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#97 【2020-07】3テーマ読書記録

数えきれない贈与で世界はできていた

ちょっとヘンなタイトルになってしまったが、2020年7月の読書や出来事を通して学んだり、考えたことを一言で表すとこうなった。

7月、長い梅雨だった。東京にもいよいよ夏が近づいてきた7月最後の日は、自転車で海の見えるところまで行ってきた。都内にはシェアサイクルポートがいたるところあって気軽に自転車に乗れる。(カバー写真)

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さて今回は、7月に読み終えた本8冊について紹介する。といっても全部に触れていてはきりがないので、主にどんな基準で読む本を選んでいるのか、私的 No.1の本について書くことにする。

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テーマを決めて乱読

本題に入る前に、なぜ7月の読書記録をまとめようを思ったのか、から始めたい。今月から読書の記録を月単位でまとめることにした。これは月初めに、「本を読む人だけが手にするもの」という本を読んで【声のnote】を投稿したことがきっかけだ。

気分で選ぶと偏るので、バランスよく色んな本を読むために、1か月の間に以下の3テーマの本を最低1冊ずつ読むようにしよう!と思ってこれらのテーマを設定した。↓

#心を豊かにする読書
他人の人生を読書を通じて体験したい。主に小説などの物語

#暮らしを豊かにする読書
ミニマルに生きるためには、経済的に自立するためには?という自分自身が関心あること、そして日々の暮らしを豊かにするために読む本。ジャンルは問わないけれど、お金とか持ち物とかの本が中心になりそう。

#世界を広げる読書
研究の幅を広げてくれる本、知的好奇心を刺激する本、歴史を知ることのできる本など。

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お金では買えないもの? ― 今月の私的 No.1本

今月のNo.1はこの本だ。
世界は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学

「贈与」と聞いてもあまりピンとこないのではないか?私自身、日常生活で「贈与」という言葉を使うシーンは全くない。

本書では、私たちが必要としているにもかかわらずお金で買うことのできないものおよびその移動を「贈与」と呼んでいる。大切な人間関係や仕事のやりがいも贈与の原理が働いている例だそうだ。そして私たちは、私たちの生活や人生そのものにとって非常に大切なお金で買えないもの(つまり贈与)の正体を分かっていない、だから、本当に大切なこと、大切な人たちとの関係を見誤るのだという。

そこで必要なのが、贈与を正しく語る言葉であり、その言葉を通して贈与の原理を見出すことだそうだ。本書は、「言語ゲーム」という概念装置を発明した、哲学者ウィトケンシュタインの力を借りて贈与の原理を紐解いていく内容となっている。

???なんだかヨクワカラナイし、ムズカシソウ…

という印象を抱いてしまったかもしれないけれど、著者自身の母親との会話など親子関係、サンタクロース、テルマエ・ロマエのルシウス、などを題材にした説明はとても身近な話題で理解しやすい。例えば電車に乗っていてきれいな海が見えたとき、「あ、海が見えるよ!」って大切な誰かに共有してしまうのも贈与の原理が働いているらしい。

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私たちは今、市場経済システムの中でそれがあたりまえの社会構造だと思って生きている。しかし、その構造のすきまにはお金と交換できないことがたくさん転がっている。それらは誰からも気づかれ中ればそのまま転がっているだけだ。その何かに気づくことができたら、きっと世界は違って見えるだろう。そんなことを教えてもらった本だった。

また以下の引用であるように、大切な人たちと出会い直すという、たぶん誰しも少しは気になることを考えるきっかけになった。直接答えが書いてあるわけではないけれど、読みながら・読み終えてから何となく考えていることで、個人個人の答えのヒントが見つかるのではないか。曖昧な書き方になってしまった…でもきっと、答えが見つからなくても何となくでも考え続けていること自体ががいいのではないかと私は思う。

概念の獲得は当然、僕らの使う言葉を変えます。
そして、言語の変化は行動と生活の変化を生む──。
(中略)
贈与に関する新しい言葉と概念を得て、贈与の原理を知ることで、行動と生活が変わり、僕らにとって大切な人たちとの関係性が変わるのです。
まったく新しい関係性になるというのではなく、大切な人たちと出会い直すのです。

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少し話題は変わるけれど、
特に工学系の方々へ(本を読む人も読まない人も!)

本書の序盤に、
「人類の幸福な生存のため」に「概念」をつくることが哲学、「よりよい人工物」をつくるのが工学であり、一見対極にある哲学と工学は似ている
という文章がある。

工学が身近な私にとっては、とてもしっくりくる言葉で、これまでそれほど詳しくない哲学を面白いなと思えていたのは、工学的考え方に日々触れていたところが大きいからだと思った。おそらく、何かしら工学系の勉強をしていたみなさんにとっても、アナロジーを感じたりと、楽しく読めるのではないか。

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世界の見方を少し変えるだけで、日常がこんなにも違って見えるのか、あの現象はこういうことで起こっていたのか、と様々なことに”気づかせてくれる”本です。みなさんもぜひ!(以下のnoteで内容を一部公開しているようです。)

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今月読んだ本一覧

テーマ別に読んだ本をまとめました。

#暮らしを豊かにする読書

3テーマ読書のきっかけをくれた本

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この本については以下の記事でも書いています↓

#心を豊かにする読書


平野啓一郎の分人主義を題材にした小説。上下巻で読みごたえあり。

#世界を広げる読書

日本版「沈黙の春」とも言われている本。戦後~1970年代の主に食に関する環境問題をヒトへの安全性の観点から書いている。この本に感化された農家や日本酒の作り手がたくさんいるみたい。

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AI、ウェアラブルセンサ、ビックデータを使って幸せは測れるのか?ということに挑戦した研究者の本。この本がきっかけで考えたことをしゃべっています↓

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在宅時間が長くなって、料理をする機会が増えたいま、宅配野菜を利用している人は多いのではないか?本書は、会員数日本一の生鮮宅配企業 Oisix が、「売れない・買えない・金ない」の状態をどのように切り抜けてきたのかをユーモラスに描いたスタートアップの物語である。

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先ほど紹介した今月No.1の本

7月を振り返って

今月の読書を振り返って思ったのは、どの本も共通して、著者や登場人物のエネルギーが伝わってきたということ。

藤原さんが大人になってから乱読を始めたときのこと、井上さんが試行錯誤しながらお金と向き合ったこと、自分の自殺理由を必死に探した土屋徹生(空白を満たしなさいの主人公)、農薬や化学物質の複合汚染を世の中に知らしめた有吉さん、人の幸せをデータサイエンスで解き明かそうとした矢野さん、インターネットを使って世の中をよくしたいと奮闘した高島さん、そして贈与の原理を分かりやすく面白く書いてくださった近内さん。それぞれの著者が気づいてしまったこと(受け取ってしまった贈与)を「本」にし、それをたまたま私が読者として受け取ったことで、私はこうして文章を書いている。

本だけじゃない。日々おしゃべりしてくれる友人や家族、研究室の人たち、見知らぬ人…とにかく数えきれないほどの人からの贈与を私は受け取っていた。そしてこれからも受け取るだろう。

こうしてここに書くことや大学での研究を、ずっとやめずに続けていきたい、という思いは以前からあった。それが、贈与を受け取ったことからはじまっていたのだと思うと、周りに対して前より少し寛容で優しくなれた気がする。

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