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ダンスのクオリティに目を見張る 宝塚歌劇団星組『ロミオとジュリエット』千秋楽ライブ配信

『エリザベート』のTAKARAZUKA25周年ガラ・コンサートを配信で2回(’14年花組フルコスチュームバージョン、スペシャルバージョン)観た私は、ぜひ生で通常の公演を観たいと思ったものの、どうしたものだろうと考えていた。

一応宝塚友の会に入って、試しに抽選に登録してみたものの、見事にハズレて、チケットが当たる気が全くしなかったのだ。

東京宝塚劇場で公演中の、花組公演のチケットも売り切れ。こりゃ、チケットを入手できるようになるまでの道は結構遠そうだな・・・と思っていたところに星組の『ロミオとジュリエット』東京宝塚劇場公演の、千秋楽ライブ配信チケットのお知らせメールが届いた。

楽天TVで観られるらしい。楽天ポイントを使ってお安く観られる。私は楽天のヘビーユーザーなので、ポイントがだいぶ溜まっていた。というわけで、価格の気楽さも手伝って、配信チケットを購入した。

あらすじ

『ロミオとジュリエット』のストーリーを改めて説明する必要は、ないだろう。古くから親しまれているウィリアム・シェイクスピアの名作の中でも、おそらくもっとも有名なお話だ。だがせっかくなので、宝塚歌劇団のホームページに載っていたキャスト一覧へのリンクと、簡単な人物相関図を載せておく。


ロミジュリ相関図

開始早々、ダンスにくぎ付け

始まってすぐ、「愛」が見事なダンスを披露する。

え?「愛」って何かって? この作品には「死」を象徴する存在と「愛」を象徴する存在がそれぞれ出てくるのだ。2人の出会いの場面や愛が深まる場面では、愛が妖艶なダンスを披露し、モンタギュー家とキャピュレット家の争いが起こったり、誰かが刺されたりする場面では、「死」が冷たく踊る。この「愛」と「死」のダンスが凄く上手い。ひとことも発しない、踊るだけの役だから余計にそう感じられたのかもしれない。

「愛」のダンスだけではない。いきなり開始早々、街中でモンタギュー家とキャピュレット家が小競り合いを始めるが、その時ステージ上にいる出演者で踊るダンスが、すごかった。あんなに全員綺麗に踊れるのか、恐るべし宝塚。

群舞の真ん中にいるのは、ティボルト役の愛月ひかるさん。綺麗に回るなあ・・・と感動してしまった。

主人公・ロミオもジュリエットも出てきていないこの段階で、すでにステージから目が離せなくなっていた。

イタリアの若者とは思えぬロミオ

元々、原作のロミオはジュリエットに出会う前「ロザライン」という女性に思いを寄せていた。ロザラインへの恋心を、切々と綴った台詞も多い。だが宝塚版『ロミオとジュリエット』には、ロザラインは登場しない。

ロミオは、本当の恋をまだ経験したことがない若者として登場し、別な空間にいるジュリエットと、ステージ上で互いにまだ見ぬ恋について歌う。

その後ろで、「愛」も素晴らしいダンスを披露していた。

ロザラインが登場しないので、ロミオは真面目でちょっとイタリア人っぽくない(私の勝手なイメージ)、堅いイメージの男性として描かれていた。

原作では、ロザラインにあれほど恋焦がれていたロミオが、美しいジュリエットを一目見るなり、ロザラインへ贈った言葉の数々をジュリエットに向けるようになる、移り気なところを描くことで「若者っぽさ」「不安定さ」を表していたように思っている。

ロザラインを登場させないところは、宝塚版ならではだなと感じた。

代表曲『世界の王』

ミュージカルでやる『ロミオとジュリエット』といえば、この曲というほどミュージカルファンの間ではおなじみの曲、『世界の王』。モンタギュー家の若者たちがロミオを中心に集まるところで歌われる曲で、「僕たちは誰にも支配されない。僕たちの王は、僕たち自身だ」と歌い上げる、若さの象徴のような曲だ。

そもそも『ロミオとジュリエット』は、昔からの因縁の関係を続ける親世代と、反発する子世代のあいだに生まれた軋轢が生んだ悲劇とも読める。『世界の王』は、物語の前半で歌われる、子世代の反発を明るく軽やかに歌い上げるナンバーで、悲劇的な匂いはそこにない。

この曲でも、星組の皆さんはめちゃくちゃ踊る。ロミオも踊る。激しく踊って歌う。そして、踊りがとても美しくて、また感動してしまう。

踊りながら歌うって、並大抵の事じゃないと思うのだけど…。宝塚のステージこなすって、すごいことなんだな、と改めて感じた。

ロミオ役・礼真琴さんについて

宝塚では、主役はその組のトップスターとトップ娘役さんが演じる。ロミオ役は星組の現トップスター、礼真琴さん。

身長はそれほど高くない。だがジャニーズ系イケメンのような見た目の華やかさと、歌の上手さがとても印象的だ。ダンスももちろんお上手なのだけど、ティボルト役の愛月ひかるさんのダンスが素晴らし過ぎて、今ひとつ目立たないように思えた。

他の組にいたら、ダンスのスキルはもう少し目立ったのかもしれない。

ただラストシーンの、ジュリエットと2人のダンスは素晴らしかったので、単純に私の目がアレな可能性がある。

そして、お芝居。ロミオの持つ、若者ならではの精神的不安定さを、良く表現し切っていたと思う。やはりミュージカルにおいて、歌の上手さはかなり重要だなと、改めて感じる。

ティボルト役・愛月ひかるさんについて

個人的には、礼真琴さんのロミオよりこちらが印象に残っている。冒頭のシーンでのダンスの上手さに加えて、歌も素晴らしい。そして…

めちゃくちゃカッコいい。

ちょっとワイルドなルックス。どうやら女性にもけっこうモテているティボルト。親世代に反発しつつも自分なりに家のことを思い、一途にジュリエットを思い続ける。

いい男じゃない? 

ロミオ、けっこう周りが見えてないよ?

ジュリエット、どうよ? とつい言いたくなる。

もっとも、私は『おんな城主直虎』では断然直親より政次派なので、そういう心の癖でティボルトびいきなのだとは思うけれど。

そして、ダンス。調べてみたら愛月さんは、別日程で「死」の役もされているとのこと。納得。「死」の役は歌わないしセリフもない。ダンスのみで魅せる難役だからだ。

他にどんな役をされているのか、調べて観てみたい。

終わりに

改めて『ロミオとジュリエット』の小田島雄志さん訳を読み、割と原作に忠実なブロードウェイ版のストレートプレイ『ロミオとジュリエット』を観た。その上で感じたのは、宝塚らしさを全面に出した『ロミオとジュリエット』だなということだ。特に、ラスト。

2人が悲劇的な結末を迎えた後、あちらの世界で結ばれたロミオとジュリエットは、幸せそうに踊る。2人とも、満面の笑みを浮かべて。晴れやかな表情を見ていると、つい「おめでとう、良かったね」と言ってしまいそうになる。亡くなっているのに。

実に宝塚らしいエンディング。悲劇なのに悲劇的結末ではない。観ているこちらは、幸福感に包まれて終わる。

配信で観られてとても良かったけれど、やっぱり、劇場で観たいなと言うのが本音だ。『ロミオとジュリエット』が観たいというよりは、この日配信で観たクオリティと、同程度のダンスで魅せてくれるミュージカルが観てみたい。宝塚星組なら、他の演目でもダンスで魅了してくれるのではないかという期待感で、いっぱいになった。

というわけで、次は別な組の公演も観ようと思う。少々強引に予定を開けて、東京宝塚劇場で講演中の花組『アウグストゥス』を観に行く事にした。一番安い席だけど。雰囲気だけでも楽しんできたい。

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