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生産技術の苦悩は見積もりから始まる

[はじめに]生技は大変!

生産技術という職種は大変です。なぜ大変かということを見積もりという切り口で解説していきます。
こういう発信をすると、ご自身の経験談から違うところを見出して、お前は間違っていると言われる事がしょっちゅうあるのですが、これは私の経験談に基づくお話しです。それ以外のことはわかりません。

[メーカーのお仕事]てやんでい!

まず、メーカー勤務を想像してみてください。
何でもいいです。
電子部品にしましょうか。
何かしらの電源のようなもの。
格好つけて言うとパワーサプライ。

ほとんどの場合でメーカーというのは、まずこの電源(製品)を仕様に基づいて製品設計部隊が製品設計します。
仕様というのはこの設計よりも(仕事の流れとして)上流の、営業とか企画がまず持ってきます。
わちゃわちゃと製品設計が終わったら設計からのアウトプットに基づいて電源を構成する部品を調達します。
設計からのアウトプットというのは図面およびそのリストだったり購入品のリストだったりです。
この部品は市販の部品を購入することもあれば、加工して作るものもあります。
わかりやすいところで言えば「ねじ」なんかは市販のものを購入します。
購入品はもちろん、加工品も外の業者に依頼する事がほとんどです。
この辺の部品を入手するのは調達部隊のお仕事。場合によっては業者さんのところを訪問したりもします。
そして集まった部品を社内の組立部隊が組立て、検査を行い出荷。となります。
どのくらい作ってどのくらい出荷するかに関して、最初の一歩は営業からフォーキャストといって販売の見通しがくるので、まずはこれに合わせて生産計画を立てます。そして生産数量と出荷量を管理します。
この辺は生産管理部隊のお仕事。組立は製造部隊。検査などは品質保証。
そして、実際に組み立てを行うときに、組立の手順書を作ったり、ジグと呼ばれる組立をサポートする専用の器具だったり、場合によっては機械を導入したり製造用の機械を開発まで行う部隊がいます。あるいは生産が始まってからの組立ラインの改善などを担う部隊。これが生産技術。

ちなみになぜ加工は外に出して、組立は社内でやるのか。
一部であれば加工は社内でやるというパターンも当然あります。だけど加工というのは専門の裾野が広く、社外の専門業者に任せた方がいいのです。
極端な話に聞こえるかもですが、同じ加工でも材質が変われば専門の業者が変わったりします。
例えば溶接。
鉄とアルミでは全く別物。

それはそれとして、
一方で組立は製品の最終形状を仕上げる(組み上げる)。
その製品について1番よく知っているのは設計をやった自分たち。
だから社内で組み立てる方がいいのです。

[見積もり]お代はいかほどで?

さて、見積もりの話をしましょう。
何か新しく製品を作るときはまず見積もりをします。お客さんに提出する必要がある場合はもちろん、そうでない場合も売価を決めるためにコストを知る必要があるのでコストの見積もりは必ず行う必要があります。
さて、このコスト。私が知る限りですが、ほぼ間違いなく次のように分かれています。
【設計費】
【製造費】
【部材費】
【諸経費】
もちろん細かいことを言い出すとキリがないです。例えば設計費の中には機械設計や電気設計、あるいはプログラミングにかかる費用があります。
製造費は社内での製造にかかる費用で、多くの場合は組立費用。

これらはそれぞれにどれくらいの時間がかかるのかを営業技術、あるいは設計や製造の主担当が見積もります。
機械設計に〇〇工数(こうすう)
電気設計に〇〇工数
工数というのは、例えば1工数は作業者1人が1日分ということです。人日(にんにち)という表現をすることもあります。
とても注意が必要なのが、50工数といっても1人で50日なのか?2人で25日なのか?5人で10日なのか?
1人で50日のものを、人を増やして5人で10日でできるかと言ったらほぼ間違いなくできないですし、2人で25日のものを1人で50日でできるかというとそれも無理です。

本当にここ大事!
[1人で50人ものを人を増やして5人にしたからといって10日できるものではない。むしろ余計に時間かかる場合もある!]

部材費は外部から調達するものにかかる費用。
そして経費は設計や製造など以外にかかる費用。
会社と言うのは設計製造以外にも総務人事やら調達やらなんやらと、組織運営のためにはいろんな部署があります。それらを運営するために必要な費用です。

[直接費と間接費]きみはどっちだ?

製品の設計や製造を直接担当する人のコストは直接費と呼ばれます。
これらを担う部門は直接部門と呼ばれたりします。
人事やら調達などの直接に入らない人たちのコストは間接費と呼ばれます。これらの部門は間接部門、あるいはスタッフ部門と呼ばれたりします。
生産技術も多くの場合でスタッフ部門となります。
生産技術が間接部門にされる理由は後述しますが、まずは直接費についてみていきます。

[直接費]花形部署といわれたりもね

見積もりの項目を改めてみてみると
【設計費】【製造費】【部材費】【諸経費】
この中で、明確に人1人のコストを計上するのは設計費と製造費です。

さて、私は設計者なので設計費についてお話しします。
例えば、社内の設計者に平均的に600万円の年収を与えるとします。

会社が社員に払うお金は年収だけでなくあれやこれやがあって計算するのも面倒、というか私はできないのでざっくり倍払っているとします。
つまり600万円という年収の人を1人雇うのに1,200万円出す必要があるとする。
これを12ヶ月で割ると100万円。100万円を20日で割ると5万円。5万円を8時間で割ると6,250円。
つまり設計者の時間単価は6,250円。
何かものを作ろうとしたときに設計費をコストとして見積もる場合の最低限の単価がこれです。
6,250円が設計単価として最低限のラインです。

私の知る範囲では設計単価10,000円を越す例もあります。
まぁこの辺ははっきり言って安かろう悪かろうです。
単価が低ければその程度の人しか集まりませんし、いい人が集まったとしてもすぐに離れていきます。

それはそれとして、見積もりを作るときに設計の単価はいくらで、何工数かかる。と見積もります。
だから仕事があればあるほど直接部門の人は自分の収入が担保されます。
設計工数をのっけた見積で仕事を請けるからです。

一方で、仕事を取るために値下げをする事があります。
よくあります。
というか値下げをしない事がないです。
値下げをして仕事をとるのが一番簡単だからです。
他社より安い値段で提示すれば仕事がとれるからです。
安いところに発注する。
そういう仕組みになっているからです。
そしてこの値下げ幅は経費から引かれて
最終見積には出精値引きと書かれます。
値引き交渉、交渉とは言いつつも一方的に値引きを要求するお客さんも設計工数を少なくしろという人は今では稀です。
20年前くらいはいました。
設計費そのものを認めないという人?会社?も。
まあ今では設計工数がこれだけかかるといえばそれを減らせ!と言われることはまずないと思います。製造工数も同じく。
つまり設計者と製造者のコストはこの段階で客先によって保証されるのですね。

[間接費]日陰者の陰キャです

さて、間接費で賄うものは何かというと、前述のように人事やらなにやら。直接出ない部分です。
生産技術もです。
なぜ生産技術も間接、スタッフ部門扱いになるかというと、見積もりのコストに入らないからです。
見積もりのコストに入るものはあくまでその製品を作るために直接かかる費用。
例えばその製品を作るために500万円のロボットを導入しました。
これって表現が難しく分かりにくいとは思いますが、製品を買うお客さんにとって直接は関係ないんですよね。
だってパソコン買うときに、今回のこのパソコンを組み立てるためにロボット買ったのでその分のコスト1万円を上乗せして貰います。って言われてもしらんがなって話しですよ。
見えないところで上乗せされた値段ならまぁいい(最終的に高い安いで判断する)のですが、こうやって明確に言われたら多くの人が知らんがなっていうと思うんですね。
だって導入したロボットはメーカーに残ってメーカーの資産となるわけですから。
というわけで生産技術が何かをしようとして設備を導入しようとしても、あくまで社内の話なんですよね。お客様からいただいたお金を直接使ってどうこうというものではない。会社のお金でやる話。
ということで、生産技術の人が動いてあれこれするのは基本、間接費となる。

[スタッフ部門としても異色なんですよ。生技は!]何もしないのが正解か?!

さて、主なスタッフ部門を挙げてみます。(私の経験の範囲でです。)
営業、人事、総務、調達、生産管理、役員(部門ではない)、そして生技。この中で生技は明らかに異色なんですよ。
唯一の技術部門ということもありますが、それ以上にわかりやすいところとして、ものをつくる部門。というのがあります。

生技はジグを作ります。必要に応じて機械もつくります。ラインもつくります。もちろん自分たちだけでなく業者さんの力も借りて。
そうすると人件費以外に「ものを創る費用」が発生します。
ここで大きな問題として直接部門だったら、ものをつくる費用は製品コストに計上されます。設計費やら製造費やら部材費です。
生技がつくる「もの」は計上されていません。だから、ここで何か生技がこれを導入したい!と言ってもそんなものはね、はなからコストで見込んでいないから無理なのです。
変に新しいものを導入しようとすればするほどコストがかかるのですが、そもそもそんなものは見込んでいないのです。このプロジェクトでは。
変なコストをかけないでいただきたい。このプロジェクトで。

つまり生技の仕事というのは、ノーコストでちゃんと「もの」が作れることが最低限に要求されます。
これがスタートラインで、何か機械やら設備を導入するのであれば、その分のコストを減らす必要があるのです。例えば500万円でロボットを導入するのであれば、それだけのコストダウン。組立の人を2人以上を減らして、かつ導入にかかった自分のコストもペイさせる必要があるのです。
ゼロからのスタートでプラスにすることを要求されるのです。

[おかしいことに気づこう]こんなんできる人って限られてるよ?

前の項での話は明らかにおかしい事があるのですが、昨今の経営者は(一応これでも私は過去には技術コンサルをやっていて経営者と話をする機会は多かった)、全くおかしい事に気づかない人もいる。
そして世の中に蔓延る多くのコンサルはおかしい事に気づいているくせにおかしい方が自分たちにとって都合がいいので放置どころか助長しているのです。そこには何の生産性もないのですけどね。

さて、話を戻しましょう。PLとBSの話です。
PL(損益計算書)
BS(貸借対照表)
1つの製品の見積もりの話はPLの話です。損益計算書。このプロジェクト、この製品の動向での損益の話。
生技の仕事は本質的にBSの話です。1,000万円の設備を導入したときに、会社の資産はどうなるでしょうか?1,000万円増える?1,000万円減る?変わらない?帳簿上は別にして(一応、帳簿上たちまちには基本的に変わらない。1,000万円のキャッシュが減って1,000万円の設備が入った。)、個人的には正解はないと思っています。
ただ、経営者だったら1,000万ぶっ込んで1億稼ぐくらいの気概は欲しいところです。
あくまで私が知る範囲ですが、ほとんどの経営者は1,000万円減るという感覚の人ばかりです。
個人コンサル時代にあった人で、まぁそんなに多くははいですが、無借金経営を誇る経営者は多かったです。
無借金経営、聞こえはいいですが経営者として何もしていないと言っているのと同じにしか聞こえませんでした。
こういう感覚の人だと設備投資はできないですし、生技の仕事もPLでしか評価できないでしょう。
生技の仕事は本質的にPLで評価できないんですよ。PLで評価したいのならそこでかかるコストを直接費に入れないとダメです。つまりそのプロジェクトの見積もりにコストとして入れないとダメ。
直接費に入れないのであればBSで評価して、少しづつ積み重ねて社内に技術力を蓄えていくもの。
たちが悪いのは、設備を導入すると金がかかるけど人なら金はかからん(サービス残業をさせればいい)という感覚の経営者がいることです。
この価値観は令和も6年になったとはいえ、経営者層って年寄りばかりなのでやつら(年寄り)の感覚は変わらないんですよね。

設計や製造という部分の工数は見積もりというところで保証される。生技をはじめとしたスタッフ部門は見積書に書かれた「経費」という部分で賄われる。
直接費で仕事をする技術者は本質的に仕事をすればするほど売り上げが上がる。ちょっと違いますね、売り上げが上がれば上がるほど彼らの仕事は忙しくなって彼らの費用は大きくなる。
間接費で仕事する技術者(生技)は仕事をすればするほど本質的に、売り上げで出た利益を食いつぶすことになる。
ここに生技の仕事のむずかしさが象徴されていると思います。

[おわりに]生技を大事にするメーカーが強いんですよ。

見出し通り。
具体的なメーカー名はあげませんが、そういうことです。
ちゃんと生技を大事にしているメーカーは強いです。
生技の仕事は間接費だとないがしろにしているメーカーは。。。
転職を何度かしていていくつかの会社経験もありますし、
技術コンサルとして複数の会社も見てきました。
生技をないがしろにしているメーカーは、、、!

おわり。

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