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原案も公開。スーパーフラットライフの脚本ができるまで

こんばんは。編集長のしまざきです。
だいぶ暖かくなってきましたね。

さて、4月3日と4日。好評のうちに上演を終えた多視点オンライン演劇「スーパーフラットライフ」。東京レインボープライド期間中の4月30日にアンコール配信も決定しました。初回の配信直後から新しい結婚観に対して視聴者の方から沢山のポジティブな反応・メッセージをいただき、そのおかげでロングランとなり、本当にありがたいです。

スーパーフラットライフについて

スーパーフラットライフで伝えたかったこと

視聴者いただいたからの感想(原文ママ)

同性婚とか契約婚とか、いろんな形があるのはなんとなく知ってたけど、結婚をどんな視点に置くかとか、愛はあるけど性的な対象じゃないとか、個人的に知らなかった価値観がたくさん入ってて勉強になったな、と思う!最初に出てきた、相性99%の人も結構色々考えさせられたかも。もちろん恋愛して好きな人と仲良く結婚してっていうのが個人的には理想だし、世の中の大勢が思ってることだと思うけど、一方で愛は冷めるとか、子育てへの不参加、浮気、不倫、離婚が溢れまくってる今の世の中だったら、効率良く結婚するとか、そういうのもアリなんだなーって思った。でも個人的には40代くらいでも独身だったら選択肢に入る感じかもしれない、、それもそれでアリなのかな。あと、最後に子どものアキラが男の子みたいな格好をしてるのに対して、自然に受け入れてるところがとても良かった。でも、今自分に子どもができて、子どもが「ズボンがよい!」って言ったときに、悲しさを感じずに受け入れられるかと思ったらどうなんだろーと思ったり、、悲しくなること自体がおかしいとは思うんだけど、自分の固定概念も世の中と一緒に変えていくべきなんだなーと感じたりでした。まだまだ受け入れられずらいとは思うけど、ちょっとずつ変わっていくんだなーと思ったし、完全にそれが受け入れられる世の中になったら色んな考えが自由になりそうだなと思ったかも。あと、皆さんのコメント見ながらドラマ見れて面白かった!(20代女性:会社員)

とてもありがたいメッセージでした。他にもSNSでポジティブなメッセージをいただいています

その他、Twitterに寄せられたメッセージはこちら

さて、上演後のトークショーでお話ししましたが、この演劇はいまから1年前。新型コロナウイルスによる最初の緊急事態宣言が敷かれたところから企画を始めました。そのプロセスを、順を追ってご紹介しましょう。最後に草案となったプロットを全文公開します。もろもろの都合で有料となりますが、ご興味のある方は是非購読してみてください!


「スーパーフラットライフ」脚本が出来るまで

2020年4月 コロナ禍で芽生えた問題意識
2020年5月 「オンライン演劇」形式
2020年6月 「シェアハウス婚」
2020年7月 「ジェンダーニュートラル」
2020年8月 プロット完成。原案全文も公開!
2020年9月 脚本制作開始
2020年12月 「前後編」での準備稿完成
2021年2月 前後編を一本化した「決定稿」の完成
2021年3月 キャスト顔合わせ&本読み開始後の変更

2020年4月 コロナ禍で芽生えた問題意識

2020年の春にかけて、コロナ禍で様々な窮状、不幸が起こる中で、個人として、メディアとして何をすべきか、を必死に考えていました。その時に、外出が出来ない中で私たちがすべき「次の準備」を語った原稿があります。

コロナ禍が奪った僕らの人生にとってかけがえのないもの/島崎昭光

すべてはこの記事から始まりました。
Afterコロナではなくwithコロナ。嵐が過ぎ去った後は新しい世界が始まっている。その未来に対して今打つべき手は何か?何を準備すべきか?
そうした試行錯誤の中でエンタメ業界では「オンライン演劇」という新しいジャンルが生まれます。最初は「リモート演劇」と題して、演劇関係者や役者が物理的に集まれない中で、それでもドラマや演劇を作って発信したいとい想いで、著名人から名もなき劇団員まで、数多くの方々がzoomやYOUTUBE LIVE、インスタライブなどで表現し始めました。

やがて単なるzoom会話劇としての「リモート演劇」ではなく「オンライン演劇」という新しい表現、新しいエンタメビジネスが生まれる兆しが見えてきました。その領域にメディアHarumari TOKYOとしてもチャレンジしてみようとなったわけです。そして、演出面で趣向を凝らした「多視点オンライン演劇」という新感覚演出にチャレンジしたわけですが、その詳細は別のnoteでご紹介します。

2020年5月 「オンライン演劇」形式

ちょうど劇団ノーミーツが旗揚げ公演を成功させて話題になったり、著名な役者さんがzoomによる会話劇を展開していた時期に、「これってもっと演出面でいろいろできるなあ」と感じていました。元々デジタル領域のクリエイティブディレクターとして様々な表現やインタラクションの開発をしてきていたので、どちらかというとマス型エンタメではなく、インタラクティブクリエイティブの視点で可能性を感じていました。例えば実際に採用した「多視点」のカメラワークであったり「(演劇的)ライブ感やイマーシブ感」をテクノロジーを駆使して表現したりといったようなことはこの時期から構想していました。

この段階では「結婚」や「LGBTQ+」といった具体的なテーマの前に、「オンライン演劇」という新しい表現にふさわしい題材はなにか、を探していました。Harumari TOKYOは「社会課題を現実解に」という編集モットーがあるため、もちろん題材は身近でかつ課題感のあり、新しいスタイルが生まれそうな事柄ではありました。すでに編集部としての特集企画のアイデアの中に「WELL-BEING」「新しいシェアハウス」「コロナ禍の旅」「ネコ」など、いろいろネタは合って、そうした物も含めて、僕自身が描きたいもの、戯曲として書き終えるほどのモチベーションを保てそうなものを探していました。

2020年6月 「シェアハウス婚」

まず、実施にあたって脚本は自分で書くと決めていました。商業演劇を一本も書いたこともありませんでしたが、自分のクリエーションの新たな挑戦という想いが強くあったのと、もうひとつは「ふさわしい書き手がいない」ということもあります。テレビドラマでもない、映画でもない、純粋な戯曲でもない表現を目指していたので、それらのジャンルの似て非なるもの、台詞回しもト書きの書き方も、微妙に各分野の作法と異なるという点も自分で書かなきゃという想いを強くした要因でもあります。

とはいえライブでのドラマという点では演劇が一番近い様式だとは思っていました。そのため、この頃に、高校時代からの友人であり、文学座を経て演劇プロデューサーとして活躍する三上晴己氏に協力をお願いし、リモート会議や対面でのブレストをしながら「自分が何を描きたいか」の原石をブラッシュアップしていきました。そして最初に構築したのは、「20年結婚生活を続けていた夫婦が離婚した上で、同じシェアハウスに同居するカタチで2人の関係を再構築していく」という話でした。

元々、若い世代で「共生婚」とか「友情婚」といったカジュアル?なスタイルの結婚観が記事になったり話題になったりする中で、そもそも結婚って何よ?という問題意識は少なからずありました。20年前に結婚した夫婦が、現代の結婚観にチューニングしていくことで結婚そのものの多様性を描けないか、と思ったのです。また恋愛や情愛の変化というのはドラマとしてテッパンモチーフだし、会話劇が中心となるオンライン演劇では(役者のスキルも多分に影響しますが)、愛情のある(あった)二人の揺れ動く心理を会話で描くには最適なフォーマットでもありました。

ちなみに、この段階ではLGBTQ+やセクシュアルマイノリティの話はでてきていません。

2020年7月 「ジェンダーニュートラル」

オンライン演劇の構想とは別に日々の編集企画の中で、「ジェンダーニュートラル」という特集を進めていました。「女らしく」や「男らしく」からの開放。女らしさの呪いなどとはよく言われるけど「男らしさの呪い」というのもある。多様性やらダイバーシティやらが叫ばれる中で、カルチャーとしては、あまりガツガツしたソーシャルな対立構造(女らしくあるべきか否か)ではなく、もっとフラットな世界を描きたかった。実際、ファッションの分野を中心にフラットにジェンダーを超越したことをやっている、という事実や兆しがあります。そこで、日傘にネイル、メイクにスカートと女性的とされる装いをフラットに受け入れてファッションに取り入れていく男たちの特集、そのシンボルとしての井手上漠くんへの取材、という企画が動いていたんです。

そのリサーチを進める中、LGBTQ+に関連する社会課題というスコープがでてきて、その意識が自分の中でも高まったのもあってドラマの方も「シェアハウス婚」を軸にしながらもLGBTQ+を含めたもっと多様で多彩な結婚観を描けないか?と考え始めました。

「ジェンダーニュートラル」の特集は、井手上漠くんがコロナ禍の影響で上京できない日々がつづき、難航していました。そのため準備期間が長かったため、ストーリーの作業の方はすすんでキャスティングイメージも膨らんできました。秋元才加さん、中山咲月さん、平田薫さんなどは、プロットが完成したころにはすでに候補として上がっていました。

 ちなみに、「ジェンダーニュートラル」の特集は8月の終わりに実施され、その時のINTERVIEWで井手上くんも将来、演技にも挑戦したいとインタビューで語っていたので、ご縁があればご一緒したいですね。

Harumari TOKYO特集「ジェンダーニュートラル」


2020年8月 プロット完成

この頃にプロットが完成します。実は、当初は、1話20分~30分ほどのショートショートでした。すでにオンライン結婚相談所をHUBとした人間交差の展開は、この時から出てくるのですが当時は「ベターハーフ」という名前でした。とてもいい言葉なので上演もこのタイトルで行こうとも思っていました。でも、このワードは、僕が敬愛する鴻上尚史さんの過去の戯曲タイトルと丸かぶりするということもあり、、、断念したりもしました。

さて、下に当時のプロットを完全公開いたします。ショートショートながら全体でストーリー展開があり、また演出メモという形で表現のイメージも書き添えてあります。

振りかえってみると最終的なストーリーからそれほどかわっていないなあという印象です。3人でという結末や、アキラのタイムパラドクスといった展開は、ドラマ構成を考える上で結構最初の段階から決めていました。オンラインでのビデオ通話って、顔を見て話しているけど背景を変えたりも出来るので実際に相手がどこにいるか分からないって感覚になったことありませんか?実際、外出先やいつもと違うところからつないでいる人がいたりすると、PC画面の中にすごい世界が広がっているように感じたし、海外のひととzoomしていると、リアルタイムに朝と夜だったり、そういう時空を超える感覚を僕自身が感じていました。
そういう意味でzoom上にしかでてこないキャラクターであれば、タイムパラドクスの要素を加えるのはそんなに難しい構成じゃなかったし、視聴者の方にも大きな違和感にはならないのではないかと踏んでいました。

一方、「演出メモ」にあったオンライン演劇ならではの演出アプローチは、ここに書いてあるもの多くは断念せざるを得ない結果になりました。それは予算とか、技術的な難しさもあったのですが、逆に言えば、制約を乗り越えてもっと表現を豊かに出来る可能性をひめていることは間違いありません。

全文公開!スーパーフラットライフ 初期プロット&演出メモ

スーパーフラットライフ

[企画趣旨]
2015年、同性のカップルを結婚に相当すると認めた通称「パートナーシップ制度」が東京渋谷区で条例化された。その動きは全国に拡大し、2020年の今、同性婚のシステムや権利の保障しようという動きがどんどん進んでいる。
ところで、この同性婚。実は、異性愛者にとっても未来を変えるかもしれない重要な社会システムなのだ。恋愛して結婚、結婚は家と家の結びつきなどといった従来の結婚観が廃れるなかで「これからずっと一緒に暮らして一生を添い遂げる人」が誰なのか、男でも女でどっちでもいいんじゃないか、というフラットな発想を持つ人が増えてきている。
もし異性愛者がこのパートナーシップ制度を利用したら?救われる人がたくさんいるのではないだろうか?
「異性愛者の同性婚」を通じて、結婚とは何か、自分らしい生き方とは何か、を考えるオンライン演劇プロジェクト、それが「スーパーフラットライフ」なのだ。


[あらすじ] 
5年付き合った彼氏に突然の別れを告げられた棚橋エリ30歳。保険外交員の仕事も順調、彼氏との結婚が次のライフステージだと信じていたのにはしごを外されてしまった。そんなエリがコロナ禍の中アクセスしたのは「ベターハーフ」というオンライン結婚相談所。今はやりの、個人データからAIを使って最適な結婚相手を紹介してくれるマッチングサービスだ。ベターハーフの支配人は、ぱっと見、性別のわからない川口アキラ(年齢不詳)。アキラはエリに次々に理想の結婚相手を紹介してくれるのだが、その相手というのがちょっと異質。契約結婚を望む超合理主義者の女、トレンスジェンダーでレズビアンの女などなど、従来の結婚観を根底から覆す人たちばかり。さらに親友からの突然の求婚。そんな人たちにとまどい、憤慨しながらも彼や彼女たちとの出会いから自分の結婚観を疑い始めが、それでも理想の結婚相手は元彼だったことを確信する。そんな中、支配人のアキラはエリにあるビデオを見せる。見せたビデオには、将来のエリの姿だった。そこには異性愛者でありながら、同性婚をして子供を育てているエリの姿があった。

[プロット] 全6話構成

[第一話]結婚とは生命維持装置である。

■シーン1 支配人との面談
オンライン結婚相談所「ベターハーフ」の初回アクセスの日。エリは、支配人のアキラとのオンライン面談を行う。思うがままに自分の結婚観を語るエリ。年収、見た目、体の相性など、条件はかなりの高め。「一生添い遂げるんだからそれなりの条件を満たす人を選ぶのが人生の合理性というものですっ」と自信たっぷりに語るエリ。「合理的な結婚…ですね?」とアキラは何かに納得したようにデータベースを検索し、一人の人物を紹介することにした。

★シーン1 演出ポイント
 架空のホームページ「ベターハーフ」を実際にネットに公開しておき、そのサイト上で結婚に関するリアルタイムアンケートを実施する。アキラがエリに質問する「年収」「みため」「セックスの相性」といった項目も視聴者にその場で回答してもらい、その結果も劇の会話の中に反映していく。画面では自宅にいるエリ、結婚相談所のアキラに加えて、このホームページの画面も表示して展開する。


■シーン2 日比野ゆりえとの面談

アキラから紹介された人とオンライン面談を行うことになったエリ。事前情報では、年収、性格などすべて項目においてマッチング率100%だという。胸膨らまして画面に出現するのを待っていたエリだが、現れたのは女性のゆりえだった。とまどうエリに対し、ゆりえは理由を説明し始める。彼女は、パートナーシップ制度をつかった同性婚を希望しているのだ。ゆりえはレズビアンでもトランスジェンダーでもなく性対象は男性だ。それでも結婚というシステムを活用するなら気の合う同性がいいのだという。パートナーシップ制度は、日本ではまだなんら権利を保障してくれないただの宣言だが、これから10年とたてば本格的に従来の結婚と同等の保証をしてくれるようになるだろう。結婚はこれから10年、20年を考えた上での決断。ゆりえは社会の流れを見越して、いま同性婚をしよう、というわけだ。
突拍子もない提案に怒りすら覚えたエリだったが、ゆりえとの会話自体は抜群の相性であることに気づく。馬が合えば合うほど、ゆりえの提案にもリアリティがでてくるエリ。「まずはお友達から始めませんか」というゆかりのオファーに悩むエリだが、ゆかりの「セックスは別の男と好きにしていいですよ」という一言に違和感を覚え「結婚を前提としたお友達にはなれません」と断りを入れてしまう。

★シーン2 演出イメージ
エリは東京の自宅。ゆかりは長野在中という設定にして、実際に長野から中継する。それぞれの街を紹介するためにスマホを持って、実際に屋外に出て、カメラで外の様子を伝えながら、そこが東京・長野の夜であることをしっかりと伝えていく。途中屋外で、ゆかりの男友達(セックスフレンド)のシンタロウと出会い、その様子も中継。自宅に戻ってオンライン会話が続く中で、外で出会ったシンタロウが割り込んでくるなどの展開を作る。

[第二話]見た目って大事ですか?

■シーン3 オンライン婚活パーティー

エリは親友のトモコとオンライン飲みをしている。前回の顛末をトモコに報告しつつ自分の結婚観について改めて考えさせられた心情を語る。エリはトモコをさそって、ベターハーフのオンライン婚活パーティに参加することにした。
オンライン婚活パーティが始まる。
 パーティの参加者は以下の8人。
(女性サイド)
・エリ
・トモコ
・コジロウ…身体的性別は男。性自認は男。ドラァグクイーン。性的指向はストレート
・フミエ…身体的性別は女。性自認は女。見た目は女。性的指向はレズビアン。

(男性サイド)
・ユウタ…身体的性別は男。性自認は男。見た目は男。性的指向はゲイ
・ミズホ…身体的性別は女。性自認は男。見た目は男。性的指向はストレートのトランスジェンダー
・ダイキ…身体的性別は女。性自認は不明。見た目は中性的。性的指向はバイセクシャルのクエスチョン
・マモル…エリの元彼。

マモルを除く7人の参加者で会話が始まる。見た目女性が3人、見た目男性が2人、そして性別不詳なコジロウとダイキ、そして支配人のアキラ。アキラの案内の元、それぞれが自己紹介を始める。例えば以下のような感じで、見た目と性的指向がちぐはぐな会話が進み、エリは混乱していく。

フミエ「好きなタイプは、今田美優さんです。初恋の人にそっくりで」
コジロウ「わかるーっ。あの透明感、たまらないわよね」

ユウタ「僕の好きなタイプは高田延彦さんです」
ダイキ「恋人としてはありだけど、わたしは結婚相手としては無理かも…」

混乱するエリの中、アキラが進行をすすめていく。「今日はみなさんのセクシャリティをちゃんと把握していたくために、いくつかのグループ分けをしていきましょう」といい、身体的性別、性自認、性的指向、見た目、それぞれ男か女かどれでもないか、を聴いていく。そのたびにテレビ会議の画面がグループ分けされ、様々な組み合わせが生まれていき、エリはますます混乱してしまう。
エリ「だから、わたしは普通の男性と話がしたいんです!」
その言葉にメンバー全員が冷ややかな視線を送る
ダイキ「普通ってなんですか?」
エリ「性自認も、性的指向もぜんぶわたしと一緒の人のことです」
フミエ「じゃあ、わたしは普通じゃないってこと?」
フミエの言葉に黙ってしまうエリ。
ダイキ「君は結婚相手を探しているのでしょう。信頼できて、価値観を共有できて、困ったときに適度な距離感で手を差し伸べ合う、人生のパートナー、そこに君の普通は必要なんですか?」
言い返す言葉がなくなってしまうエリ。そのタイミングでマモルが画面に登場する。元彼の突然の登場に驚くエリとマモル。エリは慌てて退出してしまう。

★シーン3 演出イメージ
パーティ参加者の画面表示を、人物相関図のようなカタチで任意に配置していく。アキラの質問に合わせて性自認の時の相関図、性的指向の時の相関図といった具合にわかりやすく図解するような感じで参加者の位置関係を変えていく


[第3話] ありのままの自分を受け入れてくれる

シーン4 インタビュー取材

再びオンライン結婚相談所「ベターハーフ」を訪れたエリ。今回はオプションメニューの「先輩に聴け!」というサービスを申し込んでいた。このサービスは、すでに結婚しているカップルに、結婚までの経緯や結婚後の生活、結婚観などのざっくばらんに質問、相談できるというもの。エリは「普通」の男女の結婚カップルとの面談を申し込んでいた。
 画面に登場したのは書道家の西山嘉克さん。そして、奥さん(の一人)のゆかりさんも登場する。エリは素直に、結婚を決めた条件、結婚生活について質問していくのだが、やがて西山さんがポリアモリスト(合意の上で複数のパートナーと関係を築く恋愛スタイルの人)であり、もうひとりの奥さんがいることを知る。その奥さん・裕子も画面に登場してくる。
エリは西山家の価値観や生活に衝撃を受けながらも、ありのままの自分をおたがいに受け入れ共同生活を楽しむ西山家に共感を抱くようになる。
 インタビューを終える頃、アキラが登場する。アキラは改めてエリにとっての理想の結婚とは何か、と問う。エリは、理想の結婚相手はマモルだったことを告白する。「ベターハーフ」で様々な人に会い、結婚という固定観念を壊された上でも彼との生活が愛おしかったと。アキラは、マモルにもう一度会う前に、紹介したい人がいることを告げる。「本当に必要な人はもっと近くにいます」。画面に映し出されたのは親友のトモコだった。


★シーン4 演出イメージ

このパートは、リアルなインタビュー取材を行う。西山嘉克さんは実際のポリアモリストでありご本人として出演していただき、役者であるエリからの質問に答えていく。
「先輩に聴け!」サービスのパートは西山さんのほか、独自の結婚観をもつ様々な人へのインタビューフォーマットとして展開する。


[第4話] 結婚相手は親友がいい

シーン5 オンライン会議

オンライン結婚相談所「ベターハーフ」にアクセスしたエリ。これからトモコとの面談が始まる。トモコを結婚相手として考えたことなんてなかったエリだが、一方でトモコへの親愛は一生モノだと思っていた。その親友のトモコがなぜ自分を結婚相手に選ぶのか、その真意が聴きたかった。
 トモコとの面談が始まる。ギクシャクしながらもトモコはエリへの思いを語り始める。高校時代からエリのことが好きだったこと、でもセックスしたいわけではなく、自分がレズビアンである自覚はないし、実際に男性とのセックスもそれなりに楽しめる。それでもエリへの気持ちがこの10年なくならなかったことを告白される。
 エリは、「このままずっと親友でいいのでは?」と提案するが、トモコは親友という不確かな約束ではなく、ちゃんと二人の絆を証明したい、それが結婚というモノなのではないかと。エリは、トモコと主張をいったん受け止めながらも、日々の生活、恋愛、出産、育児、老後はどうするなどのシミュレーションをしていく。西山家にあってから、結婚という制度と恋愛や性愛のバランスの取り方について考えさせられたエリにとっては話せば話すほどトモコとの同性婚が現実的に見えてくる。「なんか、結婚のこと考えすぎて疲れちゃった」。
 そこにアキラが現れ、二人が結婚した場合のシミュレーションをした映像があることをつたえる。2人でその映像を見る。
映像には二人が楽しく共同生活をしている様子が映し出される。次のカットではよちよち歩きする2歳くらいの子供を前に大はしゃぎする2人の姿。別のカットではすやすや眠る子供を2人で見守り、カメラに向かって何かを話しかけている。次のカットでは、テレビ会議で仕事をするエリ、キッチンで調理するトモコ、5歳くらいに大きくなった男の子の背中が写る。次のカットでは、女子校の制服を着た中性的な男の子がたっていて、2人が着付けをしている。どれも誰かがとったプライベートビデオのようなリアリティがあり、二人は固唾をのんで見守る。
 映像について疑問を持ったエリは、アキラに映像の出所を問いただす。アキラは何も答えない。「前から気になっていたんだけど…」とエリはアキラに何者なのか?性別は、年齢はと質問攻めにする。「僕はただ、ここに皆さんを見守るだけです」といってアキラは画面から消えていく。

★シーン5 演出イメージ

会話の途中、取り置きしていた映像が流れる。映像はテレビ会議室システムの1画面として表示され、メインの画角で表示され、エリやトモコはワイプ的に表情が小さな画面で表示される状態にしておく。このシーンでは、カメラワークに重点を置き、エリの部屋にもパソコンカメラ以外に定点やケータイからと思われるアングルにカメラを設置しカット割りをするなどして映像作品としての演出に注力する。

[第5話] セックスの相性

シーン6 エリの家

自宅で保険のセールストークをリモートでしているエリ。30代女性のお客さんに対して、将来のライフプランは?結婚後の資金は?など、マニュアルチックな営業トークを展開している。お客さんは「もうすぐ結婚するんです」と結婚相手や結婚後のプランをキラキラした笑顔で語り出す。その青写真は、以前、エリがマモルと描いていた未来予想図そのものだった。「とてもいい人生設計ですね」と力なく答えるエリ
 営業トークを終えるころ、スマホの電話がなる。テレビ電話の相手は元彼のマモルだった。今すぐ会って話がしたいという。外から電話しているマモルは、どうやらエリの自宅に向かっているようだ。マモルは、エリによりを戻したいという。

シーン7 エリの近所のコンビニの駐車場

マモルがコンビニの駐車場に座り込んでスマホでビデオ通話をしている。相手はエリだ。マモルは、5年の付き合いの後、エリと別れを告げた本当の理由を話す。「セックスの相性が合わない」のだという。それなりに好相性だと思っていたエリは、ショックを受ける。と同時に「それだけの理由で分かれたの?」と怒りをあらわにする。「じゃあ、エリが結婚に求める条件ってなんなの?」。エリは、少し黙った後口を開く。マモルとの5年間が人生で最高の日々で会ったこと。心も体もつながる恋人であり、それぞれの仕事や生活の苦労を共有し励まし合うパートナーであり、マモルの子供を産んで一緒に育てていく未来にわくわくしていた。マモルとの暮らしのすべてをこのままずっと続けていきたい、それが理由なんだと。
マモルは、立ち上がりエリの家に向かって歩き出す。「確かめたいことがある、僕は、実はゲイなんだ。バイセクシャルかと思っていたけど、セックスの相手は男性がいいことがわかってきた。でも、エリへの愛も変わらない。それはプラトニックな愛情だ。そんな僕のありのままを受け入れてくれないか?」

シーン8 エリの家
 エリの家のインターフォンが鳴る。ドアを開けるとたったいまビデオ通話をしているマモルがいた。「本当にゲイなの?」「たぶん、いや、本当にそうなんだ」「わたしの何を確かめたいの?」エリは混乱する気持ちの中で涙する。「もう一度僕とキスして欲しい」。マモルはエリを抱きしめ顔を近づける。あと一歩のところで二人の顔の動きが止まる。「ごめんなさい、できません」「実は僕もできなかった…」。絶望の空気が流れる。「でも、ありがとう。本当の気持ちを伝えてくれて」とエリはマモルに感謝する。何かに吹っ切れたように。
 エリの家を出て行くマモル。しばらくぼーっとするエリ。おもむろにスマホを取りだし誰かに電話しようとする。電話帳のいろんな名前を探りながら、ひとつの名前で止まる。トモコだった。なんだか、笑いながら泣けてくる。「たぶん、抱きしめて、励ましてくれるんだろうな、トモコなら」

★シーン6−8 演出イメージ
近所のコンビニから移動するマモルは、実際に手に持つスマホのカメラをメイン画面に反映しながら、リアルに移動の様子を伝えていく。エリの家ではエリのスマホカメラ、部屋の中の定点カメラ、パソコンのカメラの3点をスイッチングするカタチでメイン画面に反映。マモルとエリの視点を巧みにスイッチングして、移動のリアリティを出していく。
キスシーンは、定点カメラからの俯瞰となるが、演出面で表情が見えにくい場合は定点のカメラを増やす、また、パソコンカメラの前に二人をうまく配置するなどして、このパートだけはドラマ映像のように見せていく。
連なった電話帳を「ベターハーフ」にアクセスをしようとする。いつものURLにたどり着くと、「このページは存在しません」という表示がされている。「え?」


[第6話(最終話)]スーパーフラットな関係

シーン9 ベターハーフの面談画面

エリはベターハーフにアクセスし、アキラとの面談を始める。「もう、新しい人は紹介しなくていいです」と告げるエリ。「アキラ…さん、あなたは未来からやってきたの?」と突拍子もないことをアキラに告げる。「どうしてそう思うんですか?」
エリは、以前アキラから見せてもらったエリとトモコのシミュレーションビデオについて語り出す。実はエリはあのときとっさにビデオキャプチャーで録画していたのだ。「あの映像を、あとで何度も見たんです。」エリは、映像の中で、明良(あきら)と書かれていた名札があったり、エリやトモコの子を呼ぶ口元が「あきら」と動いていたこと、女子校の制服を着た中性的な男の子の顔に、アキラの面影があることを話した。
「だとしたら、エリさんはどうしたいのですか?」アキラの問いに「あの映像に、わたしの答えが合って、その答えについて今は自信を持って選択できる」と宣言する。アキラはうれしそうに「答えが見つかってよかったですね」と声をかけ、画面から消えていく。

シーン10 ベターハーフのビデオルームに画面

面談画面からチャットルーム画面にスワイプする。そこには、マモルとトモコがいた。エリの元彼と親友。旧知の間柄ではあるが、ドギマギした会話が続く。マモルが、トモコもベターハーフにアクセスしたと言うことは結婚を考えているのか?と質問すると、「実は、急にメールがあって、エリのことを助けてやって欲しいと。たぶん送り主は支配人のアキラなのでは?」とトモコが話すと、マモルにも同じような経緯があったことを伝える。
 エリが画面にやってくる。二人をチャットルームに呼び出したエリは、2人に今の想いを語り出す。エリの結婚観は、「男性に恋をして、結ばれて、一生一緒にいたいと思えて、子供を産んで一緒に育てていくこと」であることに変わりはない。でも、エリの人生にとって結婚はゴールではない。自分が思う理想の結婚は、自分を幸せにしてくれる一つの選択肢かもしれないけれど、それだけがすべてではないと思えてきた。そういう相手に出会えたら結婚するかもしれない。でも今は、そんな自分らしさを受け入れる人がいること、そして、自分も、その相手の「ありのまま」を受け入れたいと心から思えること、そんな関係を持っている今が、一番幸せなことなんじゃないかと。そして、それがトモコであり、マモルなのだと。
「3人で一緒に住まない?」とエリは提案する。突然の提案に戸惑うマモルとトモコだったが、まもなく「それもいいかもね」と笑顔で返答する。

エンディング 3人の未来の映像

 アキラがシミュレーションビデオと言っいた映像が再び流れ出す。劇中では無音だったが、今回は音声が入っている。
よちよち歩きする2歳くらいの子供を前に大はしゃぎするエリとトモコは「アキラ!頑張れ!」と声をかけている。すやすや眠る子供を2人で見守り、カメラに向かって「マモル君に顔そっくりだね」を声をかけるエリ。「いや、エリとトモコちゃんの間くらいじゃない?」とマモルの声が聞こえる。次のカットでは、テレビ会議で仕事をするエリ、キッチンで調理するトモコ、5歳くらいに大きくなった男の子の背中が写る。トモコが背中越しに「マモル君も手伝って!」をいい、「おっけー!」とマモルの声が聞こえる。女子校の制服を着た中性的な男の子がたっていて、2人が着付けをしている。男の子が、「ねえ、お父さん1人と、おかあさん二人って変なのかな?」と聞いている。「うーん、他の人とは違うけど、別にいいんじゃない?」と答えているエリ。「そうだよね」と元気よく答える男の子。

END

★シーン9−10 演出イメージ
ベターハーフのホームページを背景に、面談シーンとチャットルームシーンは、スワイプで移動する。公演中に公開しているホームページでも実際に「面談ルーム」と「チャットルーム」というボタンがあり、アクセスするとその画面が見られるようになっている。
※劇の画面は、それらをスイッチングするが、劇中、面談でアキラとエリが話しているときも、チャットルームにはマモルとトモコがいて、何気ない会話をじっさいにしている。つまり、一部の気づいたユーザーは配信用のLINELIVEのアカウントだけでなく、ブラウザで、ベターハーフのホームページにアクセスし、待っているときの様子を見ることができる

エリが、アキラにシミュレーションビデオをキャプチャー録画していて、それをもとに話すシーンでは、実際に第4話で上演された画面をキャプチャーしておき、それをリアルにこの話で流す。したがって、複数上演する場合は微妙に第4話での演者の台詞が違っている。

2020年9月 脚本制作開始

プロットが完成し、脚本を書き進めていく中で、ちょっと現業やりながらではきついなあ、というのもあり、のちに演出をやってもらう八幡貴美さんと同じ東北新社の熊木裕くんを加え1話ずつ脚本を詰めていきました。
とくに八幡さんはエリやトモコのキャラクター設定、人物像についてはだいぶこのあたりで深く議論し、彼女の目線での結婚観や女性観の意見はとても参考になりました。
制作するにあたって遅々として進まない状況に焦っていたのもこの時期です。本当は言い夫婦の日11月22日公開を目指していたのですが、諦めざるを得ませんでした。
そして「自分は脚本家なのか?」「ショーランナーとしてこの演劇の実現にコミットすべきか?」の二択で、後者を選び、脚本に関しては僕が下地をつくりつつ、八幡さんやのちに入っていただく藤平久子先生のお力を借りてすすめることにしたんです。

2020年12月 「前後編」での準備稿完成

このころになると、ショートショートでの演目が、役者やスタッフを押さえるコスト的にはまらないことが判明し、泣く泣くストーリーを絞り込んで「前編」「後編」にわける作業をしていました。西山家のライブインタビューはぜひとも劇中でやりたかったのですが断念。取材記事という形でご協力をお願いしました。
なかなか現業やりながらですすめないなか、初めての長編創作というのもあり、プロデューサーのススメもあって脚本家の藤平久子先生に依頼し、全体観の監修や足りない部分の創作を依頼しました。脚本の完成に向けて島崎、八幡さん、藤平さんで未曾有のぶっちゃけ結婚&恋愛トークを語り合いながら、よりウェットなセリフができあがっていったのもこの頃です。

2021年2月 前後編を一本化

キャスティングがほぼほぼ固まり、LINE LIVE VIEWINGでの配信も決定。その中で、配信の仕様上前後編で分けて販売するのが非効率であることから急遽ストーリーを一本化。その過程でいくつかのシーンをカットしました。キャストの皆さんには前後編とお伝えしていたのですが、顔合わせのタイミングで一本化をお伝えするというギリギリの進行で、キャストの皆さん、ホント戸惑わせてしまってすみません。。。

2021年3月 キャスト顔合わせ&本読み開始

本番1ヶ月前にてようやく決定稿。ここから役者陣と稽古をするなかで、役者にセリフを染み込ませるために秋元さんや平田さんの意見を聞きながら柔軟に言い回しや語尾、必要に応じてセリフを足したり、惹いたりしていきました。やっぱりはじめての脚本と言うこともあって、人の声に乗ったときの違和感みたいなものが役者によって明らかになることもあり、そうした部分を稽古を通じてひとつひとつアレンジしていきました。秋元才加さんも平田薫さんも、ゆりえ役の森レイ子さんも、忌憚なく自分の意見をおっしゃっていただいて、ありがたかったです。そうした意見に対して、自分のセリフに固執せずに、フラットにいいものを取り入れ、構成も変えるなど、大胆に変更したのですが、役者陣とも「一緒に創っている感」が強化されてそれはそれで良かったのではないかと思います。
また平行してLGBT総合研究所の関係者にセリフのネガティブチェックをお願いしていました。これは本当にやって良かった。それなりに理解のあるつもりでしたが、第三者から見たときにドラマとは言え致命的に不適切なセリフがあったり、自分の理解が至らなかったりという部分を丁寧に指摘していただきました。
例えば、ドラァグクイーンですが、よく、ドラッグクイーンとミスタイプしてしまいます。そしてコジロウの設定は性的嗜好はストレートなので、ドラァグクイーンのカルチャーの文脈では彼についての呼称としてはふさわしくないといった指摘がありました。これについては実際の方々のご意見もあると思いますが「定義」を尊重し、「女装が趣味」ないし「トランスヴェスタイト」と称することにしました。そんな感じで、セクシュアリティ、ジェンダーなど多様な価値観を描くことの難しさを改めて感じましたし、実際今回の脚本も人によっては不快に感じる、誤解を招くといったご意見もあると思います。今のところ直接そうしたご意見はいただいてませんが、何かあればぜひ意見を頂き、改善して行ければと思っています。

おわりに

 こんな感じで構想1年。「スーパーフラットライフ」の脚本ができあがりました。演劇は生もの。準備したセリフ通りというわけでもなく、役者も慣れてきてアドリブもでてきたり、自分が書き上げたセリフが役者の魂をのせて発せられた瞬間、僕の言葉ではなく、エリの、アキラの、トモコの言葉となっていく様子を新鮮な心持ちで観ていました。それはとても至福な時間でした。
 次回作、もちろん脚本を書こうと思います。すでに構想中。またご覧いただける機会があったらぜひ、セリフにも注目していただけたら幸いです。

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