誰にとっても幸せな

 別に「一度は行ってみたい」なんて願わなくても、時がくれば自動的に訪ねることにはなるのだけれど。
死後の世界というものがもし実在するなら行ってみたいと思う。

 天国とか地獄とか、死んだ人は空から見ているとか。そういう話題は嫌いではないし、想像力を掻き立てられるものだけれど、別に心から信じているわけではない。不思議な体験をしたこともないし、死を意識するような経験もないので正直真剣に考えたことがないというのもある。
ただ、死後の世界、とりわけ天国と呼ばれる場所がもし実在するというのなら、そこには私が今まで見送ってきた人たちがいるはずだ。彼らの幸せを思うとき、天国がどんな場所であるのか考えずにはいられない。

 天国と聞いて思い浮かぶのは、綺麗な花畑とか、幸せそうに笑う人々とか、食べきれないほどの美味しい物とか、香りの良いお酒とか。
人が想像しうる最高の幸せを、好きなだけ望むだけ享受できる場所だ。辛いことなんてなんにもなくて、内心に渦巻く汚い感情からも解放されて、ただ穏やかに過ごせるようなそんなところ。
でも、幸せってそういうものだろうか。
「これが幸せな世界というものなんですよ」と言われて、何不自由ない毎日を与えられて。それも不幸なことではないと思うけれど、そんなありきたりな物でいいのだろうか。そんなの既製品と変わらないのではないだろうか。
誰もが幸せな世界という口にするのも憚れるような綺麗事が実現するなら、それはきっとすべての人の願いが叶う世界のことだ。それこそ天国という場所にふさわしい世界になるだろう。
家族に恵まれなかった人には、温かな家族と過ごす毎日を。
いつも一番に愛されなかった人には、どんな時でも真っ先に愛してくれるパートナーを。
その人が本当に望んでいて、生きている時には得られなかったものを与えてくれるような、誰に対しても幸福で優しい世界。
もし天国がそんな場所だとして、私の大好きな人たちが幸せに暮らしているなら、やっぱり一度は行ってみたい。
行って、「今は幸せ?」と聞いてみたい。笑って幸せだよと言われたら、私ももう少し頑張って生きていこうと思えるから。

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一度は行きたいあの場所

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