見出し画像

「ひなな」の価値が生まれる場所—【S!GNATURE】市川雛菜


基本情報と課題

 【S!GNATURE】市川雛菜は、2022年9月10日より開催された「月面を指でなぞって」ガシャで登場した市川雛菜の恒常P-SSR。

 コミュを読み解くにあたって考えたい課題は、以下のとおり。

  • なぜ"autograph"ではなく"signature"なのか

  • なぜ雛菜はファンの子にサインしてあげなかったのか

  • 雛菜がプロデューサーにサイン会の実演をさせた目的は何か

  • このコミュにおいて「人気のお団子」は何を意味しているのか

 最初に各コミュのあらすじを少し解釈も入れながらまとめ、次にこれらの課題を考察する。

各コミュあらすじ

HINANA:)

 

 どこかのお店のバックヤードにて。店舗特典のサインを書き続けて疲れた様子の雛菜に、プロデューサーは「力を抜いて書いてみたら?」と提案する。雛菜は「急いで書くとかわいくなくなる」と言うが、量の多さに疲れを隠せない。 プロデューサーは「たくさん用意してもらえるのも、それを欲しいと思ってもらえるのも、ありがたいことだ」と諭す。

選択肢①感謝を込めて書こう
→雛菜はどうしたら感謝を込めたことになるのか問う。雛菜が丁寧に書いてるのはあくまで、かわいく書けた方が自分が嬉しいからだと言う。

選択肢②だから丁寧に書くのもいいかもな
→雛菜はじゃあ今やってるとおりでいいねと流す。元気を出してもらいたいプロデューサーは欲しい飲み物を聞くが、雛菜は「なんか、甘いやつ~……」と生返事。

選択肢③それだけの価値があるってことだ
→その考えはなかった様子。それなら自分も楽しく書かないとね、と少しやる気を見せ、また書き始める。

283NG!

 放課後の学校にて。プロデューサーの迎えを待つ雛菜に、「あれ、モデルとかやってる子じゃない?」と声が。女子生徒2人組が写真やサインをもらおうとしてくるのを断っていると、迎えがきて車に乗り込む。

選択肢①遅くなってごめん
→「それはいいけど」と返す雛菜。ユアクマのブランケットをトランクから探し出し、着いたら起こしてと言って寝てしまう。

選択肢②雛菜怒ってるか?
→「口が尖ってる気がして」と言うプロデューサーに、雛菜は「怒ってないけど~……」と濁し、コンビニに寄りたいと話を変える。おかしをいっぱい買いたいらしい。

選択肢③何かあったのか?
→なんでもないことだけど、と前置きしつつ、雛菜は先程の出来事を話す。「雛菜のことを知りもしないなら写真にもサインにもなんの価値もないのに、不思議だよね」と疑問を呈す。

Follow/er

 雛菜の希望で、巷で話題のお団子屋へ行くことに。行列に2人で並んでいると、雛菜のフォロワーから声を掛けられる。「ツイスタいつも見てます」にはにこやかに対応するが、サインをお願いされると「もう行かないと」と断り、そのまま帰路につく。

選択肢①びっくりしたな
→声を掛けられるのはたまにあるから平気だよ、と言いつつ、中には迷惑な人もいるけどと語り、一方「今日の人は申し訳なさそうだったから、こっちもなんかごめんって感じだったよね」と言う。

選択肢②よかったのか?
→雛菜は「お団子のこと?」「ファンというかフォローしてますって言ってただけだよ?」とはぐらかす。ペンなら持ってたし、とプロデューサーがさらに追及すると、雛菜は「サインはしないよ」ときっぱり告げる。

選択肢③残念だったな
→何が?と確認する雛菜。お団子のことだとわかると安心した様子で、雑談を楽しむ。

PR♡DUCE

 十五夜に少し早い、月が綺麗な夜。プロデューサーはこの前のお団子を買って、雛菜を事務所に呼ぶ。うさぎの見た目をした可愛いお団子に雛菜も満足げ。
 プロデューサーが「普通に美味い」と言うと雛菜は少し考えるような表情を見せ、お店のHPに「希少」「最高級素材」「こだわりの一品」とあるのを読み上げる。それを聞いて「特別美味い気がしてきた」と言うプロデューサーを訝しみつつ、「これだけ売れてるんだから見た目も中身も含めて成功してるんじゃない?」と言う。
 いつか自分もスイーツのプロデュースをしてみたい、と言うが、お団子ではなくケーキのほうがいいらしい。

fan(tastic)

 事務所でひとり、サインのバリエーションを考える雛菜。プロデューサーに「パーツを多くしすぎて書くのに時間がかかりそう」と指摘されると、少し考えて、サイン会の練習をしようと言い出す。それも雛菜がファン役、プロデューサーがアイドル役で。戸惑いつつ頑張ってやってみるプロデューサーだが、雛菜にひたすらダメ出しを食らう。
 雛菜はプライベートでサインを求められたときの対応について、やっぱり今まで通りサインはしないことにする、と話す。

「その方が、なんか特別な気がするから」
「こうやって、会いに行ってもらったサインが」

 プロデューサーがそれに合意すると、雛菜は嬉しそうに笑うのだった。

考察

・雛菜にとってサインとは何か

 まず「HINANA:)」選択肢③から、サインにそれほど価値を見出していないことが読み取れる。(ちなみにこの場面でプロデューサーの考えを受け入れてはいるが、雛菜の価値観を変えるには至っていない。価値があると思う人もいるんだね~と心に留めて、モチベーションを上げる材料にしているのみである。)
 つまり、サインを書くのは雛菜にとって意義のあることではなく、単なる署名くらいのものでしかない。
 翻って、だからこそ顔を可愛く書いて少しでもモチベーションにしようとしているのである。
 本カード名が芸能人のサインを意味する"autograph"ではなく、署名を意味する"signature"なのは、そういう雛菜の「サイン観」を表しているのではないだろうか。

・なぜ雛菜はファンの子にサインしなかったのか

 「Follow/er」の場面で雛菜はサインを断ったが、あの時点ではまだ明確な方針があって断ったわけではない。「fan(tastic)」で結論を出すまでは、雛菜はなんとなく嫌だな~という気持ちに従って断っていた。幸せな方を選ぶのが雛菜の行動原理である。なんとなく嫌なのは、雛菜自身サインにそれほど意義を感じていないし、過去に迷惑な人がいたからだろう。

 ここで「本当にファンならサインしてあげれば喜んでくれるし、雛菜も幸せなのでは?」という疑問が湧いてくる。「Follow/er」選択肢②ではっきりとサインはしないと言ったのにもかかわらず、「fan(tastic)」まで雛菜がずっと考えていたと言うのもこの点ではないかと思われる。他人への忖度で雛菜が悩むことはない。どっちが幸せかわからないから悩んだのだ。
 その答えは雛菜が語った通り、その方が特別な気がするから。サインなんてただの署名で、会いに来たりお店に買いに来たりして手に入れてようやく特別なものになるから。
 (これは、雛菜が心からそう思っているというより、「そういうことにした」というか、自分もみんなも納得できる結論を出したという意味合いが強いように思う。)

・雛菜がプロデューサーにサイン会の実演をさせた目的は何か

 サイン会の練習の場面は、本当にさせっぱなしというか、あれでプロデューサーが自らの非を認めるわけでもなければ、雛菜が自分の正しさを主張するわけでもない。雛菜は自分の価値観を人に押し付けたりしないから。
 雛菜がプロデューサーに見せたかったのは、サイン会だってサイン書くだけじゃなくて、むしろコミュニケーションの方が大切だし、だからどんなサインだろうが別にいいじゃん、ということではないかと思う。
 時間がかかろうが手が疲れようが、雛菜が楽しく書けて、受け取った人が嬉しければ。やっぱり雛菜にとってサインはコミュニケーションツールくらいのもので、サインそれ自体がどうこうというものではないのだろう。

・「人気のお団子」は何を意味しているのか

 このお団子には3つの要素がある。すなわち、

  1. 見た目

  2. 中身(味)

  3. 肩書

である。
 雛菜がこのお団子を高く評価しているのは、①見た目と②中身が両方備わっているからである。かわいくて美味しいお団子は、雛菜のアイドルとしての理想といえる。

これを雛菜自身に置き換えて考えてみる。
 「283NG!」で登場した生徒から見た雛菜は「モデルやってるらしい可愛い子」という認識で、①見た目と③肩書を満たしている。しかしパフォーマンスや内面など雛菜の魅力(②中身)を知らない。それに対して雛菜は「それならサインなんて何の意味もないのに」と言う。
 生徒にとっては見た目と肩書を満たしているので価値がある。
 雛菜にとっては中身を知らなければ価値がない。
という対比を見ることができ、やはり雛菜にとって中身が備わっていることが重要だということがわかる。

 しかしひとつ、雛菜の想定外の事が起きている。プロデューサーがお団子を食べたときの感想である。
 プロデューサーはお団子を「普通に美味い」と評価した。味(②中身)もちゃんと備わっているはずなのに。そして「最高級素材」などの説明(③肩書)を聞いて、「特別に美味い」と改めた。
 肩書なんて意味がない、しかし肩書がつくことで中身の評価が変わることがある。
 雛菜は①見た目と②中身を重要視するが、プロデューサーは③肩書も含めて「プロデュースが上手い」とお団子を評価する。

 サインとは肩書そのものである。アイドルだから、名前を書くだけで箔がつく。
 雛菜はそのことに価値を感じないが、あのお団子のように、きちんと中身を評価してもらうために、見た目も中身も肩書も全部ひっくるめて「プロデュース」なのだと、このシナリオは示しているのかもしれない。

終わりに

 サインについてのお話だったが、雛菜はずっとサインを書くことに消極的だった。しかし、最後には事務所でひとりサインの研究をしており、考えていたことに結論が出たためか、必要な場面でサインを書くことに迷いがなくなってきているようにも思える。
 次のP-SSR「DES!GN」ではいろんなところにサインを書いたり、特別なサインを書いたりする雛菜が見られる。雛菜のサインの「価値」について別の角度で描かれるので、ぜひおすすめしたい。

雛菜に珍しく物憂げな表情の思い出演出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?