見出し画像

犬飼愛生『それでもやっぱりドロンゲーム』のライナー・ノーツ①

夏の終わりに、私たちの出版レーベル・アフリカキカクから、今年4冊目になる新刊を出しました。犬飼愛生さんが2009年から今年にかけて書いたエッセイを集めたもの、題して『それでもやっぱりドロンゲーム』です。

画像2

犬飼さんはこれまでに、『カンパニュラ』『なにがそんなに悲しいの』『stork mark』という3冊の詩集と、それらの詩集に未収録の詩を含むアンソロジー『百年たっても僕らをこんな気持ちにさせるなんてすごいな』を発表しています。

今回は自分で編集した本なので、上記の2冊のように書くことはできそうにないんですけど、裏話をいろいろと書いてみようと思います。

今回、冒頭には、著者からのリクエストで、編集者(私)の「イントロ」がついています。

そこで私は、「犬飼愛生の作品をレコードに例えると、詩はA面、エッセイはB面、と言えるかもしれません。B面を深く聴き込んでいる人はツウでしょうが…。でもね、B面が面白いんですよ! と言ってみたい気持ちもあるんです。」と書きました。

ということは、『それでもやっぱりドロンゲーム』は、「B面コレクション」ということになりそうです。ヒット曲だけ聴けたらいいや、という人にはオススメしない? まあそうかも。でもそんなのツマラナイから、ぜひB面も聴いてほしい。密宝が山になっているので、騙されたと思って聴いて(読んで)みて。

さて、犬飼さんが『アフリカ』に書くようになったのは2009年の夏からで、そのとき、新作の詩「ヒトホルモン」(後に『stork mark』収録)と共に「予定の妊娠」というエッセイも送られてきて、両方載せることにしました。

画像1

それ以降、犬飼さんが『アフリカ』に発表してきたエッセイは殆どが、回想録というよりも、割と最近あったことを綴ったものでしょう。つまり近況報告にもなっていました。その時々のことが、書かれています。

それを並べたら、何というか、ひと続きのドキュメンタリーのようになるだろう、と私は思っていました。

その犬飼さんから「エッセイ集をつくりたいんだ」と相談を受けたのは、今年(2021年)になってすぐの頃でした。

感染症のパンデミックのさ中、「私自身も四十代になり、「こりゃ急に死んでもおかしくないな」とふと思った。そうすると、私がこれまで各所に書き散らしたエッセイの行方が気になってきた」(「あとがき」より)のだそうです。

2009年以降に犬飼さんが書いたエッセイを集めて、著者と共に、読み返す作業から始めました。

さて、「予定の妊娠」は、犬飼さんが妊娠5ヶ月のころに書かれたエッセイで(というのは、1行目にそう書いてあるからわかるのですが)、「やっと妊娠した」「妊娠に際して私はすごく努力した」と始まり、具体的にどんなことがあったかを書き綴っています。

『それでもやっぱりドロンゲーム』の大枠は、「やっと○○した」「○○に際して私はすごく努力した」の連続で成り立っている、と言おうと思えば言えそうです。

何かがスンナリ運んだり、動き出さずに諦めていたり、他人を傍観しているようなところは殆どない。

でもね、「努力した」末に、目標達成した! 頑張ったぞ私! という内容かというと、そうでもない(人生そんなに甘くないぜ)。

あれれ、こんなはずでは…? となりつつ、ああ私はじつはこれを求めていたのではないか! と気づいたり、上手くいったとしても、え? と、ぽかーんとしているところがある。

「予定の妊娠」を、仮に、この本の最初に置くことにして、つづきを読んでゆきました。

(②につづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?