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映画バービーの主題はフェミニズムではないと思ったこと

映画「バービー」。前評判はフェミニズム映画と言われていて、そうかしっかり見落とさないようにせねば!と、やや肩に力が入ってました。
実際観てみたら、確かにフェミニズム的要素が散りばめられていました。
ですがそれよりも、人間として生きることが一番素敵だって言っている映画だと思いました。

以下は、私の個人的な感想です。


バービーが一番心惹かれたのは人間の感情体験だった

映画を1度観ただけなのでうろ覚えなのですが、主人公のバービーが人間界にやってきて、まず自分の持ち主を探さなきゃということで、瞑想みたいなことをするんですよね。

「私はあまり考えないタイプだから」といいつつ、考えるタイプのバービーの真似をして目を閉じる。でも、そこで行っているのは「頭で考える」ではなくて、意識の深いところに潜っていく感じでした。
そして持ち主の母親の感情や経験を追体験します。
娘を育てながら仕事をしていて、娘との関係がうまく行かなかったり、仕事で冴えない感じだったりという日々の描写が映像だけで語られる。

決して華やかでもポジティブでもないんですね。悲しみだったりガッカリだったり、「こんなはずでは」だったり。
でも、それを追体験したバービーは涙を流し、「とても気持ちがいい」というようなことを言っていたように記憶しています。
その経験がポジティブかネガティブか、何をやり遂げて何をやり遂げてないか、成功したかしないか、そういうことではなく、その瞬間瞬間の感情そのものを味わい、感動したように見えました。

また、そのすぐ後に、バス停で隣に座る老婦人を見て「あなたすごくきれいね」というような言葉をつぶやきます。その時も泣いている。
年齢を重ねてシワを刻んで行くことに魅力を感じているように見えました。

主人公のバービーは映画でいろんな経験をしますが、彼女が一番惹かれたのはこの経験だったのかなと。
人間の肉体は有限で、衰えるし死もある。でも、その肉体を持って様々な感情体験を重ねていくことが一番彼女を捉えた。
これらは全て、人間だからあることで、人形の世界にはないんですよね。
だから終盤になって「人間になりたい」と言って、その通りにした。

よく思い起こすと、そもそも主人公がバービーランドで他のバービーたちに「ねえ、死について考えたことある?」って尋ねたところから始まっているんですよね。
周囲のバービーは「オマエ何いってんの?」っていう反応で、死というワードは明らかにタブーでしたよね。それどころか、足元は必ずヒールを履かないとNGで、踵が地面についたらオシマイ、みたいな描写もありました。
でも、主人公は「死」のある人間としての生を持ち主を通じて感じて、そこに何かを感じたところから話が始まって行きました。

バービーの世界は女性が優位で、一時的にはケンが男性社会を作ったりしますが、後半主人公やその持ち主母娘の活躍もあってそれを食い止めます。
だから、今後も女性優位社会が続く。お人形の国ですもんね。
そちらの方が女性であるバービーには快適かな?と思うのに、主人公は敢えて人間になりたいって言うんですよね。

人間社会に来たら女性は差別される側だったり、色々大変なこともある。
また、人間の世界が大変だからこそ、人形の世界を必要とするんだ、ということも映画の中では示唆されます。

それでも人間社会で、衰えていく肉体を持って、感情を動かしながら生きることが一番魅力的で素敵なことなんだよっていうのが一番のメッセージだったように思いました。

ラストシーンについて

最後、人間になったバービーは、ベージュのジャケットに白シャツ、ジーンズ(これがとてもカッコいい!)で現れます。で、すっごくワクワクした良い顔をしてるんです。

ワタシは即座に「あ、就職面接に行くので終わるのかな」って思いました。まずは働いて稼がないとね、ってとっさに思ったんです。

でも、全然違って、向かった先は婦人科でした。

このバービーは「何者かになる」ことを目的にしてないんですよね。
人間の肉体を得て、一番興味があったのが婦人科系の器官・自分の体なんだってことが面白かったです。

主人公は、最初に人間世界に来た時に卑猥なジョークを言われて、真顔で「私たち、女性器はないのよ、ツルツル(人形だから)なの」と言ってましたものね。人間になって、そこがまず、一番変わったところなんですね。
だからもっと知りたい。そんなシンプルなところから人生を始めるのかなって思いました。

ラストでケンとくっつかなかったこと

最後にバービーがケンとくっつかなかったことを「異性愛を選ばなかった」みたいに言っている人が結構いるみたいですが、いやいや、待てって感じです。
映画の中ではくっつく相手として考えられるのはケンだけなので(人形の設定上ケンが恋人だからそうなるんだろうけれど)、ケンを選ぶか選ばないかしか選択肢がないんですよね。
ケンの様子を観ていたら、正直魅力がないので、選ばないというのは割と自然じゃないですかね?

今後バービーが人間として生きていく中で、誰かと恋愛することだってあるかもしれないですよね。その辺、別に異性愛を選ばなかったとか、そんな大層な話ではない気がしました。

観てくれている人たちを楽しませて勇気づけてくれる映画

サービス精神満載の映画だったなと思います。元気で、笑えて、セリフのやり取りがリズミカルで、画面はポップでピンクで。
特にバービーのユーザーである女の子たちを勇気づけようと考え抜いて作られている気がしました。社会は完全じゃないし大変だけれど、実は私たちが人間として生きていることこそが一番面白いよ、と言われている気がして、すごく元気をもらいました。

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