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私が伝えたいのは、いつだって私以外の言葉ばっかりだ。

海に魂が還ってくるのかなんて、私には分からない。話が出来るわけでもない。それでも私は、毎年その日は海に行く。そして、いつも一方的に話をする。

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長男は随分しっかりしてきたよ。バスケが凄く上手になったよ。毎日たくさん笑って、たくさん動いて、たまに泣いたり怒ったりしているよ。沸点が低いのは私にそっくりだよ。困ったもんだけど、それも彼の持ち味の一つだから私は長所として捉えているよ。彼が怒るのは、いつだって人の為なんだ。そんな息子を自慢に思っている。親バカでごめんね。でもいつものことだから、きっと笑って許してくれるよね。
弟のことを大切に想うあまり、ちびが危ないことをすると凄く怒るんだ。父親みたいに、「危ないって言ってんだろ!怪我したらどうすんだ!!」って大きな声で言われたちびが「怒られた」って泣いて。そんなちびを抱っこして、「怪我したら痛いんだよ」と諭すように話すんだ。べそをかいたちびはそんな長男の首筋に顔を埋めて頷きながら、「ごめんなさい」と言うけれど、まだまだ小さいから何度も同じことを繰り返してしまうんだ。

”見守るって、簡単じゃないよね”

そんなことをよく長男と話すんだ。でもね、実は君の方が大変だったんだよ。君はもっともっと破天荒で、お母さんは毎日髪を振り乱して小さな君を追いかけていたんだよ。…なんて、口に出すと怒られちゃうから、あんまり言わないようにしている。

命を育てるって、大変だよね。命を守り抜くって、容易くないよね。だからこそ、こんなにも愛しいんだろうな。

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ちびはね、4歳になったよ。もうすぐ5歳になるんだよ。早いよね。あんなに小さかったのに。9年前には影も形もなかった命は、毎日すくすくと育っているよ。幼稚園は楽しいみたいだけど、家で過ごす時間の方が好きみたい。人の中にいると必要以上に頑張ってしまって疲れちゃうんだって。変なとこばっかり似ちゃうもんだよね。親子揃ってHSPだなんて、でも、案外多いみたい。敏感だからこそ生きにくい部分もあるけど、敏感だからこそ気付けるものもある。そういうものを、彼には大切にして欲しいなって思うよ。
よく走るし、よく笑うし、よく泣く。そんなところは長男にそっくり。
トムとジェリーのジェリーみたいな悪戯をよくするんだけど、その結果叱られるといつも同じことを言うんだよ。

「もっと、かわいいかおでおこってよ!」

可愛い顔で叱る方法、知ってる?私は子育て歴11年になるけど、未だに分からないんだよ。だからついつい怒り過ぎて自己嫌悪になっちゃう。良い方法が見つかったら教えて欲しいな。
長男の試合にいつも付き合わされてへとへとな週末を過ごして、月曜日には幼稚園があって。だからたまに「つかれちゃったな」と言うときがあるのだけど、そういうときは幼稚園をお休みにして家でゆっくり過ごしたりしているよ。一緒に絵本を読んだり、粘土でお団子を作ったり、庭で土を掘り返して何かよく分からない幼虫を探したり。そんなふうに充電した次の日には、すっきりした顔をして登園の準備をするんだ。大人も子どもも、お休みって必要だよね。ずっと走りっぱなしは疲れちゃうもんね。

「おかあさんとけっこんしてあげる」なんて言ってくれるのも、あと数年かなぁ。ちゅーもぎゅうも、あと何回出来るかな。あっという間に大きくなっちゃうもんだよね。寂しいのと嬉しいのと、半分半分かな。


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ビールか日本酒か珈琲か迷ったけど、みんなの好みに合わせたらドリンクバーみたいになっちゃうから、今年はこっちで大流行したタピオカにしてみたよ。もちもちしていて美味しいんだよ。甘いのが嫌いだった人も、そっちでは好きになっているといいな。


会いたいよ。何年経っても、会いたい。

でもまだそっちにはいけない。いきたいと願っていたこともあるけれど、今は違う。今はちゃんと生きたいって思っている。あなた達のぶんまで、なんて考えていない。冷たいようだけど、私は私の人生しか生きられない。生きたかった人のぶんまでなんて、そんな神さまみたいなこと私には出来ない。

だから、見ていて欲しい。


命を育てる。命を守る。それが、私が一番やりたいこと。その為なら、何だってする。でもそれは使命感とかじゃなくて、もっと内側から滲み出てくるものなんだ。与えられなかったからこそ憧れが強いのかもしれない。でも気を付けなきゃね。押し付けにならないように。与えているつもりで、結果奪うことにならないように。
人は誰しも完璧じゃないから。「それ違うよ」っていう声に、耳を傾けられる人で在りたいな。



あの日を忘れないこと。それでも生きていくこと。その大切さを教えてくれたあなたの声を、昨日ようやく届けられた。みんながたくさん手伝ってくれたんだよ。嬉しいね。

遅くなってごめんね。でもきっと、あなたは笑って「ありがとう」と言うんだろうな。

あなたがあの日から数年後にそっちにいってしまうなんて、全然思ってなかった。思ってなかったんだよ。
あなたの子どもたちは元気に育っているよ。そんなこと、とっくに知っているだろうけど。

小学校のときから一緒だったね。交換日記も書いたね。喧嘩もしたね。私が地元を離れるとき、何も言わなかったことを凄く怒ったね。結局大切なことをちゃんと話せないままにあなたはいってしまった。

災害でも、病気でも、事故でも。どうして命が消えるのはいつも突然なんだろう。どうして、優しくて我が子をあんなにも愛していたあなただったんだろう。納得いかないよ、今でも。多分ずっと、納得いかないよ。


みんなとは会えたかな。どんな話をしているかな。今でも覚えているのは、小さな娘さんを抱きしめながらあなたが言った言葉。9年前のあの日から1年後、追悼の為に帰ったとき。2LDKのアパートの一室で、あなたは言ったね。


「あの日、大きく揺れる部屋のなかで必死に祈った。この子だけは。この子だけは、って。その願いを叶えてもらったから、もうこの先何にも要らないって。そう思ったよ」


極限のなかで人が祈ることって、凄くシンプルなんだ。生きたい。守りたい。ただそれだけ。普段あれこれ考えていること全部どうでも良くなるくらい、ただそれだけを願うんだ。

忘れないよ。あなたのことも、あなたの言葉も、みんなの命があったことも。多すぎる数字を見て麻痺したくなんかないよ。あなたたちの命は、圧倒的な死者の数の一つなんかじゃない。一人一人が、必死に生きていた。家族がいて、守りたいものがあって、愛した人がいた。


昨夜ニュースを見て泣いていた私に、長男が無言でティッシュを差し出してくれた。ちびがぎゅってしてくれた。そのあと、笑わせてくれた。

生きているから感じられる幸せを、私は節約なんてしないって誓う。笑うことに罪悪感なんて持たないって誓うよ。


こうして生きるだの死ぬだのに関わることを書くことの正否を日々考えるよ。ネタにしているように思われることもきっとあるんだろうな。でもそれでもいい。分かってくれる人が分かってくれればいい。本気で書いているんだって、少しでも伝わってくれたらいい。

何てことないたった一人の主婦が、友人と交わした言葉。それを伝えたかっただけなんだってことが、分かってもらえたらそれでいい。

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晴天の海は、とても綺麗だった。地元の海とは違う色。違う色の砂浜。Twitterで思わず地元の名前を入れて検索をした。見たかった海の色が出てきて、少し泣いた。繋がっているであろう海の波打ち際で、何よりも守りたい命たちが元気なはしゃぎ声をあげていた。



ばいばい、またね。

また来年、長い長い報告をしに来るから。そのときまで、お互い元気でね。

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