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作詞家になろう〜立志編〜


詩を書きたい。私はそう思った

流行歌の歌詞を「言葉」として理解できるようになったのは、いつ頃だろうか。
あれは化粧品のCMだったのか。テレビから流れたLISAのボーカルにうっとりし、「〽帰りたくないから止めないで」と切なくも甘い響きに意味も分からず魅せられるという、少しおシャマな子供時代……。

時はすぎて、ゼロ年代。いわゆる萌えブームの頃である。クラスのジョックからパージされてしまった私を迎え入れてくれたのは、スクールカーストの底辺。オタクくん、オタクちゃんたちだった。

そして、現在(いま)

Hold me baby 踊ろうよ Sunday

真田アサミ・沢城みゆき・氷上恭子『PARTY☆NIGHT』

はっぴぃ にゅう にゃあ はじめまして

芹沢文乃(伊藤かな恵)・梅ノ森千世(井口裕香)・霧谷希(竹達彩奈)『はっぴぃ にゅう にゃあ』

女の子のぱわーでセカイは廻ってる

ONIMAI SISTERS『ひめごと*クライシスターズ』

これが書きたい。

ついオタクたちのカラオケでユニゾンして叫びたくなるような、強いパンチラインを綴りたい。
インターネットで他者を批判するとき通俗的に使われる「それ、ポエムだよね。」という言葉に対抗するため、私たちは詩を書くべきなのである
詩、1回も書いたことないけど。

私ひとりが綴って終えてはつまらないように思えたので、友人3人を用意して簡単な講評をしてもらうことにした。
ここで彼らの簡単なプロフィールを紹介しよう。

アスパム藤田:オタク。毎朝、声優PVを観ながら弁当を作るエリートサラリーマン。


ときめき残党兵:オタク。とにかく酒が好き。最近はサウナにハマっている。
津田沼:オタク。精神が不安定なため各種SNSに耽溺している。


 役者は揃った。ルールはざっくりとこんな感じ

  • 絶対に恥ずかしがらない

  • 具体的な声優の固有名詞や作曲家誰かなどは具体的にしすぎない

  • 作品名に関しても「重力圏はこの辺りくらい」の画素数

  • 最近ではメロディが先に決まって後からが多いけど、今回は詩先

それでは早速行ってみよう!


エントリーNo.1 『にゃ〜っと ホリデイ♪』

萌え系アニメのED。なんか猫耳とか生えてるコンセプトです。
喫茶店とかスイーツモチーフの百合アニメとかじゃないかな……。
『ヤニねこ』を東京都下水道局の高性能下水処理機で海洋に影響のない程度に無毒化したあと、『ご注文はうさぎですか?』的な何かをキラキラっと振りかけたアニメをイメージしました。
「屋上でにゃ〜っとあくびして」とか、「あさささって」の部分が気に入ってます。

今日みたいなお休みの日は(うんうん)
お昼寝がいいよね(Yes!)
屋上でにゃ〜っとあくびして
ぼ〜っと空を見上げるんだ
(あ!あの雲!ソフトクリームみたいにゃ!)


パンケーキ ショートケーキ チーズケーキ
今日はどれにする?何を食べようか
いちどに口に入れたら 幸せ気分MAXにゃ

サビ:ずっとこんな日が続くといいね
毎日が楽しい日々
ようこそ(So!)
私たちのパラダイスへ(High!High!High!)
ラララ ラララ

お昼過ぎまで寝ちゃったは(え〜)
もう一回布団に入っちゃえ(Yes!)
夕方でにゃ〜っとあくびして
テレビを見てまた寝ちゃえ
(今日が終わっちゃうよ〜)

ふわふわお布団 太陽の香り お気に入りのパジャマ
全部大好き ハッピー気分
ぬくもりに包まれたら 明日も元気MAXにゃ

サビ:ずっとこんな日が続くといいね
明後日も明後日もあさささっても
おかえりなさい(Come!)
私たちのパラダイスへ(High!High!High!)

ラララ ラララ…


アスパム藤田評:猫と猫が住処とする家のイメージがちゃんと出ていてコンセプトとつり合っていると思う。
特に2番のAメロとBメロの歌詞が好きだ。歌詞にはそんなこと一言も登場しないのに畳の部屋が思い浮かぶ。
でもそうなると、そんな家にショートケーキとチーズケーキは常設的には置いてないんじゃない? せいぜいパンケーキという名のホットケーキまでではという違和感が。
そこでコンセプトの文章を見直すと無毒化前のものは「ヤニねこである」と言い切っているのに対し、振りかけるキラキラについては「ごちうさ的な」に留めている。
ヤニネコとごちうさ(あるいはごちうさのような作品)の解像度の違いが、このような歌詞から連想される風景と情報の矛盾を生んでいる可能性はないだろうか。
だが「ごちうさ的な」という歌詞を書くうえでの志が、私の好きな2番AメロBメロを書かせたのは紛れもない事実である。
歌詞を書くというのは指向性を持たせて放たれた言葉から己を顧みる行為なのかもしれない。
有名なキラキラアニメ1期OPの歌詞にもこうある。
「私が 私を 見つめてました」



ときめき残党兵評:私はアニメソングを「作品が想起できるか?」を軸に聞いている。
なので今回もその軸で今回の企画へ参加した。
例えばこの作品。『ヤニねこ』を無毒化したら、それは『ヤニねこ』たり得ないのではないか? と、コンセプト文の印象を引きずりつつ聴いてみた。
「ヤニ」を抜いたら、残るは「ねこ」。
字面を見てもそうなっている。「ねこ」という言葉に何を託すかが気になる。
モチーフとしての女性【ルビ:にょしょう】(萌え・おんなのこ)を
扱っているのか? ただ、どこか上滑りした印象を受けている。
「萌え」に棲んだことがあったら、納得できるのだろうか?
――あなたが好きなのは、「ねこ」と「ヤニ」、どちら?


津田沼評:ええやんええやん! 「パンケーキ ショートケーキ チーズケーキ」ってパンケーキだけ仲間はずれのくせに最初に出しゃばりやがって! お前はお母さんが休日に家で作ってくれて嬉しいやつなんだからわきまえろよな! でもパンケーキは、美味しいところは本当おいしいの。関係ないけどエッグスン・シングスとか今も人気で行列とかできてるんですかね? 自分は原宿とかに行かないのでわからないんですが……。しかしクア・アイナとか、ハワイを押した飲食店って地味に残るイメージあるから大丈夫っぽいよね。以上です。


エントリーNo.2 『SUN SUN LOVEサマー』

「夏、素直になれないけど、元気なわたしたち。実はみんな恋のライバル。でも今日は大好きな君と目一杯楽しみたいな。」とか、そんな歌詞を書きたかったです。ヒロインが複数いて、J.C.Staffがアニメを作ってました。多分。
4:3時代のアニメかもしれん……!

SUN SUN太陽 熱い海洋
やっときたSummer 心のまま
今だけの瞬間(とき)を楽しもうよ

恋のライバルはどいつ?
(あいつ!)(あの女!)(そんなのいないかな?)(バカじゃないの)
大胆な水着でキ・ケ・ンな気分

キャラA「ちょっと!この水着少し派手すぎない?!」
キャラB「誰もが羨むこのボディー」
キャラC「あの人の好みはもうわかってるよ」
キャラD「この色ボケ女共がー!」

サビ:So Let’s Go
熱い視線 みなぎるLOVE
君と私の季節が
超音速で過ぎていくけど
絶対逃せないこの瞬間
あいつが好きになるのは 絶対に私だから

SUN SUN太陽 熱い海洋
まってました Summer 体はハダカ
今だけの瞬間(とき)を楽しもうよ

彼の心を射止めるのはどいつ?
(あたしよ!)(わたくし)(ふふふ)(知らないわ)
秘密の夜はキ・ケ・ンな空気

キャラA「はやくこっち来なさいよ」
キャラB「ねえオイルを塗ってくださる?」
キャラC「ねえこういうの好きなんでしょ?」
キャラD「もー!あんたたちー!」

サビ:So Let’s Go
熱い視線 みなぎるLOVE
君と私の季節が
超音速で過ぎていくけど
絶対逃せないこの瞬間
あつに愛されるのは 私だから 絶対


アスパム藤田評:キャラA竹達彩奈、キャラB小清水亜美、キャラD日笠陽子までは耳をすませると聞こえてきたが、Cの声だけ聞こえてこない。
2番のセリフパートでBとCの「ねえ」が被っているせいだろうか。
一歩引いたミステリアスキャラなのかなと推測できるけど、他3人に比べるとキャラの輪郭がぼやけている。セリフの属性が被らないよう気を付けたうえで、ちゃんと頭の中の声優ジェネレーターを動かしてコンパイルテストすると歌詞としての精度が上がるだろう。
ちなみにDは釘宮理恵も聞こえてきたが、そうするとこのタイプのキャラをやるときの声色がAの竹達と被る。だからキャスティングは避けられるはずと気づき、釘宮は自然と聞こえなくなった。
サビに使われている「季節」「超音速」「瞬間」の組み合わせが面白い。縮尺の異なる時間と早さの単語が邪魔し合わず、同じサビの中で上手く同居している。
白黒写真の中で舌出してる有名な物理学者のオッサンも「時間とは相対的なもの」と言っているように、それは歌詞の世界でも適応される基礎理論のようだ。
こんなにもホットな曲なのに曲名がキュートやトロピカルさに欠けている。「⭐️」や「❤️」「💦」といった記号はもちろん、「むぎゅっ」「アチチ」「テレテレ」など擬音や感嘆詞の導入も検討すべき。



ときめき残党兵評:海洋――読みは「ビーチ」?
複数並列型のラブコメとしての解像度が気になる。
A~Dの誰もが胸に秘める気持ちを、最大公約数的にまず言語化している。
合いの手としてキャラの掛け合いを入れ込む構造である、ことは理解できる。
だが……
A→恥じらい・ツンデレ(「かつて」であればメインヒロイン・次女)
B→セクシー推し・グイグイ来る(画として映える・長女)
C→冷静・クーデレ(物語を推進する・末妹)
D→ツッコミ・相対化(幼馴染等、枠の外に存在)
など、キャラクターごとの定番を押さえているようでいて、独自性が見えてこない。
歌を通じて、作品の特色、企画性が見える部分をぜひとも見てみたかった。
あなたの思う「ラブ」は、どんな「コメディ」になるのだろう?


津田沼評:これ想定はちょっと古いアニメなんでしょうけど、歌詞は若干地下アイドル感がありますね。むしろ最近のアニメソングからはこういうテイストは減って、と書こうとして全然いまのアニメを見ていない自分に気づきました。老いさらばえて……。とにかく地下アイドルを感じました、自分は。


エントリーNo.3『さよならコーヒースタンド』

アニメソングのOPとEDで2曲分くらい頑張ってみたけど、やっぱすごくしんどいから、YouTubeで10年後とかに再発見されて海外からのコメントがつくような、キャラソンのB面のリリックを書かせてください。普段自分が聞いているような音楽をイメージして、手癖で書きました。

ノイズみたいな雨音
雑踏の音は不規則
遠くで光るビルのスクリーン
明日の天気を知らしている

まつ毛の温度が伝わる距離でも
心は何万マイルも離れていたんだね
あのコーヒースタンドでの最後の言葉
実はよく聞こえてなかったんだ

サビ:地下鉄の人たちは皆どこか寂しげ
真空にいるみたい とっても苦しいよ
こんな日に別れるなんて思ってもなかった
記憶のネガの風景は
ピントがずれて何も見えない

タバコの吸い殻みたいな花びら
足跡と共に黒ずんでいた
遠くで流れる古い歌
知らない街を歌っている

産毛を撫でる肌の質感がわかる距離でも
気持ちは何光年経っても届かないみたい
透明水彩みたいな 世界のすみっこで
まるで迷子みたいだ

サビ:地下鉄の人たちは皆どこか寂しげ
真空にいるみたい とっても苦しいよ
こんな日に別れるなんて思ってもなかった
記憶のネガの風景は
ピントがずれて何も見えないみたい

別れのひとこと 心に刻まれたインクが
にじんで ぼやける
霧雨の夜に


アスパム藤田評:今回読んだ3曲の中だとこれが頭一つ抜き出て好き。
この歌詞の主観人物が立っている失恋後の世界を、彼ないし彼女の感じている褪せた質感が損なわれない形で拾い上げている。
「まつ毛の温度が伝わる距離」「産毛を撫でる肌の質感がわかる距離」というフェイストゥーフェイスの甘い距離が、「心は何万マイルも離れていた」「気持ちは何光年経っても届かないみたい」という壮大なスケールで一気にぐっと引き離される。
このBメロだけがあって他が駄目だと、Bメロはずいぶん大袈裟に描いたなで片づけられてしまう。そうならないのは歌詞全体が切実な彼(彼女)の痛みをしっかりと内包しているからだ。
サビの「地下鉄の~思ってもなかった」から「記憶の~見えない」へと接続されるのもいい。
サビ前まで影も形もなかった「ネガ」「ピント」から連想されるカメラというアイテムが突然姿を現す。この歌では語られない彼(彼女)の個人的なストーリーが宿るアイテムだ。
急に出てきたように見えるカメラだが、本人からするとこの場面に出てきて当然の、これまでの自分や出来事を構成する欠かせないひとつなのだ。そこから歌詞の人物の存在としての温度が伝わってくる。
「ノイズみたいな雨音」から始まった歌が「霧雨の夜に」で締めくくられるのも美しい。
もうとりあえずB面だけ書きまくった方がいいんじゃない?


ときめき残党兵評:前置きからしてほかと違う。
シンプルに、語彙の選択からして他と違う。
「アニメソング」と銘打たず、ぽえっとを志すならば、これが一番コンセプト(詩を、書く)に沿うように感じる。
ミクロとマクロの視点の飛躍が印象的だ。
ただ個人的な取捨選択など「あなただから」書けるものを掘り下げたものが面白いと思いました。


津田沼評:これもう作曲菊地成孔だろ。本人的には仕事と割り切って思い入れないけどファンからは結構記憶に残ってて、本人に「あれ好きなんです!」って言って「え? ああ、ありがとうございます」ってピンときてないリアクションされて落ち込むやつ。
なんか90年代後半の深夜アニメとかの空気感ですね。そういうアニメをYouTubeで検索すると英語のコメントが結構あって「どこで見やがった!?」みたいに思うんですけど、調べたら意外とAdult swimで普通にやってましたみたいな。そういうことを思い出しましたね。



作詞家への旅路は長い

見切り発車で進めた企画だったが、思ってもない講評や意見をしてもらえ、かなり達成感のある企画だった。いくつになっても、人に褒めてもらうのはやっぱ嬉しい。

例えばアスパム藤田とは付き合いが長いが、彼が批評的な視点と言葉を使いながら、アニソンを評する隠し球を持っていたことに驚かされた。彼のアニメソングへの向き合い方に感服するとともに、まるで文芸専攻のゼミに参加しているような錯覚に陥った。そんな大学生活、送ったことないんだけど。
ときめき残党兵による「で、お前はどんなアニメを”観て”書いてるんだ?」という評価軸は、いつも彼が酩酊するとよく口にする「お前は新しアニメを観ているのか?!本当にオタクなのか?!(島本和彦作画)」と口角泡を飛ばすような叫びを思い出して、彼の思想の根幹を垣間見たような気がしてよかった。
「エッグスン・シングス」「菊地成孔」「Adult swim」というワードがレビューでぽんと出てくるのは津田沼ならではの視点。忘れてれたよ、Adult swim。

改めてアニメソングの作詞家という存在の偉大さに気付かされたし、この記事を通して畑亜貴の天才性にも気づけた良い機会だったと思う。
今回は私ひとりの作品をレビューしてもらったが、次回は友人らで詩を持ち寄って戦わせるというのも良いかもしれない。

みんなも詩、書いてみよう。

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