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罪と罰
先日、友人が言った。
「ロボットになりたい。そうしたら、要らない記憶を全部消去できる」
私は答えた。
「そう簡単にはいかないよ」
消去したい記憶は、大抵消去したくない記憶と紙一重だ。
愛していた人を大嫌いになった。
世界中で毎日当たり前に起こっているこんなにも些末なことが、とんでもない大罪かのように感じてしまう。
罪には罰を。そう大声で唱えているくせに、自身の罪を見つめることはどうしたって怖いんだ。そんな自分を愛せない。でもそれさえも嘘だ。
誰よりも、自分を愛している。だから私は、見つめることがこんなにも怖い。
何かに赦されたいといつだって願っている。
あの日、厳かなチャペルで神さまの前で誓った言葉を、私たちは互いに踏みにじった。手垢塗れの掌と土足の靴で、真っ黒になるまで。擦り切れるまで。
はらはらと降り積もる粉雪を眺めながら、「この街が好きなんだ」とあなたは言った。
羊蹄山。余市の海。滝野霊園。豊平川。大通り公園。函館の夜景。金森赤レンガ倉庫。小樽運河。
共に見た景色が写真のフィルムのように脳内に焼き付いているのに、同時に驚くべき速さで色褪せていく。いつしか色を完全に喪った記憶は、その輪郭さえも朧げになるのだろう。
今でも「好きだ」と言ってくるその口を、強い力で塞いでやりたい。
垂れ流す感情を目にするのも耳にするのも胸が塞ぐ。函館山の山頂で雪の降るなか交わした言葉。それと同じものを、私はもう食べたくない。
右手にハンドル。左手に煙草。時々、繋がれた掌。
さようなら。あの体温を、私はもう、必要としていない。
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