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旅とビール

時間を持て余していた学生時代の、貧乏な一人旅を懐かしく思うことがある。

「朝起きて、屋台でコンデンスミルクのたっぷりと入ったコーヒーを飲みながら、さて、今日はどこへ行こうかと考える」。そんな、下川裕治さん風のユルい旅に、あの頃の僕は憧れ、実践していた。

あれから約20年が経ち、生活や価値観、社会に対して負う責任なんかもそれなりに大きく変わったけれど、あのときの旅のスタイルはいまでも「至高」だと思っている。みなさんも実践してみればいいんじゃないかと思う。だから僕は筆を執り、noteで発信する。

僕の旅のスタイルは、「なにごとも、事前にしっかりと決めすぎない」こと。これにつきる。

行き先を決めない。宿を決めない。交通手段を決めない。食事を決めない。

事前にしっかり決めて、しっかり守るべきは、帰りの時間くらいだろう。方角くらいも決めてもいいかもしれない。

最初からあれもこれもしっかりと決めて、分刻みで旅程をガチガチに計画するのは僕のスタイルではない。「それじゃ仕事と同じだよね」と思ってしまう。生活にオンとオフがあるとするならば、僕にとっての旅行は、スイッチのツマミを「オフ」の向こう側へねじり切って、ツマミがぶっ壊れてしまうくらいのオフでなければならない。

とりあえず方角を決めたら、まずは、大きめの駅へ向かう。駅に着いたら、そこで次の目的地を決める。目的地は、できるだけ天命に委ねるのがいい。「僕がこのバスに乗る」とは考えない。「このバスが僕をどこかへ連れて行ってくれる」のだ。「僕がそのまちを訪れる」のではない。「そのまちが僕を引き付ける」のだ。

乗り物に乗っている間は、外の景色を眺めながら物思いにふける。旅をしていていちばん楽しい瞬間は結局この時間だよね、と僕は思う。

「このくらいでいいんじゃない」と思える場所まで移動したら、バスを降り、そのまちを歩いてみる。

面白いものはないかな。面白い場所はないかな。そんなことを考えながら、ひたすら歩いていく。そもそも「面白いもの」ってなあに。「面白い場所」ってなんだっけ。あまり深く考えるのはよそう。腹が減っているなら、うまそうな食べ物が出てきそうな店を探せいい。歩き疲れたならば、ゆっくり休めそうな喫茶店や公園を探せばいい。どうせはじめから行き先なんて決めていないのだから。

「このまちに決めた」と思ったなら、宿を探そう。ぼくは今晩、どんなベッドで寝ることになるのだろう。あらかじめて決めていないからこそ、ワクワクする。


その日泊まる宿が決まったのなら、翌日に二日酔いにならない程度にビールを飲もう。知らないまちの知らないまちの空気を吸いながら、冷たいビールを喉に流し込んでいく。

この場所でこのビールを飲むために俺はこの旅に出たんだよね。そんな確信を持てたのなら、その旅は「成功」だ。安宿のベッドにバックパックをどっさりと放り投げるように、日常で溜め込んだストレスはすべて放り投げてしまおう。

ほろ酔いの頭で、さて明日はどうしようかと考える。それが僕の旅のスタイルだ。

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