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【一体どれほど石を浴びれば、私たちに「反論する」自由が許されるのだろう】

身体中がぎしぎしと軋む。背中が岩みたいにこわばっている。呼吸が浅くて、絶え間なく頭痛が続く。胃の痛みは背中にまで達していて、嘔吐物のなかに血液が混じるようになった。ストレスがかかると胃腸が炎症を起こしやすいのは昔からだ。過去、血便を出して数日間入院したのち、かかりつけの精神科医に叱られた。
「血便出すまで我慢しないで、ちゃんと弱音を吐きなさい」
そう言って苦笑いした医師の表情を、便器を抱えながらぼんやりと思い出していた。

何を書いても、何を言っても、不正解のような気がしてならない。上記に書いた内容はあくまでも「事実を並べただけに過ぎない」のに、それを読んで「しつこく責めている」と受けとる人もいる。「同情を誘って味方を増やしている」と言われることもある。では反対に、明るい話題で楽しげに振舞ってはどうか。そうしたらしたで、今度は「元気じゃないか、大袈裟に騒ぎやがって」と後ろ指をさされる。怒りをストレートにぶちまければ、「感情的だ」「被害者だというだけで権力を持ったつもりか」「むしろそっちが加害しているのでは?」と散々な言われようだ。

泣こうが喚こうが笑おうが石が飛んでくる。だったらいっそ、私のこの両の手を縛り付けておいてくれ。そう言いたくもなる今日この頃。
「つかれた」がすっかり口癖になってしまった。だってもう、本当につかれたんだ。

言葉を必死に選ぶ。ああでもない、こうでもないと必死に頭を振り絞って考える。ツイートひとつに30分以上かけることもある。それは何も今にはじまったことではなく、センシティブな内容を発信するときは、大抵しつこいほど下書きを読み返している。それでも「あれが足りない」「これが足りない」――しまいには「だからダメなんだ」と言わんばかりの、上から目線のご意見が飛んでくる。

安全圏からなら何とでも言えるだろう。どうせなら、「だからダメなんだ」の続きを教えてほしいものだ。ダメな理由だけを伝えることに、一体何の意味がある。
「こういう部分が良くないから、こうしたら解決の糸口が見えてくるかもしれないよ」
ここまで言えてはじめて「意見」というんじゃないのか。弱りきっていることが一目瞭然の身も知らぬ相手に「ダメ出し」だけをしたところで、事態が好転するわけではない。むしろ、無駄に傷つく人が増えるだけだ。

本来、「いやだ」と思うことをされたら「いやだ」と言っていいはずだ。それなのに、言い返した部分だけを拾って「怖い」だの「攻撃的」だのと眉をひそめる人たちは、大勢から一斉に石を投げられたことがあるのか。顔も名前も知らない、会ったこともコミュニケーションを取ったこともない相手から、詳しい事情を自分で調べようともしない相手から、好き勝手に言われたことがあるのか。ボロボロになるまで追いつめられているのが一目瞭然のタイミングで、「正直名前も見たくない」とまで言われたことがあるのか。「ライターの品位を下げている」とか「見えないところでやれ」とか「弱すぎて話にならない」とか「フリーランスやめれば」とか「搾取されるほうにも責任がある」とか「被害者意識が鼻につく」とか、一体何個の石を投げられれば、どんな大きさの、どんな種類の石を投げつけられれば、私たちに「反論する」自由が許されるのだろう。

いちいち言わなければダメか。こういうのを、いちいち被害者側が、身を削って言葉にしなければダメなのか。そうしなければ本当にわからないのか。

“自分が同じ立場だとして、これを言われたらどう思うだろう”

その想像力を働かせて、10分考えてツイートする。たったそれだけのことが、そんなにも難しいものなのか。

5月の告発後、「片方の話だけじゃ本当のことなんてわからないよね」と平然と言っていた人たちは、一体どこにいったのだろう。cotreeが公に事実を認めたのち、そのなかで私に謝ってくれた人なんて誰ひとりとしていない。暗に「嘘つき」と揶揄していた人たちも、誰も謝ってなんてくれない。

そんなもんだ。いつだって、そんなものなんだ。傷つける側は無頓着で、無意識で、とうの昔に忘れていて、傷つけられた側だけが忘れられなくて、いつまでも苦しくて。いつだってそうだ。虐待も、性被害も、いじめも、DVも、搾取も、二次加害も。

とてもじゃないが、きれいにまとめられそうにない。実際、「きれい」なんかじゃないんだ。人の痛みというのは、本来こういう生々しいもので、せいぜい瘡蓋ができる程度で、完治までには長い時間を要する。ときには完治が望めないケースもある。

どうしてなんだ。何度も何度もそう思って生きてきた。幼い頃から、何度も何度も何度も。どうして、どうして、どうして。

でも、そこに答えなんてない。「駒」に選ばれた。ただそれだけで、特別な理由なんてなかった。

早く瘡蓋ができてほしい。少しでも乾燥するように、剥き出しのまま暖房の風を浴びている。でも、一向に乾いてくれない。とても痛い。流れた血の量が多すぎて、流した体液の量が多すぎて、身体がふわふわと軽い。

胃が軋む。床に寝転がったまま、スマホでこれを書いている。書き終えたら、少し長く眠りたい。朝が恋しく思えない夜の越えかたを私は知っているけれど、あまりにもいろんなものが、擦り切れてしまった。


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