見出し画像

旧古河庭園探訪記

 週末に旧古河庭園へ行った。ちょうど秋の薔薇が見頃でローズフェスタを開催していた。

いざ行かん

 いろんな品種が咲いていた中で、特に「熱情」という名の真っ赤な薔薇に惹かれた。「情熱」も「熱情」も語感がすごく好きだ。情熱よりもさらに苛烈に燃え滾る熱情ってどんなだろう。思いを馳せるとこちらまで高揚してくる。
 情熱の真っ赤な薔薇は心の中で太陽に向かって燦然と咲き誇るすがたを想像できるのだけど、熱情の真っ赤な薔薇となると、血を滴らせたり握り潰されたり枯れて干涸びるような、傷ましい終焉を想起させる。是が非でも何かを得たい、切実な渇望があるように思う。

熱情

 もしもわたしがこの薔薇を育てていたなら、「熱情」をどんな風に愛でるのだろう。きれいに咲いた花を手折って花瓶に活けるのか、そのまま庭先で眺めるのか。熱情の蕾が花開く瞬間は、逃さずに見られるのだろうか……。きっとどの瞬間の熱情も、魔法をかけてガラスのケースに閉じ込めてしまいたいほど美しい炎のようだろう。
 花は大好きだけれど、残念ながらわたしは怠惰で園芸に向かないので、「熱情」は心の奥に広がる秘密の花園に植えることとしよう。

▼ 情熱の薔薇


「ダブル・デイライト」も素敵だった。「二重の喜び」という意味らしい。
 わたしは人名を冠された薔薇よりも、何か広範な概念を託された薔薇に惹かれる傾向があるようだ。昨年京成バラ園で見た「希望」がお気に入りだったのだが、ダブル・デイライトも首位にランクインした。
 花びらが紅く縁取られていて綺麗だ。根から色を吸い上げて染まる途中のようにも、2色が滲んで溶け合ったあわいのようにも感じられる。もしこの薔薇の色を人に説明するとした何色と言ったらいいのかわからないのだけど、うまく言葉で説明できないことを許してくれる柔らかさが優しい。

ダブル・デイライト

 デイライトといえば、劇団四季キャッツの「メモリー」の歌い始めを思い出す。グリザベラの歌声がしんと澄んだ静寂に響き、心を震わせ、そしてひとすじの夜明けがやって来る。わたしはこの歌を初めて聴いた時、何に対してなのかはわからないけれど、存在を丸ごと赦されたと思った。一番求めている肯定を与えてくれるような場面だった。だから、「デイライト」はわたしの中でも天上へと導かれる明るい兆し、夜明けの気配みたいな語として記憶されている。その印象にぴったりの薔薇だった。
 こんなに素敵な名前を付けてもらって、その名の通りに美しく咲いていて、名付け親や育てた人たちのひたむきな愛情が伝わってくるのが良い。

▼ メモリー

 昨年から、春と秋にはバラ園を散策するのが季節の恒例行事になりつつある。イベント「Fantasy♠トランプ in UNDERLAND」を追体験したかったことがきっかけだったのだが、すっかり虜になった。優雅な趣味ができて嬉しい。
 現地にいる間は「写真ばかり撮っていないで目でしっかり見よう…」と思うのだけど、帰宅してからカメラロールを眺めていると「もっとたくさん撮ればよかった…」と悔やむ。贅沢な悩みだ。

 満足感に浸りながら庭園を後にし、その足でアニメイト本店のビルに掲示されているALKALOIDの巨大なポスターを見に行った。
 なんて素敵なのだろう……。背を向けて歩きたくなくて、何度も振り返って眺めてしまった。
 彼らこそわたしの熱情の源泉であり輝かしきデイライトだ。アルバムの発売が待ち遠しい。

止まれ、汝はあまりに美しい

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?