筋肉痛を侮るなかれ

 私は今史上最強の筋肉痛を体験している。
よくあることだと甘く見ないでほしい。たしかに年中部屋に引きこもり続けている私には良くあることではあるのだが、今回のはスケールが違う。日常生活に支障が出るレベル缶だったのだ。

 原因は日曜日に参加したテニスの練習だ。視覚障害者である私は普通のテニスはできないが、ブラインドテニスという独自のスポーツが存在している。鈴の入ったボールを撃ち合うと言えば簡単そうだがこれがなかなか難しい。

私はまだラリーすら満足にできない初心者なのだが、知り合いに誘っていただいて1日練習に参加した。
結果としては大変身になる時間だった。自分が苦手とする部分も理解できたし、何より皆さん親切にいろいろと教えてくれて勉強にもなった。ぜひまた参加したい。
ただ私は忘れていた、自分の体力のなさを。
正確には忘れていたというより甘く見ていた。たしかに学生時代は遠足や宿泊合宿の次の日に熱を出したりしていたけれどそれは昔の話。多少筋肉痛にはなるだろうけど別にどうってことはないと思っていた。
ただ蓋を開けてみれば現実は私の予想を遥かに超えていて、気がついた時にはすでに手遅れだった。筋肉痛は練習に参加したその日からすでに始まっていたのである。
夜、寝返りをしようとして鈍い痛みに目を覚ました。試しに起き上がってみようと思い力を入れると全身が軋むように痛む。錆びた金属の不快な音が自分の体内から聞こえた気がした。これはやばいと思うもののどうにもできず、その夜は鈍い痛みの中浅い眠りを繰り返した。
翌朝、あの痛みは疲労が見せた幻だったかもしれないと淡い期待を抱いて目覚めたが、筋肉痛は痛みを増して当然のようにそこにいた。加えてなぜか微熱まで出ている。週末の不摂生が原因で仕事を休むなんて社会人として恥ずかしいが、体験したことのない筋肉痛と微熱でとても働く気にはなれなかった。
今まで体験した筋肉痛で一番きつかったのは、家族で地球が丸く見える展望台とやらを登った時だ。翌朝ふくらはぎがひどく痛み、劇場のように階段上になっているビュッフェ会場を涙目で歩いたことを覚えている。
ただ今回は桁が違う。腕から肩甲骨、背中から足の先まで満遍なく疲労しているのである。とくに太ももの裏が重症で、動くたびに鈍く痛んだ。
まず座る・しゃがむという動作が痛い。プチット切れそうだ。トイレに座る時など「んぐあっ!」とかいう人間性が疑われそうな悲鳴をあげてしまう。けれどもし和式しかなければそもそもトイレにさえ行くことができなかったかもしれない、洋式でよかった。
そして最も大変だったのが着替えだった。普段何気なく行なっている動作だけれど、腕を上げる・足を上げる・片足で立つなど、筋肉痛に苦しむ人間にとっての苦行がこれでもかと詰め込まれていたのである。服を脱ぎお風呂に入ってまた服を着るという日常は実はたくさんの筋肉様に支えられていたと知った。別に必要ないとか言って本当にごめんなさい。
全身の筋肉痛を体験して初めて気がついたのだが、我が家は手すりが少ないのではないだろうか。トイレや脱衣所、浴室の中など、危険が多そうな場所にはもっと手すりをつけた方がいいと思う。
今回私が得るべき教訓は「限界は超えるな」である。正確には超えてもいいけれど代償を支払う覚悟が必要だ。

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