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ゼロから顧客起点でDX地図を描く~「DXの思考法」を読んで~


どんな本か

GAFAに代表されるプラットフォーマーの躍進は目を見張るものがあり、世界の競争政策当局者や学者は、これまでのビジネスモデルがプラットフォーマ―には適用されないと考え始めています。つまり、何か決定的な相転移が世界で起こっていることを示唆しています。日本企業が、この変化の本質を見抜けず、表面的な部分の模倣に終始した場合、世界に対して取り返しのつかない遅れをとる可能性があります。

この本の目的は、このような危機感を抱いた西尾圭太氏が、日本企業に対して、今、"世界で何が起こっているのか?"、"日本企業はどうすればいいのか?"を分かりやすく解説することです。

何故この本を読むのか

この本を読まなければいけない理由は、次の2点です

  • Chat-GPTによる生産性革命など、世界のトップ企業が巻き起こすドラスティックな変化の表層に捉われることなく、今、世界で起きているデジタル革命の本質を理解できる

  • この理解を踏まえ、企業やビジネスパーソンが時代の潮流に乗り遅れないために、どのように自己改革を進めていくべきかを学ぶことができる

1. デジタル化によるタスクの抽象化が幾重にも重なり、企業活動のアルゴリズム化が実現

1-1. デジタル化の本質は抽象化である

"デジタル化"の本質は”抽象化"です。デジタル化の代表例として、パーソナルコンピュータ、インターネット、ディープラーニングの出現があり、これらはいずれも、"これさえできれば、他のほとんどすべてのことができるようになる"という、技術の汎化性能の高さに共通点があります。そして、この汎化性能の高さが、デジタル化の要諦であり、本の著者は、これを"抽象化"という言葉で表現しています。

1-2. 抽象化の繰り返しはレイヤーを作り、レイヤーの上層ほど人の世界に近い

デジタルによるタスクの"抽象化"が繰り返されることで、レイヤー構造が形成されます。例えば、半導体技術により0と1の記号を扱えるコンピュータがあるとすると(第1層)、このコンピュータを活かして、数字・文字・四則演算・論理演算を0と1の記号で表現できるようにしたアルゴリズム(第2層)があります。さらに、これを利用して高度な処理を実現したのが低級言語・アセンブリ言語(第3層)、人が分かるような形で処理の記述を実現したのが高級言語・プログラミング言語(第4層)、さらに、このプログラミング言語で様々なモジュールが開発され(第5層)、このモジュール群が様々な企業活動を支えるシステムを形成しています(第6層)。

このように形作られたレイヤーは、下層程コンピュータの0/1の世界に近く、上層ほど人の世界に近いという特徴を持ちます。上の例においても、企業で働く人々が直接触れるのは、第6層のシステムの部分だと思いますが、それを下支えしているのは、そのシステムを駆動するモジュール群(第5層)、それを支える各種ソースコードやそれらを機械語に変換するコンパイラ(第4層)があり、さらには膨大な計算を支えるコンピュータ群(第1層)があります。

1-3. レイヤー構造は進化を続け、企業活動全般を誰でもアルゴリズム化できる水準に到達した

今の時代は、パーソナルコンピュータの発明以降、幾重にも積み重なってきた抽象化のレイヤーが臨界点を突破し、企業活動全般をアルゴリズム化できるフェーズに至ったものと考えられます。デジタル化は、アラン・チューリングがコンピュータを発明して以降、様々なレイヤーで進行し、その厚みはどんどん増してきていたと考えられます。そこに、近年のIoT技術・ディープラーニングの革新により、人の動きを細かくデータ化できるレイヤー、データをもとにした将来予測・意思決定ができるレイヤーが加わり、"人による判断抜きで企業活動を動かせる"水準に到達し、中国のアリババ社のように、"企業活動全体をアルゴリズムで駆動できる"世界に突入しました。これに加え、クラウドコンピューティングの進展により、大規模なサーバー構築・維持管理の必要がなくなったことで、誰でも世界最新鋭の計算リソースを利用できるようになり、世界中でデジタル化の波が進行していると考えます。

2. 日本企業の強みが今の時代の弱みに

高度経済成長期では、言語化できない経験知・技術が日本企業の国際競争力を支えていましたが、デジタル時代ではこれが足枷になっています。日本企業が強みとしていた経験知・技術は、言語化が難しいため、デジタル化・抽象化に不向きです。これにより、その業務をデジタル化・効率化できません。また、言語化できないということは、"抽象化して他に活かすということもできない"ことになり、せっかくの優れた技術や知見が他の部署・分野に活かされることが少ないです。さらに、組織構造・業界構造も、そのような経験知・技術を活かすことを前提としたタテ割りとなっていたり、企業独自のシステムをベンダーが囲い込むベンダーロックインが生じていたり等、デジタル化の効果をあげていくために必要な、横展開によるシナジーが生まれにくい状況にあります。

3. DX地図の描き方

3-1. 産業構造の劇的な変化に合わせ企業構造も一新する必要があることを意識する

まず、現在は産業構造が根本から変化していることを認識することが必要です。今は、産業そのものがネットワークとして再構築されており、この新たなパラダイムでは、未来の生産要素は誰にでも手に入ります。また、誰もが事業をオンライン化し、他者と連携できますし、データ・アルゴリズム・コンピュータ能力もすべてクラウドから調達できます。

全く異なるフィールドに合わせるために、遷都の如く、企業構造を根本から変える必要があることを認識しなければいけません。例えば、平安京の遷都においても、都の形そのものをつくりかえる必要がありました。これは、地形が大きく異なるためです。同様に、産業構造が大きく変化しているのであれば、企業および自分自身もそれに合わせて変化していくことが必要です。

3-2. IX地図を描く

次に、業界全体のIX(Industry Transformation)地図を描きます。これにより、自社および競合他社を書き込むことで、業界全体のIXにおける自社のポジショニングを明確できます。このIX地図は、具体的には、横軸にUX-UI軸、縦軸にサプライヤ-人間の経験・課題の2軸で構成されており(図1参照)このマップは、本の著者が提唱するものです。自社を含む産業の各プレイヤーをこのマップに配置することで、競合他社の立ち位置が明確になると共に、自社がどのエリアに参入し、どのような変化を起こしたいと考えているかを明確にできます。

図1 IX地図のイメージ

3-3. 本屋の本棚を埋めるイメージでDX地図を描く

続いて、本屋の本棚を埋めるイメージで自社のDX地図を作成します。これにより、自社のDX戦略を立てることができます。具体的には、横軸に技術の進展度合、縦軸に物理層-人の課題の2軸を設定した上で、実現したいUXに必要なレイヤーごとの技術を書き込みます(図2参照)。現代では、理想とする顧客体験を実現するための様々なデータ・ソリューションが存在しているため、既にあるものや、今後実現していく可能性があるものは把握した上で、活用していくことが必要です。この地図により、既存のサービスを活用する要素と、自社の技術開発により賄う要素を明確にすることができます。

図2 DX地図のイメージ

4. まとめ

この本では、デジタル化の本質やいま世界で起こっているDXの本質をとらまえた上で、日本の企業やビジネスパーソンがこの激動の時代で迷子にならずやるべきことを明確して邁進できるように、どのように地図をこしらえればよいか?を教えてくれる本でした。

DXを成功に導くには、現行の業務を良くすることではなく、顧客体験を基軸にして必要な技術要素・マイクロサービスおよびこれらを連携される技術を、デジタル化のレイヤーを意識しながらマッピングし、企業活動そのもののアルゴリズム化を目指していくことにあると筆者は理解しました。

参考

西山圭太, 冨山和彦. DX の思考法 日本経済復活への最強戦略. 文藝春秋, 2021.


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