消えて、はじまる。【試作小説】
米津玄師『地球儀』を聞きながらお目通し頂ければ幸いです。
最後まで身勝手な奴だった。せめてこの扉の開け方くらい書き残しておきやがれ。俺は口の中だけで、もはや会えぬ奴に文句を言った。
ガチャガチャと錆び付いた鍵がようやく開く。錆び付いた観音開きの扉を開くと、中からホコリっぽくカビ臭い空気が流れ込んでくる。薄暗い室内に漸く目が慣れ、中に仕舞われていた箱、古びた木箱が安っぽい板が打ち付けられた床にポツンと置かれているのが見えてくる。足を運び、そこへと近づいていった。
箱に手を掛ける。蓋を留めていた筈の釘は既に抜かれていた。簡単に蓋は開いた。木箱の中には何が入っているのか。そっと覗き込んでみる。
一冊の本が放り込まれている。革張りの表紙、金押しの勿体ぶった題名。あいつは本の虫だった。活字なら何でも読む。薬の用法を書いた小さな説明書、そこいらのスーパーが毎日やっている安売りを知らせるチラシ。字が載っているものなら何でもいいんだと、笑いながら読んでいた。
『君たちはどう生きるか』
それが本の題名だった。
知るか、そんなもん。
生きなきゃ何にも分かんねぇだろうが。
死んじまったら何がわかるってんだ。
こんなもの遺して、お前は俺に何を言い遺したかったって言うんだよ。
そう怒鳴りたくても、怒鳴りつける相手はもういない。
こうしていても仕方がない。じゃあ、行くか。
本を左手に握りしめ、立ち上がる。土埃にまみれたズボンを右手で叩き、ホコリを落としてから、俺は歩き始めた。
俺は生きるぞ。俺の手で地球を回すことなどできはしない。でも、お前と出会った時の喜び、お前を失った悲しみは、俺のものだ。全部抱えて生きてやる。飽きるまで生きてやるさ。
「なあ。それでいいんだろう?何か言えよ、莫迦野郎!」
聞く者のいない俺の怒鳴り声が、風に浚われ、消えていった。
その向こうは、霞んで見えぬ地平線。
果てしないひとり旅が今、はじまる。
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