見出し画像

【ショートストーリー】牡丹雪

 昨夜の天気予報通りだった。
寝ぼけ眼で、寒さがを堪えながらレースのカーテン越しに外を見ると、今も雪がちらつきながら薄らと積もっていた。
「このくらいだったら、車で仕事に行けるな」そう判断した岡なゆ奈は、温かい紅茶とハムエッグの朝食を摂ると仕事に行く準備をした。
 いつもの暖かいエアコンは、今朝は外が寒いせいか、なかなか暖まらない。行く用意を終え、玄関の扉を開けると、刺さるような冷たい空気が身体を覆った。
 マンションの前の通路は、管理人が凍結防止剤を撒いてくれていたらしく、雪はとけていた。ゆっくり下りてくる細かい雪は、少し儚さを思わせる。
 車を走らせていく。道路以外の一面の白い世界。
 雪が、フロントガラスに付いては、とける。どんよりした雲から多くの細かい雪が降って来た。
 そのうち雪が、牡丹雪になった。後10分で会社に着くが、この辺りから積もっている雪も多い。なゆ奈の車のサイドミラーにも雪が積もっている。
「降って来たなー。これ以上降って来ると、仕事帰りが危なそうだな」と思った。
 会社を通り過ぎて暫く走って、休む連絡を入れた。
 自宅へ戻る時、同じ会社の人と車ですれ違いたくなかったので、サングラスをしながら戻った。道路は雪のためか、この時間帯は混むのか分からないが、渋滞していた。そのうち雪が止んできた。なゆ奈は、休んでしまったという罪悪感がじわじわと胸の奥から湧いてきた。空も明るくなってきた。
「はーっ」ひとつため息をつく。

 自宅に着くと、暖かいコーヒーを飲んでパソコンを開いた。机の上にあるスマートホンが振動した。
 画面を開くと、大学からの友達のゆゆ華からのメッセージだった。
「今夜配信するらしいから観てね」ゆゆ華の好きなロックグループが動画を配信するらしい。なゆ奈もそのグループには前から少し興味があった。ゆゆ華からのメッセージの送信が9時20分となっている。休みが合わないゆゆ華。もしかして、ゆゆ華は今日仕事じゃないのかも。
「ゆゆ華、外は雪だね。もしかして今日、休みの日なの?」と、メッセージを送った。
「そうだよ。なゆ奈は仕事じゃないの?」
「雪で休んじゃった」
「そっちは、そんなに降ってるの?」
「今のところ大丈夫」
「ねえ、今から行っていい?」
「今から?」
「うん。最近会ってないから」
「じゃあ、私の近くのカフェ知ってるでしょ?そこでランチしようか」
「うん。決まり」

 出かける頃には、また牡丹雪が降りだした。なゆ奈は服についた雪をはらいながらカフェの店に入った。席はほとんど中高年の人で埋まっていた。平日のこの時間はそんなものなのだと思う。
店員さんが案内した。
 店内から外の雪が激しく降っている光景が目の入る。
 ゆゆ華が、少し遅れて来た。二人で会うのは何年ぶりだろう。
 最近の話を、お互いたくさん話した。
お腹いっぱいになって、店を出て、二人で歩いた。雪はまだ降っていた。傘をさして、お互い歩いた。その先の信号で分かれた。
「じゃあね」

 雪が降らなかったら、休むことも友達と会うこともなかった。空からラッキーが降った感じがした。なゆ奈は傘に落ちる牡丹雪を眺めながらそう思った。

#ショートストーリー #雪
#牡丹雪





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?