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【宛名のない手紙】

早く寝なきゃ。

そう思う夜ほど、うまく寝つけない。
追加で眠剤を飲もうか迷って、やめた。起きられない事態だけは、どうしても避けたかった。

スケジュール帳にぐるぐると描いたピンクの丸に、ずっと急き立てられていた。必死に作った書類を鞄に詰めこみ、忘れないよう玄関に置いた。あとは朝起きて、目的地に向かうだけ。その状態で潜り込んだベッドはひんやりと冷たくて、隣に小さな体温がないことに思わず泣きそうになった。

すんなりとは眠れず、無意識にnoteアカウントを開くと、幾つかの通知がきていた。そこに並んだアイコンを見た私は、一瞬息を呑んだ。次の瞬間、先ほど堪えた涙がぼろぼろと溢れ出した。

私がnoteをはじめたのは、2019年の春。その頃からずっと変わらず、読み続けてくれている人たちがいる。そのなかのひとりに、数ヶ月noteの更新がなく、元気でいるかなぁと折につけ思い出す人がいた。その人は、ずっと静かに、寄り添うように私の書いたものを読み続けてくれていた。初期に書いた小説に投げ銭をしてくれて、節目節目で支えてくれて、コメント欄に数えきれないほどの温かい言葉をくれた。その人からの数ヶ月ぶりの通知が、昨夜届いた。

詳しくはまだ書けないけれど、今日、私は重要な局面を迎えた。この日のために、何ヶ月もかけて様々な準備をしていた。それほどまでに重いタスクと全身が軋むほどの緊張を抱え、ひとり眠りにつく夜は、どこまでも心細かった。そんなタイミングで並んだ通知。見慣れたアイコン。見慣れた名前。書きはじめたばかりの私に、何も持っていない私に、ただ「書くのがすき」なだけの私に、丁寧に対等に接してくれた人。

私はその人と会ったことも話したこともない。よって、その人が私の予定を知る術はない。だからこれはただの偶然で、でも、こんなにもやさしい偶然があるのかと胸が詰まった。

元気でいてくれてよかった。その安堵が先にきて、そのあと一気に大きな感謝が内側で弾けた。顔も名前も声も知らない。なんの利害関係もない。そんな私の文章を、ずっと変わらず読み続けてくれる人がいる。そういう人たちに支えられて今の私が在るのだと、そのことを私は決して忘れてはならないのだと、改めて思った。

また会えて嬉しい。読みにきてもらえて、本当に嬉しい。元気でいてくれて、よかった。

冷たいベッドに自分の体温が移る頃、温かな通知が縦一列にきれいに並んだ。それを見ているうちに、不思議なほど深い安堵が私を包んだ。途端、睡魔に引き摺り込まれ、目覚めたら朝だった。

今持てるすべての力を、今日、出しきった。まだこれで終わりじゃない。ネクストステージがある闘いは、むしろこれからが正念場だ。でも何だか、根拠なく「大丈夫」と思えた。

やさしい偶然に力をもらい、どうにか今日を乗りきった私は、いま海にきている。青く穏やかに凪いだ海が、眼前に広がっている。時々そちらに目を向けながら、潮風を吸い込みながら、この手紙を書いている。切手も宛名もないこの手紙が、どうか届きますように。たくさんの「ありがとう」とともに、あなたに、届きますように。

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