気狂いピエロ(私の映画遍歴No.3)
いよいよ佳境に入ってきます。前々回でお話ししたように1960年代の映画館は「ニュー・シネマ・パラダイス」に描かれたイタリア、シチリア島の映画館と同じような活況を呈していました。ジュゼッペ・トルナトーレ監督のこの映画は、私のもっとも好きな映画の一つです。
この映画産業がテレビやビデオの普及によって、陰りを見せ始めたのは中学生の頃からでしょうか?中学三年のある時、ビルの一角にあった映画館の前に奇妙なポスターが貼ってありました。顔を赤いペンキで塗りたくった男の画像と「気狂いピエロ」という題名に何故か心惹かれて友達と観る事にしました。(以下の画像は当時のポスターとは違います)
その衝撃を今でもたまに会うと語りあっています。速いカメラワーク、わけのわからないセリフというかハチャメチャで物語になっていない内容、まさに感覚で観る抽象絵画のような映画で、難解だけど妙に心に残るというか…ジャン・リュック・ゴダールという名前を知ったのはその時でした。
これと同じ体験を後にアラン・レネ監督の「去年マリエンバードで」を観た時にも味わいました。難解だけど妙に心に残る白黒の映像美が素晴らしいこの作品ももっとも好きな映画です。これは当時京橋にあったフィルムセンター(今の国立アーカイブ)で鑑賞しました。授業が終わってから制服姿のまま重いカバンを提げて周りの冷ややかな視線に耐えながら、映画を観て家に帰り着くのは午後10時過ぎという生活でしたが、幸い親には何も言われませんでした。自由放任でしたが、信用してくれていたんだと思います。今でも感謝です。
ゴダール作品も「アルファビル」その他何作かフィルムセンターで観たはずなのですが、「気狂いピエロ」の衝撃にはかないませんでした。先日主演女優だったアンナ・カリーナの回顧映画「君はおぼえているかい」を懐かしく観ましたが、痛々しいほど老けていて、往年のオーラは感じられませんでした。2017年に撮ったドキュメンタリー映画ですが、2019年に亡くなったそうです。
小生意気な高校生が、ヌーヴェル・ヴァーグの洗礼を受けてハリウッド映画とは一線を画すミニシアター映画の方へ突き進んで行くのに時間はかかりませんでした。昔、年を取ったら、フィルムセンターに入り浸って過ごすことが夢でしたが、今、曲がりなりにもそれに類した生活を送れていて幸せなことだと思います。 次回へ続く