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【レビュー】高校魅力化 & 島の仕事図鑑 ― 地域とつくるこれからの高校教育

 今日は2020年の大みそか。今年もいよいよ終わりですね。
 年末年始は、各所で大雪の予報が出ています。
 外出される皆さま、道中はどうかお気をつけて。

 さて、ここ数年は、年末年始の休みを「自宅での積ん読解消の時間」としています。今年の年末年始、自らに課した課題図書は、計6冊。
 これまで、課題図書は読みっぱなしで終わっていたので、今回は私自身の備忘録も兼ねて、課題図書の読書感想文をまとめていきます。

◆課題図書のご紹介 ~高校魅力化 & 島の仕事図鑑 ― 地域とつくるこれからの高校教育

 課題図書1冊目は『高校魅力化 & 島の仕事図鑑 ― 地域とつくるこれからの高校教育』(大崎海星高校魅力化プロジェクト 編著)。
 瀬戸内海にある離島「大崎上島」や、島唯一の県立高校「大崎海星高校」を舞台とした、高校魅力化プロジェクト(PJ)のお話です。「島の仕事図鑑の作成」など、実話に基づく内容で、町長や当時の校長先生、PJを担当・推進された先生たちが実名で登場しています。
 なお、本書の収益は全額、大崎海星高校の生徒の活動資金に充てられるとのこと。

◆そもそも、「高校魅力化PJ」って何?

『高校魅力化プロジェクト (PJ) ― 主に離島・中山間地域など、人口減少の影響で統廃合の危機に立たされた公立高校を再生し、高校と教育を核とした地域活性に挑む壮大なPJである。』(原文)

 詳細は、以下のホームページをご参照ください。

 私がその存在を知るきっかけとなったのは、今年の2月に参加した『SCHシンポジウム』。毎年、山形市の東北芸術工科大学で開催されています。
 今年で第6回目の開催とのことで、回を重ねるごとに、参加者、参加校ともに増え、年々規模が大きくなっています。
 日ごろお世話になっているIdea partners代表の山本一輝さんの影響で、人生初の未体験ゾーンにダイブしてきました。

 会場には、全国の教育業界の猛者たち(!)をはじめ、キラキラした高校生、大学生たちが溢れかえり、なんとも言えない異様な熱気(笑)
 SCHに参加するまで、『高校魅力化PJ』の存在すら知らなかった36歳・へっぽこ公務員な私。場違い感が半端なかったですが(笑)、実に学びと発見の多い2日間でした。

※一言補足すると、「キラキラしている」というのは「自分に自信を持っている」という意味です。服がおしゃれだとか、お化粧がバッチリだとかって意味ではなく。全国各地から集まった行政・教員・コーディネーター・大学関係者などの大人たち100人を前に、自分たちの取り組みについて堂々とプレゼンする高校生たち。離島・中山間地にある小規模校の高校生たちが、地域を、そして社会を変えている現実を目の当たりにしました。

◆地域の高校消滅が意味する未来

 前置きはこのくらいにして、本の中身に入ります。
 本の序章に「地域の高校消滅が意味する未来」の説明があります。
 端的に言えば「移住・定住が機能しない、または子育て世代の流出により、町の少子高齢化が一気に加速する」ということです。
 そしてその結末は、相当ショッキングです。
 しかし、目を背けてはいけない未来予想図でもあります。

『かつて豊かな賑わいと暮らし、小さな幸せが溢れていたその町は、地図から消え、やがて人々の記憶からも失われていく。地域にとって高校が無くなるというのは、そういうことだ。一つの教育施設の統廃合という、単純な事象では終わらない。静かに地域を浸食しながら連鎖的な衰退を引き起こしていく、サイレントキラーだと知らねばならないのである。』(原文)

 既にその兆候は、全国各地で見られ始めているのではないでしょうか。

◆この物語の主人公たち

 本書は、6人の視点から描かれています。
 校長、コーディネーター、中堅教員、若手教員、地元住民、商工会職員。それぞれの立場から、大崎海星高校高校魅力化PJにジブンゴトとして関わっています。
 それぞれの苦労があり、そしてそれぞれにメリットがある高校魅力化PJ。単なる義務感だけで動くとか、何となく関わるとかって人が誰もいない点に、その妙があります。

『大事なのは、関わるステークホルダーがお互いにメリットを受け取れる形にすることである』(原文)

 まさにそのとおり。それぞれの熱意、使命感、危機感、そして覚悟には、ある種の感動すら覚えました。

 特に刺さったのは、コーディネーター・円光(えんこう)氏の以下のコメント。私自身の備忘録として、原文のまま転記します。

『もし魅力化がうまくいかんで大崎海星高校がなくなってしもうた日、僕は何を感じるじゃろうって。たぶん、いや絶対に後悔すると思いました。そして何より、その結果を誰かのせいにする人間になりとうなかった。自分では何もせんと『こうすりゃ良かったのに』と、外野から結果論や文句ばかり言う、ダサいやつになるのは絶対にイヤじゃったんです。それがイヤなら、いま僕も全力でここに関わらにゃいけん。いまやらんかったら、一生それを引きずって生きることになると思うたんです。』(原文)

 そして彼は安定した職を捨て、コーディネーターとして大崎海星高校の高校魅力化PJに邁進していく。控えめに言って、カッコ良すぎる主人公たち。この熱意は是非見習いたい。
 そして言うまでもなく、大崎海星高校の生徒たちも、物語の主人公なのです。

◆本書で紹介されている「島の仕事図鑑」。元々は移住定住促進の企画だった。

 これは結構びっくりしました。
 企画の主体は商工会で、『高校がそこにうまくコラボしたにすぎない』のだそう。ずっと教育目線での話が続いていたので、てっきり教育が主目的だと思っていました…。
 本書によると、ある意味で『仕事図鑑は、行政と商工会、学校の三位一体プロジェクト』とのこと。この表現、すごくしっくりきました。
 通常、組織を横断したPJは、それぞれのエゴが出たり、外部からの横やりが入ったりして、うまくいかないことの方が多いように思います。増してや、高校は「教育」に、商工会は「産業振興」に、それぞれ重きを置く組織です。PJの舵取りの大変さが、容易に想像できます。
 様々な制約がある中で、学校の統廃合と島の人口流出、移住定住の促進、住民たちの愛郷心、高校生たちのキャリア教育、などなど。複数の課題・問題を、「島の仕事図鑑の作成」というアプローチにより、まとめて解決に導いていく。まさにお見事としか言いようがありません。

◆高校魅力化PJの成果とは。

 本書を読む限り、様々な評価ができると思います。高校生の成長とか、大人たちの変容とか、住民の方の愛郷心の醸成とか。
 その中でも、私個人としては、高校生たちの「地域で育てられた記憶」と、大人たちの「地域で育てた誇り」を生み出したことが、何物にも代えがたい成果のように思います。
 私は「地域で育てられた記憶」も「地域で育てた誇り」も、残念ながら持ち合わせてはいません。世間一般的にも、「地域」と「学校」が断絶しているまちが多ように思います。大崎上島の住民の皆さん、そして大崎海星高校の生徒たちが、本当にうらやましい。

◆これは、現在進行形の物語である。

 大崎海星高校の高校魅力化PJは、成功が約束されたものではありません。しかし、そこいらの半端な地域活性化政策とは違い、確実な歩みと未来への期待が感じられます。
 本書の舞台である大崎海星高校を含め、高校魅力化PJに取り組んでいる全国の高校では、引き続きPJが進行していくことでしょう。今後も大崎海星高校を、そして高校魅力化PJをウォッチしたいと思います。

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