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短編小説

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NOTEに投稿した短編小説のまとめです。
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2021年5月の記事一覧

短編小説:もういない君の手を握る(3/3)

中編(2/3)はこちら。 -----------(続き)-----------  槻の木祭の当日は朝からよく晴れていた。  オープニングセレモニーが終わり、クラスのわたあめ店の手伝いをしてから私は軽音部の部室に向かった。  軽音部の体育館ステージは午後からだが、希望があれば午前中のうちに交代で部室で練習してもよいことになっている。部室に到着すると先輩たちのバンドがちょうど練習を終えたところだった。  おつかれさまでーすと先輩たちを見送り、部室に入ろうとしたら背後から肩

短編小説:もういない君の手を握る(2/3)

前編(1/3)はこちら。 -----------(続き)-----------  その日の昼休み、廊下の壁にもたれかかり、行き交う生徒をぼんやり眺めていた私の眼前に何かが差し出された。 「これ、波田先生が好きなんだよね」  イチゴ模様のビニールに包まれた三角形のキャンディを長い指でぶらぶらさせつつ、伊月が私を見下ろしている。今日は長い前髪をしばらず下ろしていた。 「じゃ、波田先生にあげなよ」 「さっきあげてきたところ」  受け取ったそれを放り込んだ途端、口の中は

短編小説:もういない君の手を握る(1/3)

YA小説を書いてみよう部2018作品集『ハイブイン』向けに3年前に書き下ろした作品の再掲です。 《あらすじ》 文化祭に向けてバンドの練習をしていたある日、メンバーの優の様子がおかしいことに岬は気がついた。優はダメな自分を「廃部員回収部」で修理してもらったと言いだして……。(約1万字、3分割掲載) ----------------------  夏休みも後半のその日の午前中。私たちのいつもの練習場所、被服室に現れた優(ゆう)は、その登場からしてどこかおかしかった。 「お