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きみが最後に言った言葉【シロクマ文芸部】参加記事

2023ラストの #シロクマ文芸部  参加です、よろしくお願い申し上げます。

最後の日に1番似つかわしくないことをポツリと呟いて、きみはぼくの前から永遠に消えてしまった。また明日というかのような、その言葉が今もぼくの脳裡に谺している。

「明日、カレーが食べたいな」

それが最後の言葉なのかい?食べたいなら、いくらでも作ってあげるのに。苦しい息の中で、そんなことを言って微笑んで。きみは最後の息を深く吸い、ふっとそれを吐き出して、吐き出された呼気の分だけ薄くなった胸は、二度と鼓動を刻まない。

なんてあっけないんだ。ドラマで描かれるような最期なんて実際には訪れないとは分かっていたけれど。午後二時を少し回った、秋の終わり。日は徐々に短くなっていたから、その日も日差しは傾き始めていて、柔らかい日差しが白いカーテン越しにきみの薄い胸を照らしていた。

「さようならさえ、言わせてくれなかったね。泣く余裕さえ作ってくれなかった。泣けやしないよ、実感なんてない。どこにいるんだ。そこにいるのかい?……いや、止めよう。そんなことは。そっちには冬がないんだろう?桜の花びらがハラハラと散っているのかな。きみが好きだった薄紅の」

独り言が、ぼくだけになってしまった部屋にこだまする。写真立ての中できみが笑っている。ぼくらが出会った5年前のきみ、その笑顔で。

静かに立ち上がる。今日はきみが好きだった、あのカフェで買ったスペシャルブレンドを淹れよう。コーヒーのお供はブラウニーだ。ようやく、ぼくにも焼けるようになった唯一の焼き菓子。

「美味しいかなぁ。間に合わなくて、ごめんな」

あちらに住む人は祈りを食するのだという。香を手向けるのも祈りを届けるためらしい。どこからか耳にした聞き囓りで根拠のないおとぎ話のようなそれを今は信じたい。そう思いながらコーヒーカップを二客、その中に琥珀の雫を注いだ。

食卓テーブルに、冬の日差しが、あのときより柔らかな日差しを注ぎ、カップが長い影を白いテーブルクロスに映し出していた。

明日は雪が止み、日差しが差す一日となるでしょう。

ノートパソコンのモニターで、ニュースを読む女性キャスターの声が、ぼくの独り言に頷くように明日の天気を告げていた。



こんな場面も、この二人にはあったのかもしれません。BingAI生成画像。

拙稿題名:きみが最後に言った言葉
総字数:880字(原稿用紙2枚強)

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