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ショート・ショート

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ショート・ショートを集めました。ここの作品はどちらかといえば大人の方向けに、ちょっとブラックなものも含めて書こうと思っています。
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#ショート・ショート

S.S.『風は知っている』

 晴れ渡った空の下、私は石畳の坂を上っている。前にこの道を歩いてから、二十数年の時が流れている。  丘の上まで来て、大きく息をついた。ここは私の一番好きな場所だった。見晴らしが良く、空の広さも感じられる。遠くに見える街。流れていく雲。時間とともに色を変えていく空。見ていて飽きなかった。  若い頃はよくここへ来たものだ。つらいことや上手くいかない時は、いつもここへ来ると慰められた。風に包まれていると不思議と心が落ち着いた。姿は見えないが、風が一緒にいてくれるような気がしたのだ。

S.S.『アウトテイク』

「Take1」 a.m.1:30. 時折車が追い抜いていく以外、人気のなくなった通り。歩道を歩く自分の足音が闇に吸い込まれるように消えていく。 背後からスピードを出した車が迫り、追い越しざまにライトが歩道にうずくまっていた黒猫を照らした。瞳が青と黄色に光り、猫はオレの目の前を横切って車道に飛び出し、そのまま渡り切って闇の中に消えた。 あの黒猫も孤独な身か……というより前を横切られた……。不吉な予感。よくないことが起きる前兆。ふとそんな思いが頭をよぎる。 迷信だ。後戻りはしない

S.S『ついていきます』

この作品は、きつくはないですがホラーや怪談風ショート・ショートです。苦手な方はご注意下さいね。 何度も通っているトンネル でも夜は初めて 口を開けてぼくを待ってるみたい コツコツ、コツコツ いやだな、足音が響くよ コツコツ、コツコツ ぱたぱた ひたひた 足を止めて耳を澄ます 何も聞こえない また歩く コツコツぱたぱた、コツコツひたひた 足を早める 合いの手も早まる 「だ、大丈夫。何もいる訳ないし ♪お、おばけなんてう~そさ~」 ひたひたひたひた…… 「こ、怖くない

連作ショート・ショート『鼻たれ神』第一話

「願い事三つ」  何か置いてあるのだと勇は思った。電柱の陰に白いゴミ袋が置いてあるのだと。傍を通り過ぎようとすると、その何かが動き出し、 「これこれ、そこの道行く若者よ」  勇は驚いて足を止め、じっと目を凝らした。街灯の明かりの下、さっきゴミ袋だと思った物は、白い貫頭衣を纏った人のようだ。背丈は勇の半分ぐらい。恐らく1メートルないだろう。手に背丈より長い杖を持ち、表情は糸のように細い目のせいか温和に見える。髪のない頭が街灯に照らされて後光が差しているようだ。しかし長く垂れた