#27 環境にやさしい農業
勉強の記録として「環境と農と食」をテーマに書く。
第一回目のの投稿の目的は、「環境にやさしい農業」について整理し、エコラベルの可能性について考えることだ。
背景
農業は自然環境に大きく依存した営み・産業である。それ故に自然条件や気候に大きく左右される。これが世界中どこでも生産できる工業との大きな違いであり、得られる収入にも差が生まれる原因である。
戦後、こうした工業との賃金格差を埋めるために政府は農業の”近代化”に舵を切った。農業の近代化とは、人や家畜から機械への転換、緑肥・堆肥から化学肥料・農薬への転換によって生産性の向上を図ることである。
日本の農業はこのような近代化政策によって大きく変化した。ここでは詳しく触れないが、機械の入れない棚田・段畑の耕作放棄やそれによる農村の衰退、土壌流失...機械の維持やタネ、農薬購入に高いコストをかけざるを得ないという矛盾...など様々な問題が発生した。これらの問題は、近年言われている、農村の過疎化・高齢化といった地域の問題から、食料自給率、ひいては生物多様性という環境問題にまでつながっている。
広範囲にまたがる問題の根本的な解決方法とは?それは、自然環境に依存した”農業という人間活動”が持続可能であることだと思う。そのための糸口として、まずは目指すべき農業について勉強する必要があろう。
”環境にやさしい”農業とその現状
環境にやさしい=環境負荷が少ないを意味する。土地(土壌)の持続性が農業の持続性に直結している。つまり、環境にやさしい農業は持続可能な今後目指すべき農業の姿である。環境にやさしい農業「環境保全型農業」と呼ばれ、以下の図のようにあらわせる。
図1:環境保全型農業の概念図(文献をもとに作成)
三角の一番下から上の農法に従って、環境負荷は小さくなる。また同様に、その農法が農産物に占める割合も少なくなる。下から2段目の「その他の環境保全型農業」には、地域独自での取り組み、例えば「コウノトリの舞」(米)などのいきもの認証系が含まれる。
「環境保全型農業」は、1992年に初めて国の政策文書に登場した*1 が、その言葉が表す意味は取り組まれていない・広く知られていないのが現状である。以下データを示す。
表1:環境保全型農業の耕地面積割合(文献をもとに作成)
※環境保全型農業直接支払:国の制度により直接支払の対象となっている農地。カバークロップ、堆肥の施用、有機農業、地域特認取組といった取り組みがある。※表には挙げてないが、GAP認証の中にも環境配慮の項目がある。
図2:環境に配慮した農産物の基準についての認知度(*6より引用)
図3:「有機(オーガニック)」という言葉から浮かぶイメージ(*6より引用)
消費者へのアンケートでも、有機農産物という言葉はそれなりに知られていることがわかる、しかしエコファーマーや特別栽培に関しては25%以下という結果だ。(図2)
また有機栽培と慣行栽培で健康リスクの差はないはずだが、”有機”に対するイメージは”環境にやさしいより”も”安心・安全”、”健康に良い”が上位を占めている。
エコラベルの可能性
上述したとおり、環境保全型農業は全耕地面積の内5%、有機農業だけで見れば、たったの0.5%である。一方で、有機農業先進国のイタリアは耕地面積の14.5%、EUでは7.2%を占める。気候の違いなど、一概に比べられないところもあるにせよ、日本はだいぶ差をつけられていると言える。
この状況を打開するための手段として、”エコラベル”が考えられる。その理由は以下3点にまとめられる。
⑴農産物の環境への貢献度に関する情報提供ができるツールである⑵環境保全型農業のインセンティブになりうるアクション(消費行動)を簡単に行える⑶環境と農業に対するの正しい知識の浸透、価値転換の可能性
※⑴環境に配慮した農産物を買いたくても、消費者は情報へアクセスできないことが多い。また、農家も販路や情報開示の手段がない、またはわからない※⑵環境保全型農業には、慣行農法に比べて手間も費用もかかり、農産物に付加価値がついたとしてもその費用を回収できない場合がある。
しかし、2017年の有機農産物の価格についての消費者の意識の調査では、多数の回答者が一般農産物と同じ程度の価格がよいとしていたが、有機農産物に安全性やおいしさなどを求める人より、農家の支援や環境の保全などを求める人のほうが、許容する金額の範囲が広かった*3という結果も出ている。
つまり、”農家の支援や環境の保全などを求める人”またそのような価値観に着目することで道が開けるかもしれないということだ。
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今は消費者のニーズに合わせて、農家も流通加工業者も安心・安全やおいしさが強調される傾向にあるが、以上のことを踏まえれば、環境保全型農業の普及・拡大のためには”エコ”に着目することが有効だと考えられる。環境に貢献することに対してお金を払う仕組みである”エコラベル(認証)”は、目指すべき農業に向かっていくために果たす役割は極めて大きいと言えるだろう。まだまだ認知されておらず課題も多い農産物のエコラベルだが、その可能性に期待したい。
参考文献
*1 佐藤剛史(2004):地方自治体における農業環境政策の現状と課題ー主に生物多様性保全の視点からー:九大農学芸誌 *2 小口広太(2016):有機農業の地域的展開に関する実証的研究-埼玉県比企郡小川町を事例として-:明治大学農業経済学専攻 *3 次代の農と食をつくる会(2017):オーガニック・エコ農産物の普及拡大に関する調査報告 *4 農林水産省(2019):有機農業をめぐる事情 *5 農林水産省(2019):平成30年度環境保全型農業直接支払交付金の実施状況 *6 農林水産省(2016):有機農業を含む環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査:平成27年度 農林水産情報交流ネットワーク事業 全国調査