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演劇と私とヴィンセント

 お久しぶりです。

 なんだか久しくnoteを離れていましたが、ちょっとふと思い出してまた自己満記事でも書いてみようかなという気になりました。それというのも、この1年くらいで映画のためではなく演劇のために、劇場に足を運ぶことが増えたからです。具体的にこの一年くらいで観劇した作品を列挙すると、

  • 「ヴィンセント・イン・ブリクストン」(演出:森新太郎)

  • 「世界対僕」(努力クラブ)

  • 「DADA」(幻灯劇場)

  • 「太平洋序曲」(梅田芸術劇場)

  • 「ダーウィン・ヤング 悪の起源」(演出:末満健一)

などです。それまではほぼ全く観劇していなかったことを考えるとかなり行ってますね。

 もともとバレエをやっていたので古典の演目は結構知っているというのと、ミュージカル俳優の山崎育三郎さんや井上芳雄さんが好きで、生で見たことがなくてもストーリーは大体知ってる〜っていうのが多かったのが舞台でした。でもまあ好きだけど、チケット高いし、どこでどうチケット取ったら良いのかも分からないし、かなり前から予定組まないといけないし…と尻込みしていた私。

 そんな私が「演劇フッ軽」になったきっかけは、「ヴィンセント・イン・ブリクストン」でした。もうあれから一年が経とうとしているのですね…


「ヴィンセント・イン・ブリクストン」について語りたい(ネタバレあり)

 ああゴッホ、ああヴィンセント、ヴァン・ゴッホ。

 当時の私は院試と卒論のプレッシャーに狂い、意味もなくYouTubeの雑踏をぐるぐるしていました。情報を入れたくないのにYouTubeという大河にはぷかぷか浮いていたい。なんてアホな。そんな私がYouTubeの中で出会ったのが、Aぇ! groupでした。最初はなんやオモローな人たち!くらいの感覚でみてたんですが、そこで興味を持って調べると、メンバーの一人・正門良規さんが主演舞台「ヴィンセント・イン・ブリクストン」をやっているらしいという情報が。

未亡人のアーシュラ(七瀬なつみ)が営むブリクストンのある下宿屋に、二十歳の青年ヴィンセント(正門良規)が、空き部屋の貼り紙を見たと訪ねてきた。
実のところは家から出てくる美しい娘・ユージェニー(夏子)に惹かれて、この下宿屋に部屋を借りに来たのだ。
何も知らないアーシュラは、ヴィンセントに部屋を貸すことを決める。
そこには画家志望のサム(富田健太郎)が先に下宿していた。
さらにある日、ヴィンセントの妹・アンナ(佐藤玲)が訪ねてきて…。

https://www.tglobe.net/page/vincentinbrixton

 この舞台について、X(旧Twitter)(この表記がやりたかっただけ)では、その内容に触れる感想に溢れていました。実際に板上でじゃがいもを茹でている・じゃがいもの皮を剥く・肉を焼く・バターの匂いが客席までやってくる・マッチでキセルに火をつけてふかすなどなど、レポを読めば読むほど「ほんまにゴッホの演劇を舞台上でやっとるんか?」という疑問と興味がもう止まらなくなり、もうこれは観なければいけないという使命感に駆られた私。正門さんのFC先行は終わっているということで、梅田芸術劇場の当日券を狙うということに。
 運よく無事鑑賞日前日に当日券が取れた私は、突然10月の末、初めて一人で演劇鑑賞に乗り出します。

 そして、チケット代9000円分楽しむためには、とりあえず何でも良いからゴッホに関する知識を入れないと、という大阪のおばちゃん的使命感に駆られた私は、前日でありながらWikipediaを読み漁り、良さげなゴッホ映画を一本観るということに。その時に観たのがこちら。

 舞台で実際に描かれてるゴッホはこの映画より前の時代なんですが、何せゴッホのブリクストン時代はゴッホが「ひまわりとかを描くゴッホ」になる前、つまり耳を切り落とす、ゴーギャンと一緒に住む、などの印象的なエピソードがある前なので、あまり映画になっていません。でもこの後のゴッホの姿を入れることで、ブリクストン時代のゴッホが鮮明になるんですよね。私たちが一般的に知るゴッホにも、20歳の頃があったわけですから。

 実際の舞台の感想としては、全部ここに書こうとすると長くなるので割愛しますが…。もうほんとにすごく良くて、登場人物が5人だけなのに奥行きがあって、ずっと揺蕩っていたい会話の中だけで、それぞれの生き方や考え方が浮き彫りになる緻密さが素晴らしい。個人的にはアーシュラがもう一人の主人公だと思ってるんですけど、「いつか芸術家をこの家から送り出したい」という彼女の願いと「愛されたい」という欲求を通して、物語が明るくなったり影が落ちたりするのが切ない。

 噂のヴィンセントとアーシュラの恋愛シーンはときめきが止まりませんでした。ちょっと手が触れ合うだけで口角が上がる上がる。そういえばこのとき、キスシーンがあるとはうっすら聞いていたけれどどこなのか事前に知らなかったので、七瀬さんと正門さんの表情を見るためにオペラグラスを覗いていると、ふいにそのシーンがやってきてしまい…汗。不自然にオペラグラスを下げるのもおかしいかなとそのままガン見してしまい、この時ばかりはマスクに感謝しました。両隣の方もしっかりオペラグラスを構えていたので、動揺を悟られないよう堂々と笑。

 とまあこんな感じで満喫した私は、余韻を引きずったまま、Aぇ! groupもそうなんですが、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホのストーリーにハマりました。とにかくゴッホ映画をたくさん観ました。この舞台で描かれているゴッホは20代前半、ちょうど観劇した時の私と同じ年齢でした。生涯絵が一枚しか売れなかったゴッホ。信仰に苦しんだゴッホ。生き方に戸惑ったゴッホ。そんなゴッホに救いを見出したへレーネ。ゴッホの複製画を描き続ける職人。全てが私を魅了してやみません。

 どれもお勧めです。


行き着く先はゴッホ

 あの時、勢いで「ヴィンセント・イン・ブリクストン」を観に行ったことで、演劇に行くというハードルが下がり、一人でふらっと演劇を観に行く自信がつき、習慣ができました。そして、演劇番組「THE GREATEST SHOW-NEN」に出会い、私の推し劇団「幻灯劇場」に出会うことができました(幻灯劇場についてはまたどこかで書きたい)。

 ずっと映画を観てきて、最近になって演劇を観だして思う演劇の魅力は、「余韻の大きさ」だと思うのです。生身の人間が目の前で人生そのものを披露することで、演者さんはもちろん、観客もエネルギーを使い、あとに残る余韻は計り知れない大きさになります。ゴッホ本人は肉体としてはもう亡くなっていますが、あのとき板上にいたのは確かにブリクストン時代の20代のゴッホであり、私が目にしたのは、今を生きる一人の青年・ヴィンセントだったのです。個人的にずっと、「映像もやりたいけど舞台やりたいです」っていう俳優さんに対して、なんでだろうと思ってた節があったのですが、こういうことなのか!と目から鱗です。そしてこの「余韻」を一度知ってしまうともう後には戻れないようです。定期的に摂取しないともう駄目な身体になってしまいました…。

 趣味は全て巡るもののようで、YouTubeから演劇、映画、そしてゴッホと、私が演劇を通して行き着く先はゴッホでした。今まで何公演か演劇に足を運びましたが、初めての演劇「ヴィンセント・イン・ブリクストン」の余韻は凄まじいです。まだ続いています。今はゴッホとその弟・テオなどの書簡集を読まんとしています。そして、よく芸術は背景のストーリーだと言いますが、ゴッホ映画を5本観て思うことは、その通りだということです。

 ぜひ再演して欲しいです。

 これからも余韻を求めて演劇を観に行きます。

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