覆われた目
「うーん、怖い話かぁ。あんまり得意じゃないからなぁ。じゃあ、ひとつだけ。自分で経験?というか父から教えてもらったことなんだけど。
わたし、小さい頃だいぶ危なっかしい子供だったんだよね。遊園地に行ったら大きな池に落ちたり柵に顔挟まっちゃったり、幼稚園の頃なんか和式のトイレに片足が嵌っちゃってレスキュー隊が来たりするような。まあ今では完全に笑い話だけど、親としてはだいぶ心配だったんじゃないかなぁ。怖がりで寂しがり屋で甘えん坊の典型的妹タイプ。
で、小学六年生の時に、学校の企画っていうかイベントで、小学校に泊まろうっていうのがあったの。6年生とその親達で色々夜の学校で花火したり肝試ししたりして遊んで、最後に子供たちだけで体育館に寝袋広げて寝るっていう。家庭科室で晩御飯のカレー作ったりして楽しかったなぁ。肝試しは、夜に三階の特別教室があるところまで子供たちが2,3人で行って、音楽室で写真を撮って戻ってくるっていうシンプルなもの。別に脅かし役とか置かないで、私もいちばん仲良い子達ときゃあきゃあ騒ぎながら行ってきたの。別におかしなことなんてなかった。
ただね、その時まだうちではフィルムの古いカメラ使ってて、それを現像した時にちょっと問題が起きて。って言うのは、スリーショットの私の顔の上半分くらいの位置が、白いなんか、モヤみたいなので綺麗に写ってなかったの。現像した写真を見て一緒に写ってる子達ときゃあきゃあ騒いでたんだけど、父が「これ現像でできたノイズかな、それかフラッシュたいた時になんかに反射したのかもねー」みたいなこと言って、ああなーんだってちょっとガッカリしたりしてたな。
その私の父っていうのが、家系的にちょっと霊感ある人なの。父が子供の頃買っていた猫ちゃんがいて、毎日一緒に寝てた子なんだけど、高齢でその猫ちゃんが亡くなっちゃって、いつも通り布団で寝てたら感覚的に暖かいその猫ちゃんが今まで通り布団に入って来て、しばらく一緒に寝てたみたいなことがあるんだって。だから私も、小さい頃亡くなっちゃった飼い猫が来てくれるかなって思ったりしたんだけど、私には全然わかんなかった。それ以降も一度もそう言う霊的な体験したことなくてさ、私はゼロなんだなってちょっとつまんないなって思ったりしてたわけ。
でね、コロナの前くらいかな、帰省した時に私ももうすぐ20歳だからって、家族でアルバム見てたの。そしたらその音楽室で撮った変な写真が出てきてさ、あーこれ懐かしいねーなんて言ってたら父が、「これさ、ノイズとか反射じゃないと思うんだよね。」って。どういうことか分かんなくてさ、じゃあなんなのって聞いてみたわけ。
そしたら、「おばあちゃんの手だよ。そう見える。」って。父方のおばあちゃんは私が7歳の時に亡くなってて、今お仏壇は実家にあるんだけど、意味わからないじゃん。ていうか完全に怖い話じゃんと思って、半信半疑で、「どういうこと?なんで?」って聞いたわけ。
そしたら、怖がって訝しんでるのがわかったみたいで、父が説明してくれたの。
要約すると、このおばあちゃんの手は、目を塞いで怖いものを見なくて済むようにしてくれてるんだと思うって。だから私がこれまでなんにも霊的な経験をしたことがないのは、おばあちゃんが塞いでいてくれてるからだって。霊的なものっていわく付きな場所とかだけじゃなく、いわゆるみんなが怖がっている場所とかそういう人の恐怖心によって生まれたりするらしい。夜の学校がまさにそれで、しかも理科準備室とか音楽室にきゃあきゃあ怖がる子供がいっぱい来てたから、なにかいたのかもしれない、それを見て私が怖がらないように目を塞いでいてくれたんじゃないかなって。本当は現像された写真を見た時に気づいていたけど、怖がらせるから言わないでいたんだって。
私は正直、上手く信じられなかったのね。まあ突拍子もない話だし。おばあちゃんは7歳の頃に亡くなって、でもいっぱい愛してもらってたから、とりあえずそうだったらいいなって納得したの。
その後父が、おばあちゃんは私のことを相当心配してたって、言うの。なんでかって言うと、小さい頃から甘えんぼでいつも誰かに引っ付いていて、だからそういうものにも引っ張られそうになってたんだって。父はそれがわかるほどには霊感が強くなかったらしいけど、おばあちゃんにはわかってたらしいよ。
ふーんなんて聞いてたんだけどさ、昔のこと思い出してゾッとしたの。遊園地の池に落ちたとき私誰かを追いかけてたんだよね。柵に頭はまった時は遠くにたしか綺麗なものがあって見たくて突っ込んだの。トイレに足がハマった時なんで嵌ったのか自分んでもわかってなくて、どんなに大人が引っ張ってもどうしても抜けなくて、レスキュー隊の人たちは最終的にトイレを壊して私の足を引っ張り出したの。暗い場所を車で走っていると不思議に恐ろしくなって窓の外を見ないようにすることも何度もあった。 温泉で母の髪が乾くのを横で待っていた時「はるちゃん!!久しぶりー!」って声掛けてきた女の子がいて、全然覚えにないけどとりあえず一緒に遊んで、後で母に誰って聞かれてもわかんないとしか答えられなかったこともあった。
その辺で、あれ、もしかして子供の頃のあの甘えんぼが、そういうものたちに好かれちゃってたのかなって。それに気づいたおばあちゃんが、亡くなったあとも泣き虫で怖がりな私のために、ずっと目を塞いでいてくれてるのかなって。
それから帰省する度に、寝る前にお仏壇の近くにあるおばあちゃんの写真に向かって「これからも見守っていてね。おやすみなさい。」って頭の中でお礼してるの。だから多分私の目は今もおばあちゃんが手で覆ってくれてると思うんだ。
なんてね。あんまり怖くないかなぁ。」
っていう半分ホントの半分創作の怪談思いつきました。
どれがほんとのことかな?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?