感動したこと 日生劇場『カムフロムアウェイ』
身体が、浮き上がった。
ビバリー機長の歌う「Me and the Sky」が、空へといざなう。
ふわりと客席に着陸したわたしの目からこぼれ落ちた涙を、拭くいとまはない。100分1幕のミュージカル『カムフロムアウェイ』は、疾走している。台風が迫る中、機長の感じる緊迫感と年配カップルの離れがたさが一緒に板の上に乗る。
2001年9月11日の同時多発テロでアメリカ領空が封鎖され、カナダにある小さな町ニューファンドランド・ガンダー空港に38機の飛行機が集まった。人口10,000人程の町の人々が、不安と苛立ちを抱えた乗客およそ7,000人を受け入れ、歓待し、寄り添う。9.11ではなく9.12から5日間の実話。12人のキャストそれぞれがひとり10役程度を演じ分け、歌い、踊る。全員主役で全員脇役。
ジェンダー、宗教、人種。さまざまな現代的テーマをはらむ作品をこの日本で、オール日本人で上演する勇気。それに120%で応えるキャストの皆さんは、ミュージカル好きなら誰もが知るスターばかりだ。綾瀬はるかと長澤まさみと戸田恵梨香とガッキーと有村架純と広瀬すず、竹野内豊と高橋一生と綾野剛と佐藤健と神木隆之介と菅田将暉が全員共演するようなもの。しかもこの12人が演じてるのは、ミュージカルにありがちな王妃とか王とかではなく、どこにでもいる普通の人たちなのである。
だれ1人特別な存在になることなく(言い換えれば全員が特別)、板の上でお互い助け合いながら1日1日の公演をつくり上げる様子が、9.12以降のガンダーの人々や飛行機の乗客たちと重なって見えた。心の絆が見え隠れする。キャスト同士の絆なのか、役同士の絆なのか分からなくなる。
ラストの「Welcome to the Rock」。
95分を共にした観客全員が、ガンダーの住民になる。一緒に足を踏み鳴らし、「Hep!」と掛け声を出し、我らこの島の民、と歌いたくなる。島の民のように、寛容で温かくいたいと思いを込めてのスタンディングオベーション。
魂が、震えた。