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#120 「食」はあらゆるものをつなげる|【2021-02, 03】3テーマ読書記録

先日、茨城県のとある農場に行ってきました。そこは有機農業と畜産を組み合わせた複合農業を行っている場所で、農場の歴史や、その地域と農場での有機物循環のお話などを伺ってきました。春の里山の桜や新芽の色が混ざり合った風景が美しかったです。アイキャッチ画像はそこの畑の様子。

さて、この二ケ月で読んだ本は「食」にまつわるものが多かったのです。研究、ゼミ、インターンとそれぞれ違う角度から「食と農」について考える機会が多く、それらと合わさってますます食の奥深さと広がりを感じました。まだ頭の中は混沌としているのでメモ書きのような状態ですが、読書で得られたことを今後じっくり発酵させていくための記録として残しておきたい思います。

【心を豊かにする読書】

自炊男子, 佐藤剛史 ★★★★★

食べることから広がる世界
1992年、大学生になって一人暮らしを始めたイケベ君が自炊や農業との出会いの中で成長していく物語だ。

あることがきっかけで自炊を始めたイケベ君は、自炊を通して自炊以外の様々なことを学んでいく。その過程は、私自身がこの一年自炊をたくさんして学んだこととでもあり、うなずけることが多かった。
食材選びから調理の段取りなど料理で身につく様々なことや、誰かを想ってつくるということがどんなふうにイケベ君の行動に影響するのかも読みどころである。

研究者でもある著者
「自炊男子」は、食に関する小説を検索していてたたまたま見つけた本。なんだけれど、実は著者のことを以前から知っていた(初めは気づいていなかった)。
「あれ、なんかこの名前見覚えあるな~、誰だったっけな?」と名前を検索したところ、一昨年修論を書くときに読んで印象に残っていた論文の著者だったのだ。その論文はこちら↓

佐藤剛史, 横川洋 (2000) :
わが国における農業の多面的機能論の遷移と景観概念の解明 景観視点からの農業の多面的機能構成要素の分類
九州大学大学院農学研究院学芸雑誌, 55巻1号, pp.93-109

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以下の引用部分は、イケベ君の転機のっきっかけとなった非常勤講師、キタガワ先生の授業での一節。この視点は研究者である著者ならでは。論文の内容ともつながる部分があるので紹介する。

「もし、新鮮で、おいしくて、安全で、安い農産物が輸入できたとしても、絶対に、日本に農業は必要だと思う。だって、風景や生き物は絶対に輸入できないからです。この 宗像市に広がる美しい田んぼの風景も、カエルも、メダカもすべて農業が生み出しています。
四季にしてもそうです。農業がなくても、春夏秋冬は訪れると思うかもしれませんが、五月になれば蛍が舞い、夏の赤とんぼの群れ、田んぼの上を駆け抜ける涼しい風も、秋の稲刈りの風景も、すべて農業が生み出しています。餅つき、花見、そんな文化もすべて農業が育んだ文化です。
そんなものがなくなったとして、季節を感じることができるでしょうか」 農業は、農産物だけでなく、風景も、生き物も、季節、風、文化、いろんなものを生み出している。
僕はそんなこと、考えたことがなかった。(本文から引用)

研究内容を一般向けの書籍として出版することはそれほど珍しい事ではない。しかし「小説」にしてしまうとは驚きだ。私たちはイケベ君の経験、見た景色を通して、「食べることと自然・農業」、「食べることと人」の関係の奥深さを知ることができる。

食べ物が畑から私たちの食卓にやってくるまでの経路は、複雑で見えにくい。しかし近頃は環境や人権への配慮といった意味でも、消費者である私たちに食べ物の背景にあることを想像することが求められるようになった。「想像力を持とう」と一言で言っても私たちは無知である。そして、あまりにも環境のことばかりうるさく言われてもおいしく食べることができない。そんな時、本書をおすすめしたい。

たべる生活,群ようこ ★★★★★

クスッと笑えて参考になる、そして時に考えさせられるエッセイ集
本書は、雑誌「一冊の本」に2018年6月〜2020年5月に連載されていたエッセイを集めたものだ。
「とにかく、人間の体は食べた物でできている。」という帯のコメント。私も心からそう思った。物理的に存在する”身体”はもちろん、そうでない日々の感情も、食べた物によって左右されている、という実感をこの1年間の自炊生活で得たからだ。

・お魚屋さんに行って、「二人分なのでマグロ2匹下さい」という奥さん、
・重箱に焼きそばと白ごはんとバナナを詰めてきた恋人
などのちょっと笑ってしまうくらい食に無頓着な人々のエピソード、
・外食についての考え方
・料理上手の人たちの情報収集の仕方
・料理はそんなに好きではないけれど、健康に過ごすための著者の自炊スタイル
などの日々の自炊生活で参考になるエピソード、
どれも納得と驚きと発見に満ちていた。

これらを読んで、食は、自分の身体をコントロールするための手段でもあるが、生活を楽しむための趣味にもなると思った。ごはんを作らなきゃいけないと重く考えるよりも、自炊も外食も趣味にしてしまえばもっと気が楽になるし、純粋に食べることを楽しめる。もちろん価値観は人それぞれで、食には全然関心がないという価値観もあるだろう。でも私たちは食べずには生きていけないのだから、どうせ食べるなら楽しみたい。
本書には楽しむヒントになるちょっとした工夫が書いてあるのも魅力の一つだ。

「プラスチック・フリーを求めて」というエピソード
個人的に気になったエピソード。
プラスチックフリーの加熱できる保存容器(ジップロックみたいなもの)、Stasher(スタッシャー)が紹介されていた。
プラスチック・フリー生活は以前から興味あったものの、ラップやタッパーって便利だしな~と足踏みしていた。これを機にプラスチックがない生活を実践してみたら意外と無くても暮らせるかもしれない。実験的にでも導入してみて、自分の目で確かめてみようと思った。

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【暮らしを豊かにする読書】

arikoの美味しいルーティン, ariko ★★★★★

高校の友人との図書交換会
arikoさんを知ったきっかけは、高校の同級生で最近よく料理の話をする友人。彼女に本書を貸してもらった。
読了後すぐの感想を一言で書くとしたら、こんな感じだろうか。

いわゆるレシピ本というよりは読み物として面白く、ある程度料理の基本が身についている人にとって嬉しい本。


この感想について詳しく書いていこう。

レシピ本だけど、読み物として面白い
紹介されるレシピにちなんだ家族とエピソードが書かれている。
たとえば、私と同世代の息子さんのお気に入りの「しゅんちゃんサラダ」。米酢に塩こしょう、おろしにんにく、ごま油のドレッシングにきゅうりとレタスを和えた定番サラダだそう。「わが家の定番」があるっていい!
家族の雰囲気が目に浮かんでほっこりした。帯に書いてある「よく聞いてあとは愛を一つまみ!」というフレーズがそれをよく表している。

ある程度料理の基本が身についている人にとって嬉しい本
レシピ、というほどでもないけれど、味の決め手になることが書かれている。例えば、水気をよく切るとか、火をつけるタイミングとか、細かいけど大事なことが分かる。
また、家庭料理のコツだけでなくて、レストランの味を家庭でできるようにアレンジして再現してみたり、インスタントラーメンをベースにオリジナルラーメンを作ったり、料理を見て・味わう感覚、食材の組合せ方など様々なアレンジのコツも教わった。「たべる生活」にも、料理上手な人はお店で美味しいと思ったものの作り方を観察したり聞いたりして家で真似するというエピソードがあったけど、「part6 お店で知った味」はまさにそのことが書かれている。

「自分にとってのちょうどいい」を見つけるのが上手

またアリコさんと言えば、電子レンジを使わない(持っていない)ことでも知られています。冷凍ご飯はどうるすの?少量の野菜をゆでたい時は?冷凍食品は買わないの?—といった疑問が思い浮かぶのですが、それも「蒸し器があるから必要ないんですよね」とあっさり。
だからといってアリコさんは、”料理はイチから手作りじゃなきゃ”、”食材はすべてオーガニック”といった考えかたの方ではありません。編集・ライターという仕事を持つ主婦として毎日のごはん作りはいかに効率よくできるかを考え抜いていきました。電子レンジこそ使いませんが、フライパンは鉄製にこだわりませんし、圧力鍋での時短にも頼ります。スーパーのお惣菜や市販品もおおいに利用します。働きながら日々美味しい食事を用意するのは大変ですが、自分の美味しさの基準を満たすためには、何が必要で何がいらないのかをアリコさんは分かっているのです。(pp.4-5)

「たべる生活」の著者は、料理好きというよりは、自分で満足できるものが作れれば良いという価値観で、それにちょうど良い作り方を身に付けている。arikoさんも自分の生活スタイルや調理スキルに合わせて、取捨選択が上手だ。こうして自分の感覚を研ぎ澄ませていく事で、より一層作ること、食べることの満足度が上がるのだろう。

ちなみに私は、最近自分なりのちょうどいいがわかるようになってきて、ますます料理することも食べることも楽しくなってきたところだ。

裏を見て「おいしい」を買う習慣, 岩城紀子 ★★★☆☆

「グランドフードホール」という芦屋と六本木にある食料品店の代表岩城紀子さんの「おいしい」へのこだわりがよくわかる。
本書を読んで、たべることがもつ意味に気づくと自分の健康だけじゃなくて、他人を思いやれるようになるのだな、ということを再認識できた。

印象的だったのは、著者岩城さんの祖母のエピソード。何でも手作りして孫に美味しいものを食べさせていたそうで、子供のころのたべものって大事だなあと思った。私も子供にはいろんな美味しいものを食べてほしいし、子供にご飯を作れるくらいの余裕をもって生活したい。

グランドフードホールは、1アイテム、原則1銘柄しか置かないというこだわりぶり。今度お店に行ってみよう。

佐藤可士和の超整理術, 佐藤可士和★★★☆☆

佐藤可士和展行ってみようよ!と誘われて、それまで佐藤さんのことを知らなかったので本を読んでみることにした。

空間・情報・思考の整理術が佐藤さんの作品制作の過程など仕事の進め方と共に紹介されている。

私はどちらかというと、モノを極限まで減らすことで整理整頓を楽にしよう、という考え方だ。一方、本書で紹介されている「空間」の整理の方法は、デザインの仕事での作品など頻繁に使わないが捨てられないものをいかに収納するかという視点で書かれていた。なるほどこういう考えもあるのか、と新鮮だった。私の今までの考え方は家などプライベート空間には適応しやすいが、研究室などの共用空間で実践するのは難しいのが悩みだった。佐藤さんのオフィスで実践している、フォーマットを統一してボックスに収めるというやり方ならできそうだ。

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【世界を広げる読書】

人新世の「資本論」, 斎藤幸平 ★★★★★

kindleでこんなにたくさんマーカーを引いた本は久しぶりだった。この手の本は難しくて挫折しそうになることが多いが、本書はかなり易しく書かれている。私の勝手な予想だけど、広く一般に読んでほしいからこそこの書き方なのではないかと思った。

「食と農」の視点で読んでも、とても面白い。こんなにも「食と農」に関するトピックが取り上げられていることに驚いた。気になるところがありすぎたので、そのなかのいくつかを取り上げる。

ことば
・帝国的生活様式
:グローバル・ノースにおける大量生産・大量消費型社会のこと。
著者は帝国的生活様式を痛烈に批判している。日本も含め、先進国の帝国的生活様式は、「どこか遠く」の人々や自然に負荷を転嫁することで成り立っているということを意識させられた。

事例
・デトロイトの都市農業

デトロイト市が財政破綻したことで、地価が下がり新しい取り組みができるようになった。その一つが都市での有機農業だった。食料生産だけでなく、コミュニティのつながりも強化されるようになったそうだ。
・コペンハーゲンのエディブル・シティ
街中で野菜や果樹を栽培し、誰でも無料で食べられるようにする取り組み。飢えた人への食料供給だけでなく、市民の農業や自然環境への関心を高める。特に印象的だったのが以下の一節。

排気ガスまみれの果物など誰も食べたいと和思わないだろう。そうすると、大気汚染を減らすために、自転車道を増やそうとする動きが出てくる。~中略~こうして、だんだんと、人々の想像力は広がっていき、今までであれば、考えもつかなかったような新たな未来を想い浮かべられるようになる。

・国際農民組織ヴィア・カンペシーナの運動
「国家に依存しない参加型民主主義や共同管理の試み」の例として紹介されていた。

きちんと「食べる」、きちんと「暮らす」 食材にこだわり、笑顔を届ける「関西よつ葉連絡会」の45年, 岡田晴彦 ★★★★☆

よつ葉は、大阪を中心に関西全域に広がる、食品・生活用品供給のネットワーク。会員数は約4万世帯で、関西各地にある20の「産直センター」から各家庭に宅配している。本書は、よつ葉の方々へのインタビューをもとに、歴史や取り組みをまとめたものだ。

最近野菜の宅配サービスへの関心が高まってきているようだが、そのなかでもよつ葉は老舗的存在。農場、加工食品の工場、商品カタログなどのメディアが別会社であることに驚いた。
またこのような、よつ葉の仕組みもさることながら、草創期の話と「憲章」も印象的だった。

よつ葉のはじまり
よつ葉は1976年に大阪で始まった。その草創期を支えた人たちは、学生運動や政治運動に関わった人が多かったそうだ。連合赤軍事件のあと、学生運動に関わっていた人が別の道を模索し始めて、その道の一つが畜産や農業だったという。先日見学に行ってきた「暮らしの実験室 やさと農場」の前身、「たまごの会」もこの流れの中で始まった活動だった。70~80年代に全国各地で小さいながらも地域に根差したこのような活動、ネットワーク形成が始まったというのは面白い。

憲章
もう一つ面白いと思ったのが、よつ葉が「憲章」を持っているということだ。「よつ葉憲章」、「よつ葉生産者憲章」など理念を文章にして共有している。基準や規則で縛るのではなく、憲章を軸に行動を決めるという体制が興味深い。

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「食」はあらゆるものをつなげる

『「食」はあらゆるものをつなげる』は、2,3月の読書を振り返って思ったことだ。例えば、
・心と体をつなげる
心と体がつながっていることを、食べ物による変化で実感する
・知識をつなげる
レシピから、食材のこと、生産のことまで、食を通して様々な知識とつながる
・文化をつなげる
遠い国の伝統的な農産物(例えばワインやチーズなど)を通してその国の文化とつながる
・ひとをつなげる
生産者と消費者をつなげる
一緒に食べたり作ったり、身近な人とのつながりを強くする
・未来につなげる
環境負荷の小さい野菜を食べてそのような農業を応援することで、未来へ、生活できる場所をつなげる
といったことが思い浮かんだ。

たべることが持つ意味に気がづくと、自分の健康だけじゃなくて他人を思いやれるようになるのではないか。
大切な誰かの健康を願ったり、幸せを願ったり、祝ったり、笑顔が見たいと思ってごはんを作ったり、色んな想いと食の形がある。これらは特定の誰かのためだけど、特定の誰かのことを考えて選ぶことは、もっと多くの人、ひいては環境を思うことにもつながっている気がする。

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3テーマ読書とは

「3テーマ読書記録」は、毎月1日に先月分の読書を振返ってみるというもの。バランスよく色んな本を読みたいので、1か月の間に以下3テーマの本を最低1冊ずつ読むようにしている。

#心を豊かにする読書
他人の人生を読書を通じて体験できる小説などの物語。
#暮らしを豊かにする読書
ミニマルに生きるためには、経済的に自立するためには?という自分自身が関心あること、そして日々の暮らしを豊かにするために読む本。
#世界を広げる読書
研究の幅を広げてくれる本、知的好奇心を刺激する本、歴史を知ることのできる本など。

2021年「3テーマ読書記録」アーカイブス

2020年「3テーマ読書記録」アーカイブス


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