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【ショートストーリー】そんな日が来る

まるで白く長く伸びたベールが、天高い空になびいているかのようにみえる。もう、夏ではないことを知っているのか桜の葉はやや赤みを帯びて、風が吹くたびにその数枚の葉たちが落ちていく。
  柏台みりが出勤するのに運転する車は、信号が赤になって停車中だ。この信号にひっかかると、この先の三差路で渋滞にあってしまう可能性が大きい。
   信号は、青になって少しスピードを上げた。
やはり渋滞だった。ブレーキを踏み続けてもう、15分が経つ。みりの車の前方を走る高級車に見覚えがあった。
確か上司の車だ。
 渋滞から抜けて走っていくと左手の会社の駐車場に前方の上司の車は左にウインカーを出して曲がった。みりは、会社のもう一つ別の駐車場に止めた。
 みりは、いつものように会社の女性ロッカー室に向かった。すると、ロッカー室からひとりの女性が出ていくところだった。
「おはようございます」お互い目を合わさずに、いや、みりに目を合わせたくないかのように挨拶した。その女性は一緒に働いている先輩だ。年齢は、みりが五つ年上になる。みりは、三年前にここに転職してきた。
 いつものようにデスクに向かう。
「あなた、ここに来て何年になるの?」ここのお局様が、先ほどの先輩にコーヒーの入ったマグカップを片手に持って訊いた。
「5年になります」デスクトップに目を向けながら淡々と言った。
「あなたが入ってからの仕事の出来は、すごいものがあったって、上司が言ってたわ」
「そうですか」あたりまえのようにそう言った。
 実際にお局様が休むと、上司は仕事のあれこれを彼女に頼った。そして仕事も早い。
 どうしても自分と比べられてしまう。私の仕事の遅さにイラ立つのか、彼女は私に対して冷たいとみりは思う。そして仕事の速さにその先輩に対して羨ましさを思う。
 毎日が、引け目を感じていた。

 じゃあ、自分は何が出来るの? なにもないじゃない。なにもないじゃない。

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