ちの変化がちゃんとわかる。
いろんな方が仰っている田中圭さんの受ける芝居の凄さというのはこういうことなんだなと改めて感じた。

きんぴら橋の後、駅で別れるときの振り返りも付き合いたてみたいな初々しさがあって、甘酸っぱくて良かったなぁ。
ここ最初、春田の両手がぷらぷらと泳いでるのが名残惜しさを感じられて良くて。その後のバイバイの手の振り方も可愛くて。
春田→牧→春田ってカットが切り替わるのが素敵だなと思うのは、映っていない相手のことまでお二人の芝居でちゃんと見えるから。
二度目の春田のカットでお口がへの字になってるのがたまらなく可愛くて、恋しそうな離れがたそうな何とも言えない目の切なさがあって、その後のおどけた仕草に愛情が透けるのもまた良くって、春田〜こんな顔するのか〜恋してるんだな〜としみじみしてしまう。

劇場版ではドラマの先の二人が見られて、春田から牧への愛をたくさん感じられたのが嬉しかった。
記憶を失った部長に「ちゃんとお付き合いしている人がいて」って言うのとか、牧のお父さんに「そういう時こそ二人で支え合っていきたいと思っているものですから」って言うのとか、二人のシーンじゃなくても春田の言葉から「二人」を感じられたり、連ドラからリアルタイムで応援している身としてはそういうのにいちいちニコニコしてしまう。

そもそも冒頭で指輪! 買ってた……! 指輪なんて買うようになったのか〜春田〜とここでもしみじみ。ウィンドウ越しにキラキラ光る指輪を見て、指輪→牧。綺麗→牧。Forever Love→牧。みたいな、このめちゃめちゃ単純な連想が春田っぽくてほんと可愛い。指輪買って顔が嬉しそうなのもまた可愛い。

単純と言えば、狸穴さんとのホテル対決で「このまま時の流れに身を任せれば、狸穴さんは牧にはいかない」って自分を差し出そうとするとこ笑った。あかーん。『いやいや、何でそういう思考回路になるの!?』っていうところが春田っぽくて、でも愛は感じたよ。

お祭りの時の「牧ってベビーカステラみたいな顔してるよな」にも笑ってしまう。笑っちゃうのに、あそこ泣きそうにもなるんだよなぁ。胸を突かれてじーんとなる。このベビーカステラは恋愛ドラマ史に残る名台詞だと大真面目に思っています。愛情しか感じないアドリブをありがとう……ほんとそういうとこです座長。

(思えば、連ドラ第5話の思わず自分のハットを牧に被せちゃう春田も、第6話の春田が作ってくれたものならお餅でも食べようとする牧も、中のお二人が春田と牧を生きてくださったから思いがけず生まれた数々のアドリブシーンには、本当に愛を感じる。)

約束の花火大会のシーン大好き。待ち合わせのちょっとぎこちない二人。春田の甚平も牧の浴衣もすごく似合ってる。

あの横からのショットだけで、牧くんちょっと緊張してるなっていうのがこっちに伝わるのがすごい。春田に声を掛けられて一瞬びくってする感じとか、あのバトルサウナの後だから若干気まずそうなのとか、過労で倒れてしまって後ろめたそうなのとか。一つ一つが細やかで素晴らしいなぁ。

浴衣で待ってる牧くんの姿はただただ美しく、春田目線でドキドキしてしまった。

余談だけれど、この二人は恋の始まりから一緒に住んでるので「待ち合わせをする」っていうシチュエーションが新鮮できゅんとなった。これから一緒に暮らしてもたまに待ち合わせしてデートして欲しい……。

そして春田の「行こうぜ」の表情や声音、あの繊細なニュアンスはちょっとすごすぎないですか圭さん……。ほんの少しの照れくささ、隠しきれない嬉しさが滲んでる。

立ち止まって二人で花火を見上げて、春田が牧の手をとる前の、横顔を見つめるわずかな時間にとても大事なものが詰まっていて胸がきゅーっとなる。
ここほんと何度観てもすり減らない場面。愛おしさが伝わってくるし、だから手を繋ぐことがとても自然に感じる。はー……すごいなぁ。そして手をつないだ後の春田の子どもみたいな得意げな顔。

一人でこっそりポケットから指輪を取り出して見つめるあの表情も良いんだよなぁ。わざわざ甚平に入れてきたってことは花火を見ながら渡すつもりだったのかな。もし喧嘩にならなかったらどんな風に渡したんだろうと考える。そのルートの花火大会も見てみたかった。

喧嘩のシーンはつらくって、好きなのにすれ違っていく二人を見てると切なくて泣けてしまう。ただ、つらいけれど、春田と牧を生きるお二人の芝居がすごすぎて、また心が震える。

「だったら一生一人で抱えてろよ!」は、怒鳴ってるのにものすごく愛を感じるから好きなんだよなぁ。ああ、春田は本気で牧と一緒に生きていくつもりなんだなって実感出来る場面。

「牧ほんと変わったよな」「春田さんが成長してないだけでしょ」

私は連ドラから一年経ってこの映画を観たときに『春田めっちゃ変わった……成長してる……』っていう感動がまずあって、と同時に『牧くん……ややこしいとこ全然変わっとらん……』って思ったから、ここで二人が逆のことを言ってるのが余計に切なくてドラマチックで……『ええ〜!? 逆やん!?』って。

今回の劇場版を見て感じたのは、部長は春田にとって大切な人であると同時に、牧にとっても重要なキーパーソンとなる人物だったんだなということ。なぜか部長が絡むと牧くんは感情を解放できる。

サウナのシーン、部長がまた春田に恋心を表した途端、牧くんの顔が一瞬でファイトモードに変わるのとかすごい笑った。

牧くんって一見強気なようで、実は感情をぐっと抑え込んでいるタイプに見える。自己肯定感が低そうに見える。心のどこかで「自分なんか」と思ってるから言葉と振る舞いがちぐはぐになってしまったり、ただただ臆病なだけの行動が自分勝手に見えてしまったりする。

春田と牧、劇場版の二人はどこからどう見ても恋人だったけれど、恋人として過ごした時間はまだ一年。しかも離れて過ごした一年。牧はまだ、本当の本当には春田の気持ちを信じきれていなかったんだろうなーと思った。片思いのときには何も考えずに言えていた文句も、付き合い始めてからは逆に言えなくなったりしたかもしれない。

「結婚って本気で言ってます?」は「春田さん、本当に意味わかって言ってます?」っていう不安を遠回しに表現しているんだと思うし、でもまぁ伝わらんよねぇ……。言葉を言葉通りに受け取る春田と、言葉の奥に違う気持ちがあったりする牧。「焦ってすることない」とか核心から逸らした言い方するから、春田の「いや、焦ってはないけど」でまたずれていく。

部長に「カッコ悪いところも全部見せ合えるのが本当の愛じゃねーのかよ!」って言われたとき、牧は結構ハッとしたんじゃないかなと思った。
劇場版の部長は可愛くて格好良かった。連ドラでは春田の背中を、劇場版では牧の背中を押してくれた。

私は牧くんのことをややこしい面倒くさい人だなぁと思いながらとても好きなんやけど、牧くんのどういうところにどう惹かれているのか、なぜ「牧凌太」という人物がここまで人気で、こんなにもたくさんの人たちに愛されているのか、その良さを未だに理解しきれていない気がする。不思議な人。

たとえばジーニアス7が営業所に乗り込んできた日、牧くんが「必要なものだけ」ってそっと声掛けするのとか、炎の廃墟で部長と激しく言い合いしながらも、部長が上に登る時にはお尻を押してサポートしてあげてたりとか、彼の育ちの良さというのか、ごく自然に備わった優しさみたいなものが垣間見えるシーンはシンプルに好き。
ただ、そういう目に見える部分とはまた別に、何か見えない大きな魅力、引力がある人なんだろうなと思う。

林遣都くんがインタビューで牧という人物を「心が綺麗で自己犠牲に生きる」って表現されていたのを見て『牧くんの中の人は牧くんのことをそんな風に思ってたの!?』ってすごく驚いて……何だろう……こんな方が牧を演じてくださって本当に良かったなぁと思ったんよね。正直自分は牧のことをそんな風に捉えていなかったのでびっくりして『それはむしろ遣都くんの心が綺麗なのでは……?』と思ったよね。

牧くんにはどこか品がある。ひたむきで、春田のことが大好きで、自信がないくせにたまに突然大胆で、でもその奥にくすむことのない陰ることのない不可侵の純粋さみたいなものがふと光る。あと笑顔がほんとに印象的で、だからこそ連ドラ最終話、春田があのチャペルで牧の笑った顔を思い出しながら自分の気持ちに気づく瞬間にも説得力が生まれる。牧の魅力を紐解こうとすると、どうしても役者・林遣都の存在に辿り着く。他の誰でもなく、彼が生きてくれたからこの牧くんになったのだと改めて感じる。

連ドラ第2話のコメンタリーで遣都くんが「圭さんが演じることで春田が愛される人物になってる」っていう意味のことを言っていたけれど、それはそのまま遣都くんにも言えることだと思う。そして遣都くんがそういう牧を作り上げることが出来たのは、やっぱり圭さんと春田の存在があってこそなんだろう。お互いがお互いに反射して、どちらが欠けていてもだめだった。

圭さんはずーっと圧倒的な座長だった。皆に愛されてるとこがほんと春田みたい。何より、春田創一として生きてくれたそのお芝居がすごかった。たとえば連ドラ第5話のちずちゃんとの海での会話、「俺は……まぁ……うん」のあの表情とか本当にすごい……。そういう瞬間が積み重なって、ファンタジックな物語をぐっとリアルにしてくれていた。

おっさんずラブは2018年連ドラの放送終了後にますます盛り上がりが加速していったように思う。関連書籍やグッズの販売があったり、座長のテレビ番組のゲスト出演があったり、テレ朝夏祭りがあったりとずっと賑やかだった。いろんな媒体でたくさんインタビューを見たし、作品はいつのまにか社会現象と言われるようになって賞を受賞したり、様々な場所で見かける圭さんの名前の横には「ブレイク俳優」の文字が躍ったりしていた。

ただ、そんなあの時期、私は多分ほとんどの媒体に目を通していたけれど、圭さんはブレずに春田から牧への愛情を惜しみなく口にしてくれていた印象がある。こちらがびっくりするくらい。おっさんずラブという作品を少しちゃかすような空気があった時もそれを上手に受けながら、けれどおもねることなく春田として確かな気持ちがそこにあったことを真っ直ぐに答えてくれていた。そんな座長の姿は「おっさんずラブ」のことも作品のファンのことも守ってくれているように感じられて嬉しかった。愛した作品を中の人も大事に思ってくれるって、ファンとしては本当に嬉しいんですよね。

あの頃は圭さんの言葉で「春田ってそんなに牧のこと好きだったんだぁ……」と改めて実感していく不思議な日々で、作品はもちろん作品としてこれ以上ないほどきちんと完結していたし、あの多幸感溢れるエンディングに充分満ち足りていたのだけれど、中の人の言葉でそんな風にさらに味わい深くなるというのはとても幸せだった。稀有な体験をさせてもらったなと、今思い出しても心があったかくなる。

***

劇場版の話に戻ると、語りたいところはまだまだあって。

まずオープニング! 連ドラを振り返るあのオープニングが素晴らしくって胸がいっぱいになる。初見のとき、あそこでもう涙が出たなぁ。
対してエンディングは芳名帳の「春田創一」の文字がほどけて「田中圭」になる演出が素敵だった。「牧凌太」から「林遣都」になるバージョンも見たかったな。

そしてサウナ。部長に「楽勝〜」って言われて牧じゃなくて春田が「楽勝じゃないっ」って否定するのとか、「好きな焼肉はハラミ〜」って言われて春田じゃなくて牧が「違いますよ」って冷静に修正するのとかがとても愛しい……。「好きな俳優は斎藤工〜」って言われて「そうなんですか!?」って思わず春田に聞いちゃう牧は可愛すぎるし。狸穴さんが出てきた途端に春田のヤキモチ全開が見られるのもいいし。

サウナのシーンさぁ、バトルシーンなのに二人ラブラブじゃないですか……?

わんだほうのシーンもはずせない。ちずちゃん可愛い。ちずちゃん大好き。牧くんと仲良しになっててすごく嬉しかった。「時計は買いました」「いいじゃん〜!」っていうあの会話とかいかにも友達っていう感じで楽しい。

わんだほうのシーンでのツボは、ちずちゃんが「春田が浮気なんかするからでしょ」って言ったときに「してねえよ」って春田がマジなトーンで返すところ。く〜格好良い。たまにすごく格好良いんだよな春田。
あと部長が倒れた日、遅れてわんだほうにやって来た牧に自分の椅子の横を空けるところ。でも隣に座ってもらえなくって、ずりずりっと近づいて距離を詰めていくところ。も〜ほんと可愛い春田。
牧くんが春田と乾杯しようとグラスをあげるところも好き。乾杯した後で一瞬、春田の顔をじって見るところもキュートでデレっとなる。

そしてクライマックス。炎のシーン。

「牧じゃなきゃ嫌だ」

この台詞、後からシナリオを見たら少し違っててびっくりした。現場で皆で相談して変えたのか。何の打ち合わせもなく「春田」から自然とこぼれたのが名前だったのか。私には知るすべがないけれど、残ったのがこの言葉で良かったと心から思う。ありがとう圭さん。

二人きりで炎の中、春田と握り合う左手、でも反対の右手で牧くんは自分のスーツのズボンの裾をぎゅっと握りしめているんだよね。緊張してるのかな、春田から何言われるんだろうってこわいのかなって思いながら見てた。
でも、牧の閉じていたその右手は春田の言葉がほどく。そしてほどかれた手は春田の背に回る。包み込むように春田を抱き締める牧。しがみつくように抱き返す春田。
春田に「死んでも牧と一緒にいたい」っていう一生を込めた告白をもらえて良かったねと思う以上に、「俺も春田さんじゃなきゃ嫌だ」って自分の正直な気持ちを春田に言えて良かったね牧くん、と思う。

何度目かに劇場で観た時にふと、今こうして手を繋いでる春田と牧の、この瞬間の手のひらの感触や熱さ、どんな強さで握って握り返したのか、それはこの世界でたった二人しか、お互いしか知らないんだよなぁと思うとすごく泣けた。それって当たり前のことだし、どの作品のどのシーンにも言えることなのに、何故かこの場面にだけ強烈にそう思った。それこそが永遠だよなって。

牧が春田を助けにきて、春田は牧にだけは「先に行け」とは言わなかった。ジャスも部長も先に行かせたけど牧とは一緒にいた。ともに生きていく相手だから。牧は春田を支えながら歩いて、牧が足を負傷したら今度は春田がおんぶして。ああ、この二人はこれからの人生、どちらかがピンチの時はどちらかがこんな風に立って、助け合いながら生きていくんだろうなと思ったよ。

劇場版のことは、言うなればボーナストラックだと自分は思ってる。映画の制作が発表された当初から勝手にそういう感覚だった。それは全7話、あの連続ドラマのラストが一つの作品として完璧すぎるから。
劇場版は大好きな天空不動産キャストが集まって全力で見せてくださったお祭り、物語のちょっと先を描いたボーナストラックとして受けとめてる。いろいろと思うところもあるけれど、これからも大切にしたい。
ただ、春田と牧の関係性は、そこにある想いは、自分の想像を越えてぐっと濃かった。圭さんと遣都くんの一つ一つの芝居の情報量がとにかく多い。だからこんなに何度も観たくなるんだろうか。あの夏から秋にかけて、劇場に何度も足を運んだ。同じ映画をこんなにも観に行ったのは人生で初めてだった。

ラストシーン、どつき合いながらいちゃつく様子が春田と牧らしくて可愛くてきゅんきゅんする。ここの会話の間とか表情とかほんっとリアルよなぁ。春田と牧がただそこに存在してる。この場面も未だに見るたび照れちゃって体よじりそうになる。でもそのあとのキスはすごく綺麗で、神聖なものにさえ見えて、すごくときめくと同時に凪いだ気持ちにもなる。抱き合ったときのシルエットも本当に美しいんだよね。この二人はなんてぴったり重なり合うんだろうとドラマでも劇場版でも思う。

キスのあと、牧をぎゅうっと抱き締めたときの春田のあの顔。あれはちょっとすごいね……。生み出そうと思って生み出せるものではない気がする。あの顔を圭さんがどこまで意図して作ったのかはわからないけれど、心と直結した体の反応というか、意図を越えて生まれてしまった顔という感じがする。「何があっても離したくない」と叫んでるように見えるんだよ。心から愛していなければ生まれなかったであろう瞬間。春田のあの狂おしいような表情を見るたびに切なく、たまらない気持ちにはなるんだけれど、私はあの顔を見られたことが嬉しいし、永遠にフィルムに残ることを尊いと思う。

そして対照的な牧くんの顔。ゆったりと幸せそうな満ち足りた顔。あの顔を見たとき、牧くんはやっと安心できる場所に辿り着いたんだなぁと思った。春田から愛されていることを信じられるようになったんだ。春田と歩いていくこれからの人生の入り口に立ったんだ。

「海外に転勤する牧とそれを見送る春田」のシーンなのに、牧くんの方が「大丈夫だよ、いってらっしゃい」って愛情で包んで送り出してるように見えて涙が出る。それは同時に、春田が帰ってくる場所はたった一つなのだと確信することでもある。初見のとき、二人の手に指輪を見つけて本当に嬉しかったな。

おっさんずラブってすごくファンタジックなのに、なぜか自分の現実に照らし合わせてしまうというか、連ドラを見たときは「自分はたまたま今まで異性しか好きになったことがないけど、春田と同じ立場になったときどうするんかな。突然そういう恋をすることだってあるかもしれんよな」と考えたりした。
初めて劇場版を観終わったときは『春田めっちゃ成長してる! 私はこの一年でちょっとは成長したんやか』って思ったり、『周りの人をもっと大事にしたいなあ』とか『全力で愛したいなあ』とか『シンプルに恋っていいなあ、恋したいなあ』なんて思ったりした。最初のそういうキラキラした気持ちを、そんな風に感じていたってことを、覚えていられたらいいなと思う。

いろんな人から愛されてきた春田が初めて自分からたった一人を決めて愛していくおっさんずラブの物語は、自分から愛することは出来るくせに臆病だった牧が一人の相手と向き合って愛を受け入れていく物語でもあった。春田と牧は不思議なくらい何もかもがぴったりだった。

いい作品って不思議な偶然が続いたり、たくさんの小さな奇跡みたいなものに守られている気がするけれど、天空不動産はまさにそういう作品だったと思う。神様のちょっとした応援が入るというか、ささやかな魔法がかかるというか。それは見えにくくなってもちゃんとあって、きっと今もあって、いつかこの作品を愛した人たちにもう一度ギフトを贈ってくれるんじゃなかろうか。どんな形でかはわからないけれど、ああ今までのしんどいこと全部この日のためだったと思えるような幸せな瞬間がいつか訪れるような気がする。このままじゃ終われないでしょう。それは五年後か十年後か、そんなことを想像しながら、ちょっとでも春田と牧くんが生きやすい世界になるような選択をしながら、自分の人生をこつこつ生きていけたらいいなーなんて思う。

最後に、田中圭さんと林遣都くんという二人の素晴らしい役者さんが春田と牧という役で出会ったこと。これまで共演がなく特別親しくなかったこと。この役がきっかけでぐっと仲良くなったこと。中の人たちの見た目も含めた春田と牧のフィット感。お二人が同じ志と熱量でおっさんずラブという作品と向き合い、全力で役を生きてくださったこと。何もかもが奇跡に思える。
圭さんと遣都くんが春田と牧を体現し、存在させてくださったことに心から感謝しています。すごいものを見せてくださってありがとうございました。

                            2020年8月2日


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